■ 仮寓

 水郷はせわしない。ひっきりなしに人や物が行き交い、あちこちから怒声がきこえる。波止場でも荷捌き場でも縄張りをめぐる諍いが絶えず、ゆえに人間が荒い。住人は男も女もみな早口で、喧嘩っ早い。凌統はついさっき買ったばかりのちまきを頬張り、そこかしこで生まれる喧騒を心地よく聞き流しながら、運送業者のひしめく細い路地を歩いた。
 杭州湾に注ぐ銭塘江の河口付近は、凌統にとって庭のようなものだ。一族の故地であり、幼い日々を潮の匂いの混じる河の風と遊んで過ごした。父親を喪ったあとしばらくは足が遠のいていたが、先頃領地の整理をするために戻ってからは時折訪れるようになっている。
 船着場から離れる方角へ町を進むと、次第に町並みが繁華街にかわっていく。繁華街は下層の船員が宿泊する船宿をはずれとし、その内側に飲食店や商店が立ち並び、中心地には高級旅館や料亭が立ち並んでいる。反対側のはずれには花街があるが、凌統のような身分の者が行くところではない。
 料亭と花街のあいだに、あたかも緩衝地帯であるかのように静かな一角がある。港湾の管理業者や官吏の私邸が立ち並び、どの家も間口は狭いがうなぎの寝床のように奥に長い。そのうちの一軒、看板も出さない門の前まで来ると凌統は最後のちまきを飲み込み、声をかけずに門をくぐって戸を開けた。
 奥へ声をかけるとすぐに返事が聞こえ、まもなく女が玄関へ出てきた。
「いま大丈夫かい」
「ええ。誰も来ていないから」
 女は頷いて奥へ引っ込んだ。玄関から入ってすぐのところには半分土間、半分板敷きの空間があり、凌統は勝手知ったる仕草で卓の前に置かれた敷物に腰をおろした。一見すると台所のような部屋だが、壁際に置かれたやたらと抽斗の多い棚や、凌統のすぐ後ろにある寝台、炉のそばに積まれた薬草の束などが、ここが診療所であることを示していた。
 雪鳶はこの診療所を切り盛りしている医者だった。自宅でもある。時折使用人が出入りしているほかは、彼女の一人住まいだ。産婆でもないのにどういう経緯で診療所を設けることになったのか、詳しい話は凌統も知らない。産婆ではないといったが、実際にはお産も診ることがあるらしい。花街のすぐ裏手にあるからだ。凌統が奥へ入る前に声をかけたのも、時折花街の女が診てもらいにきていることがあるからだった。年の頃は、おそらく凌統の五つくらい上だと踏んでいる。
「あれからどうです、胸は」
 卓を挟んで凌統の向かいに腰をおろした雪鳶は、卓上の道具を片付けながら笑んだ。
「お陰様で、めったに苦しくならなくなったね」
「薬が体質に合ったのね」
「名医だね」
「そうなの」
 雪鳶は手もとに視線を落としたまま笑った。それから立ち上がって薬棚のところへ行き、抽斗を開けながら振り返った。
「今日も?」
「ああ。貰ってくよ。持ってると安心するんでね」
 頷くと、雪鳶は前掛けをして診察の準備をはじめた。
 きびきびと動く雪鳶の手を眺めながら、凌統は服の上から懐を触って財布のあることを確かめた。いつも現金払いにしている。ふつうは凌統くらいの立場にもなると何事もツケにするものだ。事実、凌統の屋敷に出入りしている医者は年末にまとめて支払いを受けている。ここでツケにできない理由は、凌統が自分の素性を明かしていないからだった。


 雪鳶と出会ったのは、三つきほど前のことだ。
 その日、凌統はいつものように市中の様子を見てまわっていたが、にわかに気分が悪くなった。からだが鉛のように重く感じられ、視界が霞んで物の輪郭がわかりづらくなった。運河を渡る小舟の櫂が水面を打つ音や、洗濯をしながら世間話に興じる女たちの声は聞こえるが、実際の距離よりもはるかに遠く感じる。早く屋敷に戻ろうとしているつもりが、まるで幾人もの子どもに背中を引っ張られているように進まない。立場上こんなところで行き倒れるわけにもいかず、少しでも喧騒を離れようと静かなほうへ歩くうちに力尽き、仕方なしに運河にかかる橋のたもとの柳の下に座り込んだ。
 幹に背中を預けて顎を上げていると、呼吸がらくになる。穏やかな風が髪を撫で、額に滲んだ汗が乾いて気分が少し良くなった。梢を見上げると、葉が揺れるたびにその隙間から陽光がちらついている。瞼が重くなり、そのまま目を閉じた。
「ねえ、大丈夫なの」
 頭上から降ってきた声に引きずられるように目を開けると、細長い視界の中に人影が見えた。
(女だ)
