■ ツークツワンク #11

「超自然的なパワーが働いているとかしか思えん」
「頭沸いてんのか」
 リヴァイがショートパスタをまとめてフォークで刺しながら胡散臭そうな顔をした。
 エルヴィンとリヴァイは珍しくふたりで昼食をともにしている。兵団本部からほど近い場所にあるレストランは、近隣に職場を持つ人々で賑わっていた。昼はメイン料理にスープと紅茶がつくうえ価格も大衆的とあって人気の店のようだ。上品な味ではないが、労働者には嬉しいボリュームが売りである。
(クソ、こいつの舌にはこれで充分なんだよな)
 エルヴィンはスープの野菜をスプーンで掬いながら苦々しく思った。どうせここの勘定も払わされるに決まっている。
 先日の夕食会では四人あわせて結構な額を支払う羽目になった。別の世界のどこかの国の通貨に換算すると約9万円(ドリンク代、チャージ料別)に相当するが、早々に酔っ払ってしまって何を食べたか思い出せない。翌日財布のなかを見て衝撃が走った。
 エルヴィンひとりが損をした食事会の挽回を図ろうとずっと計画しているのだが、それで冒頭の言葉に繋がるのである。
 あれから何度もクロエを誘った。そのたびにクロエは受け入れてくれたのだが、一度目は突然の嵐で延期を余儀なくされ(しかしそのお陰で良い思いもしたのでノーカウントとしたい)、二度目はクロエが風邪を引き、三度目は会議が長引き、四度目は予約していたレストランが前日に火事を出して全焼した。
 おまけに昨日の雷だ。兵団の敷地内に一本の大樹が生えており、その幹のたもとで愛を告白すると結ばれうんたらかんたらという鼻で笑ってしまうようなジンクスがあるのだが、その手の話をまったく信じないエルヴィンが珍しく
(いっちょ利用すっか!)
と思い立ったその日のうちに、通り雨が連れてきた雷が落ちて樹が真っ二つに裂けたのである。
 クロエ自身は拒否していないにもかかわらずこうも不運が続くとなると、神や霊魂の存在を否定するエルヴィンも見えない力が彼らの仲を遠ざけようとしているような気がしてくるのだった。
「私はどんだけ不運なんだ……」
 悄気げてパスタをフォークでつつくエルヴィンに、紅茶を飲むリヴァイが肩を竦めた。
「お前じゃないかもしれないだろ」
「はい?」
「不運なのは。運の悪さを運んできたのはあいつのほうかもしれないだろってことだ」
 そういわれてみれば、とエルヴィンは考え込んだ。
 ちゃんと学校教育を受けたのに、クロエはその後職場に恵まれず職を転々としている。やっと見つけた今度の就職口でも気味の悪い上司に執拗に絡まれ口説かれている。セクシャル・ハラスメントを防止するための内部規則のなかったことをエルヴィン自身が喜ぶほどのつきまとわれ方だ。美人に属する顔立ちだと思われるが未だ独り身なのも奇妙といえば奇妙であった。更に考察してみると、確かにエルヴィンはクロエが絡まないことではこれといって不運には見舞われていない。
「成る程、確かに一理あるな。疫病神に憑かれているのは私ではなくクロエのほうだったか」
「間の悪い奴っているからな」
「それだけ不運なら私がつけ入る隙もあるというものだ」
「……」
 リヴァイはカップを置きながら軽くかぶりを振った。
「つけ入ってモノにするんでも諦めるんでもいいから、とにかく早く決着つけてくれよ。あいつが来てからお前は口を開けばクロエクロエクロエって、こっちはもううんざりだ」
「リヴァイ」
「なんだよ」
「女子みたいなこと言うんだな」
 あの子彼氏出来てから付き合い悪いのよねぇ、結局友達よりオトコのほうが大事ってことよねぇ。そうよそうよ。
「……ぶっ殺すぞ」
 巨人を狩る時みたいな目だ。エルヴィンは首を竦めて目の前の料理に集中した。
 仕事に戻ってきたエルヴィンは早速必要事項の連絡不手際をクロエに叱られた。デスクに座って書類に目を通しながらクロエの小言を聞き流していたが、ふとエルヴィンは違和感を覚えて眉間に皺を寄せた。
 いつもよりクロエの小言がしつこい。普段から叱られ慣れているが、今日はさほどのミスではないにもかかわらず責められている気がする。クロエの口調や態度から何か不安定さのようなものを感じた。生理かな? と思って顔を上げたエルヴィンはクロエの出で立ちを見て一層眉間の皺を濃くした。
 いつもより綺麗だ。
(禁欲生活が長すぎて三割増しで美しく見えるようになってしまったのかな?)
