■ 11

 講義を終えた瑠良は、今日は非番ではあるがボーダー本部にやってきていた。昨日の防衛任務の報告書を提出しなければならないのだ。昨日は夜遅くまで任務が伸びてしまったので、提出期限を今日まで伸ばしてもらっていた。
 大学で書き終えていた報告書を、本部長は留守だったので直接机の上に置いておく。この旨を沢村に伝えて、瑠良は帰宅を急ぐ。と、部屋を出たところで、男3人の集団に出くわした。

「お、瑠良さーん。」
「犬飼君。……二宮さん、辻君、お疲れ様です。」
「ご苦労。」
「……です。」

 男3人、二宮隊である。犬飼がいつもの笑顔でふらっと近づいてきた。二宮も挨拶ついでに近づいてくれるが、辻はいつも通り、瑠良に気付いたところで立ち止まった。

「瑠良さん久しぶりです、時間あります?模擬戦しません?」

 一番社交性のある犬飼が、遊んで欲しいペットのようにわいわいと騒ぐ。

「家事やらないといけないから、1本だけならいいよ。」
「よっしゃ!お願いしまーす!」
「待て。」

 じゃあ行こうか、と、瑠良が言おうとするのを遮って、二宮が制止の声をあげた。

「二宮さん?」

 今までまともに話すどころか、挨拶すらあまりしない相手なので(道ですれ違うことがないので)、瑠良は思わず声を上げた。

「お前の戦い方に興味がある。犬飼、お前はまた別の日にやれ。」
「えー……はーい。」

 犬飼はつまらそうに返事をして、後ろで待っている辻の元へ下がった。瑠良はひたすら困惑だ。あの恐い二宮さんと、だなんて、恐れ多いというか恐ろしい。

「え、え!」

 瑠良は、少々高圧的な態度と言葉遣いをする二宮のことが苦手であった。彼女にとって幸いなことに、今まで一緒に任務を組むことはなかったのだが、ここに来ていきなり模擬戦になるとは。せめてもっとなにか、段階を踏んでから――。
 ――相手のことを知るには戦うのが一番、と、以前太刀川が言っていたのを思い出す。戦闘狂のきらいがある太刀川だからそんなことを言えたのだろうが、瑠良にはその気はない。が、断る理由はない。1本だけなら良いと今言ってしまったところなので。

「で、では1本……お願いします。」
「ああ。」

 萎縮したままブースに入る。
 ランダムで選ばれたのは、市街地Cで雨降りマップだった。ただでさえ狭く入り組んだマップが、雨のせいで余計に面倒なものになった。
 レーダーに映る二宮は、同じくレーダーに映る瑠良を真っ直ぐに目指してきた。すぐ接近戦に移す気なのだろう。頭上からメテオラが降ってきた、瑠良はバッグワームとシールドをまとって、背中を守りながら二宮から離れる。メテオラが着弾したところで、瑠良はシールドをカメレオンに切り替えた。
 二宮の背後へ駆け込み、カメレオンを外して弧月で闇討ち。しかし二宮は即座に気づき、太刀筋を避けた。アステロイドが放たれる。瑠良はバッグワームからシールドへ、前面だけの厚い装甲にしてなんとか全弾防ぐ。しかし爆風の向こうにはギムレットを練っている二宮の姿。あれはシールド2枚でも防ぎ切れない。
 瑠良はシールドを1枚、頭から腰を守るサイズで厚く出し、グラスホッパーで二宮の背後へ走った。ギムレットが瑠良に命中する。右足がちぎられた、ついでに腕も破損した。瑠良はシールドを消し弧月へ切り替える。両手で弧月を持ち、バットを扱うようにして二宮めがけて振りかぶった。二宮のシールドが間に合う。しかも片手はアステロイドを発動させている。しかし瑠良は避けない。トリオンを消費してより鋭利で硬くされている瑠良の弧月は、二宮のシールドをぶった切り裂き、そして二宮の胸から腰にかけてを深く切り刻んだ。

「ぐ……!」

 二宮のうめき声。

「う!」

 同時に瑠良も声を上げる。シールドを避けて胸へめがけたアステロイドが、腹に命中したのだ。トリオンが漏れる、相討ちか。しかし先にベイルアウトしたのは二宮の方で、ギリギリの勝利を収めたのは瑠良の方であった。

 ブースに戻ると、直ぐに二宮と犬飼、辻がやってきた。

「二宮さん、ありがとうございました。」

 勝負前の緊張感は薄まり、瑠良は素直に礼を述べることができた。二宮は顔色を変えないで立っていて、清々しいのか悔しいのか、何も伝わってこない。ポーカーフェイスとはこういうことを言うのだろう。

「……今回は負けたが次は勝つ。また頼む。」
「精進します。」

 二宮は軽く挨拶をして去っていった。辻もそのあとに続くが、犬飼は残ってこっそり瑠良に耳打ちをする。

「まさかウチの隊長に勝つとは思いませんでしたよ。二宮さんすごい悔しそうでした。」
「あはは……わたしも驚いてるよ……。まぐれだって思われないように次も頑張らないと。」
「次は俺ともやりましょうね!」
「もちろん。」

 犬飼はばいばいと手を振ると、小さくなった二宮達の背中を追いかけて去っていった。
 独り残った瑠良は、自分の手をぐーぱーと握り、今の勝利をかみしめた。ほぼ相討ちといえども、あの二宮にトドメを刺せたこと、そして勝てたことがとても嬉しい。自分の成長が、黒トリガーを使わずとも実感できた。

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