稲妻11-Thanks! | ナノ


 近頃マークがつれない。
 夜、部屋を訪ねても「練習に障るから駄目だ」と突っぱねて相手にしてくれない。触り合うだけと言っても「精神が乱れるから駄目だ」と素っ気なく拒否されてしまう。
 代表合宿が始まってからというもの、マークは「お前はどこの修行僧なんだ?」と言いたくなるほど、性的な事柄に対して潔癖になった。
 間違いなくユニコーンのキャプテンに任命されたためだろう。マークは華やかな見た目に反して、責任感が異常に強く真面目な男だ。今は新生チームを引っ張ることに手一杯で、淫隈な行為に耽る余裕もないのだろう。
 しかしそれはマークの都合である。仮にも恋人だというのに邪魔者扱いされて、一之瀬は日に日に倦んでいた。合宿が始まってから二週間経つが、息抜きのキス一つすら許されていない。日本から帰国して久しぶりに再会できたというのに、思うようにイチャつけたのは最初だけで、それ以来一之瀬はずっとお預けを食らっている。
 こんなに可愛い恋人と衣食住を共にして過ごしていながら、我慢を強いられるなんて思ってもみなかった。翌日の練習がない日くらいスキンシップを取らせてくれたっていいじゃないか、と一之瀬は苦々しく思う。
 要するに一之瀬はマークを抱きたくて仕方なかった。同年代に比べたら聞き分けがよく、大人びていている一之瀬も、所詮は十四歳の少年に過ぎない。手を伸ばせる距離に好いた相手がいるのに、右手が恋人なんて寂しすぎる。
 ただいくら抱きたくても、嫌がるマークを無理やり組み伏せるようなやり方はしたくない。しかしこのままマークのご機嫌を窺い続けても、一之瀬の望む機会は訪れないだろう。どうしたものかと考えた一之瀬は、極めて当たり前でシンプルな結論に達した。
 簡単なことだ。一之瀬からモーションをかけずとも、マークの口から抱いて欲しいと言わせれば良いのだ。



 合宿所の夕食は簡単なビュッフェ形式なので、食べ盛りの少年たちはみんな夜の食事を楽しみにしていた。これがあるから昼間の厳しい練習も乗り越えられるというものだ。和気あいあいとした雰囲気が明るい食堂に満ちている。
 入り口から一番遠いテーブルに、マークとディラン、一之瀬と土門の四人が座っていた。四人は仲良く談笑をしながら美味しい夕食を楽しんでいたのだが、口数の少なかったマークが突然席を立った。隣を見上げたディランが不思議そうに尋ねる。
「マーク?どうしたんだい?」
「…すまない…先に失礼する…」
 いつもと様子の違うマークは「後片付けを頼む」と小さい声で言い残して、覚束ない足取りで食堂を出て何処かへ行ってしまった。


 食堂を後にしたマークは、真っ直ぐ自室に戻りベッドに倒れ込んだ。ジャージと下着を性急に脱ぎ捨てる。危惧したとおりマークの性器は勃起して、大量の先走りを流していた。食事の最中から身体が熱くて仕方がなかった。体調の異常を感じて一人で部屋に戻ってきたが、まさかこんな状態になっているなんて。
 マークは荒い息を吐きながら自身の勃起に手を伸ばした。ただ掴んだだけなのに堪らない快感が背筋を駆け抜ける。性器を握って上下に動かす手が止まらない。マークはシーツに顔を埋めて肉棒の自慰に没頭した。
 既に限界近くまで張り詰めていたそこは、棹を扱くだけの単調な刺激を決定打にして、あっという間に弾け飛んだ。生暖かい粘液がマークの右手を汚した。これで収まると安堵できたのも束の間で、マークは更なる驚きに目を見開いた。
「うそ…どうして…?」
 ちゃんと精液を吐き出して射精したのに、マークの肉棒は反り立ったままで落ち着く様子がない。それどころか一度達したことによって、ますます興奮して硬くなったようだ。手のひらに受け止めたばかりの白濁と反り返る性器とを、同時に視界に入れたマークは泣きそうになった。性衝動が高まるばかりで一向に収まらない。
 身体の芯から湧き上がる射精の欲求と、それからもう一つの欲求がマークの身体を苛んだ。前を慰めるだけでは物足りない。男根に犯される悦びを知っている後ろが、じくじくと疼いて仕方がなかった。このどうしようもない衝動を宥める方法はないかと考えて、マークはある物の存在を思い出した。
 ――それは合宿初日のレクリエーションでディランが当てたビンゴの景品のことだった。中学生の余興には似つかわしくない品を貰ってしまったディランは「ミーには使い方がわからない」と言って、箱ごとマークの部屋に置いていったのだ。
 自分なら使用法を知っているとディランは思っているのか、そう判断されたことが不本意で机の引き出しの奥に放置していたものだが、まさかこんな機会に思い出すとは。何とも皮肉な巡り合わせである。
 マークが引っ張り出したのは、いわゆるローターと呼ばれるもの、つまりアダルトグッズの一種である。

