稲妻11-Thanks! | ナノ


 帰国を翌日に控えたその夜に、熱戦を繰り広げた選手たちの発案と企画運営で、健闘を称え合う交流の一席が設けられた。各国キャプテンは基本的に出席、後は希望者が来ればいいし遅刻早退ご自由に。規則のあまりない緩い形式は、この年頃の少年たちの趣向によく合った。一夜の懇親会は盛況となった。

 ――そしてこの懇親のための夕食会は案の定、夜が更けた頃には酒盛りに変わることとなる。大会の運営側に発覚でもしたら大変なことになるが、各国でも飛び切り悪知恵の働く奴らが結託して巧妙な予防線を張っているらしく、参加者は心置きなく騒ぐことができた。


 この酒の流れの中で、諸事情あってテレスはエドガーと寝ることになった。
 切っ掛けはベロベロに酔っ払ったマークとディランが公然と濃厚なキスを始めたことにある。二人が本当にそういう関係にあるのか、それともアメリカ流のスキンシップなのかは分からない。どちらにしろあまり違和感がないのが空恐ろしくはある。
 それを止せばいいのにフィディオが煽ってしまい、あれよあれよという間に経験済みか童貞かという話題になり、幾つかのグループを渡り歩いた末に同じ話がテレスにも振られた。
 浮ついた話題が得意ではないテレスは、その場を適当な言葉で誤魔化した。そこに横槍を入れたのがエドガーで、鼻に付く物言いに腹が立ったテレスはつい応戦してしまった。テレスとエドガーは根本的に気が合わないので、些細なことですぐに口論に発展してしまう。売り言葉に買い言葉で言い争いをした末に「セックスをする」という陳腐でふざけた結論に至ってしまった。
 二人はもう馬鹿馬鹿しい話だと気づいていたが、相手の手前こちらが折れるのも癪に障る。お互いに強がり続けた結果、ベッドの置かれた個室に二人きりという、もう後戻りのできない状況にまで自分たちを追い込んでしまった。

「言っとくがオレはお前みたいな男女に突っ込まれる気はねーぞ」
「わたしだって貴様のような筋肉の塊を抱く趣味はない」
 というわけでテレスが抱く側、エドガーが抱かれる側にと、役割はすんなり決まったのだが、どうにもお互いに初体験くさい。ただテレスもエドガーも突っ張って、それを素直に口にしないものだから、なんともぎこちない手探りのセックスが始まった。


 裸に剥いたエドガーの身体は、どこもかしこも生白くてガリガリに痩せていた。ユニフォームを着た状態で見ても、相当華奢な奴だと思っていたが、アンデスの屈強な男たちの肉体を見慣れたテレスには、エドガーの裸体は実物以上に貧相に思えた。
 こんなに薄くて軽そうな身体でサッカーができるのか――実際にエドガーは世界を相手に活躍できる一流のプレイヤーで、それはテレスも認めるところなのだが、ピッチに立っていることが信じられなくなるほどその体つきは心許ない。
「エドガー…お前……」
「…何だ?」
「もっと食った方がいいぞ」
「余計なお世話だ!」
 素早く飛んできた脚蹴りを優れた反射でテレスはかわし、そのままエドガーの足首を捕らえて次の攻撃を未然に防いだ。驚いたことにエドガーの足首は、テレスが片手で掴めてしまうような太さだった。
 商売道具とも言える場所なのにと、テレスはぎょっとしてしまった。棒みたいなか細い脚から、あの凄まじいシュートが放たれるのかと思うと、なんとも不思議な感じがする。
「ったく、危ねーな…お前のキック力は尋常じゃねーんだから気を付けろ」
「っあ、貴様っ…脚を離せ…!」
「やだね」
「…ん、アっ!」
 こんな細っこい奴が率いるチームに、自分たちの鉄壁の守りが破られたのかと思って、今更ながらテレスは苦々しい気持ちに苛まれた。掴んだ足首を引っ張って引き寄せたふくらはぎに八つ当たりみたく噛み付く。エドガーの口から予想以上に艶めいた声が上がったので、そのまま興が乗ったテレスは、脚の他の部分にも歯を立てた。
「…貴様…それを、やめろ……」
「やめろって言う割には良さそうじゃねぇか」
 サッカーでできたのであろう、無数の古傷の残る肌を舐め上げると、エドガーの脚の筋がぴんと引きつった。奥まった場所にある蕾が見えて、テレスは思わず呟いてしまった。
「…小せぇ穴…」
「馬鹿者!そのように凝視するんじゃない!」
 明け透けなテレスの言葉に真っ赤になったエドガーから、すかさず怒号が飛んでくる。
「はいはい、注文の多いお姫さんだな」
「姫ではない!」
「はいはい」
 とはいえ見てしまったエドガーの蕾はあんまりに小さすぎて、テレスは内心焦っていた。自慢ではないがテレスの一物はなかなか大きい。こんな危うい場所に無理やり突っ込んだら、エドガーが壊れてしまうのではないかと、割と真面目に心配してしまう。

