trance | ナノ



 2年と少しの時が流れた。空条邸のはなれ、普段は人の出入りがほとんどないスペース、である。
 セオはSPW財団の日本支部とこの屋敷を行ったり来たりの日々を送っていた。顔を合わせるのは科学者かジョースターの血筋の人々、空条家の一員になったイギーそして時々花京院くらいである。
 セオは近代科学と日本の暮らしにも順応し、日の光さえ避ければ快適な暮らしを送っていた。

「セオちゃ〜〜〜〜ん、ただいま〜〜〜〜〜!」

 呑気に叫びながらドタドタと廊下を走ってくるのはジョセフ。ふすまの前でピタと脚を止め、一言開けるぞと断ってから、そっとふすまを開く。
 中にはくつろいでいるセオと、セオ。

「おかえりなさいジョセフさん。」
「おおただいまセオ、そしてセオちゃん〜〜〜おじいちゃんだよ〜〜〜〜。」

 1年前に産まれたセオの子供は元気な女の子。セオによってセオと名付けられた。ややこしいので子供の方を皆で「セオちゃん」と呼んでいる、あの承太郎でさえも。とは言っても承太郎はアメリカの大学に進学したため、今はほとんど会う機会がないのだが。
 子育てから解放されて悠々自適な生活を送っていたジョセフは、すっかりセオちゃんに骨抜きにされてしまった。本当の祖父のように彼女を可愛がり、しかしセオ本人にはまるで祖母に甘えるような態度を見せることもある。

「セオちゃ〜〜ん、おじいちゃんとお散歩いくかの〜〜〜〜!」

 セオの子供は普通の人間として生まれた。瞳の色はディオ譲りの金色、髪の色はセオ譲りだった。生まれた直後に足の小指に紫外線を当てる実験をしたが、吸血鬼のように灰になって消える様子は見られなかった。セオも周りの人間もその結果にほっとした。
 外に出られないセオに代わって子供を外に散歩させるのは、ジョセフかその娘のホリィの仕事だ。ホリィは一連の事情を伝えると、セオをまるで娘が出来たかのように可愛がった。長い間母親を忘れて生きたセオには、新しい感覚だった。

「夕方には帰って来てくれるなら行ってらっしゃい。ホリィさんが今日は私が連れていくわって言っていたから、早く逃げた方が良いよ。」
「おおっと、そりゃあいかん。わしはセオちゃんと2人きりでデートがしたいんじゃ。行ってくるぞ!」
「行ってらっしゃい。」

 ジョセフはセオちゃんを抱えて嵐のように去っていった。歳を取っても元気な姿には感動する。ジョナサンと共に歳を取っていけたら、こうなっていたのかもなんて思う。しかしセオは直ぐに頭を振った。無い物ねだりをしても虚しいだけだし、第一ジョナサンはあんなにお調子者ではない。

 開けっ放しで行かれたふすまを見て、セオはため息をつく。ここを開けられると、どの時間でも日光が様々な様子で差し込むのだ。日の光に触れないようにセオは壁沿いに歩き、ふすまの壁縁に触れる。

 そして、ぴた、と、手を止めた。

「いったいあとどれくらい貴方に会えないんだろう。」

 いつも思い出すのは、思い出す必要がないくらい心を占有して動かないディオ。早く彼に会いたい。死んだら再会できるのか、そんな保証はないし先ずはあの世なんてものがあるのかどうかだ。一度死んだセオには、死んだあとには何の感覚もないことしか分からない。
 吸血鬼の命は永遠、人間である娘には将来歳を抜かされる。いつまでも容姿の変わらない母を気味悪く思うのだろうか。こんな母親を持ってあの子は不幸せにならないだろうか。・・・娘の事を想っているつもりでも、一番に考えてしまうのは自分がディオと再会すること。
 娘の幸せと、自分の幸せのために何をすればいいのか。そんなことはずっと前から分かっているつもりだ。

 セオはふすまの壁縁を掴み、ずいと手前に引く。より大きく開かれたふすまからは、西日がこうこうと差し込んだ。






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