■ 05

「お父さんいますか〜。」

 ボーダー本部、メディア対策室、である。瑠良は控えめに入室すると、父親・良太のデスクを見た。デスクの主はまだ残っていて、真剣にパソコンを見つめていた。

「お父さん!」

 他の残っている人のことは気にせず叫ぶ。既に瑠良はこの部署の人々によく知られているから、今になって気にする必要はない。良太は瑠良の声に気づくと、パッと立ち上がって両腕を広げた。

「腕はどうしたんだ?……ああ、トリオン体か!」

 瑠良はぴょんと腕の中に飛び込んだ。大学生にもなって子供っぽいと思われていることだろう。しかし家族が減った寂しさからか、最近の瑠良は良太に甘えることを家の外でも躊躇しないし、良太もそれを受け入れている。

「そういうこと。一緒に帰ろうと思ったんだけど、まだ終わらない?」
「いいや、もういい。俺も帰るぞ。」

 良太もこうやって甘えられるのが嬉しいらしく、今となっては一人娘の瑠良に甘い。

「線引さーん取材終わりましたー。」
「おっ、お疲れ。賢、充。」

 そんな時、奥の談話室から出てきたのはよく知る2人だった。佐鳥賢と時枝充の嵐山隊コンビである。
 新聞か雑誌か、なにかの取材を受けていたらしい。同じ部屋から出てきた記者は、室長の根付に挨拶をして去っていった。

「あっ瑠良さんだ!」
「こんばんは賢君、充君。」
「こんばんは、瑠良さん。」
「討伐作業に取材に、忙しいね。」

 今日のラッド討伐作業中に嵐山隊も見かけた、その作業後すぐに取材を受ける彼らは忙しい。

「いえいえ〜もう慣れましたし。ボクは平気です。」

 目の横にキラッとした星を出す佐鳥。時枝も同意なのか、浅く頷いている。

「おれたちは先に失礼します。佐鳥行くぞ。」
「えー瑠良さんとお喋りしたい。」
「嵐山さんが呼んでただろ。」
「ちぇ。」

 佐鳥は名残惜しそうに悲しい顔をしながら、時枝に引っ張られていった。女の子が大好きだという彼は、瑠良には姉に甘えるように慕ってくる。同じ隊の綾辻や木虎よりも歳上である瑠良は甘えやすいのだろうか。

「またご飯食べに来てね。」
「はあい!今夜にでも行きます!」
「佐鳥!」
「俺はいいぞ。」
「いやったー!」

 良太はいつでも遊びに来い、と笑った。すると佐鳥は大喜び、時枝もわずかに口角をあげて嬉しそうに微笑んだ。
 自分の父親は誰にでも好かれるからな、と、瑠良は心の中で自慢に思う。彼はたくさんの人に慕われている。誰にでも優しく、誰にでも手を差し伸べる。相談役になるのが得意で、いろいろな人に頼られる。人間の鑑だ、と瑠良は尊敬している。
 良太は元々テレビ局で働いていた。3年前までは昼夜問わず仕事に明け暮れ、家をないがしろにする人だった。しかし仕事で身体を壊し、転職を考え出した頃、ボーダーの広報室で求人が出た。良いチャンスだった。今までの仕事が存分に活かされるだろう、と応募したのがきっかけで、良太は見事に転職に成功し、メディア対策室に就職した。そして、父の転職を機に由良がボーダーに入隊し、その後瑠良も入隊した。
 テレビ局時代中々家に帰ってこない父親を、由良も瑠良もどこか他人のように感じていたが、ボーダーで働き始めて夕方に家に帰ってくるようになってからは、良い父親だと再認識した。一緒にいる時間が増え、彼が優しい人だと気づいたのだ。

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