 取り敢えずよく慣らす必要がある。いくら経験がないとはいえ、男が女のように濡れないのは知っている。
 テレスはズボンのポケットからピンク色のチューブを取り出した。エドガーに胡散臭そうな目で見られたそれは、実際かなり胡散臭い色合いをしていた。
「…なんだそれは…?」
「部屋を抜けるときにレオーネ持たされた、潤滑剤」
「き…貴様!話したのか!」
「まさか。勝手に投げて寄越したんだよ…アイツもベロベロに酔っ払ってたから覚えちゃいねーって」
 それでもなお外聞を気にして、きゃんきゃんと喚くエドガーがいい加減煩わしい。短気なテレスはエドガーにのし掛かり、努めて低い声を装って脅しを掛けた。
「慣らされないまま突っ込まれたくなかったら大人しくしてろ」
「……っ…」
 恐怖を感じてエドガーが口を噤む。エドガーとて未通の後孔に男根を受け入れることの無謀さは理解している。準備せず無理に挿入されて困るのは自分の方だということも。テレスだって加虐趣味があるわけでなく流血沙汰にはしたくない。スムーズに事が済むならそちらの方がずっといい。

「ほら、慣らしてやるから、やりやすいように自分で脚広げとけ」
 テレスは突き放すように言い放った。流石に憤慨されるかと思ったが、エドガーはやがて観念したように両足を左右に大胆に開いた。激しい羞恥に潤んだ瞳が、似合わぬ強さでテレスを睨み付ける。
「これで、いいかっ…!」
「……っ…」
 まさかあのエドガーのM字開脚が見られるとは思っていなかったので、テレスも思わず息を飲んだ。貧相だ貧相だと決め付けていた脚も、付け根の方はまだ肉が付いていて柔らかそうだ。日に焼けない太腿が惜しげもなく開かれて、両脚の中心で震える半勃ちの性器も、根元に生える薄い茂みも露わになる。
 何より自ら秘所を晒け出すという仕打ちに耐えるエドガーの、恥じらいを押し殺して上気した表情がいい。テレスは唾を飲み込んだ。この期に及んで男に欲情できるか心配だったが、これなら全く心配ない。内心舌なめずりしてしまうほどだ。

「やればできるじゃねーか」
「うっ…屈辱だ…覚えていろ…」
 唇を噛み締めて悔しがるエドガーを後目に、テレスは準備に取り掛かる。チューブの中身を尻の谷間にたっぷりと塗り付けて、人工的に濡らしたそこへまずは人差し指を差し入れた。
「ん…う、ぁ…はっ…!」
 突然の挿入を拒む秘孔が侵入者をぎゅっと強く締め付ける。しかし潤滑剤の滑りが効いて、肉体の本能的な抵抗も虚しく、テレスの指は根元までぬるりと埋まってしまった。人差し指全体で感じるエドガーの体内はひどく狭くて熱かった。この中に肉棒を入れて突き動かしたらさぞかし気持ちが良いだろう。テレスは指をもう一本増やして、頑なな入り口を解すように動かした。ある程度スムーズに指の出し入れが可能になったところで、潤滑剤を注ぎ足して三本目を挿入する。
「…んっ…ひ、ぁ…ぁあ…っ」
 濡れた蕾を掻き回す度にぐちゃぐちゃとはしたない水音が響く。まるで自らそこまで濡らしたようで、エドガーはますます恥辱の淵に追いやられる。尻の穴に指を突っ込まれるなんて想像するだに悍ましい行為だが、存分に注がれた潤滑剤のお陰で痛みは殆どなく、体内の粘膜を直接撫でられる未知の感覚に、手足がぞくぞくと痺れるくらいだ。これなら繋がれるかも知れないとテレスに思わせるほどに、エドガーの後孔は男を受け入れるために広げられていった。