 マークはおそるおそるローターのスイッチを入れた。使えるのかどうか心配だったか、卵型の小さな塊がちゃんと震え出したのに安心する。
 マークはそれを口に含んで濡らしてから、先ほど吐き出した精液を潤滑剤の代わりに使って、自身の後孔に飲み込ませた。小さな塊は大した抵抗もなく、つるりと体内に入ってしまった。大丈夫そうなのである程度奥まで指で押し込んで具合を確かめる。穴から伸びるコードの先に操作用のリモコンがある。マークはおそるおそるローターの電源を入れた。
「ふぅ…あ!ん…っ、ああっ…!」
 微弱な振動が腸壁に伝わる。体の中で震えているのは手のひらに乗る程度の小さな玩具なのに、じんとした甘い痺れは下肢全体に及んだ。最初は弱く設定していた振動を、更なる刺激欲しさにマークは徐々に強くしていった。
「ん…あ…はぁあ…っ!あっ…!」
 ローターは確かに気持ちがいい、しかし決定的な何かが足りない。このまま張り詰めた肉棒は扱けばすぐにでも射精ができるけれど、その絶頂では物足りない。
 玩具による快楽に耽る身体が本能的に求めているもの――それが自分と同じ人の体温であるとマークが気づくのに、そう時間は掛からなかった。
「あ…ぃや…ぁ、カズヤ…カズヤぁっ…」
 全身に燻ぶる熱の辛さから、マークはここにはいない恋人の名前を呼びながら、先走りでびしょ濡れの肉棒を扱いた。見る間に射精感は高まるが、その分飢えも強くなった気がする。

「…カズヤ…ひぃ…ん、たすけてぇ…」
「俺を呼んだ?」
「…ふえ…?」
 よく知った声にマークが振り返ると、そこにはこの場に居るはずのない一之瀬の姿があった。
「マーク、何してるの…?」
 一之瀬恋しさに夢を見ているのかともマークは思ったが夢ではない。いつの間に入ってきたものか、入り口の扉の前に一之瀬が立っていて、ベッドの上で自慰をするマークを無表情に見ている。
 慰めている姿を一之瀬に見られた。マークは羞恥に身体が熱くなった。こんなことは一刻も早くやめて、乱れた着衣を整えるべきなのに、マークは性器を扱く手を止められなかった。
「ひっ、あっ…いや…カズヤ見ないで…!」
 一之瀬に見られながら手淫に耽る。カウパー液が一気に溢れて、まるでお漏らしをしたように下肢が濡れた。
 一之瀬の目の前で恥ずかしい行為がやめられない。それどころか一人で慰めていたときよりも、肉棒が硬く太くなり感度も良くなった。自慰を見られて興奮する自分が酷く変態的に思えて、マークは羞恥と罪悪感に身悶えた。
「ひっ…ア…ぁあ…カズヤ…ぁ…」
「体調が悪そうだから心配して来たのに…オナニーしてるなんて思わなかったよ」
「うぅ…ん…やぁ、ちが…ぁあ…」
「俺の目の前でぺニス扱いてるのに違うわけないだろ」
 マークを詰りながら一之瀬がベッドサイドに腰掛ける。蕾から伸びるコードの先、ローターのリモコンを手に取った一之瀬はまじまじとそれを眺めた。
「マークはこんな玩具まで使って自慰するんだな…そんなに飢えてるのか?この淫乱」
「ひっ…!うぅ…あ…んぁ…!」
 一之瀬の辛辣な言葉にも反応して収縮する肉筒が、体内の異物をきゅうと締め付けた。それに気が付いた一之瀬がローターの振動を最大にする。激しく震える玩具に容赦なく責められて、マークの下肢がびくびくと跳ね上がった。
「うあぁ!ふっ…あぁ!んああっ…!」
 未知の快感に身悶える内に、ローターがマークの良いところに当たった。
「ひぁっ!や!あああっ!」
 前立腺をピンポイントの振動で刺激され、マークは頭の中が真っ白になる感覚を味わった。底無しの快楽地獄に叩き落とされる感じがした。ぎゅっと握り締めた手の中で性器が膨らんだ次の瞬間、マークは大量の精を自身の下半身にぶち撒けていた。


