trance | ナノ



15.ひとつの始まり


 幸運を集めるお土産人形、と言うものをヴァントーズが買ってきた。最近体調のすぐれないジョージに、完治という幸運が訪れますように、と願って買ったものらしい。可愛い女の子の人形、ふつうに女の子達がもっていそうな可愛らしさだ。本当はヴァントーズ自身が渡すのが良かったのだが、最近彼は忙しい。早く届けたいという事で、セオが代わりにジョージに会いに行くことになった。

 紙袋に詰められた人形を大切に抱えて歩くセオ。ジョースター邸の前に一台の馬車が停まっているのを見つけた。セオも時々乗せてもらうことのある、ジョースター家のものだ。どうしたのだろうと思って、カーテンのひかれていない車内を不躾にも覗いてみる。中にいたのはジョナサンだった。彼はセオに気づいて降りる、切羽詰まった表情をしていた。

「セオ!どうしたんだい?」
「お父さんからジョージおじさまに贈り物があって。」
「・・・そっか。」
「ジョナサンどうしたの?恐い顔をしている。」

 セオと話しながらも、眉間の皺が消えないジョナサン。焦っているように見える。彼は言葉を詰まらせてセオから目をそらした。言いにくい、と言うことだろうか。

「ごめん、言えないんだ。」

 ジョナサンは一つの疑惑を抱えていた。今からそれを解決しに行く。それはまだ疑いの段階であるから、まだセオに対して何も言えない。

「ぼくはこれからロンドンに行ってくる、帰ってきたら話すよ。」
「ロンドンに・・・。うん、気を付けてね。」
「うん。」

 彼が言いづらいなら、セオは深く食い下がらない。何をしようとしているかは分からないが、ロンドンまでの旅がせめて無事であるように祈りたい。

「それと、その・・・ディオには注意してくれ。できれば顔を合わせないで帰ってほしい。」

 馬車に乗り込んだジョナサンが、わざわざ窓を開けて注意する。こちらもセオにはよく分からなかったが、深刻そうなジョナサンが言うのだから意味があるのだろう。頭に沢山のハテナを浮かべながら、セオは出発した馬車を見送った。




 ジョージはすっかり肉の落ちた身体をベッドに預け、静かに眠っていた。普段見せていた元気な姿はそこにはなく、セオは少し悲しくなった。ジョナサンとディオには風邪を拗らせたのだと聞いていたが、容体はあまり良くないらしい。同席している医者に許可を貰い、ヴァントーズからの人形をサイドテーブルに置く。起こしてしまうのも良くないので、贈り物については後で執事から伝えてもらうことにした。
 音を立てないようにドアを開け、静かに退室する。中で医者がドアを閉めてくれるのを見て一礼した。ジョージと話をしてのんびりする予定だったのが無くなり、すんなり帰ることになった。ジョナサンが居たのなら、彼と話をしながらジョージの目覚めを待っても良かったのだが。

「セオ。」

 ふと階段の上から降ってきた声。聞きなれたバスボイスに反応して声を上げると、思った通りのディオがいた。

「ディオくん!」
「君が父さんの部屋に入って行くのが見えたから待っていたんだ。」
「見つかってたんだ。」

 悪戯がばれた子供のように、にへ、と笑う。しかし、ディオが階段を下りてくるのを見て、ジョナサンの言葉を思い出して、顔が固まった。ディオの様子は普段と変わらない。しかし、ジョナサンの注意してという言葉がセオの中で反響した。

「生憎ジョジョは居ないんだ。」
「来るときに玄関で会ったよ。ロンドンに行くって言っていたけど、どうしたの?」

 セオの問いで、ディオの顔からも表情が消えた。ぴっと結ばれた口からは答えが出てこなかった。セオは疑問に思う、ジョナサンからもディオからも答えが聞けないのはどうしてか。何か2人をして隠したいことなのか。

「・・・ジョジョに会っていたのか。あいつは何と言っていた?」

 ディオが反応を返したのは、ジョナサンに会ったということのみだった。

「ロンドンに行って、帰ってきたらなにがあったのか話す、って。」
「そうか、それならそう言うことだ。おれからは何も言わない。」
「・・・そう。」

 ジョースター家の中の話なのかもしれない、だから家の外にいるセオには話せなくて。隠されていては気になるが、しつこくするわけにはいかず、腑に落ちない顔で身を引いた。そんなセオに、ディオは少し近寄る。30センチメートルくらいの距離、セオはどうしたのかと思ってディオの顔を見た。彼がよくしている無表情、冷たさがあるわけでも真剣であるわけでもない、ただ表情のない顔、ディオはそんな顔をしていた。彼は薄く口を開く。

「君が好きだ。」

 そして、告白。
 唐突だった、何の前触れもなく。セオは少し警戒をしていたが、突然の事で混乱する。ディオはセオの肩に両手を乗せ、そのまま更に顔を寄せた。目の下、頬骨ですこし盛り上がったそこに唇をくっつける。セオは息を止めた、なんと反応をすれば良いのか全く分からなかった。何か返事をしなくてはならないと思ったが言葉が出ない。しかしセオが返事をしなくても、ディオは催促しなかった。ただ、焦っているセオの顔を見て少しだけ笑った。

「・・・あ、」
「いい、返事は要らない。今言っておきたかったんだ。」
「なんで、・・・急に。」
「7年前から君が好きだった。」
「え、そんなに、前から。」

 知らなかった、と、これまた吃驚する。そんな目で見られていたなんて思いもしなかった。急に全てが理解出来て、セオは顔を赤くする。ディオから身をひいて顔を手で覆う。耳まで熱くなってきた、多分こちらも赤くなっているのだろう。告白と言うものならば、今までに何人もの男性からされてきた。慣れているといえば慣れているのだが、まさかディオからされるなんていうことは夢にも思わなかったのだ。
 こんなに驚いて心臓がドキドキするということは、自分はディオをそういう対象として意識していたのだろうか。セオは冷静に自分の心の中を考えようとする。しかし整理がつかなくて混乱するばかりだ。

「無理に返事を考えないでくれ。いいか、おれは本気で言っている。だからいっときの感情に流された返事をしないでくれよ。」
「・・・。」

 何か言わなくてはと思って口を開けるが、半開きになっただけで言葉は出なかった。頬が赤くなったまま治らない、口を閉じてうつむく。ディオはそんなセオの頭をぽんぽんとたたいた。

「ただし、今は、だ。それにノーの返事は聞かない。その覚悟でいろ。」

 ならば返事はしてもしなくても同じではないか。
 逃げるのは悪いと思った。思ったのだが、この羞恥に耐えられなくなったセオは脱兎だった。バッとディオに背を向けて走り出す、玄関を乱暴に開けて飛び出した。






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