■ 13

 瑠良に弟子はいないが、C級隊員たちは瑠良をよく慕っていた。本部をうろうろしている瑠良は、迅と同様S級だというのに遠い存在ではなく、声がかけやすいのだと思う。知らない子でも、稽古をつけてください、と頼まれれば、瑠良は時間が許す限り稽古に付き合った。
 瑠良は成り上りのS級だ。迅のように元々ランク戦上位の実力者だったわけではないし、天羽のような凄まじい能力があるわけでもない。線引由良は線引瑠良だけを使用者に選んだ、それだけだ。

「よお、"成り上り"。またお仲間と戦闘ごっこか?」

 だからこうして、瑠良を馬鹿にする人はわずかだが居る。
 背後から男の声。瑠良はムカつく呼び声に反応して振り返った。知らない男がニヤニヤ笑って、馬鹿にした目をしてこちらを見ている。

「は?」

 瑠良は自分の口が汚いのを自覚した。
 B級下位でグズグズしている奴らの中には、元々自分たちと同じくB級下位だった瑠良を"成り上り"と呼んでいる者がいる。このように声をかけられたのも今日が初めてじゃない。ただ毎回、誰だか名前など分からないし、覚える気もしないのだが。
 "飛び級"をした瑠良を羨んでるだけなのだ、結局は。だから瑠良はこんな奴らにいちいち傷ついてられない。声をかけてくれたC級の女の子は、気まずそうに瑠良と男を見ていた。

「はーさすがS級様は違いますね、その態度。」

 S級はランキングから外れている。だからといって決して誰よりも偉いというわけではない、というのは、理解のある人ならちゃんと分かっている筈なのだが。この男は理解がないので分かっていないのだろう。

「なに、稽古つけてほしいの?」
「そうっすねえ、ひとつお願いできますかね?」

 大方「S級だから偉いけど、中身はどうせB級だ」とでも思っているのだろう。
 C級の女の子に「ちょっと待ってね」とだけ言って、瑠良は上着のポケットからノーマルトリガーを取り出した。一旦、由良のトリオン体をしまい、改めてノーマルトリガーのトリオン体になる。

「何本勝負だ成り上り?」
「好きなくらいやっていいよ。」

 じゃあ10本やるか、と、男は10本勝負に設定する。
 瑠良を"成り上り"と呼ぶ奴は、決まって嵐山隊や太刀川隊あたりが留守にしている時に湧いてくる。名前を挙げた面々は瑠良と由良と親交が深いため、彼女を馬鹿にすれば黙っていないと思っているらしい。あいにく本日はそのあたりがこぞって留守、仕方ない、こうもなるだろう。



 さて、早速試合に入る。飛ばされた仮想空間は市街地Aの、狭い路地が多い入り組んだ辺り。しかし敵が目の前に転送されたので勝負が始まるのは速かった。
 瑠良は孤月を発動させ、利き手に構えた。相手はガンナーだったらしく、両手にハンドガンを構えている。西部劇の保安官のようなポージングは、格好だけなら弓場隊長を思い浮かべさせる。
 片手にシールドを構えてて防御しながら、瑠良は一気に間合いを詰めた。容赦なく飛んでくる弾丸など気にせず、グラスホッパーを駆使して男の首まで近づくと、戸惑うことなくその首をはねてやった。


 結論を言うと、10戦10勝を果たしたのは線引瑠良の方であった。彼女は"成り上り"とはいえども、入隊式の日に訓練用の大型近界民を8秒で倒した実力者。もともと力はあったのだ。最後はB級であったが、あのままノーマルトリガーを使っていても上位にいることができただろう。それを知らずに突然S級になった成り上りだと言う奴らは、もっと瑠良のことを下調べしてから食ってかかった方がよい。

「いつまでもB級下位のままだと思わないでくれる?」

 瑠良はそれだけ言うと、試合を最後まで見ていてくれた女の子を連れて、他のトレーニングルームに向かった。背後で男の罵声が聞こえるが気にしない、負け犬の遠吠えだ。
 ああ、こうやって返り討ちにするだけでぎゃんぎゃん噛みつかない自分はかっこいいぞ。瑠良はそう思って鼻をフンと鳴らした。

 馬鹿にされるのは誰だって嫌だ、それに経歴が経歴であるために瑠良は他人からの戦闘能力の評価に人一倍敏感である。
 今ではボーダー所属の女子の中で1番も強いメンバーのうちの1人だろうと自負している。迅に言われて稽古をした玉狛の小南にも、ノーマルトリガーで引き分けになることだってある。男の人を交えたらまだまだ上はたくさんいるのだが、瑠良は自分を非力な女だと思いたくない。

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