 声からして確認する必要もなかったが、日光を背に浴びた人影の耳もとで飾りが揺れたので性別がわかった。女がかがむ気配がして、それから首元にひんやりとした感覚があった。手で顔を支えられたようだ。眼の前で細長いものが揺れた。
「この指、何本に見える」
「……十八」
「重症ね。ちょっと待ってて、いま運んでもらうから」
 彼女が消える気配とともにまた瞼を閉じた。しばらくして彼女の声とともに男の声がきこえ、体が持ち上げられるのを感じると同時に、凌統は意識を手放した。
 次に感じたのは、口のなかに広がる生温かい甘みだった。その得も言われぬ不快さに顔をしかめながら目を開けると、先程よりも視界は明瞭だった。天井の杢目も、開けられた窓の向こうの梢もはっきりと見えた。からだを起こそうと手のひらで床を押して、敷物の上に寝かされていることに気づいた。
「まだ寝てなくちゃだめよ」
 壁際の箪笥の前で何やら手を動かしている女が振り返って微笑んだ。利発そうだが冷たい感じのしない笑みに好感を抱き、凌統は覚えず微笑み返していた。
「ここは、ええと……」
「私の家よ。仕事場でもある」
 凌統は室内を見回した。壁際には小さな抽斗のたくさんついた箪笥、炉端の小さな卓には鉄鍋、何かの植物、文具、さらにその横には母親が使っている裁縫箱にも似た木箱。
「仕事場って……ああ、医者か」
「ええ、そう」
 裁縫箱と思ったのは、携帯用の薬箱だ。
 雪鳶、と名乗った女の医者が、診察台のそばに座った。診察台の端に肘をつき、頬杖をついて話す仕草は少し馴れ馴れしいと凌統は思った。不思議と嫌な感じはしない。
「具合は」
「まだだるいけど、さっきより全然まし……こんなこと、いままでなかったんだけどね」
「ちゃんと朝食食べなかったでしょ」
 それは確かにそうだった。昨晩が暑くて寝苦しかったせいで目覚めが悪く、何となく食欲もおこらずに朝を抜いた。
「……それが原因? それだけのことかい?」
「あら、朝食ってだいじなのよ。近頃急に暑くなったでしょ。体力が落ちたところへ食事を抜いたら、そりゃ具合を悪くするわ。食欲がなかったら粥だけでもまだマシだし、芋や豆なんかもいいの。あとは緑色の野菜とか」
 指を折って食材の名を挙げていた雪鳶が肩をすくめた。
「ほかに持病がないなら心配することはないわ。さっきは干した杏を潰してぬるま湯で溶いたのを飲ませたの。ほんとうは米が効果覿面だけど、炊けるまで待ってる場合じゃないしね」
「そっか……じゃあ、鍼とか薬とか、要らないんだね」
 凌統の手首をとって脈を診ていた雪鳶は、眉間に皺を寄せて少し癖のある笑みを浮かべた。
「鍼はやたら使うと逆効果になるから、私の学んだ流派ではあくまで次善の策よ。薬も養栄湯か益気湯なら悪くないと思うけど、慢性的な症状じゃないなら必要ないかな。不必要な処置はしないに限る、ってね」
「うちの母親は芍薬散を飲んでたけど、あれじゃだめなの?」
「芍薬散? あれは当帰が入ってるのよ。ほとんどご婦人用よ、若い男性が飲むものじゃないわ」
「なんだ、そうだったのか」
「そんなに心配することないでしょう。ちゃんと食べてしばらく休めば元気になるから。水分はとってね。お茶ではなくて、白湯がいい。いまお隣のおばさんが食事を作ってくれているから、食べてからもうしばらく静かにしていて。そしたら帰っていいわ」
 雪鳶の言いつけ通り、その日は黄昏どきまで休んでから屋敷に戻った。連絡なしに帰りが遅れたせいで家人はみな心配して文句を言ったが、どういうわけかほんとうのことを話す気にならず、ただ町の様子を見て回っているうちにうっかり遠くまで行ってしまったと嘘をついた。
 それきり他愛無い出来事として処分しておくつもりだったが、半月ほど経った頃から不意に胸がざわつくようになった。ふとした瞬間に、いま、この同じ時に彼女は何をしているだろうかと考えるようになった。
 はて、惚れたのか。
 胸に手をあてて考えてもこたえは出ない。
 凌統にとって恋はじわじわと助走をつけてはじまるものではないから、これは恋かもしれないが、恋ではない何かによって彼女に惹かれている可能性もあると考えた。それで胸のざわつきを「動悸」ということにして、以降時折雪鳶の診療所を訪ねては、動悸を抑える薬を処方してもらっている。


 診察台の端に腰掛けて前をはだけた凌統の胸のあちこちを、雪鳶が真剣な眼差しで触診している。初めて会った時に雪鳶のことを少し馴れ馴れしいと感じたが、その感覚は当然といえば当然だったのだと治療を受けるうちに理解した。
