稲妻11-Thanks! | ナノ


 ナイツオブクィーンが公開練習を行うと聞いて、マークはディランと連れ立ってイギリス代表の偵察に行った。もっとも偵察とは名ばかりで、実際はただエドガーを眺めるのが狙いである。
 マークとエドガーは所謂恋仲にある。海を跨ぐ遠距離恋愛でなかなか直接は会えないが、マークはエドガーを心の底から愛していた。だから此処ライオコット島でFFIが開催されて、世界各地から選び抜かれた参加国に、アメリカとイギリスが共に名を連ねたのは幸運だと思った。
 開会式での整列の際、一瞬だけエドガーと目が合った。会えなかった分の寂しさや愛しさを込めて微笑むと、マークの笑顔がよほど甘かったと見えて、エドガーは恥じらってそっぽを向いてしまった。久しぶりに向けられる素直でない態度も可愛らしく、マークの頬は緩みっぱなしになってしまった。
 スタジアムのような衆人環視の場所ではなく、本当は二人きりで逢い引きしたいものだが、お互い母国の誇りと名誉を背負う身の上のため、大会開催期間中は叶わなそうだ。マークはアメリカ代表としての自覚を持って、そのことを理解しているつもりだった。
 だから直接会う機会がなかなか訪れなくても、恋人の元気な姿を遠くから見ているだけで、マークは満足できるはずだった。満足すると思っていた――少なくとも、このときまでは。


 二人がイギリスエリアに着いたとき、専用グラウンドにはナイツオブクィーンのメンバーが散らばって、二人一組になってストレッチをしているところだった。
「なんだ、まだ始まっていないのか」
「マークのハニーはどこかな?」
 アメリカのスター選手二人の思わぬ登場に、ざわめく見物人を意にも介さず、マークとディランはフェンス越しに目的のひとを探した。お目当てのエドガーは目立つのですぐに見つかった。
「マーク、あそこ!」
 子供のように歓声を上げたディランが、指差した先を見たマークは、元々大きな目を更に見開いてそこを凝視した。
「…何をしているんだ…?」
 マークは思わず顔をしかめた。長い脚を抱えられたエドガーが、芝生に押し倒されているところだった。真っ昼間のグラウンドで目撃するにはあまりに刺激的な光景に、マークは絶句する。信じがたいものを見てしまった気分だった。
「…柔軟体操みたいだけど」
「柔軟?あれが?」
 しかしよくよく観察すれば、その体勢はエドガーの得意技、エクスカリバーのために必要な準備体操だと理解できる。しかし愛しい恋人が、自分以外の男の前で大股開きをしているところなど、とても見ていられない。グラウンドの内外を隔てるフェンスがなければ、はしたないと叱りに行っていたかもしれない。
 ――そのとき、エドガーとペアを組んでいた少年が、マークの熱の籠もった視線に気づいて顔を上げた。北欧の人種らしく色白の真面目そうな少年だ。少年はマークの動揺を察するや否や、エドガーの脚に頬を寄せて、勝ち誇った表情で笑った。
「…っ…!」
 少年のあからさまな挑発に、マークの頭に一気に血が昇る。余裕の嫌味を食らったマークの頭の中で、何かがぶつりと焼き切れる音がした。

「…ディラン、帰るぞ」
「えっ、もういいのかい?」
 確認を取るディランを無視してマークは踵を返し、今来たばかりの道を早足で戻る。「待てよ」と言って駆けてきたディランは、マークの顔を覗き込んで口笛を吹いた。
「オー、マーク…今のユーの顔、スッゴイ怖いよ」
 ハンサムで爽やか、と評判のマークとはとても思えない鬼の形相だった。嫉妬に燃え狂う己の激情をマークも自覚している。
「だろうな。オレは今猛烈にイライラしている」
 自分の預かり知らぬところで、見知らぬ男に触れられているエドガーがいる。少年の挑発はマークの独占欲に火を付けた。エドガーもエドガーだ。己の立場を一度じっくりと教え込まねばなるまい。
「…オシオキはほどほどにしてあげなよ?」
「善処する」
 そうディランに答える一方で、マークはエドガーを呼び出す口実や呼び出した後にすることを、頭の中で考え始めていた。