と一瞬思ったが、先程廊下で食堂のおばちゃんとすれ違った時はいつも通りのおばちゃんに見えたはずだ。
 違う。エルヴィンはペンを置き、クロエの小言を完全に無視して彼女の姿を観察した。明らかに着飾っている。
 仕事に不適切なほどではないが、間違いなく普段より良い服を着ている。化粧も少し違うようだ。頬紅が鮮やか過ぎる。
 エルヴィンが手で制するとクロエは口を噤んだ。
「クロエ。今晩暇かな?」
 当然クロエは「いまそんな話はしてないでしょ!」と眉を吊り上げたが、それには構わずエルヴィンは強い口調で繰り返した。
「今晩は暇か? 空いているなら付き合ってほしいんだが」
「……今晩?」
 質問に質問で返すのは動揺の証だ。
 すっとぼけようったって許さんぞ、とエルヴィンは笑みのひとつも浮かべずに再度質問した。
「先約でもあるのか」
「……ええと、今夜はちょっと都合が悪くて、その、すみません」
 クロエにしては歯切れが悪い。読みたい本があるとか、田舎から弟が訪ねてくるとかいう理由の時にはクロエはもっと簡潔に「すみません、無理です」とこたえたものだ。
 畜生、と内心歯軋りしながらエルヴィンは腕を組んでクロエを見据えた。
「先約があるんだな。しかも男だろう」
「なんでそんなこと訊くんですか?」
 クロだ。エルヴィンは確信した。
「誰と逢うんだ」
「あの……私と団長ってまだお付き合いしてないですよね? いちいちそんなことまでご報告申し上げなくてはいけないんですか?」
「確かに正式には交際していないが、食事に行く約束をするくらいの仲ではあるわけだし、発展の可能性がある関係においてはある程度の誠意というのは当然に求められるものではないかな。それとも君は私がどこぞの女とふたりで出掛けても気にしないっていうのか」
「え? はい……」
 うそー。エルヴィンは口をすぼめた。
 そして改めてクロエの格好を見分した。上下揃いの仕立ての良い服。よく磨かれた、踵の高い靴。髪は何やら複雑な構造にまとめられている。しばらく考察を試みたが、やがてエルヴィンは降参した。先日のエルヴィンとの食事の際に着ていた服と比較してどちらが気合が入っているか判断しようとしたのだが、そもそも女のファッションなどまるでわからないのだから土台無理だ。
 エルヴィンは書類を放り投げ、椅子から立ち上がった。ゆっくりと歩み寄ると、クロエは顔に浮かんだ緊張の色を濃くする。こわがっているようにも見え、エルヴィンは少し腹を立てた。
「クロエ。君の言う通り私は君を引き止める権利を持たない。だが、私たちの関係において相手を教えてもらうくらいは出過ぎた願いではないんじゃないのか」
 クロエは後ろでまとめた髪を指で押さえて足もとに目を落とし、それからきまりの悪そうに部屋の隅へ視線を走らせた。
「……前に付き合ってたひとです」
 キィーと叫び出したくなるのを堪え、エルヴィンは平静を装った。
「この辺に住んでいるんじゃないんだろう」
「ええ。金融関係の仕事をしていて……取引があるのでこちらにやってくると先日手紙が」
 数日前からクロエはそのことを知っていたのだ。その間、エルヴィンにはまったくそんな素振りを見せずに。
「さっき言ったように、私には君に行くなという権利はない。だが、敢えて頼んでみたい。行かないでほしい。それが私の正直な気持ちだ」
「……困っちゃったな」
「困らせている自覚はあるよ。申し訳ないとも思っている。でも言わずにはいられないんだ。君のことが好きだ。だから行かないでほしい」
 クロエがやっと視線をエルヴィンへ戻した。
 やや驚きにも似た表情で固まっている。
 鮮やかなレッドで縁取られた唇が開いた。
「……初めてちゃんとストレートに聞いた気がします、好きだって」
「そうだったか? でもこれが私の正直な気持ちだよ。クロエのことが好きだ」
 エルヴィンの目がまっすぐにクロエを捉えている。
 食い入るように見返していたクロエだったが、やがて無理に引き剥がすようにして視線を移した。
「結婚を申し込まれています」
 正々堂々といった態度を決め込んでいたエルヴィンだったが、卒倒しそうになった。
(いまこの子なんて言ったの!?)
