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Blooming Feeling ... 01


 前世の記憶というものを信じるか信じないか。信じる人もいれば信じない人もいる。運命というものを信じるか信じないか。大体の人は迷信といい、大体の人はわからないがあるかも知れないという。
 セオ・フロレアールという女性はどうだろうか。彼女には悩む暇など必要ない。即決、彼女ならば信じていると応える。何故なら彼女は、そのどちらをも身を持って体験しているからだ。

「物心つくころから、自分には生まれる前の記憶があるのだと気付き始めていた。」
「知らない大人の女性の人生が、毎日毎日、少しずつ少しずつ、『思い出され』ていく。おかしいって思うでしょう。それでもコレは、実際にあったことだと思えてくるの。」
「そう、貴方を知ったのも運命、わたし達は出会って当然だった。そう思っているよ。」

 彼女は静かに言う。とんでもないことを言っていると思うだろう。誰だってそう思う。しかしセオにはこうとしか言い切れない事実なのだ。どうしてそんなことを言うのか、そう問うても、運命だからとしか彼女は理由を言わない。






 セオは帽子をかぶり直すと、愛馬の腹を優しく撫でた。黒くつややかな愛馬――ラームの毛は、セオの撫でた通りに動き、そして静かに落ち着く。
 胸にしまった麻袋を取り出す。一年間頑張って貯めたお金が入っている、SBRレースの参加費用だ。ただの大学生にはきつい金額だったが、セオにはそんなこと関係なかった。毎日毎日働いて働いて、そして貯めたこの参加費用。自分の「目標」のためには惜しくなかった。大学へ行き、アルバイトをし、そして空いた時間とお金で乗馬を習った。休んでいる暇のない1年間だった。
 ラームは元々、乗馬教室のある馬小屋で産まれた子だった。その子を牧場の経営者と取引をして頂いた。SBRレースを完走する、それがラームを貰う条件だ。完走しきればラームは有名になり、そのラームを排出した牧場も有名になる。もちろん脱落すれば代金は払うし、もし途中で死なせてしまった場合は諸々経費全て払うと言ってある。




「よろしくお願いします。」

 たっぷりとした麻袋を受付カウンターに載せる。受付の男性が袋の中を確認する。そして中身と引き換えに、何枚かの書類とゼッケン、そして参加者の印である金貨が一枚差し出された。
 ああ、始まるんだ。受付を済ませたセオの表情はこの上なく明るかった。ついにレースは明日はじまるのだ、ずっと楽しみにしていたレースの日だ。早くスタートしてやりたい。受付会場の近くには、明日からのレースに参加するらしい騎手達が集まっていた。もう受付を済ませた者、出場費が足りているか確認する者……。
 セオの目当ての人物は居ない。セオが探しているのはとても目立つ人だ、見目はとても麗しく、すれ違う人のほとんどが振り返るような。賎しい階級の出と言われても立ち振舞いも美しく、容姿端麗、そんな言葉が似合う人。ただ、性別は男、である。競馬ではいつもトップの成績を残していて、イギリスでは知らない人を探すのはあきらめた方が良いというほどの有名人。周辺を見回して一度で見つからないのなら、彼は居ないのだろう。
 早く会いたい。






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