■ 不寝番

拍子木


 この本丸では誰かが死ぬと必ず葬儀を出す。
 別段葬儀など義務ではないのだ。当然政府も関知していない。するもしないも審神者の裁量であり、ここの審神者は律儀に毎度喪に服していたというだけのことだった。
 人死が出た時のしきたりの有り様といえば、国じゅう千差万別というものだが、この本丸のそれは、審神者の生まれ故郷、巍巍たる山々に抱かれた谷あいのちいさな集落で、史家の辿れぬほどの古くから細々と受け継がれてきた風習に則って執り行われている。すなわち、没した日の晩からひとりふたりの寝ずの番を立て、それを葬儀の支度が整うまで続け、葬儀の前夜は人数を増やして夜通し酒を酌み交わし、翌日はその座に参加した者たちによって棺が担がれる。その集落でも近年は麓の町の葬儀屋で通夜と葬儀の二日間で済ませる家が少しずつ増えてきたが、依然として昔ながらの弔いをする人々も残るという。
 どれだけ長く生きても故俗は知り尽くし得ぬというものだ。
 にっかり青江はここへ顕現してから初めて知った風習を内心興味深く思いながら酒を盃に注ぎ、しかし飲みすぎて眠気を催さぬように気をつけねばと心した。刀の身であった頃には思いも寄らなかったことだが、ひとたび受肉すると、見た目にふさわしく人間らしい空腹や睡魔に取り憑かれるのだ。壁の高い位置に掛けられた振り子時計を見上げ、寝てはならぬひと晩がまだ半分以上残っていることを青江は知った。
 濡れ縁へ続く腰高障子がカラリと開き、台所に追加の酒を取りに行っていた御手杵が戻ってきた。
「何か薄ら寒くねえか」
 首を竦めてみせたところで巨躯はさほどちいさく見えない。
「真夏だよ」
 干菓子を口に放り込みながら、加州清光が怪訝な顔をした。それから少し視線をずらして時計を読んだ。
「あ、日付変わった」
 すると腕組みの姿勢のまま黙りこくっていた小狐丸が、その言葉につられて顔を上げた。加州の言った通り、古い時計の針が午前零時を少し過ぎた頃を指している。
 障子が開いて空気の流れが変わったせいか、祭壇の周りにみっしりと飾られた大量の花が放つ芳香が、にわかに濃くなった。一般に供花は匂いの淡いものをとされているのに、むっとする濃厚な香りに一瞬喉を塞がれるような感覚をおぼえ、小狐丸は覚えず眉根を寄せて口もとを袖で覆った。
「いくら花が好きだったからって随分たくさん飾ったものね」
 審神者が苦笑する。小狐丸は苦しげな顔をしたまま隣の和泉守兼定に声をかけた。
「こんな匂いのなかで、よくもそうパクパクと食べられたものだな」
 燭台切光忠と歌仙兼定が半日がかりで用意したという通夜振る舞いは、羹から筑前煮、野菜の天麩羅等などの大皿が多数、と豪勢なものだが、加えて珍しいことに生臭は避けない習わしであるというからには、握りを詰めた寿司桶までが並んでいる。
 寿司を次から次へと口に運んでいた和泉守が、寿司桶を引き寄せて「お前も食うか」と示すと、小狐丸は
「いや、もうたくさん」
と軽く掌を翳して断った。花の香りと食べ物の匂いが混ざって心底不快という顔だ。
 その向かいで陸奥守吉行と鶯丸が話している。
「三日月はどこへ行ったんだ」
「厠ろう」
「杯を重ねてお呼びがかかったかな。歳も歳だし」
「実は小心者……ちゅうことはないがか」
「関係あるのか」
「しょっちゅう厠に立つ奴は、肝っ玉がこんまい奴て言わんがか」
「どうだろう。わかるような気もするが」
「わしは遠い」
「腑を損ねるぞ」
 何とはなしに遣り取りを聞いていた円座に、さざ波のような笑いが起こった。
