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23.止められない


 脚を少しだけ開き、倒れ込みそうな不安定さ。右腕がすっと伸びていて、指先はジョナサンの手を握っていた時のまま、少しだけ丸められている。視線はその手の先を見ていた。凍り始めた時、その手を見ていた彼女の表情には、驚きも悲しみも見られなかった。凍った今もそうである。ただ目の前で起きている事実を見据える、なにかを受け入れたようにも見える無表情だ。
 ディオは氷漬けになったセオを、そっとベッドの上に乗せた。無暗に動かして氷が割れることは避けなければならない。今すぐにお湯を沸かしてかけてやりたいが、急激な変化は皮膚を傷つけてしまう。吸血鬼にさえしてしまえば直ぐに再生できるが、彼女はまだ人間であるし、出来るだけ傷つけないですむ方法があるのならばそうしたい。

「悪かったな、ジョジョが来た瞬間に力を入れすぎてしまったようだ。血だけではなくお前の周囲の水蒸気までも凍らせたんだな。おれに備わった力をまた1つ発見できたわけだが・・・。」

 彼はセオの頬を撫でるように氷を撫でた。ひんやりと冷たい感覚。まるで彼女自身が自分を拒絶しているかのようにも感じた。確かにセオはディオのやっている事を良く思っていないし、むしろ悪人と断定している。しかしディオ自身には、悪いことをする『友人』を更生させてやりたいと思っているような優しさを持っている。恋慕や愛はなくとも、拒絶はしていない、はずだ。

「お前の氷が溶けたら・・・真っ先に吸血鬼のエキスを送ってやる。そうすればその止まった心臓も動きを取り戻せるんだ。」

 既にセオは人間としての死を迎えていた。血液の循環は断たれ、心臓の拍動も止まっている。魂もここには無い。人間の何倍もの五感を持ったディオには、その心臓の動きが止まっているのは簡単に察知できた。

「セオ・・・お前はおれと共に永遠を生きる運命なのだ、そうだろう?」

 だから、はやく、その身にまとった氷を溶かしてくれ。ディオは膝を折り、存在すら信じていない神に祈った。






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