■ 12

 ドキ。
 C級のランク戦を見学しにロビーへ足を踏み込んだ瞬間、広い室内のたくさんの人の中から、1人の男の人が目にとまってしまった。瑠良が見つけたのは嵐山だ、まさか彼もいるとは。考えればいても当然なのだが、まさか会うとは思わなかったものだから。
 嵐山はロビーの上、ギャラリーの隅で、手すりに寄っかかって、大きなモニターを眺めている。気になる隊員がいるのだろうか。
 やはり彼のオーラは人の目を惹きつけるものがあるようで、嵐山はギャラリーの隅にいても、他の人の目線を奪ってしまっているようだ。そんな彼のところに飛び込むのは勇気がいるが、大好きな嵐山、ここで身を引いては女がすたる。瑠良はええいと思い切って、ギャラリーへ上がる階段に足をかけた。

「嵐山君!」
「線引?」

 そして声をかける。呼ばれた方に目を向ける嵐山。彼はすぐに自分を呼ぶ瑠良に気づき、ぱっと明るい笑顔を見せた。ああ、その笑顔にあてられる、瑠良は疲れが吹っ飛ぶようだ。

「観戦ですか?」
「うん。気になる新人君がいてね。」

 満面の笑みを柔らかい微笑みに変えてモニターへ目線を戻す嵐山。瑠良は彼の隣に、緊張しながら、30センチほどの隙間を開けて並んだ。手すりに乗せる両腕が緊張でうまく動かなかった。
 一緒になってモニターを見る。そこに写っているのは――空閑遊真だ。あとは知らない人の名前。大きなモニターには、市街地で戦っている空閑ともう1人男の人の姿が映っていた。

「空閑君ですか?」
「ああ。」

 1発で相手を仕留めて、次の試合に移って、また1発で仕留めて、の繰り返し。黙って見ていたわずかな間で――まだ5分も経っていないはずだが、空閑はその間に3勝している。化物じみた強さだ、あれが近界民というものなのか。

「空閑君、とても強いんですね。動きが実践慣れしていますし、もうこっちの武器に慣れてるみたいですし。」
「迅が一目置くのもわかるな。」

 話をしているうちに、空閑はあっというまに10連勝した。相手の男の人は大量にとられたポイントに嘆きながら、仲間たちに慰められている。しかし空閑はまだ物足りなさそうにブースへ戻っていく。

「はやくB級に上がりたいんだろうな。」
「三雲君たちとチームを組むんですよね。千佳ちゃんと一緒に。」
「雨取の話、きいたか?アイビスで壁に穴を開けたんだ。」
「え!?」
「あの子はとんでもないトリオン量だよ。」
「へー!」
「賢が彼女の代わりに鬼怒田さんに怒られてた。」
「ふふ、賢君大変でしたね。」

 モニターで空閑の対戦を見ながら会話が弾む。向かい合っているわけではないので、緊張はいつもより少なくて済んでいる。のだが、話の途中で嵐山が静かになった。どうしたのだろうと思って瑠良は彼の方を見る。ばちり、と、視線が合ってしまった。嵐山は黙って瑠良の方を見つめていたのだ。

「ど、どうしたんですか。」

 ぎょっとして顔が真っ赤になってしまう、抑えることはできなかった。

「やっぱり敬語だなって。」
「敬語、ですか?」
「同い年なのになって。迅もだけど。」
「だって、実力的にはずっと先輩ですから。」
「ボーダーの外では関係無いのになぁ。」
「そうですけど……もうこれで慣れちゃったので、ゆるしてください。」

 瑠良は申し訳なさそうに苦笑い。迅は師匠なのでどうしたって敬語が取れないにしても、嵐山なら頑張ればできるかもしれない、と、瑠良は思う。そうすれば今よりもさらに仲良くできそうなのになぁ、とも思うのだが。どうしても踏み出せない、恋心と尊敬が入り混じって、近寄りがたいと感じてしまうのだ。

「せめて名前で呼んでくれないか?賢たちには名前で呼んでるのに、俺だけ『嵐山君』は寂しいぞ。」

 嵐山はいじわるっぽく笑う。准君――瑠良は頭の中で反芻して、そして頭を振った。自分にはハードルが高い。というか、准君なんて呼んでいる人を見たことがない気がする。

「名前でですか!?」
「准、簡単だろ?」

 真っ赤になりすぎて、これはもう色々とバレてしまっているのではないか?その期待に満ちた目をやめてくれ、と、瑠良は顔の前で両手を振って視線を振り切ろうとする。もちろん無理だった。

「……准君……。」
「言えたじゃないか!」

 嵐山は今日一番の笑顔を見せてくれた。子どもに「よくできました」とでも言うように。そんなに嬉しそうにされると、逆に困る。

「敬語が外れる日も近いな。」
「そ、それはちょっと!徐々に慣れていくんで許してください……。」

 胸の高鳴りが止まらない。顔が熱い、多分真っ赤だろう。瑠良を見て、そんなに照れることか?と、嵐山が言う。こういうことに関して、彼は鈍感なのだろうか。

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