「うわ…物凄いイきっぷりだな…」
 あまりに壮絶な絶頂に一之瀬が感嘆の溜め息を漏らした。マークの性器はまだたらたらと白濁を漏らし続けている。
 それなのにまだマークの熱は収まる様子がない。触れてもいないのに力を取り戻し、根元からまた勝手に育っていく。忘我の淵にいたマークが意識を取り戻す頃には、陰茎は再びすっかり立ち上がっていた。
 終わりの見えない性欲にとうとう泣き出したマークは、一之瀬の身体に縋り付いた。
「カズヤぁ…たすけて…からだ、あついよ…」
「精神が乱れるから、抱かれたら駄目なんだろ?」
「ごめん…なさ…ぁあっ、おねが…だいて…っ」
 今までの態度を謝罪して許しを請いながら、マークは一之瀬の下半身をまさぐった。邪魔な着衣を雑に脱がせて、あまり反応していない肉を取り出して口にくわえる。一之瀬自身が欲しくて堪らないマークは、仕込まれた限りの技巧を駆使して、一之瀬の性器を愛撫した。
 口腔全体を膣に見立てて唇で肉棒を擦り上げる。わざといやらしい音を立てながら先走りの汁を吸う。棹を扱き、雁を締め付け、手と口の刺激で一之瀬を育てていく。自身の奉仕で形を成していくそれが堪らなく愛しい。
「んっ…太い…カズヤの熱くてぎんぎんしてる…」
 股間から立ち上る雄の匂いにマークの頭はすっかり酩酊してしまった。脈打つ赤黒い幹をぺろぺろと舐める。たくましく育った一物で我が身の虚を貫いて欲しい。性欲に眩んだマークの目には、目の前に反り立つ肉棒しか見えなくなっていた。

「カズヤおねがい…これ欲しい…オレにちょうだい…っ」
 一之瀬からよく見えるように顔を傾けて、マークは肉棒の裏筋にキスをした。無意識に揺れる白い尻が一之瀬を誘う。黙ってマークの好きにさせていた一之瀬だが、マークの腕をおもむろに掴むと、ベッドに仰向けに転がした。
「…あんっ、カズヤぁ…」
 押し倒されたマークは、一之瀬に見えるように自ら大きく脚を開いてみせた。天を向いて雫を零す肉棒も、精を溜めてパンパンに張り詰めた陰嚢も、ローターを収めたままひくつく飢えた後孔も、マークの秘められるべき全てが一之瀬の前に晒される。
「カズヤ、抱いて…オレを犯して…」
 マークは一之瀬を抱き寄せて性交を強請った。しかし一之瀬はマークが望む決定的な挿入に至ろうとしない。手触りの良い太腿を撫でながら、ぬるぬるの股間に亀頭を擦り付けるくらいだ。
 敏感になった性感帯を中途半端に刺激するその行為が、どれだけマークを焦らしたことか。
「やっ、カズヤ…いれて、はやくいれてぇっ」
「…これが欲しいの?」
 一之瀬はマークの弾力に富んだ太腿に勃起の先端を押し付けた。濡れた硬い熱の感触は一之瀬が興奮していることを如実に物語っているのに、一之瀬はマークの欲しい質量を一向にくれない。
「うん、ほしい…カズヤの熱いの…ほしいよぉ…」
「もっとハッキリ言ってくれよ」
 今日の一之瀬は本当に焦らしてくる。しかし疼く身体を抱いて欲しくて仕方がないマークは、顔を真っ赤に染めながら一之瀬の卑猥な要求に応えようとする。
「…カズヤの勃起ペニスで、オレのアナル掻き回して…中でたくさん…精液出して欲しい…お願い…」
「ははっ…マークは淫乱だな…」
 言われたとおり淫語を口にして強請ったのに、一之瀬はマークに挿入してくれなかった。厭らしい言葉を言わされ淫らさを不本意に詰られて、それでもマークの思いどおりにならない。一之瀬は笑って揶揄するばかりでマークを相手にしてくれない。
 マークの胸は恥ずかしさと悔しさでいっぱいになった。そしてそれは一之瀬への抑え切れない怒りとなって溢れ出した。
 つまりマークの堪忍袋の緒が切れた。