「…っあ…は……ふぅ…」
「穴も顔もいい感じになってきたな…」
「う、るさい!いれるならさっさとしろ!」
「…じゃー、遠慮なく…」
 テレスが取り出した一物を見たエドガーは、目を見開いてひっと息を飲んだ。
「き、さま…なんだその…醜悪なかたまりは…」
 エドガーが戦慄するのも無理はない。テレスの性器は同い年とは思えぬほど、たくましくて太いものだった。長さはエドガーと同じくらいだが、二回り以上胴回りが違う。それから何よりも色がどす黒く、根元に茂る陰毛も濃い。
「あ?今更怖じ気づいたのか?」
「な…そんなはず……」
 口では強がってみるものの、エドガーは今や完全に腰が引けていた。普段は偉そうにしているエドガーの、柄にもなく怯えた表情に気を良くしたテレスは、自身のいきり立つ勃起をエドガーのそれに擦り付けた。
「同じちんこでも全然違うんだな」
 エドガーは白人で色素が薄いから、性器の色にもくすみがないのだろう。いかにも上品な形をしたエドガーの幹に、テレスは張り出した自身の傘を押し付けた。エドガーの綺麗なピンク色の性器が、テレスの赤黒く充血した性器に虐められているようで、酷くいやらしい。
「や…やめろ…みだりがわしい…」
「んだよ…気持ちいいだろ?」
 先走りに塗れた肉棒同士が絡み合い、そこに直接的な刺激が生まれる。テレスはまだいけそうだが、エドガーはもう限界らしかった。テレスの亀頭に敏感な裏筋を強く擦られた瞬間、エドガーは全身を快感に震わせて呆気なく吐精した。
「ひっ、ん、あぁ、アーッ…!」
 エドガーの嬌声と共に、二人の性器に白濁が降り注ぐ。初めて見る他人の絶頂の場面にテレスは眩暈がしてしまった。達する瞬間のエドガーの表情の切ないことといったらない。射精の余韻に頬を染め、細い柳眉を悩ましげに寄せて、息を整えている今の顔も相当いい。

 テレスは弛緩するエドガーの両脚を抱え上げた。確認のため後孔に再び指を入れてみたが抵抗はない。これなら入ると思って、テレスははち切れんばかりに膨張した亀頭を、エドガーの蕾に押し付けた。丸い先端部がぬかるみにずるっと沈んだ。
「ひっ!い、ぁあ…あああ…っ!」
「…っく…きつ…」
 あまりの狭さにテレスも思わず呻いた。指を入れたときとは比べ物にならないほど、エドガーの中は余裕がない。収縮する開口部がきゅうきゅうと肉を締め付けるので、抜くに抜かれず進むに進められない状態だ。
「おいエドガー、力抜けよ…」
「無理を言うな…くっ…貴様、太すぎるぞ…!少し縮め!」
「お前こそ無茶言うなよ…」
 中途半端な状態で留まるテレスも辛かったが、雄芯に貫かれている最中のエドガーは更に辛い。エドガーは歯を食いしばって初めての挿入の衝撃に耐えている。股間の性器もすっかり萎えてしまって、苦痛と緊張に身体を強張らせている。本来の用途を異にしてたくましい男根を受け入れているのだから苦しくて当然だ。
「…まだ動くんじゃない、動いたら殺す…っ」
「物騒な奴だな…」
 引きつるような呼吸の合間に吐かれる言葉は、情事の最中の睦言とは思えないほど凶暴だ。そう言うエドガーの気持ちはわからないでもないので、テレスは言われたとおり大人しくじっとしている。
 質量に馴染んだ後孔の締め付けが和らいでくると、程よい圧力をもった肉壁に包まれているだけでも、かなり気持ちが良くなる。つい動き始めたくなる衝動を抑えて、テレスはエドガーの許可が出るまで根気強く待った。