 立ち眩みを通り越して一気に胃のなかのものを吐き出しそうになったが、さすがに二度目とあっては許されないだろう。喉のあたりを手で押さえながら、エルヴィンは必死に平常心を取り戻そうとした。
「それは……その以前付き合っていたという男から? 今日会うという?」
「そうです。その、なんというか喧嘩別れとかじゃなかったんです。彼はお父さまの下で働いていたんですが、将来後を継ぐとなると経験を積まなくてはいけないからって支社をいくつか回って修業することになって。それで、ずっと待たせるわけにはいかないからって別れを告げられたんです。いつか自分が形になった時、もし私がまだひとりだったら……って。で、このあいだの手紙で『もしまだ誰のものにもなってないなら、結婚しよう』と」
「だっ、だだっ、だって『本気の恋はしたことない』って言ってたじゃん!」
 もはや冷静沈着な団長ではいられなかった。
 いまなりふり構わず取り縋らずにいつ縋るのか。
「まだ若かったからそこまで本気じゃなかったんです。その、先日言った『深い関係にはならなかったひとり』っていうのが彼で」
「なお悪いよ!」
「えっ、そういうもんですか?」
 クロエは「そこまで互いに入り込まなかった」という意味で言ったのだろうが、結実する直前で摘み取られたからこそ再会が想いを加速させる危険がある。お互いの嫌な部分が見えてくる前に終わった発展途上の関係なのだ。もし再び会えば胸の底の埋め火が燃え上がらないとも限らない。
「私に言わずに行こうとしたということは、後ろめたいとは思っているということなんだろ……それはつまり後ろめたい関係に発展するかもしれないと思っているということじゃないか……」
「ああ……まぁ、そうですね……」
 あと別にいちいち報告する筋合いでもないと思ったっていうか、という呟きは聞かなかったふりをして、エルヴィンはクロエの腰を両手で掴んだ。訝しむクロエをよそにスカートをたくし上げようとすると、クロエは当然に身を捩って逃げようとした。
「何するんですか!」
「下着をチェックする」
「はぁっ? なんでそんなこと……」
「勝負下着かどうか確かめるんだよ!」
「ちょっ、やめ……やだってば!」
 渾身の力を籠めてクロエに押し返されたエルヴィンは後ろへ数歩よろめき、苦しげに顎をさすりながら背を向けた。そして開け放たれた窓に近寄り、窓枠に両手をついて外を眺めた。肺が新鮮な空気を欲している。中庭の隅に先日の落雷の傷が残る大樹が見えた。大きく裂けてしまった幹は倒木の危険があるため中ほどから上は既に撤去され、いまは枝のない下部分だけが残っている。
「もしかしたらそうなるかも、って思ってるんな」
 眼下では若い兵士たちが屯して談笑している。彼らとてそれぞれに切実な思いを抱えているのだろうが、そうは見えないほど明るい表情だった。
「団長、私は……」
「……いや、いいんだ。気にせず行ってくればいい。私に対して後ろめたさを感じてくれたというだけで満足することにするよ。私の気持ちも少しは君に届いていたということだから」
「団長」
「仕事に戻ろう。やることは山積みなんだ」
 振り返ったエルヴィンの顔にもはや動揺の名残はない。デスクに座り、書類に目を通してはサインをしていく姿はクロエが最初に見たエルヴィンと同じだ。それはつまり、彼らふたりが出会う前のエルヴィン・スミスだった。

   *

