trance | ナノ



13.視線の先


 お昼ご飯を一緒に食べようと誘われてやってきたのは、よくジョナサンと来ている中庭だった。いつもなら誘ってくるのはジョナサンなのだが、今日、わざわざ隣のクラスに顔を出してセオを誘ったのはディオだった。
 ディオはローストビーフのサンドイッチを無表情で食んでいる。一緒に、と言われた割に何を話したいわけではないらしい。会話の切り出しをディオからするのだと思っているセオは1人で気まずくなる。硬いフランスパンを緊張しながらかみちぎる、さっぱり味が感じられなかった。いつくるかと黙って待とうかと思ったのだが、セオは空気に耐えられない、彼女は意を決して少しだけ口を開いた。

「・・・何か用事があった?」

 するとディオは直ぐに返事をするわけでもなく、隣りで何とも言えない複雑な顔をしているセオを見詰めた。セオは思わず目を背ける。

「用事がないとだめだったか?」
「・・・いやあ。」

 質問に質問で返されて、そこに不躾な返事をしてしまった。なんと返せばよかったのか正解は分からなかった。用事がないとだめかというとそういうわけでもない、昼食は普段から用事が無くても誰かとのんびり食べている。ただ、ディオが相手となると違う。何か相談か、言いたいことか、企みか、何かがあるのではと勘繰りたくなってしまうのはどうしようもない様な気もする。

「誰でもよかった。」
「あ・・・そうなんだ。」
「がっかりしたかい?」
「・・・・・・まあね?」

 単に独りの昼食が寂しかったのだろうか、人間らしいところもあるんだなあと思う。誰でもよかったなんて言われ方をすればそりゃあがっかりする、理由があって自分だったのかと、期待とはまた違うと思いたいがそんな気持ちがあったのだから。ちょっと不服だなぁ、なんて口をヘの字にすると、ディオはふっと笑った。

「実のところを言えば、セオ相手なら気を張らずにいられると思ったんだ。」
「気を張らずに?」
「君はぼくの悪い所を沢山見ているだろう。だから無理に良い顔をしなくていい、それだけだ。」
「なるほどなあ・・・。」

 ジョナサンと取り巻きの男の子たち以外の前・・・例えば学校の先生や女の子たち、街の人の前では常に気を張っている彼は、もう裏の顔を見られたセオに対してはもうその必要がないのだと、安心しきっているらしい。良く言えば心を開いたということであろう。

「それに君は優しいから。」
「そう?」

 ディオはじっとセオの目を見る、先日の勉強会の時のように。セオはどうしたの、と訊こうとして開いた口を直ぐに閉じた。ちょっと頬が赤くなっている。

「・・・あんまり見ないでください。」
「照れたね。」
「からかっているの?」
「いいや、君が赤くなるのが楽しいんだ。」
「変なの・・・。」

 これ以上一緒にいると恥ずかしくて倒れそうだ。決して嫌になったわけではないのだが、セオは弁当の包みを持って、逃げるように校舎へ戻っていった。






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