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Noble Mind pierces through the world -DEA- ... 02


 日本はM県、杜王町、である。こちらもアメリカと同じ北半球にあるため季節は冬。街の至る所に小さなクリスマスツリーが飾ってあって、電飾はきらきら光っている。街全体がお祭モード。

 岸辺露伴の家は、まだ30にもなっていない男が持つにしては立派に感じる程の一軒家だ。絢爛豪華というよりは、ログハウス的な自然の良さが感じられる。
 承太郎がチャイムを鳴らすと、中から出てきたのはこの家の持ち主ではなかった。成人男性にしては背が低めで、かっこいいというよりは可愛いに属する人、広瀬康一だった。露伴曰く、自分の友達、である。

「あっ承太郎さん、お久しぶりです。セオちゃんも。大きくなったね。」
「康一さんこんにちは。」
「岸辺露伴はいるか?」
「露伴先生なら、今ペンが乗りに乗ってるみたいです。」
「邪魔したら悪いですかね。」
「ウーン、怒ると思うな。」

 タイミングが悪かったか、承太郎は帽子のツバを左右に振ってからため息。今日のこの時間に行くと事前に言っていたのだが。しかし下手に邪魔をして協力を得られないのは困る。康一が中で待っていてくださいと客間に通してくれたので、承太郎とセオは大人しく待つことにした。

「露伴先生、お2人が来るからって茶菓子まで買って待っていたんですけど。ピンときたようで1時間くらい机に向かいっぱなしです。」
「あの露伴先生がお茶菓子を。」
「うん。」

 人との触れ合い方が人一倍下手くそな露伴にしては珍しいなぁ、とセオは失礼な事を考えてしまった。今目の前に出されているいい所のチョコレート菓子が例のそれらしい。とても美味しかった。
 康一は仕事をしながら、暇がある土日にはこうして露伴の元を訪ねては、友達のいないと思われている彼の相手をしているそうだ。せっかく日本にやってきたが、露伴以外の人に会う暇がないと思っていたのでセオは嬉しい。

「ところで露伴先生からはなにも聞いていないんですが、今日はSPW財団の仕事かなにかですか?」
「そんなところだ。」
「イタリアに行くんです!それで康一さんみたいにイタリア語が使えるようにしてもらおうと思って。」
「へー、イタリアに!そうか、大学は冬休みだもんね。」

 康一は高校生の頃、それこそ承太郎に依頼されてイタリアに行ったことがある。露伴にネイティブなイタリア語を使えるように彼のスタンドで変えてもらって。そんなあの時の状況と今のセオは同じだ。康一は目を閉じて少し上を向き、あの時のことをふっと思い出した。

「どんな任務なの?もしかしてまたDIOとかいう男関係で?」
「・・・また?」

 セオの顔が怪訝に歪む。もう一度言ってというように、なにを言っているのかと疑問に思うように。彼女は隣に座る承太郎を見上げた。彼の目はセオをちらと見ただけで康一の方に戻ってしまった。

「あ、セオちゃんは知らない人の名前だったよね、ごめんごめん。僕はある男の息子だと思わしき人物がいるから調査してきてくれないかってことでイタリアに行ったんだ。」
「DIOという男の、息子ですか?」
「うん。」
「・・・康一君。」
「あ、すいません、ぺらぺらと話してしまって・・・。」

 承太郎は諌めるように康一の名を呼んだ。その態度だけでもう、セオには、彼が自分に隠し事をしていると分かった。それはもうはっきりと。
 セオは自分の父親と、自分の母親とは別の女性の間に子供が居ることを知らない。兄妹がいるということも聞いたことがない。
 康一はセオの父親がDIOであることを知らない。そしてもちろん、ジョルノ・ジョバァーナという、以前彼が調査した男が彼女の腹違いの兄になることも知らない。
 一瞬の間に起きたセオと康一の電波障害に、承太郎はやれやれだと思った。しかし弁解する必要はないと決める。だから彼はセオに、康一の行った調査については言及しないことにした。訊かれてもごまかそうと決めた。セオはジトリと承太郎を睨むも彼は無視。

 ぬっと居心地の悪い空気が流れたところに、まるでそんな空気を全て吸ってしまうかのように岸辺露伴がやってきた。漫画を描いていたとは思えない息切れ具合で、ぐったりしている。一体何の作業をしていたのか謎だ。地獄に仏とでも言わんばかりに承太郎は露伴に気を向けて、セオからは目を背けた。

「承太郎さん、待たせてすいません。」
「いや。」
「それでこの子にイタリア語を出来るようにしろってことでしたよね。さっさと終わらせます。原稿の続きが描きたいんでね。」
「お願いします。」

 何年かぶりの再開の感動もない。そもそも感動するほど親しくないし、この杜王町でちょっとした事件が立て続いた頃当時のセオは14歳くらいだったので、露伴のことはそこまで詳しく覚えていない。それでも何と無く、もうちょっと何かあっても良いんじゃないかと思ってしまう。しかしぐだぐだとそんなことを言えば、短気な大人2人がうるさい。セオはおとなしく目を閉じた。





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