 翌朝、クロエは時間通りに出勤した。いつものように、きちんとしてはいるが飾らない格好である。秘書室に帽子とストールを置いてから、まだ無人の団長執務室の掃除を簡単に済ませる。デスクの上をエルヴィンが好む形に整理して、それからエルヴィンが現れる時刻の少し前に厨房へ行き、紅茶を淹れて戻ってくる。いつもと変わらない朝だった。
 エルヴィンもまた時刻通りにやってきた。おはよう、とクロエに声を掛け、デスクの前に腰を下ろすとまずは夜のうちに置かれた伝達事項に目を通す。それから夜勤を終えた部下から報告を受け、次いで呼び出した者たちに指示を終えると、それで朝のルーティンはひと段落する。
 最後のひとりが執務室を後にすると、室内には静寂が戻ってきた。ペンを走らせる音だけが囁きのように空気を渡っていく。
 秘書室とを繋ぐドアが開き、書類を持ったクロエが入ってきた。寄付金に対して礼状を出すにあたり、寄付者のリストに漏れがないかという確認をしにきたという。リストを受け取ったエルヴィンはざっと目を通し、個人的に小切手を受け取った二、三の名前を末尾に書き足してからクロエに戻した。
 それからすぐに視線を手もとに戻したエルヴィンだったが、視界の端に見えているクロエのスカートが動かずにいることに気づいて顔を上げた。
 クロエが何か話したそうにしている。
「まだ何かあるのか」
 クロエはリストをデスクに置き、胸の前で手をあわせて小首を傾げた。
「訊かないんですか、ゆうべ何があったか」
「……仕事中だ。それに君とはもうそういう話はしない。君が望んだことだろう」
 クロエの目にはエルヴィンが心を閉ざしたように見えるだろう。もはや招き入れる余裕はないと。勿論エルヴィンの内心はそんな覚悟の決まったものではなく、金切り声を上げて部屋じゅう走り回りたい気分だったが、さすがにこれ以上ごねる勇気はなかった。
 しかしクロエは逃してくれないらしい。立ち去る気配がない。これ以上傷つけるのはよしてくれ、とエルヴィンが眉根を寄せると、クロエはあわせた指先を顎先につけて窺うように上目遣いになった。
「……頬が少し上気している。充実してそうだ。ゆうべは上手くいったんだな。おめでとう、と言いたいところだがもう少し待ってくれ。結婚式にはちゃんと……」
「ゆうべ何があったかって訊いて」
「クロエ、私は」
「いいから」
 エルヴィンは溜息を吐いてペンを置いた。
「……ゆうべ何があったんだ」
 するとクロエは「やっと訊いてくれた」と微笑み、それからちょんと跳んで叫んだ。
「何もなかったの!」
 不意を衝かれたエルヴィンが何か言うより先に、クロエは小走りで彼のそばへやって来た。それからデスクの端に軽く腰掛け、エルヴィンを見下ろした。
「何も起こらなかったんです、団長。なんにも」
「……だが向こうはそのつもりで来ていたんだろう」
「ええ。この前団長たちと行ったお店で会ったんです。あの時はハンジ分隊長に『行ったことあるの』って訊かれてとっさに初めてと答えてしまったんですけど、実は彼と最後に食事した店なの」
「……行ったことがあることはわかっていたよ」
「え、そうなの?」
 クロエは驚いて眉を持ち上げた。
「初めてだと言っていたが、入ってすぐに君は化粧室へ行くといって案内を待たずにそちらへ歩き出したからね。すぐにレセプションの人間がついたが、その短い流れでピンときたよ。来たことがあるんだなって」
 成る程、とクロエは頷いてから、僅かに眉を下げた。
「そんな些細な態度でも団長のことを傷つけていたんですね、私」
