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11.接近


 「勉強を教えてくれ?ディオくんなら自分でどうにか出来るんじゃあないの?」
「歴史だけはだめなんだ。君のお父さんは歴史学者で、君も歴史が得意なんだろう?」
「・・・他よりは出来るけれども。」

 勉強に付き合ってくれ、と言われてやって来た図書館。さすがこの辺で一番大きい学校だけあって本の収蔵数はとても多い。勉強をするスペースも広くあるため、のんびりと過ごすことができる。
 セオとディオは向かい合って座り、早速歴史の教科書を広げた。

 昨日本音を出して話し合えたお蔭か、今朝廊下ですれ違った時にはセオもディオも気まずい顔一つせずおはようの挨拶ができた。そこまでは良いのだが、なんとディオが勉強を教えてくれと頼んできたのだ。ジョナサンからディオは勉強も得意だと聞いていたので少し驚きだ。自分で頑張れと意地悪なことを言う気もなかったので、放課後、セオは勉強に付き合うことにした。

「七王国の辺りからわけがわからないんだ。」
「あれは地図と年表を照らし合わせれば大体流れがわかるよ。」
「地図が面倒だな。」
「面倒くさがらずに見てください。」

 ディオはふんと鼻を鳴らして机に向かった。やればできる子で面倒くさがって歴史に手をつけないだけなので、真面目に向き合えばセオが教えることもなく勉強会は終わりそうだ。

 学年末試験が近い。この試験を突破しなければ留年になってしまう。セオ達が通う学校は中高一貫校、所謂ギムナジウム。街中でわりとレベルの高い学校なので、試験の内容はそこそこ難しい。

「セオに苦手な教科はないのか?」
「うーん、理系は苦手。」
「分からない問題があるならこのディオに訊くといい。」
「・・・ありがとう。」

 なんだか偉そうな態度が面白くて、セオはちょっと笑った。この自信家なところがきっと、同じ屋根の下で暮らすジョナサンとの軋轢につながったのではないかとセオは思う。真っ直ぐ素直なジョナサンが、もしかしたらディオと合わなかったのかもしれない。
 

「何を笑っているんだ。」
「・・・ディオくんが面白くて。」
「ぼくに面白いところなんてないぞ。」

 出会った頃のように、普通に接してくれるのが嬉しかったのだ。今まで見せてくれなかった得意げな態度が新鮮だ。今までセオには猫を被ったような態度だったのが、いつもの顔を見せてくれたようだった。
 まだ少しだけにやっとしているセオの顔を、ディオはジッと見つめた。必要以上に見られている事に気付いて、セオはどうしたのと問うた。ディオは返事をせずにセオにずいと顔をよせ、鼻と鼻がふれあいそうなくらいまで近づいた。彼女の瞳に自分が映るのが見える。セオの頬はほのかに赤く染まった。

「あ、あの。」

 上体をのけぞらせてディオから離れるセオ。

「ぼくを意識したかい?」
「意識?」
「今ドキッとしただろう?」

 不覚にもその通り。今のような至近距離で男の人に見つめられた事が無かったものだから意識してしまった。心臓がばくばくとうるさい。なんだか急に、目の前にいるディオが別の人に見えてしまった気がする。本当に別の人、というわけではなく、印象がまた変わった、というか。
 ディオは思った通りにセオが自分を意識してくれたので満足そうだった。いつもの大人しい顔でも、激昂した鬼の形相でもない、きょとんとしたちょっと女の子らしい表情。からかうために顔を近づけたのだが、不覚にも可愛いななんて思ってしまった。

「これで恋愛対象に入れてもらえたか?」
「恋愛対象・・・恋愛なんて考えたことなかったからなぁ・・・。」
「女の子はそういう小説を読んで憧れるものだと思っていたが。」
「そういう子は多いんだろうね。ディオくんは?好きな人とかいないの。」
「さあ、どうだろうね?しいていうならば君の事が気になっている。」
「・・・勉強しよう。」

 じっと見詰められただけで恋愛感情をもつなど単純すぎる、と思ったが、実際にセオ自身が今までと違う感覚を持つことにつながったのは確かだ。それをディオに悟られないようにと話題を変えたのだが、むしろ逆効果だ。そんな初心な態度がディオには面白かった。






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