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Noble Mind pierces through the world -DEA- ... 16


「ただいまあ!」

 ニューヨーク、ジョースター邸、クリスマスの朝、である。

「おかえり、無事か。」
「無事だよ承太郎さん。」

 家の中でも脱帽していない空条承太郎が出迎えてくれた。

「報告は受けている、よくやってくれた。イレーネ・ブルネッティの件も。」
「いえいえ。」
「・・・まさかパッショーネと手を組むとは思わなかったが。」
「わたしもわりと吃驚してる。」

 承太郎はセオから荷物を受け取り、先にリビングに入った。ジョルノから貰ったケーキはセオ自身の手で持っていく。
 家の中は、スージーQが使用人に頼んだのだろう、クリスマスの雰囲気が漂う飾り付けがされていた。クリスマスリース、サンタクロースの置物、リビングには大きなツリー。昔、ホリィのためにと買ったものだ。

「おおセオ、おかえり。」
「ただいまおじいちゃん!波紋、しっかり使えたよ。」
「そうかそうか、流石じゃ。」
「えへへ。」

 セオに波紋の素質があると見抜いたのは、他でもない、波紋使いのジョセフだった。彼は孫と遊ぶかのようにセオに波紋のいろはを教え、自分の後継者にしようとした。波紋のみを極めようというふうにはならなかったが、それでもセオには実用的な力が着いたので、ジョセフは大満足である。立派な後継者である。これでいつまた吸血鬼が現れても大丈夫だ。彼にはセオが女だということは関係ない。

「このケーキ、向こうでパッショーネのボスにもらったの。」
「パッショーネの、ボス・・・?」

 承太郎の眉が眉間に寄った。

「うん、ジョルノ・ジョバァーナ。言っていなかったね、そういえば。」
「ああ、言っていないな。」
「イレーネを助けるのに協力してくれて。」
「・・・ボスだったのか。」

 ジョルノ・ジョバァーナ、承太郎のよく知る人物だ。その過去も経歴も全て承太郎やSPW財団によって洗い出されている。なんてことは、セオが知るはずもなく。セオとジョルノの関係についても、承太郎の方が当事者達よりも分かっている。だから彼は、セオに何と返事をするのが正解なのか計りかねて、一旦口を閉じた。

「あの男とは関わらないでくれ。」

 それが精一杯、言えることだ。それ以上も以下も、言わない方が賢明だと判断した。

「どうして?」

 セオに兄がいるということは、承太郎からすると隠しておきたい話題だ。イタリアに渡る前に、康一の口から存在が漏れたことについては迂闊だった。

「理由は言えない。」
「・・・言えないことばかりなのね、わたしの兄の話も。」
「そうだな。」

 その兄の話とは即ち、今話題に上っているジョルノの話とイコールなのだが。
 セオは目に見えて嫌そうな顔をした。ぐっと眉間にしわを寄せ、口をへの字に曲げる。しかし承太郎は彼女の機嫌を取るようなことはしない。彼は黙ってリビングを出ていった。セオの無事を見届けたので、クリスマスを家族と過ごすために家に帰るのだろう。
 大切なことは何も教えてもらえない気がした。考えてみれば、セオの身の上やその他両親についてなどを教えてくれたのはジョセフで、承太郎とはそんな話をしたことがない。もしかしたら彼も口止めされているのか。とはいえども、不服だ。

「承太郎は帰ったのかのう。」
「うん・・・今出ていった。」
「ワシの挨拶の一つもなしにかい。」
「いつものことだね。」

 クリスマスだというのにもやもやした気持ちが晴れない。夜のパーティーには早すぎるが、さっさとケーキを食べてしまおうか。セオは、メイドのテリトリーであるキッチンからケーキ用のナイフを拝借した。

「どうしたんじゃ、そのケーキ。」
「パッショーネのボスからもらったの。ジョルノ・ジョバァーナっていう・・・おじいちゃん知ってる?」

 承太郎の時のように、セオにとって嫌な反応がくるかもと思ったが、半ばヤケになってジョルノの名を挙げた。ジョセフはジョルノの名前を聞いて目を丸くしたが、やがていつもの優しい穏やかな表情に戻った。

「パッショーネとの関係を保つためにも、仲良くしておくんじゃよ。」

 にこと笑うジョセフ。セオの予想とは真反対の反応だった。関わるな、ではなく、セオが言ってほしかった言葉。ジョセフにそう言ってもらえて良かった。もし彼にネガティブな事を言われてもジョルノとの関係を切る気はなかったが、家族に対して後ろめたい気持ちを持ち続ける羽目になっただろう。

「パッショーネのボスはどんな男じゃった?」
「うーん・・・思ったよりも若くて・・・大物っていうオーラを背負っていたなぁ。あと、この人に頼れば大丈夫って安心感があって。」
「きみがそういうのなら、よっぽど良い人なんじゃろうなぁ。・・・うん、このケーキも美味い。」

 切り分けられたケーキを、待ての出来ない犬のようにさっさと口に運ぶジョセフ。つやつやしたビターチョコレートでコーティングされた表面、上にはチョコレートの混ぜられた生クリームや砂糖菓子がのっている。切りやすいようにと少し温められたナイフで4等分されても、1つ1つが個別でも美味しそう。

「あとはスージーおばあちゃんとローゼスに。」
「承太郎には残さんのか?」
「戻ってこないでしょう、それにどうせお家で徐倫ちゃん達と食べる。」

 セオもケーキを口に運んだ、一瞬カカオの苦い味が広がり、その後生クリームの甘さがじんわりと後を追ってやってきた。上品な美味しいケーキだ。






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