「よ、し…いいぞ、もう動いても…っん、あ!はぁ、ああ!」
 お預けを解かれるや否やテレスは腰を突き上げた。エドガーの背中が弓なりにしなる。華奢な腰を掴んで更に奥を突く。
「や、いきなり…深い…あっ、ん…!」
 たっぷりと塗り込めていた潤滑剤のお陰で、挿送は容易になっていた。とろとろに熟れた熱い内襞が肉棒に絡み付いてきて、エドガーを抱くテレスを唸らせる。
「…っ…すげ…お前の中、本当に熱い…」
「く…あ…っ、はぁ、あ、ん……っ」
 夢中でエドガーを揺さぶる内に、テレスは腹の間で揺れる性器に気が付いた。さっきはすっかり萎んでいたのに、今は半ば立ち上がり蜜すら零している。テレスの剛直に肉筒を擦られて、エドガーが感じている証拠だった。物欲しそうなその様子を見かねて、テレスはそこに自然と手を伸ばしていた。
「ひ!あ、やっ…ああっ…!」
 エドガーの反り立つ肉棒を掴んで扱いてやる。上下に動かすだけの単調な刺激でも、エドガーは白い喉を晒して喘いだ。
 反らした胸の先端に乗る突起が妙に美味しそうに見えて、テレスは桃色のそこに噛み付いた。こりこりとした硬さの肉芽に歯を立てて、舌の上で転がしたり押し込んで潰したりする。
 乳首への愛撫を受けたエドガーが鼻に抜けるような甘い声で鳴いた。顔を上げてみればエドガーは、熱に浮かされた酷く淫らな表情をしている。
「ん?これがいいのか?」
「…っあ、ふあ…ん…っ」
「ちゃんと言われなきゃわかんねーよ」
 潤んだ眼差しがテレスを見つめた。透き通ったサファイアのごとき瞳にテレスの姿が映る。エドガーの切れ長の眦から涙が一筋流れ落ちた。
「んっ…きもちいい……テレス…もっと…」
 ――それは脳髄を直接叩かれるような衝撃だった。あの誇り高いエドガーが男相手に脚を開き、身を委ね、テレスの名前を切なく呼んで、更なる快楽を強請っている。蕩け切った表情といい、艶めかしくくねる肢体といい、テレスの雄の情欲を煽るのに十分すぎる媚態だった。
「馬鹿野郎っ!そんなに煽りやがって、どうなっても知らねぇぞ…!」
「ひ、あ、あぁっ!テレスっ…あっ!」
 テレスはエドガーの脚を大きく限界まで開かせて、更に激しく腰を打ち付けた。入り口ぎりぎりまで肉棒を引き抜いて、また根元まで一気に中に押し込む。その動作を繰り返して、エドガーの内壁を最大限に擦っていく。興奮した肉同士がぶつかり合う卑猥な音が部屋に響く。
「テ、レス…はぁっ…あ、テレス…あぁ…っ」
 エドガーの声は麻薬だとテレスは思った。普段口にもしてもらえない名前を呼ばれる度に、テレスの鼓動が早まっていく。腕を伸ばして縋り付くエドガーを、テレスは確かに可愛いと思った。
「…っ…エドガー…っ!」
「あ、やぁっ…あっ…いく、テレス…ああっ!」
 テレスの大きな手に扱かれて、エドガーは二度目の欲望を弾けさせた。エドガーの射精と共に蕾の入り口が、受け入れたテレスを絞るようにぎゅっと締まる。その絶妙な締め付けに極まったテレスも、エドガーの中で絶頂を味わった。
「エドガー…」
 荒く息を吐く唇にテレスは堪らず口付けたが、エドガーからの抵抗はなかった。



 背を向けてベッドの隅で眠る裸の背中が、妙な哀愁を醸し出している。乱れ髪が肌に張り付いているのが「致してしまった」ことを体現しているようでいたたまれない。
 なんというか、酔った勢いとはいえ申し訳なかった。エドガーは歴とした男だが、こういうときは傷物という言葉を当て嵌めるのが相応しいような気がしていた。
 冷静になってみるとかなり恐ろしい。イギリスの国の至宝に大変なことを仕出かしてしまった。良心の呵責に耐えかねたテレスは、たまらずエドガーに謝った。
「エドガー、悪かったよ。オレもやりすぎた。すまん」
「……」
 しばらくだんまりを決め込んでいたエドガーだが、テレスの何回目かの謝罪の後で、くるりと寝返りを打った。エドガーの目が据わっている。
「謝罪はいらない。だから責任を取れ」
「は?」
「貴様は酔った勢いに任せてわたしを傷物にしてくれた。このまま大人しくアルゼンチンに帰すわけにはいかない。男なら男らしく責任を取れ」
 エドガーは一息に言い放って蒼い瞳でテレスを見つめた。「責任?」とテレスは首を傾げた。
「責任って…プロポーズでもすればいいのか…?」
 テレスがぎこちなく尋ねると、エドガーはあっという間に耳まで真っ赤になった。エドガーのいう「責任」の取り方はプロポーズで正解らしい。
 なんだか面倒くさい奴に引っ掛かってしまったと思いながら、エドガーに詰め寄られるテレスは満更でもなかった。

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