trance | ナノ



18.穏やかな再会


「ジョナサン!」

 ジョナサンの容体を知った次の日、である。セオは再び朝一番で病院を訪れていた。昨日は病院から帰った後大学に行ったのだが、研究に1つも力が入らず、講義も上の空になってしまっていた。何をしようにもジョナサンの姿が浮かんではなれなかった。今日も朝から大学に行かなければならなかった用事を放っておいて、一晩の間になにか変わった様子がなかったか確認をしに来た。

「・・・セオ!」

 それが良かった。昨日訪れた時にはあった『面会謝絶』の看板が無くなっていた。セオがドキドキして扉をあけると、ベッドの上には上体を起こして窓の外を見ているジョナサンが居た。嬉しくなって名前を呼ぶと、彼はいつもの優しい笑顔を向けてくれた。

「よかった!」
「どうして君がここに・・・?」
「・・・家を燃やして姿をくらました人にどうしてなんて言われたくない!」

 セオは何も手に着かないくらい心配したというのに、ジョナサンのきょとんとした表情はあまりにもいつも通り過ぎていた。そんな彼にセオはちょっとむかっとしてしまう。

「ご、ごめんね、心配かけたよ。急にこんなことになって吃驚しているだろう・・・。」
「うん・・・吃驚した。でもジョナサンが生きていてよかったよ。」

 しかしそんな怒りもすぐに消えた。ジョナサンの微笑みに、不安も悲しみも打ち消されていった。セオはスツールに腰をおろし、包帯に包まれたジョナサンの二の腕に触れる。硬い筋肉だが、ここも火傷しているのだろうか。ジョナサンは何とも言わないが、実は痛いのかもしれない。セオは思わず伸ばした腕を直ぐにひっこめた。

「それと、ジョージおじさまとディオくんのこと、聞いたよ。ジョナサン・・・どうか、ゆっくりでもいいから・・・元気をだして。」
「ありがとう、セオ。ぼくは・・・大丈夫だよ。」

 ジョナサンは眉毛をハの字にした。そんな悲しげな表情だが、どこか力がこもっているようにも見える。もう割り切って考えることが出来ているようだ。それならばセオも元気を出さなければいけない。少し無理をしながらも、口角を上げて見せた。

 ふいに、こんこん、と、ドアをノックする音がした。ジョナサンはどうぞと返事をする。その返事を聞いて、音を立てないようにと扉がゆっくり開いた。現れたのは美しい看護婦だった。彼女はジョナサンにお客さんが来ているんを確認すると、微笑んで会釈をした。セオも釣られて頭を下げる。

「エリナ。」

 親しげに名前を呼ぶジョナサン。知り合いなのだろうかとセオは思う。

「包帯を取り換えに来たのですが・・・今お時間よろしいですか?」
「あ、はい、今出て行きます。」

 セオは慌てて立ち上がった。ジョナサンは病人だ、あまり長居してはいけなかった。

「・・・あら?」

 横を通り過ぎようとしたセオに、エリナと呼ばれた看護婦は、何か言いたいことがある様な風に声をかけた。セオはふと立ち止まって彼女を見る。なにか自分にあったのか。

「あなた、どこかで・・・?」
「知っているのかい?」

 彼女は少しの間じっとセオを見詰め、そして何かに気付いたように目を見開いた。ああ、と、思い出したのか声をあげる。セオの方はまだ分からなかったので首を傾げた。

「あなたは昔・・・男の子からいじめられていた私を2度も助けてくださった方ですね?」
「・・・あ、もしかして。」

 7年前の出来事がぱっと頭に浮かんだ。男の子が寄ってたかって女の子をいじめる姿、しかも2回、2回目にはあのディオの姿もある。自分の欠点が露呈したあまり思い出したくない内容だった。そういえば、じっと見つめてきた看護婦の顔は、あの時の少女によく似ている。

「思い出した、あの時の。」
「エリナ・ペンドルトンです。あなたの勇気に私はとても助けられました。」
「懐かしい・・・エリナ、そうか・・・あなたが・・・。」

 セオはしっかり思いだした。あの時泣いていた少女、エリナはジョナサンの想い人だった女性だ。彼女は引っ越しで遠くに離れてしまってジョナサンは悲しんでいたが、そうか、ここで再会したのか。

「良かったねジョナサン。」

 にやと笑ってジョナサンを見ると、彼はセオが何を言いたいのかを直ぐに悟って顔を赤くした。そんなに照れることも無かろうに。運命のめぐりあわせだろうか、ここで再会できたエリナにはきっと、ジョナサンはとても心救われただろう。大切な人を失った彼には暖かい光だったに違いない。

「エリナ、あなたが居て良かった。・・・それじゃあジョナサン、またお見舞いに来るね。」

 セオは笑顔で病室を出た。ジョナサンとエリナ、と、2人が揃っている姿を見ることができて、満たされた気分だった。






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