Fate | ナノ



 今日も天気が良くて幸せだな、と、父が天窓を開けながら叫んだ。冬がすぐそこに迫った、天の高い日の朝だった。


 ここはイギリス。ご近所さんはみんな牧場という田舎、である。

「お父様、天気予報が始まりました。」
「ああ!」

 わたしの父……ヴァントーズは、まるで楽しみにしていたアニメが始まる子どもの様に、嬉々としてテーブルについてテレビを観始めた。彼は目はテレビに釘付けになったまま、フォークを取って器用にベーコンを口に運ぶ。

『――昨夜未明に観測された雨雲は、このままイギリス南部を通過するでしょう。大雨と雷を伴うことが予想されますので、お出かけの際はお気をつけて。』
「ああっ!10日前に創った雨雲が観測された!良かった!しっかり本土に流れ着いたぞ!わざわざアメリカに行った甲斐があったものだ!」

 ヴァントーズはフォークを握りしめた手でガッツポーズ。母が台所で「静かしてください!!」と叫んだ。

 わたし、セオ・フェレの父親ヴァントーズ・フェレは魔術師である。彼はわたしで10代目になる由緒正しきフェレ家の現主で、天候を操る研究に没頭しているお天気馬鹿だ。我々フェレ家は、遠い遠いご先祖様が雷に打たれて魔術に目覚めたなんて言われている。冗談だと笑い飛ばしたいが、冗談とも真実とも証明してくれる人がいないので、わたしも一応信じてはいる。

「……いや、まだ安心はできないな。雨雲がここを通過して、そのあとロンドンに届くかどうかが問題だ。あと、大陸まで行くかと、どこまで行くかと……。もしや大陸を超えてジャパンにたどり着くかもしれないな!?」
「大陸の高い山に阻まれるでしょうね。あと上空の風の流れと。」
「むむむ……。娘よ、夢のないことを言うんじゃない。」
「いつもはきちんと理論立てて話しなさいって言うくせに。」
「お天気に関しては別だ。」
「わたしたちは天気に対して1番理性的にならないといけないって言ってたくせに。」
「ぐぬぬ!!」

 フェレ家に生まれたものはほとんど、風の属性に長ける魔術回路を持つ。父は表で天気予報士の仕事をしながら、風を操る自分の魔術研究をイギリスの天気いじりに使う困ったおじさんだ。

 娘に酷い言われようの父は、ムッと口角を避けてテレビに向き直る。天気予報士が言うには、今日も寒くなるようだ。

「ジャパンと言えばな、聖杯戦争が始まるらしい。」
「……え?聖杯戦争ってあの?」
「ああ、あのだ。日本の冬木市という場所で行われるらしい。」
「へえ!面白そうですね……。お父様は参加なさらないんですか?」
「休みが取れるようなら、観に行ってくるといい。きっと勉強になる。……まあ、僕たちみたいなはぐれ魔術師には参加のお誘いなんて来ないな。そもそも、参加者を募集するようなものでもないだろうし。」
「残念です。」
「参加しても勝ち残れるなんて思わないしね。」

 聖杯戦争。お爺様から聞いたことがある。今までに何度か行われてきた、何でも願いを叶える聖杯を巡ったサーヴァントバトル……と。参加してみたいなぁなんて少し思ったが、わたしみたいなちっぽけな魔力の器じゃすぐヘタって倒れるのが関の山だと分かっているから、まず無理だとシャットアウトするのが早かった。

「サーヴァントが7体揃ったら開始、らしいが、まあ1ヶ月以内には揃って戦争も終結するんじゃないか?」
「なるほど。……今日出勤したらシフトをみてみます。出来そうなら日本観光に。お父様も行きますか?」
「僕はそれよりもここの天気予報が気になるんだ。イギリスを離れるわけにはいかない。」
「そうでした。」

 聖杯、日本、サーヴァント。
 サーヴァントという存在はとても気になる。大昔の英雄たちが生き返って……まあ、簡単に言えば、生き返って、戦うというのはワクワクする。それに力のある魔術師が集まるイベントだ、何か勉強になることがたくさんあるかもしれない。
 わたしはちょっと明るい気持ちで朝食に戻った。





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