trance | ナノ



12.仲直り


 今日はジョナサンの買い物について行く約束をしている。なんでもいつも使っている黒インクが切れたので、文房具屋で新しいものを買いたいのだそうだ。セオと一緒に行きたいと言われたら断る理由もない。

「ジョナサン、いる?」

 放課後、人の少なくなった隣のクラスに顔を出す。あいにく知っている人は1人も居なかった。ジョナサンの机の上に鞄はあったので、手洗いかどこかに行っているところなのだろう。
 教室から出て廊下の左右を見る、丁度戻ってくるジョナサンがいた。・・・隣にディオもいる。2人が並んでいる姿は珍しい、この間『あんなこと』があったので、尚更どうしたのだろうと疑問に思った。もしかしたら仲良くなれたのだろうか。

「ジョナサン、ディオくん。」
「セオ!ごめん、待たせたね。」
「ううん大丈夫。」

 2人で担任の手伝いのために職員室に行っていたらしい。放課後にセオとの約束があるとはいえ、担任の頼みを断るわけにはいかなかったのでついて行ったとのこと。そして驚いたのが、1人では大変だからもう1人手伝いをつけたいと担任が言った時に、真っ先に名乗り出たのがディオだったということだ。ジョナサンを嫌いだと明言した彼が、自らジョナサンと作業をしたいと名乗り出るなど。もしかしたら少しでも近づこうとしてくれているのかもしれないが。

「ディオのお蔭で速く終わって良かったんだけどね。」
「当たり前だろ、ぼくが手伝ったんだからな。」

 ジョナサンに向けて笑顔を見せるディオ。一方のジョナサンは、ここ最近ディオが優しくなったことが不思議らしく、苦笑いに近い笑みを浮かべた。不思議、というか、警戒しているのだろうか。

「ディオくんとジョナサン、仲良くなった?」
「まぁね。」

 直ぐに返事をしたのはディオの方だった。ジョナサンは、うーん、と唸って苦笑い。そして、そうかもねとだけ言った。セオもつられて苦笑いになった。

「・・・ああそうだセオ、この後空いていないか?試験の解き直しがしたいんだけど、歴史は君に聞いておきたいんだ。」
「ごめんなさい、今日はこの後ジョナサンと出かける予定があって。」
「ふーん。じゃあまた今度に。」
「一緒にいく?」
「いやいいよ、2人の邪魔はしたくないからね。」

 セオは誘いたいがジョナサンが居るなら話は別だというのがディオの本音だ。先日彼女に言われた事もいくらかあって、今後はジョナサンと仲良く振舞いながら、自分の野望を温めるつもりなのだが。

「そう?じゃあまた今度。」

 先に約束をしていたのはジョナサンだという事を除いても、まだセオはディオよりもジョナサンの方に心が傾いている。違う、まだ、ではない、これはきっとこの先もそうなのだろう。自分とジョナサンでは、セオとの付き合いの長さも心の近さも比べ物にならないほどの差が開いているのだから。それがディオにはもどかしくて仕方がない。
 結局セオとジョナサンを引き離すという企みの前に、ジョナサンを独りぼっちにするという野望はついえた。そのためセオにこっちを向いてもらうための手数はずっと増えてしまった。
 ジョナサンのことばかりを見るセオは気に入らない。ディオは鞄を持ってさっさとこの場を後にした。

「・・・ディオくん、人が変わったみたいだね。」
「なんだか急に優しくなったんだ、今までの冷たい瞳が嘘みたいに。」
「反省した、のかなあ。」

 あの人が簡単に改心などするのだろうかとセオは思う。失礼なことではあるが、今までの事があるので仕方ない。内面でどう思っているかは別だが、風当たりが悪くないのなら今はそれでもいい。

「何かされたら隠さずに言ってね?」
「大丈夫だよ、きっと。」






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