 舟と人の行き交う町は凌統の周囲とは常識が違うとはいえ、異性の体に触れるのが当たり前というほど開けっ広げではない。しかし正確な診断には体に触れる診察が欠かせない。中には聞き分けの悪い患者もいるだろう。そういう環境に身をおいていれば、世間の常からは少し外れた感覚になるのも無理はない。時折不用意な距離の取り方をする雪鳶に対してそれでも人が不快感を覚えないのは、彼女の明るい性分、それに技術に対する真摯な姿勢のせいだった。淑女でもないのに「はすっぱ」でもないという絶妙な匙加減の女というのは、凌統はこれまで接したことがなかった。
 雪鳶の黒い睫毛をぼんやりと眺めていた凌統だったが、表のほうから呼ぶ声に顔を上げた。雪鳶は凌統の胸から目を離さずに「どうぞ」と声を張った。
 慣れた様子で入ってきた男をひと目見て、彼が花街の人間だと凌統にはわかった。愛想が良いが見ようによっては下卑た笑みを浮かべた男は凌統にぺこりと頭を下げ、雪鳶を「先生」と呼んだ。
「悪いんだけど、またちょっと来てくれやしませんか」
「診るのは男? 女?」
 凌統は訝しんで「男?」と笑った。
「そうなの。この前呼ばれて行った時、てっきり女性の診察だと思ったら、大いびきをかいて起きない客のほうだったの」
「そりゃびっくりだ」
「女性のための手技をあれこれ考えながら行ったから面食らってね」
 雪鳶は肩をすくめて小さく笑った。
「それでどうなったんだい」
「手遅れだった」
 雪鳶は男のほうを向き直って「終わったら行く」といって帰らせ、凌統の衣服の前を軽くあわせて診察を終えた。
「問題なさそう。やっぱり病ではなくて生まれつきじゃないかな。運動と関係なしに、季節の変化なんかの影響を受けて時々胸が速くなる人がいるの。一応薬は出しておくけど、正直いってあんまり気にすることないと思う」
 前掛けの紐をほどき、携帯用の薬箱の準備をしている雪鳶のことばを聞いて、凌統は思ってもいなかったほうへ話が進みそうになっていることにひそかに焦った。
「もう診てもらう必要ないってことかい」
「良いことでしょ。医者にかからずに済むんだから。医者は嫌われ者よ。特に子どもからは」
 少しふざけた調子の声からは、凌統がここへ来なくなることについて彼女が無頓着であることがうかがえる。凌統は内心少し傷ついている。それで、予定にないことばが口をついて出た。
「最近すごく喉が渇くんだけど、これってふつう?」
 膝の上で前掛けを畳んでいた雪鳶が手をとめた。
「ほかには?」
「疲れ……やすい。前と比べると疲れやすい。かも」
「食欲は?」
「それはふつうにある」
 それから少し症状を盛りすぎたかと思い、「むしろ食欲旺盛って感じ」と付け加えた。それがまずかったらしい。雪鳶の顔つきが「怪訝」を通り越して険しくなった。
「よく食べるのに、全然太ってないのね」
「え? いや、まあちゃんと運動してるしね。あの、ちょっと何」
 にじり寄ってきた雪鳶は凌統の頬に両手をあてがい、下瞼と上瞼を交互に引っ張って眼球を覗き込んでいる。至近で見た彼女の耳たぶに小さなほくろを見つけ、凌統はどぎまぎして思わず彼女の手首を握った。
「……充血はしていないみたいだけど。排尿は正常?」
「え? よしてくれっての」
「だいじなことよ」
「ふつうだよ、ふつう」
 女としては小柄というわけでもないが、長駆の凌統ならば簡単に腰を抱えて持ち上げられそうだ。凌統は目がちかちかするような気がして、つい雪鳶の手首を放り捨てると、深く座り直して距離をとった。
 かがんでいた上体を戻した雪鳶は腰に右手を、顎に左手をあてがって「ううん」と考え込んだ。ちょっと気を引く程度のつもりが、期待以上に雪鳶に懸念を抱かせてしまったらしい。まずったな、と凌統は鼻の頭を人差し指で掻いた。
「いいわ。不本意だろうけど、もう少し様子を見せに通ってちょうだい。体調にはっきりとした変化がない限り、時々でいいから」
「重い病気かい?」
 襟を直しながら、凌統は不安げに尋ねた。
「症状からすると消渇を疑うのがふつうかな。いまの状態じゃ確証はないけど」
 参った、と凌統は口の中で呟いたが、雪鳶は違う意味に受け取っただろう。雪鳶は「だいじょうぶよ」と笑った。
「仮に消渇だったとしてもまだ軽いし、きちんと生活改善をすれば進行は遅いから。とりあえず体力が落ちないように滋養強壮の薬を出しておく」
 少し経って診療所を出た凌統は、門を背にして懐から薬の包みを取り出した。ただ今後も顔を出す口実が欲しかっただけなのに、どうもおおごとになってしまった。想定外の出費だったので、大して持ち合わせておらず財布も空だ。