 虫の音がうるさい。鈴虫でも蟋蟀でもない、得体の知れない虫の音だ。実際に草叢を掻き分けて探ればその正体も知れようが、ただ漠然と季節と結びつけられながら聞き流される、そういう虫である。
 たぶんこの世を去るまであの虫の名を知ることはないだろうな、と青江は思った。
 さり気なく生活に入り込んでいるものであればあるほど、実は正確な定義を知らずに過ごしてしまう。きっとこうして正体を知らぬまま死ぬ物がたくさんあるのだろう。青江は軽く伏せた目を棺へ遣った。棺のなかの者も、あの虫の名は知らず終いに違いない。
 ちょうどその時背後の襖が開き、廊下から戻ってきた三日月宗近が青江の隣に腰を下ろした。彼の手もとに目を留めた青江は、「袖口が濡れているよ」と指摘した。
「ひょっとして泣いたのかな」
「まさか。手水で少し濡らしてしまった」
 青江が唇の端を軽く持ち上げた。
「涙は無しという決まりだけど、少しくらい泣いたっていいんだよ。そのほうが可愛げがある」
「泣くものかね。こうして世に在る以上、いずれは来る日なのだからな」
 三日月は涼しげな顔で盃をとった。
「ま、涙ってのは不経済なもんだよな」
 和泉守の言葉に、鶯丸が不思議そうな顔をする。
「何故」
「泣くと腹が減るだろ」
 和泉守はまたひとつ寿司を口へ放り込んだ。彼の胃袋は無尽蔵だ。他愛ない真意に鶯丸はつまらなそうな顔をつくった。
「ほんとうによく食うな、お前は」
 三日月の声には呆れがにじんでいる。
「昔聞いた話だけどよ。葬式に白米を出さない土地もあるんだってさ。通夜に銀舎利。出されたもんはありがた〜く頂くのが巡り巡って世のため人のためってやつさ。死んだモンだって、自分のせいで皆が腹空かしてちゃあ気になって成仏もできないってもんよ」
「弔事だっつの」
 加州に窘められた和泉守が軽く首を竦める。それがまるでいつも通りの光景であったので、審神者は覚えず肩を揺らして小声で笑った。それに呼応するように祭壇の蝋燭の一本が大きく揺らぎ、それから薄い色の煙をスウ、と立ち上らせながら掻き消えた。
 一本消えただけで随分と暗くなるものだ。青江は陸奥守がぎょっとした表情をつくるのを視界の端にとらえた。いちばん近くにいた御手杵が立ち上がり、別の蝋燭から炎を移すと、再び朱みがかった灯りが棺を浮かび上がらせた。
「月が出ていれば障子を抜けて明かりが入るのだがな」
 三日月が呟いた。
 新月の夜の闇はどこまでも濃い。
「一寸先は闇、っちゅうんは、こがな夜のこと言うんかの」
 和泉守が小さく鼻で笑った。
 何じゃ。
 別に。
 短い遣り取りのあと、また皆無言になった。
「どうする? 昔語りでもする?」
 沈黙を破ったのは審神者の声だった。どうも気が進まないのか、誰もこたえない。誰かが咳払いをした。
 少しの間ののち、盃を置いた鶯丸が軽くかぶりを振ってため息まじりに言った。
「通夜とはいえ、辛気臭いのはいやだな」
 小狐丸が首肯する。
「今日はいつもよりも空気が重いようじゃ。いつもこのようであったか」
「それは言えとる。どうも薄暗くてかなわんぜよ」
「加えてこの花の匂い。堪りかねる。いったい何を使っておるのか」
 豊かな毛を震わせて小狐丸が吐き捨てる。その語気が意外なほどに荒々しかったので、全員が顔を上げた。両の袖で顔の下半分を覆う小狐丸は、整った眉を釣り上げ、嫌悪感の籠もった目もとで祭壇を睨みつけている。
「ぬしさまのお選びになられた花を悪しざまに申し上げて恐縮じゃが……これではかなわぬ!」
 審神者はかえって恐縮した表情を浮かべ、その場に座ったまま祭壇の花を指で数えた。
「そんなにきつく匂うかしら。菊、竜胆、鶏頭……」
