trance | ナノ



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「ディオ!」

 館に戻ったセオは、まっすぐにディオの部屋に向かって走った。ノックもせずに部屋に飛び込み、ベッドで本を読んでいたディオに抱きつく。ぎゅうと胴に巻きつくと、不思議と心が落ち着いた。

「・・・どうした、何かあったのか?」

 様子が尋常でないセオの頭を、ディオはそっと撫でる。ただいまの一言もないくらい、彼女は何か恐ろしいことにでも出会ったのだろうか。

「ジョセフ・ジョースターに会った。」
「・・・なに?」
「カメラを持っていた、念写に使うものだと思った。ジョセフ・ジョースターはわたしを知っていた。彼はエリナが持っていた、みんなで撮った写真を見たことがあるって言っていた。」

 ディオも予想できなかった事件だ。ジョセフ達がこのカイロに入ったのは知っていたが、彼がセオを認識しているとは思わなかった。セオとジョセフの接点と言えば、ジョナサンとこのディオ自身のことしかない。ジョセフはセオの存在自体を知らないものだと捉えていた。しかし、セオの言う写真が、まさかそれが原因で気付かれるとは。ディオにもその写真にはよく覚えがあった。100年前、ディオとジョナサンが大学4年生になった始めの頃に撮ったものだ。ジョージ・ジョースターが、知り合いに頼んで家族写真を取ろうと言い出した。『家族』である3人だけでなく、屋敷の使用人たちも交えて。そこにジョナサンが、それならばセオとヴァントーズも入れたいと言った。ディオ自身は乗り気でなかったが、ひとつの『家族』である証明に使えるとは思った。セオとヴァントーズも含めて撮られた1枚の写真は、今は無いジョースター邸に飾られた。あの火事を生き抜いて残り、エリナの手に渡ったというのか。

「奴に何かをされたのか?」
「いいえ。されたんじゃあない・・・どちらかというと、『わたしがした』の。アトロポスを使って。」
「死因を知ったか?奴はどうだった。」

 ジョセフの死因、ディオはそれが自分自身の手で生み出すものであると思っている。今ここで聞いておけば後の戦いで役に立つ。泣きそうに歪められたが決して涙を落そうとはしないセオの顔を覗き込み、その情報を待つ。
 セオは期待にこたえられない返事しか持っていない。言いたくない、とは答えたくない。しかし嘘をつくことはしたくない。口を閉じて言いたくない気持ちを表すが、ディオは答えを聞こうとする態度を辞めない。

「・・・老衰死、だった。」

 渋りながらも、はっきりとした答え。言いきってセオは顔を下げた。ディオは返事ができなかった。泣きそうなセオの下瞼を親指で優しくなぞる。すると彼女の瞳がじわりと潤んだ。
 老衰死、それが何を意味するかなどディオは即理解した。自分の手で止めを刺すことは出来ない、そういうことだ。彼の予想する決着とは大きく異なる結果が、あろうことかセオから言い渡されてしまった。
 アトロポスの能力は厳密に試してはいない。だから、もしかしたら、何遍かに一回のミスがあるかもしれない、たまたまそれが今回ジョセフに当たって、本来の死因とは別の結果が出てきたのかもしれない。そう思えたならばどんなに良いことか。セオは自分の精神であるアトロポスを信じていたし、ディオもまた、彼女とそのスタンドを信用していた。

「・・・おれの望まない結果ならば、そんなもの無視してしまえばいい。無理矢理にでも結果を変えればいいのだ。」

 果たしてそれが実現するのか。ディオが、ジョセフの死因は老衰死だと知り、こうやって意気込んで、そして決戦に挑むことも含まれた結果のあのジョセフの老いならば・・・。
 きっと全てを理解したうえで、アトロポスの能力は発揮されたのだろう。必ずジョセフは戦いを乗り越える。その時ディオはどうなっているか、それは分からない。今、この距離ならば、ディオに抵抗されること無くアトロポスを使うことができる。そうすれはセオが知りたい答えが出るはずだ。彼も抵抗しないだろう。しかしセオには実行する勇気は湧かなかった。
 大人しく受け入れよう。ジョセフは生き残る。そして、その結果のまでの間で、ディオには全力で守り、彼にも生き延びてもらおう。せめて願うことしかできない。

「おれは戦いの最中、セオまで気が回らなくなる時がくるかもしれん。その時は君は逃げて、生き延びてくれ。ジョセフ・ジョースターは君が吸血鬼だと知ったのだから、命を狙われることになるだろう。」
「ディオは・・・?」
「1人でどうとでもできる。しかし非力な君にはいち早く逃げてもらわねば。」
「・・・分かった、逃げるね、すぐに。」

 胸のざわめきが収まらない。幸か不幸か、吉か凶か、結果はともかくも、終わりの時が近いのをセオは感じていた。






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