 ため息をひとつ吐いてから包みを懐に押し込み、凌統は遅い足取りで帰路についた。


 触診に備えて、雪鳶が炉の上で白い手をこすり合わせている。雪鳶と凌統が初めて会ったのは春が熟れ、外を歩いていると背中に汗の滲む頃だったから、もう半年が経つことになる。
 江南は豊かな春を誇るが、季節は起伏に富み、冬は当たり前のように寒い。時折は雪も降り、おまけに冬の間は曇り空が続くので、ひとたび積もるといつまでも雪が残る。今年はまだ降らないが、ここ数日の厳しい冷え込みを見るに、降雪は時間の問題だろう。
 時折診療所に通うようになって、雪鳶の人となりが徐々にわかってきた。北方の格式張った貴婦人たちほどではないにせよ、ここ江南でも上流階級の女性たちの会話といえば気候や音曲、故事や世辞ばかりだが、教育を受けた身といえども雪鳶はその手の話を好まない。
 凌統と一対一の時はそれでも多少は気を遣っているようだが、用事で入ってきた使用人や隣近所の住民と話す時はざっくばらんで、他愛無い冗談に声を立てて笑う。その態度の違いに何となく一線引かれている感覚を凌統は覚えていたが、先日ちょっとした事件がおこり、その境界がだいぶ薄れた気がする。
 その出来事があった日、凌統がいつものように診察を受けていると、玄関から呼ぶ声があった。同じ「先生」ということばでも、日頃顔を出す近所の住民とは違った響きがあるように思われ、凌統は何とはなしに嫌な感じがして視線を上げた。表へ出ていった雪鳶と相手の会話は不明瞭にしか聞こえないが、低い声音のやり取りに緊張したものを感じ、余計な手出しかと迷っていた凌統もついに立ち上がって玄関へ向かった。
 玄関先に立つ雪鳶の背中越しに目が合った相手は、右眉の上に傷をつけたひと目で無頼とわかる輩で、奥から不意に現れた長駆の凌統に面食らった様子だった。とってつけたような挨拶もそこそこに男が立ち去ると、雪鳶は緊張のとけたように肩を落として大きく息を吐いた。
「だいじょうぶかい」
「いえ、たいしたことじゃないの」
「何だい、あいつ」
「船着場に人足を手配する請負師がいるんだけど、その子分。堅気と任侠の間かなぁ、微妙なとこよね。その請負師というのに持病があるらしくて、定期的に診に来いって前から言われてるの。要は出入りの医者になれってことだけど、そう頻繁に診療所を空けたくないし、第一そういうのいやだから、私。それで渋り続けてたから、催促にきたというわけ」
「いやなやつ」
「ええ、いやなやつ」
 気が緩んだのか、雪鳶は凌統を見上げた表情を和らげた。
「心配しないで、あれくらいあしらえるから。でも、いてくれて助かった」
 そう? とこたえながら凌統は男の去ったほうを見つめた。
 男は凌統が誰だかわからなかったようだ。運河の侠客の下っ端だから、凌統の顔を知らないのも無理はない。その飼主といってもたかがやくざ崩れの小悪党、素性を明かしてひと睨みすれば慌てふためき詫びを入れてくるだろう。しかしいまのところ雪鳶はそこまで危険視していない様子、凌統もまたいまの心地よい空間が消え失せることを望んでいない。
 凌統は雪鳶のすっかり冷えた肩に手をかけ、「中へ戻ろう」と促した。考えてみると、凌統から雪鳶に触れたのはそれが初めてだった。それ以降、心なしか雪鳶との距離が縮まり、診療のあとに茶など出してくれるようになった。
 炉で温めた手で凌統の首筋を触診している雪鳶が、不意に顔を上げて「お腹空いてる?」と言った。
「腹? 別に……」
「葱油餅(薄いおやき)があるの。さっき隣のおばさんが買って持ってきてくれたんだけど、ひとりじゃ食べきれないのよ。食べる?」
 雪鳶は立ち上がって奥へ引っ込み、それから竹の葉にのせた葱油餅を持って戻ってきた。昼食を食べてから間のあいた腹には、まだ温かい葱油餅が漂わせる匂いはひどく魅力的だった。促されるまま凌統は一枚取り、口に入れた。
「懐かしい味がする」
 奥歯で柔らかい生地を噛みながら呟くと、雪鳶が片方の眉を持ち上げて「そう?」と言った。
「子どもの頃は、うちじゃ店で買ったものをあんまり食わせてくれなかったからね。父上と一緒に出かけた時に、母上には内緒で買ってもらって食べるのが好きだった」
「そうなの」
「雪鳶さんは、ずっとこの辺に?」
「ええ。生まれも育ちもここよ。亡くなった父から診療所を引き継いだの。父は若い頃には宮廷で仕事をしたこともあるけど、結局合わなかったのね。こっちに戻ってきてから結婚したの」