「いや、態度以上に言葉で散々傷つけられてるから大丈夫。それで? 何故何もなかったんだ?」
 いい加減エルヴィンも平常心を取り戻し、背凭れに身を預けながら手を組んだ。
「数年ぶりだけど、彼は全然変わっていませんでした。優しくて、気遣いができて……そして久々の再会に少し興奮してました。食事をしながら色んなことを話したんです。会わないあいだの出来事とか、色々。食事を終えてお店を出たあと運河沿いを散歩しました。その途中で、言われたんです。また別の街にしばらく行くことになるけど、今度はついてきてくれないかって……妻として」
 クロエが手を差し伸べてきた。何も考えずにその手をとったエルヴィンに、クロエがどこか哀しげにも見える笑みを浮かべた。
「でも肯けなかったんです。ひと言『はい』と言えばいいだけなのに、どうしても言えなかった。それで気づいたんです。彼は何も変わってない、変わってしまったのは私のほうだ、って」
 クロエの指に力が篭もる。
 そういえばちゃんと手を繋いだのは初めてだ、とエルヴィンは気づいた。
「いまでも彼のことは素敵なひとだと思ってます。でもどんなに正しい相手でも、正しい時に現れてくれなければ意味がないんです。別れたあの時に『ついてきてくれ』って言われてたら、私きっと彼の胸に飛び込んでました」
「では、断ったんだね」
「ええ、はっきりと」
「よかった……」
「理由を聞かれて、こたえたんです。『いま好きなひとがいます』って」
「クロエ」
「それからこうも訊かれました、『そのひとの何が僕よりよかったの?』。正直に、わからないとこたえました。『でも、もしあなたがそのひとだったら、三年前のあの時絶対に私のことを諦めなかった』って。団長という比較対象が生まれなければ、考えもしなかったことです。もしあなたを知らなければ、きっと私は昨夜結婚してた」
 エルヴィンはクロエの手を両手で包み込み、引き寄せてその甲にくちづけた。そうせずにはいられなかったのだ。
「私は君になんにも約束してあげられないよ。やらねばならないことがあるから、結婚も当分は無理だ」
「私は約束はしない女です。今まで通りにしましょう。ただお互いに対しては誠実であるように」
「それはとても素晴らしい提案だね」
 手を引かれ、クロエはエルヴィンの膝の上に腰を下ろした。
 クロエの華奢な指がエルヴィンの髪を優しく撫でた。
「昨晩彼に改めて求婚された時、あなたの姿が頭に浮かんだんです。あの家で私を待っている姿。それでどうして肯けます?」
「我が儘を言いまくっておいてよかった。君みたいな運の悪い女が引っかかる」
 小さく噴き出してから、クロエが「あ」と何かに気づいてポケットを探りはじめた。ポケットから出てきた白い手に、大振りの葉が一枚握られている。エルヴィンが不思議そうな顔をすると、クロエは葉を指でつまんで遊びながら笑った。
「昨日あの樹を撤去する作業に立ち会った時、なんとなく勿体ないような気がして葉っぱを一枚だけ貰っておいたんです。だから、はい」
 クロエは葉を持った腕を高々と上げ、ふたりの頭上に翳した。
「あの樹の下で想いが通じ合ったら、ずっと幸せでいられるんでしょう。葉っぱ一枚しかないけど、少しは効くんじゃない」
 ああ、とエルヴィンはたまらず声を漏らした。
 可愛らしすぎる。
「クロエ。君のことが好きだよ。今更言う必要もないと思うが」


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