「カズヤのバカ!いじわる!」
 頭に血が昇ったマークは一之瀬の腕を掴み、ベッドに力任せに押し倒した。純粋な筋力だけで言ったら二人の力は互角な上、今のマークには火事場の馬鹿力が働いている。驚いた一之瀬は反射的にもがいたが、馬乗りの格好で身体を抑え付けるマークの力は強くてびくともしない。
 すっかり目の据わったマークは一之瀬の勃起を無造作に掴み、充血した先端を自身の後孔に押し付けた。その穴からはリモコンの付いたコードが伸びたままでいる。
「おいマーク…中にローター入ったまま…」
「…知らないっ!」
 怒りに我を忘れ、聞く耳を持たないマークはそのまま、一之瀬の上に一気に腰を下ろしてしまった。一之瀬の肉棒はマークの媚肉に根元まで飲み込まれた。

「くっ!!んああああっ…!!!」
 今までに聞いたこともないような絶叫の声が上がった。腰の上に座り込んだまま動けないマークを見て、言わんこっちゃないと一之瀬は溜め息をついた。
 肉棒を受け入れるだけで蕩けてしまうほどマークの身体は感度がいいのに、玩具まで入れたまま挿入するなんて無茶をする。しかもローターには電源が入ったままだった。微動を続けるローターが先端に当たって一之瀬は気持ちがいいが、双方を受け入れるマークには過酷すぎる刺激なのではないか。さすがに不安になる。
「マーク、意識飛んでない?大丈夫?」
「ん…ぅ…あぁ…」
 自身の上で動けなくなってしまったマークの頬を一之瀬は叩いた。のろのろと顔を上げたマークの目は虚ろだし、返事もできない様子だが意識はある。はぁはぁと苦しげに肩を上下させるマークが可哀想で、何となく一之瀬も動けないでいた。しかしその間も機械的に震えるローターが二人に快感を送っていた。
「ぅ、ん…ふぁ…ああっ、はぁ…あっ…」
 一之瀬の肉棒に押し上げられた腹の奥の奥で、玩具の無機質な振動を味わうマークは溜まったものではない。性器の快楽とも前立腺の快楽とも異なる性感の波に、沸騰した思考が付いていかない。
 行き過ぎた快楽は拷問であると言われるが、本当にこれ以上何かしたら狂ってしまう。しかし警鐘を鳴らす理性に反してマークの腰はひとりでに動き出していた。

「んあ…すごいっ…はぁ!ん!ああっ…」
 マークは騎乗位で一之瀬を貪った。肉棒が抜けるギリギリまで腰を浮かして、また根元まで一気に飲み込む。二回の射精で感度の高まった肉襞を、硬い亀頭と雁首でずりずりと擦ると、腹の奥から快感が引きずり出される。求めてやまなかった生身の肉塊に体内を満たされて、マークは後ろの悦びに溺れた。一之瀬の上で踊るように腰を振る。
「ふぁ…いいっ…あっ…あん…」
 一方で一之瀬は少々物足りない。熟れた肉壁に包まれる肉棒は気持ちがいいし、騎乗位で快楽を貪るマークは淫らで愛らしいが、これでは一之瀬の肉棒を使ってマークが自慰をしているようなものだ。セックスは一人でするものではないと叱る気持ちも込めて、一之瀬は下からマークを突き上げた。
「んひぃっ!あ、だめ、カズヤ…ッア、はぁ!あーっ」
 思いも寄らぬところを突かれる衝撃に、マークは白い喉を見せて仰け反った。尖った顎のラインが美しく、汗が光るうなじは色っぽい。なかなかそそる反応をすると一之瀬は唇を舐めた。