 宮廷の医者ときくと大層なようだが、組織は大所帯で、太医令以下医学生に至るまで大勢が属している。皇族の診察をする高名な医師などほんのひと握りだ。加えて官吏である医官は男子のみで構成されるので、雪鳶がずっとこの町に住んでいるというのも納得がいった。
 雪鳶に惹かれているのは、きっと彼女が「下町育ちにもかかわらず」ではなく、「下町育ちだから」だ。江南といえども比較的上流で育った凌統にとって、女性の賢さと優雅さはほぼ同義だった。聡明であるということは、多くを語らないということだった。物言わぬ賢明さに慣れていた凌統にとって、雪鳶の多弁で速度の早い悧発さはまるで知らないものだったのだ。
「お父さまはお元気なの」
 茶を注ぎながら雪鳶が言った。
「いや、うちも少し前に亡くしたよ」
「そうだったの。亡くした直後は大小の用事に忙殺されるけど、落ち着いてから急にさびしくなるのよね」
「ほんと、そうだね」
「お父さまは何をなさっていたの」
 茶をひと口飲み、凌統は考えを巡らせた。
 そういえば、まだ素性を明かしていないのだった。実をいうと偽名すら名乗っている。自分ではそうしているつもりはないが、下町を歩いていると自然と人目を引くというか、早い話が周囲に馴染んでいないという自覚は凌統にもあった。そういう状態で、凌姓だけならばまだしも下の名まで明かせば、まもなく正体がわかってしまうだろう。
 配下のうち、父の代から仕えている年嵩の者たちは「若さまのお忍び歩き」とからかうが、実際のところ凌統はすでに「若さま」ではなく棟梁にほかならない。そういう身分が知れ渡ってしまえば、いままでのように気楽に界隈を歩き回ることはできなくなる。
「ええと、軍人?」
 色々考えたが、真実を織り交ぜた嘘でないと矛盾が大きすぎると気がついた。
 商人。手広くやっている商人ならば、昔からこの町に住む雪鳶にわからないはずがない。
 官僚。中央の威信は風前の灯だが、とはいえ地方官は組織としては存続している。だが子どもの頃からこの町に馴染みがあると言ってしまったから、赴任の身というのは不自然だ。地方官に仕える地元出身の役人ならばいけるかもしれないが、所属を問われると辻褄合わせが難しくなる。
 結局軍人あたりが曖昧で好都合だった。小規模な豪族ならこのあたりにも大勢いる。所属も官吏よりは流動的だ。
「そうなの。お育ちが良さそうだから私塾の先生とかかと思った」
 その手があったか。凌統は思わず葱油餅を咀嚼する動きをとめた。
 近頃は世俗から離れて研究に没頭する隠者も珍しくない。同好の士とばかり交流するから、一般ではあまり知られていなくても不自然ではなかった。
 だが、学者の子というのは凌統の描く自画像とかけ離れたような気がして、思わず笑った。
「そんなふうに見えるかい、俺」
「どうかな。そう言われても、違和感はないかもね。だってひと目でわかるもの、この辺の町中で育った人じゃないって。ざっくばらんに振る舞っても、ちゃんとした家の出身だっていうのは匂いでわかるものよ」
 雪鳶の言うことは褒め言葉に入るのだろうが、凌統には疎外感のようなものが感じられ、あまり良い気分はしなかった。
 凌家はこの辺りでは顔だが、主人である孫家の麾下には江南の名だたる名家の出身者が参入しはじめた。その中では古参だが中堅といったところだろうか。ある意味警戒心を抱く必要のない存在ということで孫権には気に入られているが、陣営内で発言力があるわけではない。父親の後ろ盾がないという心細さもある。
 どこへ行っても寄寓の身のように感じられる。こういう拠り所のないさびしさを、彼らは知らないだろう。凌統が郷愁を感じるこの町で、人々から凌統へ向けられるのは他人の眼差しなのだ。
 気持ちを切り替えたくなって、凌統は話題をかえた。
「そういえばこの前のやくざ者、もう来てないかい」
「お陰さまで。でも良くない噂は聞いたわ。正月に向けてもうじき取引が盛んになるでしょう。年の瀬は毎年人手不足で、人足の奪い合いになるの。働き手のほうは昔なじみの業者に仲介を頼みたがるけど、あの請負師が同業者と人足両方に脅迫まがいのことをして労働力を独り占めしようとしてるって話。人づてに聞いただけだけど、まあ八割がた真実でしょうね」
 凌統にとっても歓迎できない話だった。行政はほとんど文官が担っているが、領内で騒擾が起こればそこを故地とする軍官にとっても汚点にはなる。
「迷惑な話だね、まったく。この辺は食べ物も多いし物も不足していないってのに、何で揉めるかな」