 三日月が不思議そうに、
「さほど匂いの強い花はないようだが。俺はまったくわからぬな。小狐め、急に獣らしく鼻が利くようになったのか」
「俺も別に平気だなぁ。なあ、ずっと顔色悪いし、体調悪いんじゃないのか。別に全員揃って起きてなくたっていいんだぜ。ちょっと休んできたらどうだ」
「今朝はこのようではなかったが……失敬、手洗いへ」
「ついていきましょうか」
 審神者の声にはこたえず、小狐丸は襖を開けてそそくさと暗い廊下へ姿を消した。
 残された者たちの間に奇妙な沈黙が下りる。互いに窺うような目つきを送りあった。時計の示す時刻はまだ丑三つ時にもなっていない。陸奥守は夜明けまでの遠さを思い描いて滅入りそうになった。つい漏らした息を聞いた御手杵が、笑って「さっき和泉守のやつも言ってたけど、交代で寝たっていいんだぜ」と声をかけた。
「いやぁ、眠くはないんじゃがの」
「不思議と目が冴えるんだよな、こういう日は」
と鶯丸が同調する。
「不思議といえば」加州がふと思い出して顔を上げ、「随分前だけど、主が皆に似顔絵描いてくれたことあったでしょ。それを紐で綴じて取っといたじゃん? ああ、あの時まだ三日月はいなかったけど……俺さ、どういうわけかちょうどそれをぺらぺらめくって眺めてたんだよね。訃報があった時」
 数日前、その報せを受け取った時のことだ。
 たまたま居残っていた加州はこれといってすることもなく、何の気なしに書棚の前に立っていた。ここの審神者は結構な読書家で、さまざまな分野の書物が整然と並べられている。背表紙を順繰りに眺めているうちに、ふと明らかに素人製本の一冊に目がとまった。人差し指で引っ掛けて取り出すと、少し端のよれたそれこそが、先程加州の言っていた一冊だったのだ。実にここ一年以上、加州はそれを開いていなかった。その時不意に表のほうから怒号が聞こえたのだった。
「……ほんとうに?」
 少しだけ顔を顰めながら尋ねる鶯丸に、加州は神妙な面持ちで頷いた。
「まさかホトケさんの顔んとこだけ真っ黒になってた……なんて落ちじゃないだろうな」
 和泉守が目を眇めた。冗談を言っているわけではないのだ。何も見たことも、感じたこともないくせに、和泉守はこの手の話が苦手だった。
「別に。いつも通り。そのかわり、」
 盃に唇をつけた三日月が視線だけ持ち上げた。
「俺、手鏡借りパクしてるの忘れてた」
 悪びれる様子もなく上着の裏から小さな手鏡を取り出した加州を見て、御手杵は呆れて顎を上げた。
「うわ、いつのだよ!」
「三年、四年……やばい、もっとかも」
「忘れんなよ」
「いや、完全に忘れてたわけじゃないんだよ」
 加州は手のなかの鏡を眺めた。二つ折りのそれは、黒塗りに小さな蒔絵の施された、何の変哲もない手鏡だ。使い込まれた証の小さな傷が、いくつか刻まれている。
「実際唐突に思い出して本人にも言ったことあるわけ、『俺、鏡借りっぱなしだね。部屋にあるわ』って。そしたら、気にしないでいいって。どうせまたすぐ忘れるだろうから、そのうち取りに行く……って。で、取りに来られたらかなわないから持ってきた」
 そう言うと加州は立ち上がり、祭壇の前に膝をつくと棺の上に手鏡を置いた。
「はい、ちゃんと返したよ」
 加州が座布団の上に戻るのを待ってから、審神者は小さく笑った。
「清光らしいったら」
「ま、これで取りには来ないでしょ」
 審神者の言葉に半ば被せるようにして加州が眉を持ち上げて言った。審神者は僅かに目線を上げただけで、それ以上何も言わなかった。