 一之瀬はマークの上着を擦り上げて、ツンと立ち上がった両胸の突起を摘んだ。良い手触りのそれを指の間でコリコリと弄ぶと、一之瀬の悪戯に耐えかねたマークが甘い声で鳴いた。
「やぁっ…カズヤ、おっぱいダメ…はぁん…だめっ…」
「乳首だけでイけちゃう?」
「ん、いけちゃう…やぁ、おかしくなる…」
「何を今更…マークはもう十分おかしいって」
 一之瀬は繋がったまま上体を起こしてマークを膝に抱き上げた。摘んだことで真っ赤に染まった乳頭を、口に含んで労るように優しく吸う。女の子の胸ではないのに甘いような味がするから不思議だ。
「やぁ…カズヤ…いっちゃう、おっぱいでいっちゃう…」
 そのままちゅっちゅと吸っている内に、一際高い声を上げたマークの身体が痙攣した。先ほどの宣言どおり、胸への刺激だけで軽く達してしまったものらしい。射精こそしていないが、ひくひくと引きつる内壁が一之瀬を締め付ける。
「…カズヤ…っ…カズヤ、カズヤぁ…」
 普段の凛々しさを完全に失ったマークは、淫らに蕩けた表情で一之瀬に縋った。あらゆる快楽責めの数々にすっかり飛んでしまったマークを、一之瀬は心底可愛いと思った。口を吸って舌を絡め取る。必死で応えるマークの吐息が乱れる。
 一之瀬は弛緩したマークの身体を抱きかかえて、突き刺した肉棒で後孔を掻き回した。手足の力はすっかり抜けているのに、一之瀬を受け入れるそこは適度にきつくて、一之瀬の雄を貪欲に食い締める。
「ひ…んぅ…ぁあ…あっ!」
「マークの中、気持ちいいよ…俺が食べられてるみたいだ」
 マークの良いところを探るように一之瀬は腰を動かした。抉る角度によってはローターを更に奥にやってしまって、マークを鳴かせる結果になる。内壁の腹側にある勘所を見つけた一之瀬は、そこばかりを執拗に狙って突き上げた。亀頭が上手く前立腺を捉える度に、マークの中がびくびくと蠢動する。絶頂が見えてきた証だった。
「ああん、カズヤぁ…ひっ!あんっ…はぁっ…あっ…!」
 マークは一之瀬の首に縋り付き、全身を震わせながら射精した。脱力する身体をしっかりと抱き留めて、一之瀬もマークの体の奥深くに熱の奔流を叩き付けた。



 体位を変えて交わり何度も絶頂して精液を吐き出し、文字どおり精も根も尽き果てた状態になってようやくマークの熱は沈静化した。疲弊し切ったマークは一之瀬の隣で糸が切れた人形のように眠っている。
 泣き腫らした目蓋が痛々しくて、それでいて妙に色っぽい。己の嗜虐癖に苦笑する一之瀬は、マークを散々焦らして泣かせたことを、マークが可愛いのがいけないと責任転嫁する。
 ――脱がせる際にマークは気づかなかったが、一之瀬のジャージのポケットの中には、使用済みの錠剤の包装が入っていた。このところマークがあんまりにもつれないので、一之瀬は便利な薬に頼ることにした。いわゆる媚薬という品である。
 無味無臭で即効性のそれをマークの飲み物に溶かし込み、夕食の際に何食わぬ顔で飲ませた。初めて使う薬の効果は期待したとおりで、食事もろくに取れなくなったマークが赤い顔で席を立ったとき、一之瀬は内心盛大にほくそ笑んだ。純粋にマークの体調を心配するディランを、全てを悟ったらしい土門に押し付けて、一之瀬はひとり意気揚々とマークの部屋を訪ねた。
 まさか玩具を使って自慰をしているとは思わなかったが、一之瀬の形を徹底的に教え込まれたマークが、震えるだけの無機物で我慢できるはずがない。案の定マークは蕩けた目で一之瀬の身体を欲しがった。
 なりふり構わず自分を求める姿は貪欲な淫売そのもので、一之瀬をとても悦ばせた。自分から跨って腰を振ってくれたのも初めてで感動した。ローターを入れたままのマークの中は、普段と感じが違ってそれも良かった。

 マークに強請らせてマークを抱く、という当初の目的を果たした一之瀬は、今夜の成果に非常に満足していた。
 マークの意外な一面を見せてくれた媚薬は予想以上に良いものだった。今度するときはローターを乳首や性器に固定して遊んであげよう、玩具が好きならバイブレーターもプレゼントしよう。
 一之瀬はそんなことを楽しく考えながら、マークの身体に身を寄せて眠りに就いた。

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