■ 10

 1月8日。
 今日はボーダーの入隊式、である。

「線引さん!」
「三雲君、こんにちは。」

 入隊式と言っても、瑠良は特にやることがない。しかし三雲の知り合いと空閑が入隊すると聞いては黙っていられない。彼らの勇姿を観ておかなければ。
 と、いうことでやってきたのは入隊式会場。空閑の白髪が目立つものだから、彼らのことはすぐに見つけられた。空閑と、三雲、そして三雲の後ろには小さな女の子。白い隊服に身を包んだ彼女が「三雲の知り合い」だろうか。

「お、せんびきさん。」
「空閑君もこんにちは。そっちの子は?」

 瑠良は女の子の方に話を振る。女の子は少々戸惑いながらも、ゆっくりと会釈をしてくれた。

「雨取千佳です、よろしくお願いします。」

 彼女はそう名乗って、また丁寧に頭を下げた。瑠良もつられて頭を下げた。

「千佳ちゃん、ね。わたしは線引瑠良です、よろしくね。」
「瑠良さん。」

 おっとりした表情と優しい声。その姿は戦いには不向きなように感じるのだが、ボーダーに入ろうと思った何かがあったのだろうか。初対面なので詮索できないがちょっと気になってしまう。

「空閑君、千佳ちゃん、入隊おめでとう。3人とも玉狛かな。わたしは本部にいるけど、迅さんはじめ玉狛の人たちにはお世話になってるから、たくさん会えるかもね。」
「今度おれと手合わせしよう。」
「いいねーやってみよう。」
「よ、よろしくおねがいします。」
「よろしくね千佳ちゃん、本部で分からないことがあったら聞いてね。」
「はいっ。」

 そうして話しているうちに入隊式が始まる。拡声器に音が入ったのを聞いて、空閑たちはステージの近くへと寄って行った。瑠良はそそくさとその場を離れ、ギャラリーに登ってフロアの様子を見おろす。新人への指導はいつもの通り嵐山隊が行うようだ。新人たちの前で挨拶をしている嵐山を見て、瑠良はラッキーと思い口元を緩ませる。

「よぉー瑠良。」
「お、瑠良さん。」
「あ、諏訪さん、堤さん。」

 独りニヤニヤしていたところに声をかけてきたのは、諏訪隊の二人――諏訪と堤だ。瑠良は慌てて口元を引き締め、背筋もピンと伸ばす。どうやら諏訪たちも新入隊員の偵察にきているようだ。

「新人チェックですか?」
「うん、今期は面白そうな新人がいるといいね。」
「最近パッとしねぇからな。緑川みたいなやついねーかな。」
「あれくらいの子はなかなかいないですよー。」

 と、言いつつも、瑠良は空閑に期待をしている。近界民の彼がどんな動きをしてくれるか楽しみだ。瑠良はそのまま、諏訪と堤と一緒に仮想訓練室のモニタールームに移動する。モニターには訓練室に入っている新人たちが一人ずつ写っていて、瑠良たちの他にも隊員が何十名も訓練室の様子を眺めていた。
 これから始まるのは、制限時間5分の中で仮想の大型トリオン兵を倒す訓練だ。速く倒せば倒すほど、もらえるポイントが多くなる。

「瑠良、何秒だった?」
「8秒でした。」
「んな速かったのか!?お前S級なってなけりゃチーム組んでエース張れたんじゃねえのか。」
「そうですかね!諏訪さんに褒められると嬉しいですー。」
「すごいな瑠良さん。」
「堤さんもありがとうございます!」

 モニターに表示される新人たちは少々鈍い動きが目立つ。3,4分が平均だろうか。たまに1分30秒を切る人がいて歓声が上がっているくらいだ。堤は光るものを見つけたいというように真面目に見ているが、諏訪はすでに飽きているようだ。火のつけられていないタバコがひょこひょこと、諏訪の歯に噛まれて上下に揺れてる。

「今期の新人もパッとしねーな。今の1分切ったやつがトップだろ?」
「いやー、一時期の新人が凄すぎただけでしょ。黒江が11秒、木虎が9秒、緑川なんか4秒ですよ?そいつらと比べるのはさすがにかわいそうだ。」
「初めてやって2分かからなければ十分いい方だと思いますよ。」

 と、いう話をしている間に、空閑が訓練室に現れた。彼は肩をくるくるとまわし、よーしやるぞとでも言っているように見えた。始め!と号令がかかる。同時に空閑は動いた。大ジャンプ、ベリーロールよろしく回転して飛び込むとスコーピオンがうなった。
 一瞬だった。気付いた時には、目玉と装甲に一本の亀裂が入っていて、トリオン兵は倒れていた。

「れ、0.6秒……!!?」

 アナウンスが信じられないように読み上げた。会場がしんと静まり返った。見学者たちも、堤と諏訪もぽかんとしている。瑠良も同じく声が出なかった。
 先ほど1分を切った新人が空閑に詰め寄っている。計測器の故障だろうと言っていた。これほどの記録を出されては、そうじゃないとも言い切れない気がしてくる。しかしあの動きは確かに0.6秒の動きだった。空閑は躊躇いなくもう一度やると言った。再び開始。またもや一瞬だった、空閑はさっきと同じように強く地面を蹴り上げ、そのままトリオン兵に突撃、見えたのは一本の太刀筋。

「0.4秒!ちぢんでんぞ!?」
「なんなんだこの新人!」
「この子、玉狛からの新人ですよ、空閑遊真君。」
「もしかして近……あれか!?」
「そうですそうです。」

 諏訪と堤はまじまじと空閑を見た。空閑はこんなの当たり前だとでも言うように、平然と立っていた。周りの新人たちは彼のことを興味深そうに見ている。まんざらでもなさそうに、いやぁ、という空閑はなかなか得意げだった。

「随分戦闘慣れしてるな、ありゃあ。」
「でも1000ポイントから始まってるみたいですね。」
「空閑君には仮入隊の時期がありませんでしたから。」
「華々しくスタートか、こりゃ噂になるぜ。」

 こうやって注目を集められたのには、迅が喜びそうだ。スタートは好調、空閑が実践でどんな動きを見せるのか、瑠良も大変楽しみである。

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