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Noble Mind pierces through the world -DEA- ... 10


 通りには人が多く居るのに、なぜだろう、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂の周囲だけは異様に人通りが少なかった。どうしてかと訝しがりながら大聖堂に近づくと、扉前にミスタが立っているのを見つけた。

「ミスタさん、お待たせしました。」
「おう、早かったな。無理させて悪い。」
「いえいえ、お世話になる団体のボスですし。」

 聞くと、パッショーネの権力によってこの周辺の人払いをしたのだという。観光客や祈りを捧げるために来た人も全て周囲の道路には近づかないようにと。この短時間でそんな手配ができるパッショーネの強さをひしひしと感じる。

「あいつ、ジョースターって名前を出した途端目の色変えてな。あんなに他人に興味持った顔をしているのを見たのは久しぶりな気がするぜ。」
「そこまで言われると怖い気もします。」
「なに、悪いようにはしないって。行ってこい。」

 ミスタが扉の片方を開けた。屋内に冷たい空気が流れていく。セオは促されるまま中に入った。
 壁際には等間隔に柱が立っていて、その上には窓。外は暗いために窓ガラスは真っ暗である。壁に蝋燭や白熱灯が備えられているので、暖かな光が薄暗く揺れている。赤い1人がけの椅子が、中央に通路を作るようにして左右に分かれて5個ずつ長椅子のように並んでいる。
 中央の通路の向こうには祭壇。ひときわ大きい蝋燭、その向こう、壁には巨大な宗教画が飾られている。

「セオ・ジョースターさんですか?」

 祭壇の方から、自分を呼ぶ声。若い男性のテノールボイスだった。よく見るとクワイヤに、祭壇の前に誰かが立っている。蝋燭の炎が逆光になって顔は分からない。体格からしても男だ、黒いコートの上からでも骨格のかっちりして筋肉が着いているのがわかる。

「はい、セオ・ジョースターです。」
「こちらに来ていただけますか。」

 呼ばれるまま、手を引かれるように声のする方へ足を進める。床に指の付け根が当たるたびにカツと高い音がする。セオもクワイヤ部分までたどり着いた。宗教画を見上げ、蝋燭の炎を見つめ、そして、男の隣に立つ。
 男はまるで中世の彫刻のように整った様相をしていた。目は凛々しく、鼻はすっと尖っている。口はキリと結ばれているが口角が上がっていて微笑みが浮かんでいる。髪はツヤツヤとした金髪だ、前髪は3つくるりと巻いた形をしていて、長い後ろ髪は三つ編みでまとめてある。黒いダッフルコートのポケットに両手を入れて、足を肩幅ほどに開いていて、姿勢はピッと正しい。彼はポケットから手を出し、体側に指を揃える。襟だけ見えているワイシャツは黒と灰のストライプ。靴は先からかかとまでつやつやしている。
 人の上に立つべき人だ、と、セオは直ぐに思った。この人に頼れば全ての願いが叶えられるような、そんな全能感を抱かせる印象を持たせる男だ。ボスとしての風格がある、想像よりずっと若かったが、不安を抱く気持ちを湧かせない。

「初めまして。パッショーネのボス、ジョルノ・ジョバァーナです。」
「初めまして。SPW財団で臨時職員をしています、セオ・ジョースターと申します。」

 ジョルノ・ジョバァーナと名乗った男は、そっとセオの左手を取り、自分の両手で包み込んで上下に振った。そして一礼をして、その手の甲に唇を付ける。形式に則ったような動きだが自然だった。キスのあと離された左手を、セオは直ぐに下ろせなかった。

「こんな時間に、遠いところまで呼び出してしまってすいません。」
「いえ、そんな。わたしこそボスご自身の足を使わせてしまって。」
「いいんですよ、ぼくが貴女に興味を持っただけですから。暖房は十分に働かせましたが、寒くはありませんか?」
「十分暖かいです。・・・ミスタさんに、ボスがわたしの苗字に興味を持った、と聞きましたが。」
「そうですね、」

 ジョルノはセオの肩に優しく触れ、そっと押して、近くにある椅子に腰を降ろさせた。彼もその隣に座り、すらっと長い脚を組む。

「ジョースター、SPW財団にジョセフ・ジョースターと空条承太郎という男がいますね?」
「ええ、わたしの親族です。」

 具体的な関係性は述べなかった。現在では義父と兄のように慕う存在だが、自分がジョナサンの娘だとするとそうはいかない。ややこしいし他人に言うものでもないので言わなくてもいいと思った。

「彼らがどうかしましたか?」
「我々パッショーネはSPW財団とも手を組んでいます、アメリカに居る彼らのことはよく耳にしたことがあるので。」
「そうでしたか。」

 耳にしただけ、だろうか、あのボスが珍しく興味を持った、というのにそれだけの理由だろうか。セオにジョルノの本意は分からない。

「ぼく個人もジョースター家の人々とは色々因縁があるんです。」
「因縁?」
「ええ、色々と。」

 深く意味を醸し出すような発言。しかし色々と、と霧をかけるくらいなので訊かないほうがいいのか。血縁者との因縁か、なにか事件でもあったか。
 ジョルノは絵画を見上げて、ふう、と、息を吐いた。横顔も整っていて美しい。

「ぼくはこの国から後ろ暗いものを全て取り除こうと思っています。麻薬も、武器も、犯罪も。ですから今回、カレル・ブルネッティが麻薬を入手していたルートも潰さなければいけません。5年前に購入をやめたと言っていましたが、5年前まで利用されていたであろうルートはまだ潰せていません。」
「この国を良くしようとしているんですね。滞在期間中は全力で協力しますよ。」
「ああそうでした滞在期間・・・いつまでイタリアに?さすがにクリスマスは家族と過ごしたいでしょうから、・・・今日は22日、あと3日の猶予しかありませんね。」
「そうですね、アメリカの親族と過ごしたいです。それまでに解決できるといいのですが。」
「親族?家族ではなく?」
「・・・ああ、ええと、両親はわたしが産まれた年にどちらも他界していて。」

 少し言葉を間違えた、両親のことまで口にする予定は無かったのだが。それでも隠さなくてもいいかと言う気になって、どちらも死んだことまで述べた。ジョルノは聞いてしまって申し訳ないと言うように、整った凛々しい眉をハの字に曲げた。セオは自分の中ではもう割り切れていることなので気にしていないと弁解する。

「両親は死にましたけど、わたしには優しい義父母達がいますから。」
「恵まれているんですね。ぼくも父親は死んで、母親には捨てられましたけれど、今の自分には何の問題もないところです。」
「ボスも苦労なさったんですね。」
「ふふ・・・。ああ、それと、ぼくのことはジョルノでいいですよ、それかジョジョと呼んでください。あなたはパッショーネのメンバーではありませんし。」
「ジョジョ、だと、わたしの身の回りに沢山いて混乱するので、ジョルノ・・・そう呼ばせてください。わたしのこともセオと。」
「そうさせてもらいます、セオ。3日間よろしくお願いします。」

 にこっと笑う表情は上品だ。エヴァンやミスタのように人懐こいそれとはまた違う。自然と癒やされて見とれてしまった。は、と、我に帰った時、ジョルノもまたセオをじっと見ていることに気づき、彼女はふいとそっぽを向いた。あからさまに照れているという態度を取ってしまったことに恥ずかしくなって、セオは更に耳が赤くなってしまった。






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