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Noble Mind pierces through the world -DEA- ... 07


 どこに行こう。まずは昼食を取りたい、軽食でいい。観光をしたい気持ちはあったが、意外と疲れているので今日はやめにしておく。ホテルに戻ってゆっくり新聞や本でもを読んでおこうか。せっかくイタリア語が使えるようになったのだから、それを利用してみたい。
 関係者のみ通行可能のエリアを抜けて病院へ出る。怪我人や病人に気をつけながら外へ。どこか目についたところで適当に昼食にしよう。セオはキョロキョロと辺りを見回した。

「・・・どうしました?」

 後ろを向いた瞬間、セオの背後真後ろに立っていた男と目があった。かなり近距離にいる。予想していなかったのでセオは少し目を大きく開いた。とんでもないことには慣れているので大したおどろきにはなっていない。

「もっと驚かれると思ったんだけどなァ。」
「あんまり驚かないタイプなんで。」

 男は帽子の上からがしがしと頭をかいた。セオに見覚えのある柄の帽子だ。そう、さっき大聖堂でセオのずっと前に座っていた男、である。まさか尾行されてでもいたのか?いや、それは流石に 自意識過剰だろう。セオは1人頭を振る。

「あんた、さっき会ったよな?」
「会ったというか、聖堂に居ましたよね。」
「やっぱりそうか!いやー今病院から出て来たのを見つけてな!1日に2度も出会えるなんて運命かと思ったぜ。」
「はあ・・・。」

 ナンパだろうか。イタリアにはそういうことをする男の人が多いと聞いているが、まさか自分が引っ掛けられるとは。

「なあ、どっかでお茶して行かないか?」
「いえ、これから昼食にしようと思っていたので。」
「あー丁度良い!オレも昼食まだだったんだ!」

 誘ったらホイホイついてくるような軽い女に見えたのだろうか、セオは少しだけ眉を中央に寄せた。彼女が身を引くためにと後退りする倍のスピードで男はセオに近寄る。不躾だなぁ、とセオは思ったが、これがこの国の普通なのかもしれないし、なんとも言い難い。

「名乗っていないから不審に思ったか?悪いな。オレはグイード・ミスタって言うんだ。あんたは?」

 男・・・ミスタはにかにかと良い笑顔で名乗る。エヴァンのような裏表の無さそうな笑い方だ、この国の男はみんなこういう風に笑うのか。まだ思考対象が足りないので分からないが。

「わたしはセオ・ジョースター。」
「セオ・ジョースターか、どこから観光に来たんだ?」
「アメリカから。国籍は一応イギリスですけれど。」

 セオの不信感が一気に積もった。なぜミスタは観光に来たのか、と尋ねたのだろう?ジョースター、確かにラテン的な苗字ではない、それはセオにも分かる。ジョースターという苗字の大元はイギリスの家系なので、聞けば英語圏だと分かる人もいるかもしれない。しかし、なぜセオを「観光客」だと断言するような問い方を先ずしたのか。EUが創立してから10年以上経ち、今ではEU内での人の移動も盛んになった。生まれた国とは別のところで暮らす人、そのまま永住する人は多い。だからもし苗字が国と合わないとしても、旅行とは先ず決めつけないのではないか。この男が観光客相手に気さくに声をかけ、観光名所の話題で盛り上がろうと考えていたのだとしたら、ちょっとしたミスを犯してしまっている。

「そんなに不審者を見るような顔をするなって。セオ、可愛い子とお昼ご飯を食べたいなぁってそう思っただけなんだぜ?」

 もしかしたら昨日空港にいた時から目をつけられていたのかもしれない。自意識過剰か、と一瞬思ったが、そうやって自分にはあり得ないと思いやすいところに付け込まれたかもしれない。

「金品を要求しても何もでませんよ?」
「おいおいオレを何だと思ってるんだよ・・・。」
「わたしがどうして旅行者だと思ったんです?トランクもキャリーも引きずっていない、この身軽なスタイルのわたしを。」

 鞄は1つだけ。お金はスられないようにと腹部にベルトで巻いて隠してある。鞄は手帳と化粧道具しか入っていないので薄い。観光客にしては薄いと思わないだろうか。

「ローマは観光都市だからな!観光客かどうかなんて直ぐに分かるもんだ!」

 もしかしたらその通りなのかもしれない、しかしセオのミスタに対する不信感は募ってそれすら嘘だとしか思えなくなってしまった。もし無理矢理誘拐されそうになったとしても、すぐ後ろにはたくさんの人がいる病院、しかもジーノやエヴァンなら自分を分かってくれている。こんな大きな通りの前で強硬手段にシフトするとは思わないとしても。

「怪しい・・・何が目的ですか?あいにく雀の涙程の所持金しかありませんよ。」
「そんな目的なんてねえって!」

 へらへらした態度が段々気に食わなくなってきた。セオはここで無視をして病院に戻れば万事解決しそうだと察したが、この人がもしも誘拐犯だとしたら被害が増えるかもしれないとも思う。ミスタの本意は分からずとも、少し脅してみようか。
 セオは口を薄く開けてそこから呼吸を始める。コオオオ、と、肺に空気の入る音が大きく聞こえる。ミスタはどうした?と一言だけ言った。セオの指先が橙色に輝いた。

「まさかスタン・・・ぐふっ!」

 ミスタが言いかけたが無視。セオはぴしっと5本揃えた指を彼の鳩尾に刺した。ずぼ、と、骨と骨の間、肺と肺の間に指は深く食い込む。ミスタはぐにゃりと体を曲げ、そのまま腹を抱えて雪の上に倒れた。げほげほと咳き込んで自分の鳩尾を抱きしめている。

「ごめんなさい、やりすぎました?」
「わざとだろテメー!」
「はいわざとです。」
「悪びれもなくなァ・・・!」

 まだ対抗する元気がありそうなので、セオはもう一度深く呼吸をした。

「緋色の波、」
「分かった!悪かった!本当のことを言う!」
「最初からそうすれば良いんです。」
「後々言う予定だったさ!オレ達はカレル・ブルネッティを追っていた!」
「・・・ブルネッティさんを?」

 せき込みを抑えながらミスタが口にしたのは、今渦中の人物の名前だった。SPW財団内で話題になっているブルネッティの名前を、何故この男が出すのか。

「SPW財団に囲われたんで困っていた。あんた、ブルネッティと話をしていただろ?」
「どこで見ていたんですか?」
「オレのスタンドが見たんだ・・・スタンドは分かるだろ?さっきブルネッティのやつとの話に出ていた。」
「犯罪目的で声を掛けたのでないならいいです。わたしもブルネッティさんについては知りたいことがあるので話を聞いてあげましょう。昼食奢ってください。」
「・・・チッ、強気に出やがって。」

 セオの予想とは全く違う本音が出て来たので、彼女はミスタに少し申し訳なく思った。しかし誤解されそうなことをするのが悪い。彼女は完全に開き直っていた。それにしても、カレル・ブルネッティについてはセオ自身も知りたいことが様々ある。ミスタは犯罪者ではなさそうなので、おとなしく話を聞くことにした。






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