 そこへ手洗いから戻ってきた小狐丸は、後ろ手に襖を閉めながら祭壇へ目を遣り、桐の棺の上に手鏡が置かれているのに気づくと眉をひそめた。
「誰です、こんな趣味の悪いことをしたのは」
「加州清光」と三日月。
 小狐丸の剣呑な眼差しが加州を刺した。
「俺は借りたもん返しただけだよ」
「生きてるうちに返すものじゃ」
「怒る人じゃないから。ねー」
 加州は盃を棺に向けて掲げた。
 もはや何も返さず、小狐丸は座布団に腰を下ろした。それまで黙っていた青江だったが、小狐丸の顔色が思いのほか悪いので「大丈夫?」と声をかけた。
「ああ、大事ない。少し戻したが」
「マジかよ、じゃあその寿司食ってやるぜ」
「お気遣い痛み入る」
 毛羽立った小狐丸の厭味など気にするふうもなく、和泉守は寿司桶に手を伸ばした。その様子を横目で見ていた小狐丸が、そういえば、と顔を上げた。
「厠の窓から見えたのじゃが、門前の提灯の火が消えておった。あれはひと晩中灯しておくものでは」
「自然に消えたんだろう」
と三日月は取り合わない。元々そういうことは気にしない性分だ。
「風もないのに?」
 小狐丸は不服そうだ。
「もし誰かの悪戯じゃったら……許さぬからな」
 そんなに怒らなくても、という意味の笑みを鶯丸が浮かべた。
 座敷の空気が急速に悪くなっている。夜明けまであと三時間と少し。密室のなか、この空気に耐えて残りの時間を過ごさねばならないのか。全員の顔に精神的な疲労が浮かんでいる。
「主の仕業だったりして」
 不意に青江が呟く。
「何がじゃ」
「提灯」
 家鳴りだろうか。突然頭上で拍子木めいた乾いた音が立ち、青江以外の全員がぎょっとして周囲を見回した。驚いたのは審神者も同様で、在らぬ疑いを晴らそうと青江に食って掛かった。
「ちょっと! 私はずっとここにいたでしょう。いくらなんでもそんな魔法みたいな力は持っていませんよ」
「ぬしさまがそのような悪戯をなさるはずなかろう……第一、友引の日に通夜というのがそもそも間違っているのでは」
 気分の悪そうに口元を袖で押さえながら、小狐丸が青褪めている。 三日月は微笑を湛え、
「六曜とは。斯様に新しい風習、よもや本気にしているわけでもあるまいに」
「ぬしさまがそういうものだと仰っていたのです。ねえ、ぬしさま」
「主は迷信も気にするたちだからなぁ」
 そんな遣り取りは無視して、審神者は尚も青江に文句を言った。
「ちょっと青江、訂正してよね。さすがに失礼じゃないの! 人を物の怪か何かみたいに言ってくれちゃって、まったくもう!」
 青江は腕組みをしたまま畳の一点を見下ろして薄笑いを浮かべていたが、やがて吐息をともに笑いを漏らして「そうだね」と頷いた。
「何が?」と御手杵。
「いや、主がそんなことをするはずがないってことだよ」
「当然じゃ。たちの悪い冗談は程々にするがいい」
「やあ、四時になった。もう一度乾杯しよう。盃をこちらへ」
 三日月が全員の盃を回収し、膝の前に並べた。
 七つの盃に順に酒を注いでいく。全員分注ぎ終えたあと、立ち上がって祭壇の前の盃に少しだけ注ぎ足した。三日月が座に戻るのを待ってから、皆揃って盃を持ち上げ、ひと口に飲み干す。嚥下したあとのほのかなため息が幾つか座敷に響いた。
「あと二時間か。長いな。食べ物はもうなくなってしまったし。漬物あたりをもう少し用意しておいてもよかったな」
 鶯丸が唇をそっと拭いながら言った。
「私は焼酎のほうが好きよ」
 審神者は着物の前を少しゆるめ、脚を投げ出してぼやく。
「我儘言うもんじゃないよ」
 青江の微笑に鶯丸と審神者は揃って肩を竦めた。