 その日の夕方。一体何処から探し当てたものか、イギリス宿舎の裏手にある人気のない倉庫に呼び出されたエドガーは、黙りっぱなしのマークを前に戸惑っていた。ぴりぴりと張り詰めた空気に耐え兼ねて、エドガーは躊躇いがちにマークに尋ねる。
「お前から呼び出しておいて…何を怒っているんだ…?」
「身に覚えがないのか。それはいい」
 マークはそのまま顔色ひとつ変えずにエドガーの足を薙ぎ払った。不意打ちを食らったエドガーは体勢を崩してその場に倒れ込む。
「…っ!マーク…何をっ!」
 慌てて身を起こしたエドガーを、マークは力任せに床に縫い止めた。常にないマークの手荒な扱いにエドガーは本能的な恐怖を覚えた。不自然にぎらつく眼光が、怯えるエドガーの表情を捉える。
「エドガーは無防備すぎるんだよ。そのせいでオレがどれだけ心配して不安な思いを味わっているか、お前は知らないんだな」
「く、あっ…!マークッ!やめろ…っ!」
 エドガーの抵抗を力で抑えつけたマークは、手首を捻り上げ二つ纏めて柱に縛り付けてしまう。剥き出しの太腿を緩やかに撫でるマークの手付きに、これからされることを察してエドガーは戦慄した。
「一度しっかり教えてあげないとと思ってたんだ…大人しく言うことを聞いていた方が身のためだぞ?」
 そう忠告するマークは笑みを浮かべていたが、エメラルドの目は冷たくて、少しも笑っていなかった。
 ――わたしはマークに犯されるのだ。


「っひ…く…ぅ、んっ…うぅ…」
 大きく脚を開かされたエドガーの後孔には、男性器を模した玩具が突き刺さっていた。バイブは不快な機械音を発しながら、規則的な微動でエドガーを責め立てる。
 振動させるだけでは飽き足らないマークは、時折思い出したようにバイブを掴んで抜き差しした。亀頭と同じ形の先端が、感度の高まった内襞をずるずると擦り上げる。その度にエドガーは悲鳴じみた嬌声を上げて、背筋を快感に仰け反らせた。
「っくぁ…あっ、はぁっ…!」
「随分良さそうだな。男の形をしていれば何でもいいのか?この淫売」
「ん…ぁ…、ちが…っ…」
「違わないさ。こんなに美味しそうに玩具を飲み込んで…エドガーのペニスも勃起して、涎まで垂らしてるじゃないか」
 天を仰ぎ透明な先走りを溢れさせている肉棒を、マークは無造作に掴んで上下に扱いた。突然与えられた性器への愛撫に、エドガーは目を見開いて全身を緊張させる。
「ん、ぁあっ!やっ…触るなぁ…っ!」
 根元がリングで戒められているため、射精の快感は全て激痛に変わってエドガーを苦しめる。達するに足る刺激を与えられているのに、達せない苦しみに身悶えるエドガーを、マークは無表情に責め続けた。
「…今朝の練習、見に行ったんだけどさ」
「ん…ぅあ…ひっ、ん…くっ…」
「一緒に柔軟してたのは誰だ?随分仲が良さそうだったな」
「…ん…ぁ…フィリップ…?」
「フィリップって言うのか…アイツ、ムカつくな。絶対にエドガーに惚れてるだろう」
「…フィリップは、そんな…ぁ、はぁ…」
「…そういうところが無防備なんだって、いい加減気づいてくれないか?」
 マークは失望したように深い溜息を吐いて、おもむろにバイブの振動を最大にした。
「あああっ!ひぁっ、んぁあ…っ!」
 内壁を無遠慮に掻き回されるエドガーは一溜まりもなかった。暴力的ともいえる強引な刺激に、エドガーは髪を振り乱して泣き叫んだ。体の中を直接揺さぶられて、頭が真っ白になる。
「アイツ、エドガーを犯したくて堪らないって目をしてた」
「ぅあっ…!マークッ…ああっ…!」
「オレと同じだから、わかる」

「あぁ…っ!マーク…やぁ、ん…壊れる…!」
 エドガーは唯一のよすがであるマークに縋るものの応えてはくれない。それどころかマークは激しく震える玩具を掴んで、更に奥へ達するようにぐりぐりと深くねじ込んでくる。
「っひぃん!うぁあぁっ…んっ、ああー…っ!」
 バイブの先端を前立腺に押し付けられた瞬間、エドガーは射精できないまま、乾いた絶頂を迎えた。