「お金がほしいからでしょうね」
「ひとりで独占したって結局発展の規模は小さくなるってのに」
 市場というものは、大規模な一業者による独占よりも中規模業者が林立しているほうがよい。競争によって得られるものも大きい。
「金を惜しむくせに、肝心の損得勘定はできてないってやつだね」
 目先の損得にとらわれて、長期的には損をする人間は多い。ちゃんと計算すりゃわかるのに、と凌統は吐き捨てた。
 昔、父の知人が嘆くのをきいた。土地を豊かにしようと開墾しても、最初の数年のあいだ農民をそこに留まらせるのが難しい。安定して米を収穫できるまでのあいだに農民が逃げてしまったり、勝手にほかの作物を植えたりする。将来を見据えた忍耐というのがわからないらしい。幼い凌統ですら理解できた理屈だ。
 しばらく黙ってきいていた雪鳶が、不意に口を開いた。
「みな豊かになりたいのよ」
 堪えきれない冷笑が漏れるのを、凌統は自覚してもとめられなかった。
「そのせいで結局みな貧乏になるかもしれないのに?」
「それでもよ。頭ではみなわかってるのよ、長い目で見たら損なこともあるって。ひと月分の米をまとめて買ったほうが得だって。まとまった資金があったらそうしてる。でも現実には三日分の食料を買うしかないの。賢い方法じゃないってわかってても」
 雪鳶の口調は穏やかなままだ。しかし凌統は居心地が悪くなった。
 相手が直接的に批判しているわけでなくても、育ちの良さに対する負い目を感じることがある。だから下町を歩く時は気をつけているつもりだったが、気づかぬうちに雪鳶の前では気が緩んでいたらしい。凌統は、教育を受けた彼女のことを勝手に「こちら側」として扱ってしまったのだ。聡明な雪鳶はそれに気づいたのだろうし、そのことをやんわりと拒絶している。その構図に気づかぬほどの鈍感さは凌統にはなかった。
 凌統はにわかに恥ずかしくなった。
 好いているとも何とも言っていないが、ふられたような思いがする。
「ああいう連中のやり方を許容するわけじゃないけど、豊かになりたいという思いはみな持っているものだわ。ここは農村ほど苦しいわけじゃないけど、それでもみな月ごとに晦日になれば支払いのことで頭がいっぱいになるし、新年が近づけば年越しの出費に追われるの。少しでも儲けたいという願い自体は共通のものよ」
 雪鳶はわからずやの坊やを見るような笑みを凌統へ向けた。
「だから私、言わないようにしていることばがあるの。どうしてもっと早く診せに来なかったんだ……ってやつ。言われなくても、痛いほどわかってることだものね」
 いたたまれない思いに包まれた凌統は、次にどうすべきかを混乱する頭で考えた。理屈でいえば、不用意なことばを言ってしまったと真摯に謝罪するのが「正しい」。だが凌統は、親に愛され、裕福に育ち、素朴な正義感をもつ人間だが、かといって聖人ではなかった。
 一、素直に詫びる。道義的に正しい振る舞いだが、真正面から詫びてしまえば絶対に関係はこれ以上進まない。雪鳶は「善い人ね」となるかもしれないが、それは「良い男ね」と同義ではない。この場面という短期的な状況においては正しい行為だが、長期的に考えると何の利点もない。詫びるのはなしだ、と凌統はまず否定した。そもそも凌統自身間違ったことを言ったわけではないと思っているので、詫びなければというほどの自責の念は感じていない。
 二、反論する。これもありえない。雪鳶を言い負かしたところで一瞬胸はすくかもしれないがそれでさようならだ。
 三、冗談でごまかす。これは確実に嫌われる。
 思案の果て、育ちの良い俗物である凌統が選んだのは、「四、勢いで押し切る」だった。
 不意に雪鳶の手首を掴み、驚く彼女を真剣な目で見つめた。
「俺はただ、頭に来てね」
 雪鳶は掴まれた腕を引き寄せて距離をとろうとしたが、腕にくっついて凌統まで近づいてきたので目を丸くした。
「別に、あなたに怒ってもらう話でもないってば」
「世間のみなはともかく、あんなやくざ者は雪鳶さんが心中慮ったところで露ほども気にしゃしない連中だぜ。思いやりを、その真意に気づかず弱さだと解釈するようなやつらだ」
「あなたも私の気遣いを親しみと解釈していると思う」
「俺は、」
 ほとんどのけぞりそうになっている雪鳶にぐっと顔を近づけ、鼻先の触れそうな近さで凌統は覗き込んだ。
「ただ、あんたを守れたらいいなって」