 障子に映る色が漆黒から鼠色に変わってきている。夜明けが迫っているのだ。あと少しで不寝番も終わる。そうなると急に皆饒舌になった。よく考えればひとつ屋根の下に暮らしているといっても、この人数、この顔ぶれで夜を明かすことなど今までなかったし、これから先も二度とないだろう。想い出語りが想い出語りに繋がって、ようやく通夜の会話らしくなった。その間に障子の色は鼠色から薄墨色になり、金色を帯びたあとやがていつも通りの平然とした白に染まった。
 廊下のほうで人が動き始める気配がしている。不寝番から外れた他の刀剣たちが起き出しているのだ。
「そろそろお開きかのう」
 名残惜しげに陸奥守が呟いた。
 ほぼ同時に襖が開き、歌仙兼定が顔を覗かせた。
「おつとめご苦労さま。大座敷のほうに朝餉が出来ているよ」
 不寝番には参加せずともろくに眠れなかったのだろう。朝食が出来るにしては早すぎる。朝日が差す頃にはもう台所に立っていたのかもしれない。
 出棺は朝食のあと、八時頃。歌仙はそう伝え終えると、また忙しげにぱたぱたと廊下の奥へ消えた。
 不寝番を終えた者たちは、痺れた脚を伸ばしながら億劫そうに立ち上がって伸びをしたり、肩を回したりとそれぞれからだをほぐしている。大あくびをした御手杵はいくらなんでも気が緩みすぎというものだ。青江は少し可笑しそうに笑い、障子を開けた。
 朝の光が無遠慮に差し込んでくる。
 濡れ縁に立ち、軽く身を乗り出して軒下から顔を出すと、雲ひとつない快晴が広がっていた。庭木の朝露が瑞々しくきらめいている。
「門出には相応しい空模様じゃない?」
 振り返れば、いつの間に出てきたのか審神者が背後に立っている。真正面から朝の光を受ける審神者の顔が眩しい。青江は少しの間を置いてから、「うん、そうだね」と頷いた。座敷のなかでは他の者たちが何やら喋りながら座布団を片付け、装束を整えている。
 審神者は微笑を浮かべて彼らの様子を眺めたあと、濡れ縁を渡り、表玄関へと続く角を曲がって姿を消した。
 長時間座していたせいで凝ってしまった腰を後ろ手に揉みながら座敷へ戻ってきた青江に、和泉守が髪を梳きながら話しかけた。
「輪廻転生って仏教の思想だよな」
「基本的にはそうだね」
「人間が死んだら次は何か別のものになって生きるってやつ」
「端的に言えばそうかな」
「じゃああの人、」と顎で祭壇を示し、「次は何になるんだろうな」
「さあねぇ」
 青江は自らも身支度を整えながら肩を竦めた。
「やさしくて、花を愛して、信心深い人だったから……蝶々にでもなるつもりかな?」
「ああ、似合うなあ」
 噛み締めるように納得した和泉守と青江の目が合い、同時に笑んだ。
「これ、勝手に人さまの来世を決めるものではない」
 毛先を整えながら小狐丸がツンと鼻先を上へ向けた。
「もう気分はいいのかい」
「ああ、にわかに良くなった。今は至って普通じゃ」
「それは何より。棺を担がねばならないからね。まあ七人もいるからひとりくらい手を抜いたってバレはしないが……陸奥守、今日はもう少し襟をきちんと」
「いつも通りがええと思うんじゃがのぉ……ところで『次は何になるのか』なんて言うちょったけど、わしはどぉもあの人がまだこの辺をうろうろしちゅうような気がしてならんぜよ」
 それを聞いた小狐丸はあからさまに顔を顰め、「何をばかなことを」と言い残して顔を洗いに立った。
 青江は開いた障子とその向こうの庭をしばらく眺めたのち、目を細めて笑った。
「もう発ったみたいだ」


拍子木




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