「涙も涎も垂れ流しで、酷い顔だなエドガー」
「…ふぅ、うっ…ん…っ…」
 顔を背けようとするエドガーの顎を捉えて、マークは無理矢理正面を向かせた。
「今の姿を写真に撮って送り付けてやったら、アイツはどんな顔をするかな?」
「…っ…!それだけは、許してくれっ…!」
 エドガーの必死な懇願をマークは鼻で笑い飛ばす。
「…冗談だよ。こんな愛らしいエドガーをアイツに見せる気はない」
「っあ!は…ぁあっ…んああっ!」
 引き抜かれた玩具の代わりに、エドガーの中にマークの熱が押し入る。新たに挿入された質量を身体に馴染ませる間もなく、脚を抱え上げての激しい律動が始まった。マークの肉棒は玩具よりも的確な角度で、エドガーの敏感な粘膜を擦り上げる。達したばかりの身体に与えられる強い刺激に、エドガーは身も世もなく喘ぎ身悶えた。
「ふっ…う、あぁ、ん…っ!」
「今までバックからしかしたことがなかったけど…正常位もなかなかいいな。エドガーの恥ずかしいところが全部見える…」
「ん…あぁ…マーク…んあっ…あ…!」
 腹の間で揺れる真っ赤に充血したエドガーの性器を、マークは戯れに指で弾いた。器具によって射精を禁じられたままのそこは、限界にまで張り詰めた今は、たとえ触れられたとしても激痛しか生み出さない。端正な顔立ちを真っ赤に染め上げて、いっそ哀れなほどに乱れるエドガーの姿は、マークの嗜虐心を大いに満たした。
「…こんないやらしい姿、オレ以外の男に見せたらいけないよ?」
「あっ…ん、はぁっ…!あぁっ…」「約束だからな。約束を破ったらどうなるか…もうわかるよな?」
「…わ、わかった…からぁ、もう、許して…ッ」
 大粒の涙をぼろぼろと零してエドガーはマークに許しを請うた。下肢で同時に生み出される痛みと気持ち良さで、訳がわからなくなっているのだろう。子供のように泣きじゃくり、マークに言葉で縋り付く。
「…エドガーは、オレが好き?」
「んっ…すき…好きだから…マーク…っ!」
「オレもエドガーが好きだよ。愛してるんだ…誰にも渡さない、絶対にね…」
 正しい答えをきちんと言えたご褒美として、マークはエドガーの戒めを外してやった。しかし限界を越えてなお我慢を強いられていた肉棒は、根元の拘束を解かれても精を放つことができない。
「っひ…!あぁ、やっ…いけない…っ、ぁあ…!」
 射精できない苦しさに泣き出すエドガーを、マークは優しく抱き締めた。涙に濡れた顔にキスを落としながら、宥めるようにゆるゆると勃起を撫で回す。同時に深く体内を蹂躙すると、エドガーは何とも甘い声で善がり鳴いた。
「…んぁっ、あん…マーク…あぁ…ん!」
「どうだ?ちゃんとイケるか?」
「あぁ、ん…イく……あぁっ…!」
 エドガーの内壁がぐっと窄まって、マークを強く締め付ける。肉の悦びに感極まったエドガーは腰をぶるりと震わせて、多量の白濁を腹部に吐き出した。
「ん、はひっ…はぁ、ん…っ」
 一度では終わらない射精にエドガーは全身を引きつらせ、ひくひくと痙攣する肉筒の奥にマークも濃厚に種付けた。
 エドガーの中から萎えた性器を引き抜くと、だらしなく口を開けた穴から残滓が一緒に溢れ出した。忘我の表情で絶頂の余韻に浸るエドガーを見下ろして、マークはにこりと微笑みかける。
「…これに懲りたらもう少し身の振る舞い方を考えるんだな」



 エドガーを置き去りに倉庫を後にしたマークを、意外な人物が待ち受けていた。
「そういうの、不法侵入って言うんですよ」
 物陰から現れたのは、グラウンドでマークを挑発した男、フィリップである。ブルーグレーの瞳を鋭く細めてフィリップはマークを睨み付けた。今し方倉庫の中で行われたことを知っての憎悪が、フィリップの眼差しに轟々と渦巻いている。率直に向けられる敵意をマークは鼻であしらった。
「監督にでも言い付けるのか?他国の闖入者にキャプテンが犯されましたって」
「…っ…!」
 フィリップの白皙に朱色が散る。愛しい人を屈辱的に揶揄されて、頭が沸騰しそうになる。手を上げたくなるのを理性で抑えて、フィリップは唇を噛み締めた。
「…この下衆が、」
「何とでも言えばいい」
 射殺すような視線にもマークは動じない。フィリップから向けられるあからさまな憤怒の感情が、今のマークには心地良くすらあった。
「騎士気取りも結構だが…勘違いも程々にするんだな」
 エドガーを甘やかして大切にすることしか知らないフィリップとは違う。エドガーのことを誰より手酷く深く愛していけるのは自分だけなのだという自信が、マークの微笑みを肯定していた。


「エドガーはオレの所有物だ。手を出したら殺す」

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