 いま一番危険なことをしている人間が何を言っている、とは自分でも思っている。一か八かで凌統が口を寄せると、雪鳶は一瞬くちびるを震わせ、重なるか否かという時に身を引いた。それを凌統が追ったので、彼らのからだは重なり合うようにして床へ倒れた。
 勝算がなかったわけではない。雪鳶の身の上を侮るわけではないが、事実として彼女の護りは凌統の周囲にいる女性たちよりも薄い。淑女でもなければ「はすっぱ」でもない……凌統の分析は正しかった。独立独歩の人生を歩む彼女は、体面を保ちつつ、同時に自分で相手を見つけなければならない。初めの相手が理想通りというわけにもいかないだろう。うまく篩にかけながら、数人とは関係をもったはずだと凌統は踏んだ。
 とはいえ玄人でも遊び人でもない雪鳶は、絡み合う中に少女のような恥じらいを示した。理性の女だ。乱れるうちにも思い切りがなく、それが凌統には好ましく思えた。
 しばらくののち、彼らは脱いだ着物を素肌に掛けて仰向けに寝転び、呼吸を整えていた。雪鳶は片腕を頭の下に敷いて、ぼんやりと天井を見つめて呟いた。
「こんなつもりじゃなかったんだけど」
 それから、顔を凌統のほうへ傾けた。
「あなたは最初からそのつもりだったのよね」
「あれ、やっぱりばれてたのか」
「わからなきゃ馬鹿よ。からだの不調のことも、どこまでほんとうなんだか」
「ほんとうだけどね。胸がどきどき」
 雪鳶の手の甲が力なく凌統の頬を打った。
「喉が渇いて体力が落ちてるってきいた時は、私は本気で心配したのよ。若いのに気の毒だって。すぐにおかしいと気づいたけど、気づかないふりをする程度には期待したのよね、きっと」
「ほんとかよ。すごいな、全然気づかなかったよ。騙されたね」
 前髪をいじりながら天井を見上げていた凌統は肩を揺らして笑い、それからふと真顔になった。
 このあとの展開について何も考えていなかった。病気が嘘だということが名実ともに明るみに出た以上、診療を建前にすることはできない。ふつうに訪うにしても、恋人か友人かもわからないのでは口実がない。
 凌統はからだを横向きにした。
「俺たち、これからどうなんの」
 雪鳶は少し考えてから凌統に背を向け、気怠げに言った。
「さあ。どうにもならないでしょ」
 その声がいかにも「ひと眠りするから話しかけないで」といった感じであったので、凌統はふてくされて雪鳶の背中にはりついた。雪鳶は一瞬煩わしげな視線を後ろへ送ったが、何も言わずに目を閉じた。
「俺たちって似てると思わないかい」
「……かもね」
「最初からそう思ってたんだ。俺の所在ない感覚を、あんたならわかってくれるって」
 孫家の家中でも身の置きどころがなく、下町の喧騒の中でもそこが自分の居場所ではないような思いを抱く凌統と、高度な教育を受けながらも女であるがゆえに医者としての出世は望めず、庶民ひしめく下町の一角で暮らしている雪鳶はきっと同じ感覚を共有している。大勢のひとの中で暮らし、孤独ではないにもかかわらずどこか寄寓しているようなさびしさだ。ほかに帰る場所がないのは明白なのに、ここが自分の世界ではないような気がする。
 しばらく黙っていた雪鳶だったが、やがてからだに回された凌統の腕を「あのね」とほどいて起き上がり、彼の顔を見下ろした。
「私のそれは運命だけど、あなたのそれは単に父親を喪って矢面に立つようになったけどまだ周囲に馴染めてないってだけだから」
 自分の下唇を指でいじって雪鳶のことばを反芻していた凌統は、少し考えてからパチ、と音を立てて手のひらで口を覆った。
(まじか)
 言われてみればそうかもしれなかった。
 凌統の疎外感や寂寥感は、生まれつきのものではなかった。父の実直な愛と母の優しさに包まれ、何の疑問もなく満たされた幼少期を過ごした。当時周囲にいた人々はいまもいて、立場は変わったが同じ世界、同じ論理を共有している。ただ求められる振る舞いが変わったことに凌統自身が対応できていないだけだ。
 一方で雪鳶の漂泊の感は、父子ふたりで市井に暮らした頃からすでにあったものに違いない。親を亡くす悲しみに優劣はないが、見ているものが異なる人々のなかで、世界を共有できるただ一人の相手であった父との別れは、単なる死別以上の意味があっただろう。
「嫌味じゃないのよ」
 立てた膝に顎をのせ、雪鳶が呆れたような微笑を凌統へ落とした。
「だけど一緒にはいられない。だって私、あなたを見てると傷つくもの。あなたが育ちの良さを垣間見せたり、味方でいてくれる大人たちの存在を匂わせるたび、勝手に辛くなるの。あなたが幸せでいるのを祝福する気持ちに嘘はないけど、心穏やかでいられるほど能天気でもない」
