trance | ナノ



22.貴方の助けになりたくて


 ディオさえいなければこんな館簡単に外に出ることが出来る。なにか複雑な鍵がかけられているわけもない扉は簡単に開く、セオはさっさと館を出た。夜だがそこら辺をさまよえば誰かが助けてくれるだろう。
 
 しかし、東洋人の男が丁度戻ってきたところだった。彼に驚き、セオは足を止める。館に来てから何度か顔を合わせたが、どうにも得意になれない人物だった。
 セオが止まった隙に、後から館を出て来たディオが彼女の腕を掴んだ。セオは自分が逃げるタイミングを上手くかすめ取られたような、複雑な気分になった。やはり逃げることはできないのかなんて思う。

「ディオ様、ヤツが仲間を連れてやってきましたぞ。」

 東洋人の男はディオの前で膝をつき、にやと笑って報告をする。ヤツ、と名前は出さなかったが、ディオにもセオにもそれが誰を指しているのか直ぐに悟った。

「・・・ジョナサン?」
「来たようだな。セオ、行くか。」

 ディオはセオを脇にかかえ、東洋人の男の先導で館を離れた。





 崖の上、下がよく見える高い所から見おろした所には、1つの集団。がたいのいい男が3人と、男の子1人。よく見知った親友がいる、ジョナサンだ。ずっと会えないでいた気がする。セオは彼が助けてくれると確信した気分だった、嬉しさが込み上げて来てたまらなくなった。

「ジョナサン!!」

 ディオによって後ろに隠されていたセオは、ずいと身を乗り出し、崖から落ちそうになりながらも手を伸ばした。

「セオッッ!!!どうしてここに?!!?」

 ジョナサン、そしてスピードワゴンは、ここに居るなんて想像もしなかったセオの登場に大いに驚いた。ジョナサンも手を伸ばしたが、もちろん届くはずはない。彼はディオとセオを見比べながら、段々と顔を顰めていった。なぜ彼女がここに居るのか、大体察しがつく。仲はよくないとはいえ、青春をほとんど一緒に過ごしていたジョナサンには、ディオがセオに対してどんな気持ちを抱いているかなど、自然と伝わってきていたのだ。

「ディオくんに連れ去られた!お願いジョナサン助けて!」
「『連れ去られ』・・・!?」

 ディオは黙ってセオの前に立ち、ジョナサンを見ている彼女の肩に触れた。そしてぎゅうと抱きよせ、首筋に唇をつける。セオは前に咬まれた場所にそっとキスをされた。ぞわと身の毛がよだった。吸血された時の事を思い出し、慌ててディオの手を振りほどいた。そんなセオの行動にもディオは咎めることをしない。ただ、離された後直ぐにまだ彼女の腕を鷲掴み、崖を飛び降りた。まさか死ぬ気かなんてセオは一瞬思ったが、ディオが下の岩の上に上手く着地したので安心した。足場の少なく、安定感のない岩の上。セオは仕方なくディオの足元にしゃがんだ。

「セオ!待っていてくれ、今助けるッ!!」

 ジョナサンが叫んだ。その叫びに反応したかのように、ディオの後ろから大勢のゾンビが現れた。皆鎧のようなものを被っている、この墓地に眠っていた昔の剣士たちなのだろう。ゾンビ達は一斉にジョナサン達に襲いかかった。

「山吹き色の波紋疾走ッ!」

 オレンジ色の光、まるで太陽の明るさにも似た光がジョナサンの右腕を包む。光を伴った腕はゾンビの腹に食い込む。するとゾンビは内臓から筋肉から、全てをその腹から破壊されたように爆ぜた。彼と、白いスーツを着た男は不思議な力で次々とゾンビをなぎ倒していった。そして2人はディオの待つ岩を登ってくる。

「ディオ・ブランドー・・・。個人的にはきさまのことは知らん・・・だが、きさまの脳を目覚めさせた石仮面に対して、あえて言おう。とうとう会えたな!」

 白いスーツの男――ウィル・A・ツェペリ伯爵は、ディオとセオの立つ場所から少し低い位置でディオを睨みあげた。戦闘態勢をとり、何時でも攻撃を仕掛けられるようにと腰を落とす。彼は石仮面との因縁があるようだ。
 コオオオオオ、と、不思議な音をさせる呼吸、ツェペリ男爵は宙を舞い、手の指を真っ直ぐディオに振りおろす。一瞬ツェペリ男爵とディオがにらみ合う。ディオはツェペリ男爵の拳を手のひらで受け止めた。

