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Noble Mind pierces through the world -DEA- ... 06


 さて、再びSPW財団の病院、である。エヴァンに発行してもらった臨時職員用のパスを受付に見せ、会議室まで戻る。

「ジーノさん。」
「おかえりなさい、あらかた事情聴取は終わったところよ。」

 はい、と差し出されたコピーしたての資料には、ちょっとしたブルネッティについての情報が載っていた。カレル・ブルネッティ、40歳のイタリア国会議員。税関で働いていた20代の頃、カイロ旅行でDIOに出会い部下になる。その時に肉の芽を植えられた。その後、イタリアにもどってからもDIOのためにと悪事を様々働いていた、とのこと。麻薬の使用経験もあり。10歳になる娘が1人いて、妻には逃げられたらしい。それくらいのことが書いてある。

「会う?今はしっかり反省して落ち着いているみたいよ。」
「会ってみます。」

 パーテーションで区切られた空間に案内される。病院にあるパイプベッドに、ブルネッティが張り付けられていた。念のために、と、手足に錠がされていて、暴れても押さえられるようにしてある。

「こんにちは。」
「・・・君は、さっきの。」
「覚えているんですか?」
「ああ、意識は少しあった。助けてくれてありがとう。」
「無事でよかったです。」
「取り返しのつかないことをしてしまったがな・・・。」
「自分の意志とは別にやったことですし。」

 ブルネッティはセオの立つ側とは反対側を向いた。申し訳ないと思っているらしい。
 セオは資料にもう一度目を落とした。ここに書かれていないけどブルネッティに訊きたいことが沢山ある。また後でジーノが聴取をするのだろうが、自分からも色々訊いておきたい。

「肉の芽、記録によると、DIOの死亡と同時にそのほとんどが暴走をし、宿主に害を与えていたそうですが・・・ブルネッティさんにはそういうのがなかったのですか?」
「私はスタンド使いなのだが・・・体内で紫外線を乱反射させて、肌を光らせる力があるのだ。それで肉の芽は消滅させられずとも、動きを抑えることはできていたようだ。」
「紫外線の。」

 鎖でつながれたブルネッティの右手が光った。まばゆい日光の様な光だった。波紋にも似た暖かさを感じる。

「今まで抑えられていたのが、一体なぜ今になって?」
「・・・娘が誘拐されたんだ。」
「娘さん・・・イレーネさんが?そんな大切なこと、先程の事情聴取では一言も述べていないようでしたが。」
「言って良いのか迷ったのだ。助けを求めたことが犯人に気づかれてしまったら、イレーネの身に何が起きるか分からない!しかし貴女なら・・・私を助けてくれたように、イレーネを助けてくれるかもしれない・・・。身勝手だが、そう思ったのだ・・・。」

 ブルネッティは、捨てられた子犬の様な、迷子になった子供の様な、寂しさを含んだ、頼る者が欲しい目をしていた。娘を助けてくれ、と、まだ成人してもいないような小娘にすがる不惑の男。それほどに、自分を肉の芽から解放してくれたセオに、感謝の気持ちと全能感を抱いているのだろう。まるで不毛の土地の民が救世主の降臨を目に見たようである。

「・・・娘を奪われた悲しみで気が狂った。スタンドが思うように使えなくなり、それで肉の芽に精神を食われたんだ。」
「娘さん、誰に連れ去られたかは分からないのですか?」
「いや・・・ただ、クリスマスの夜8時までに全財産を差し出せ、という手紙は・・・。お前の年収は分かっているのだと。」
「心当たりも?」
「ないのだ。」

 セオは警察でもなければ、探偵をしたことも無い。こんなヤバそうなことに首を突っ込んで良いのか。自分のアルバイトの範囲内でないのは確かであるが、目の前の弱々しい男に縋られて、すいませんと返事は出来ない。自分を頼りにしていてくれるのなら、財団の協力を得て自分がどうにかしてあげたい。

「イレーネさんのこと、頑張ってみます。彼女の安全のために警察には言いませんが・・・財団の人には話しますよ。」
「ああ・・・ありがとう・・・。」

 ブルネッティは鎖につながれた手をセオに差し出した。途中でがしゃんと鎖の長さ限界に達して手の自由は失われたが、セオはその手を取って、もう一度、任せてください、と笑顔を向けた。

「そうだ、貴女のお名前は?」
「わたしはセオ・ジョースターです。」
「セオさん・・・。ジョースターとは、もしや、あのジョースターか?」
「・・・DIOに敵対していた一族、間違いありません。」
「そうか、不思議な因縁もあったものだな、DIOに使えていた私が、ジョースター家の者に助けられるなど。」
「今は関係のないことですよ。」

 セオには、そのDIOこそ自分の父親なのだが、などとは言えなかった。会釈をしてブルネッティに背を向ける。少しだけ、背筋が冷えるのを感じた。

「話は全て監視カメラを通して聴いていたけれど、いいの?安請け合いして。」

 パーテーションの向こうで待っていたジーノがセオに問う。やはり見聞きの監視をしていたか。意志がなかったとはいえ犯罪者だ、当たり前か。

「ええ、なんとかして見せますよ。一般的な警察官よりも強い自信はありますし。」
「まだ警察は知らないみたいだけれど、言った方がいいんじゃあないかしら。」
「ブルネッティさんが言って欲しくないと思うなら、その通りにしたいなって。だいぶ心が参っているみたいですから、願った通りにするのが一番かなと。」
「・・・あなたがそういうのなら協力するわ。財団の総力を挙げて犯人を見つけ出す。」

 ジーノは早速部下に、ブルネッティから家宅捜索の許可をもらいに行かせた。セオはほっとする、本来なら警察かなにかに頼るべき事態だ。それを独断で、未成年の女1人でどうにかしようというなんて、普通ならば断られるのが関の山だ。しかし、ブルネッティがそうであるように、ジーノも自分の管轄下で起きた騒動を鎮めてくれたセオには感謝している。お返しにひとつわがままを聞いてもいいだろうと考えているのだ。財団の力を以ってすれば、誘拐された娘の行方など直ぐに見つかるであろうし。
 とりあえず、娘の行方と犯人を特定するまで、セオはお役御免である。ふっと気を抜くと、自分が案外お腹の減っていることに気づいた。そういえばブルネッティとの面会に時間を使ったことでお昼時を逃してしまっていた。

「ジーノさん、わたし今日はここで失礼しますね。またなにかわかったことがありましたら、電話お願いします。」
「わかったわ。観光でもしていく?それともホテルに戻るの?」
「昼食を食べてから考えます。街を歩くかもです。」
「そ、護衛は要らないわよね?」
「ええ、平気です。」

 意地悪くジーノがにやと笑った。女とは言え、波紋戦士に護衛など不要である。






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