 その時まで、自分がただ自分であるというだけで誰かを傷つけていることを凌統は知らなかった。嫉妬は雲の上に向かってはおこらない。手を伸ばせば届きそうな距離の、ほんの少しの掛け違いで自分には手に入らなかったものに対して湧き上がるものなのだ。その意味では、末端とはいえ宮廷に出入りした父に教育を受けた雪鳶が、名士ではないが小豪族の長子である凌統に複雑な感情を抱くというのは不自然ではなかった。自分のその感情を分析できてしまう雪鳶は、隣近所で暮らす親しげで明るい人々の瞳の奥に対しても無感動ではいられない。
 たしかに彼女は寄寓の身といって差し支えなかった。凌統と違って。
「俺、無神経だった?」
「いやぁ、どうだろ。まぁ、そういう能天気なお坊ちゃんならではの優しさとかおおらかさというものがある、ってのも事実だから。悪いことばかりじゃないかもよ」
 立てた片脚を抱きかかえ、白い膝小僧に頬をのせて笑う雪鳶の白い背中が、実際によりも遠く感じる。急にいとおしくなって、凌統はがばと起き上がると雪鳶の薄い肩に唇を押しつけ、そのまま言った。
「俺、あんたと結婚できるよ」
「できるって何。許容の問題?」
「境遇の問題。だって、名家の令嬢じゃなきゃ見合わないってほどの家格じゃないから」
 それは真実だった。
 雪鳶にはまだ素性は明かしていないが、もしかすると彼女は実際よりも凌統の家を名家だと思っているのかもしれない。たしかに凌家はこの近辺ではそれなりの大物だが、勢力を超えて華北とも繋がる名士の交友網には属しておらず、学問の徒を出したこともない。彼女の場合すでに実家のないのが難点だが、医者の娘との婚姻は別段不釣り合いでもなかった。
 雪鳶は爪先の向こうの床を眺めながら、向こうずねを細い指で掻き、「どうだろう」と濁した。
「その場合、診療は続けられる?」
 どうだろう、と今度は凌統が煮えきらなかった。
 凌家と同じような家柄で、もとはお針子だった夫人を知っている。芸妓上がりもいた。たしか、街角でマントウを売っていた女も。町人出身というとそんなところだが、結婚後も同じ仕事を続けている者はいなかった。
「……そうよね」
 雪鳶は反対の頬を膝につけ、凌統から顔を背けた。
「あなたの奥さんになるより医者を続けるほうが幸せだってわけじゃないよ。別に使命感で医者やってるわけじゃないしね。正直儲からないし、急な患者は昼夜を問わないし、場合によっちゃ『縁起が悪い』とか言われるしね」
 どうしても死がまとわりつく家業だから、「先生」と呼ばれつつも社会的地位はあまり高くない。
「でも、どうせ実感のないまま生きていくなら、好き勝手やって生きていたいという気がするの」
 選択の余地なしに、凌統はいまの立場で仕事を重ね、父からのお下がりではない関係を周囲と築いていく。そんな凌統のそばで、はたして雪鳶が同じように根を張っていけるかどうか。
 凌統はそっぽを向いている雪鳶の肩甲骨に頬をのせた。耐え難い失恋の重みではなかったが、やはり自分たちの道はほんのいっとき交差しただけで、将来に亘って寄り添うことはないのだというたしかな実感があった。
 いつしか外は小雨が降りはじめている。細かな水滴が木々の葉で跳ね返る優しい音を聴きながら、凌統は炉の上に揺れる陽炎を眺めていた。
 しばらくして彼は顔を上げ、雪鳶の髪の奥にきつく口づけてから床に散らばる衣服を取った。
「それじゃ最後に贈り物をしてあげるよ」
 同じく袖に腕を通しながら、雪鳶が「贈り物?」と笑った。
「いったい何をくれるの」
「それは内緒、ってね。でも、そうだね、ここでずっと生きていく雪鳶さんが、少しばかり生きやすくなることかな。俺を治してくれたお礼にね」
「治してないわ。病気じゃないもの」
「いや、治ったんだよ」
 服を整え、雪鳶に髪を結い直してもらってから、凌統は診療所を後にした。
 後日、雪鳶は出先から戻ったところを隣家の夫人に呼び止められて、港でおこった事件の顛末を聞かされた。近頃強引な手法で同業者を圧迫していた請負師の屋敷に、取締の手が入ったらしい。威勢のよい郎党を引き連れて大立ち回り、屋敷のなかをひっくり返して捜査をし、ついには地面に平伏して許しを請う請負師に公正な商売をすると証文を書かせたその若者は、凌家の棟梁を名乗ったという。


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