「流し込む!太陽の波紋!山吹き色の波紋疾走!!」

 ジョナサンのときと同じオレンジ色の光。光はらせん状にディオの腕をさかのぼり、ぼこぼこと皮膚の下を変形させる。身体の内部から破壊させているように見える。自分の肉体のピンチ、しかしディオはニヤリと笑った。ツェペリ男爵の手を翻すのではなく、むしろガシと掴んで離さない。するとディオの腕が凍り始めた。関節の下、指先までががっちりと凍った。それだけではない、何が伝わったのかは分からないが、ツェペリ男爵の腕にも衝撃がいった。ばりばりと肉が裂け、血があふれ出る。溢れた血は瞬時に凍り、カツンと音を立てて岩の上に落ちた。

「・・・きさまのエネルギーは血液の流れに関係あるものらしい。したがって血管ごと凍らせれば、エネルギーは送り出せまい!おれはきさまのふれた腕の水分を気化させた!水分は気化する時、同時に熱をうばって行く!つまり瞬時に『凍らせた』のだ!・・・そして!」

 ディオが再びツェペリ男爵に攻撃を仕掛ける。振り下ろされる右腕。ツェペリ男爵は怪我をしていないもう片方の手のひらをサッと胸の前に出した。ディオの腕は止まらない。
 その後ろで傍観していたセオ、未知の力のぶつかり合いにえも言われぬ恐怖を感じていた。しかしそんな彼女もスッと身体が動いた。ジョナサンがこちらに向かってかけだしたのだ。セオは瞬時に察した、彼はツェペリ男爵をディオの攻撃からかばおうとしているのだと。そしてその先に起こりうる事も想像できた、ディオの手を受け止めたジョナサンの拳は、ツェペリ男爵の腕のように、血を凍らせられるのだ、と。

「ジョナサン!!!」

 ジョナサンの手のひらが、ツェペリ男爵とディオの間に伸びる、それと同時に、セオの小さな手のひらも伸びた。ジョナサンの手のひらをセオが握る、セオの手の甲をディオが殴打する。セオは自分の骨が折れるのを感じた、痛い、神経の集中する手をやられるのは気が飛びそうなくらい痛かった。

「なにッ・・・!」
「セオッ!どうして!」

 目の前のジョナサンが焦った表情でセオを見る。ディオも苦い顔をしていた。まさか彼女が出てくるとは思わなかったのだろう、それも当然だ。ジョナサンとディオの手は触れ合うことはなく、ディオの手はセオの手の甲だけを捉えている。
 セオの手がツンと冷たくなる。ディオの腕が凍っていた、彼から伝わってくる冷たさで自分の血液が凍って行くのが分かる。

「どうしても何も・・・っ!」

 自分の腕が段々と凍って行くのが見える。ツェペリ男爵の時のような出血を覚悟したが、セオは違った。3cmほどの厚さの氷がセオの皮膚を包んでいく。ディオは慌ててセオから手を離したが遅かった。セオの思考が止まる、肩から胸へ、喉へ、胴体へ、氷結が止まらない。セオは瞬時に氷漬けになってしまった。

「どういうことだ、セオ、何故お前がッ!!」

 ディオは氷像になったセオを抱え、岩場から跳んだ。ジョナサン達と距離を取り、後ろを振り返る。

「タルカス!黒騎士ブラフォード!!」

 岩盤がぐらぐらと揺れ、地面が裂けると、その下から2人の鎧を身にまとった大柄な男達が姿を現した。

「虫けらどもの駆除はおまえたちにまかせるぞ!」

 ディオは珍しく焦っていた。冷や汗が米神を伝って流れるのを気にもせず、彼はジョナサン達を放って館へ戻る。はやくセオを覆う氷を溶かし、中から助け出さなければ。ただの人間である彼女が氷漬けになったのを放っておいて、無事でおけるはずがないのだ。






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