trance | ナノ



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 暖炉の外、部屋の中に集まる足音が、暖炉に響いた。誰が来たのだろうか、人数からすると館の住人ではないだろう。セオは耳を澄ます。聞いたことのある声が2人分。1人はヌケサク、セオがアトロポスで殺しディオが吸血鬼として生き返らせた男だ。もう1人は先日初めてエンカウントしたジョセフ・ジョースターだ。するとやはり下にいるのはジョースターたちか。
 大声や破壊音が伝わってくる、セオはとにかく彼らがこちらに気づかないことを願った。幸いに壁を破壊してジョースターたちは出て行ったらしい。壁が大きく揺れて大きな音がした。それ以降人の声も足音もしなくなったので出て行ったのだろう。

 セオはするすると梯子を降り、こっそり様子を伺った。もぬけの殻である。予想通り壁には穴が空いているが、心配するべき日光は射し込んでいない。日没、ディオの時間の始まりである。
 壁の穴から下を覗く。何人かの男が蔦のようなもので下に降りて行くところだった、ジョセフもいる。

「セオ。」
「・・・ディオ、あれが例の?」
「そうだ。」

 塔の壁にディオがいて、腕をこまねき下の男たちを目で追っていた。麻の外套と金色の髪が風になびいている。

「行ってくる。」
「行ってらっしゃい、待っているから。」
「そうしてくれ、戻った時に君がいると安心する。」
「安心をもとめる事こそ人間の目的、だったかな。」
「その通り、だからおれは自分の安心のために君を追ったのだ。」
「ありがとう、いろいろと。」

 ディオは塔から降りた。すとんと地面に着地すると、彼はジョセフたちを追って街に入って行った。

「ジョナサン・・・。」

 セオの声からふと漏れたのは親友の名前。ディオの生存を願って呟いた名だが、ジョナサンは間違いなく、孫のジョセフのために心血を注ぐのだろう。
 運命の女神に願おう、セオに力を与えてくれるアトロポスに。運命がディオとセオにとって明るい方に向かいますように。

 ドオオオン、と、街の方から大きな音がした。戦闘が始まったらしい。場所はここからよく見える時計台、大きな文字盤が爆発していて、時計として役な立たなくなっている。
 セオは無意識に塔を飛び降りた。待っていろ、と言われたが、黙って見ている気にはなれなかった。自分が役立たずなのは分かっている、しかし黙っていられなかった。
 重力に従って地面に落ちる、身体が丈夫になってくれたおかげで、まるで階段を2段飛ばしでジャンプした時のように着地できた。さあ時計台に向かおう。ジョセフは老衰死だ、ここで死ぬ運命ではない。ならばセオがその運命をはやめてやればいいのだ。運命自体を変えることができなくても、セオにはそれにはやく到達させる事が出来る。


 時計塔の下には瓦礫が散らばっていた。時計塔のものや、周りの建物が崩れたあとなど。騒ぎに驚いた街の人々は1人もいなくなっていた。オープンテラスの食べかけの料理も、ドアが開け放しになった車も放っておかれている。ここで何かがあったのだろうか。
 セオは建物を見上げる。ちらとディオの黄色とジョセフのラクダ色が見えた。彼らはビルからビルへと移動して戦っているらしい。彼らのあとを追おうとセオは進行方向を、変えた、のだが、

「待て!」

 背後から明らかに自分を呼びとめる声。ここに居るのはセオ1人だけであるし、なにより声はこっちを向いていた。警官か誰かだろうか、ここは危険だと呼びかけてくれたのだろうが、そう言われて引きさがるわけにはいかない。セオは振り返る。警官ではなかった、緑色の服をまとい、鮮やかなマゼンタの髪をした少年だ。色々と謎なのだが、一番吃驚したのは彼の左わき腹から血がとめどなく流れていることだ。彼は左脇を押さえ、歩くのがキツそうに脚をふらふらさせながらセオに近づく。

「あ、あの、大丈夫ですか?」

 落ちて来た瓦礫によって怪我をしたのだろうか。生憎セオは治療するための道具を持っていない。ベストを腹巻のように被せたならばいくらか楽になってくれるだろうか。セオもベストに手をかけながら少年に近づく。

「寄るな!」

 しかし少年はセオを制した。5メートルほどの間合いがとられる。
 セオははっと目を見開いた。少年の後ろに、スタンドが浮かんでいる。明るい緑色のスタンド、すらっと細長い人型をしている。セオも彼を警戒してアトロポスを出現させた。

「・・・セオ・フロレアールですね?」
「わたしの事を知っているということは、ジョセフさんの知り合い?」
「DIOの元に行かせるわけにはいきません。」
「ディオ関係ということはやはりジョセフさんの、」
「ジョースターさんからは貴女を生きて捕らえるように言われています。」
「会話のボクシングは辞めよう。」

 話がぶつかりあうが、この少年がジョセフの知り合いで彼の一行のうちの1人であることは分かった。敵意丸出しの目を向けられているのもひとつの証拠になる。生きて捕らえるということは最低でも殺されはしないということか、慈悲深くて感動する。

「エメラルドスプラッシュ!」

 少年のスタンドがアトロポスに向けて宝石のようなエネルギー弾を放つ。アトロポスは顔を腕で覆ってガードしたが、彼女とセオの腕や胴体には打撲の痣ができた。石仮面を被った純粋な吸血鬼でないセオは傷の治りが速いわけではない。彼女は腕を押さえて前のめりになり、アトロポスを少年のスタンドに向かわせた。
 風のように素早く少年のスタンドに向かったアトロポスが、少年のスタンドの首を掴む。それは抵抗するようにアトロポスの手を掴んだが、次第に力が抜けて、腕をだらんと垂らした。その下で少年にも変化が現れる。彼はガクと膝を折り、地面にうなだれた。手や顔面にゆっくりと皺が寄っていく。

「君も寿命か・・・!」

 ジョセフと同じような変化、死因はこの少年も老衰死らしい。

「仕方ない、カタを付けようか!」

 セオはアトロポスの手を緩めない。このまま寿命を迎えてもらおう。躊躇う気持ちはほとんど無かった、ここで手を緩めて後悔はしたくない。






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