稲妻11-Thanks! | ナノ


act5.紳士と秘密(フィリップ×エドガー)



 ナイツオブクィーンのキャプテンには、絶対に他人に知られてはならない秘密の性癖があった。この秘密を知っている者はごく僅かで、幼馴染として人生の殆どを共に歩んでいるフィリップと、選手のことならなんでも把握しているらしいアーロン監督くらいのものだ。
 それというのも実はエドガーは、サッカーをする際にパンツを穿かない。恒常的に下着が嫌いというわけではなく、普段はきちんと穿いている。しかしサッカーのユニフォームを着るときは、そのズボンの下は必ずノーパンである。
 エドガー曰く、私の下半身に余計なものは要らない。サッカーの邪魔である、とのこと。
 あんまりに偉そうに自信満々に言うので、その瞬間にフィリップはエドガーの更生を諦めた。エドガーの奇行は幼い頃から見てきたし、散々振り回されて慣らされてきたが、これは最早そういう妥協や寛容のレベルを超えていた。説得して治るものではないと、フィリップは絶望的に思い知った。フィリップにできることといったら、せめてエドガーの恥ずかしい性癖が周囲に露見してしまわないように、過度に世話を焼いて時折胃を痛めることくらいだ。

 練習試合である。今日も当然のようにエドガーは穿いていない。穿いていないのに大股開きの必殺技エクスカリバーを連発するので、ツートップの片割れとしてエドガーの傍らに控えるフィリップは、いつにも増して気が気ではなかった。エクスカリバーが自陣から放つロングシュートであることが、唯一の心の救いだ。
 ――エドガーがエクスカリバーの構想を生みだした際、ロングシュートに改良したらどうかと提案をしたのは、何を隠そうフィリップだ。その頃のエドガーは既に穿いていなかったので、ゴールキーパーと間近で対峙せざるを得ない近距離シュートは避けさせたかった、という狙いがある。
 幸いにもロングシュートはエドガーの気質に合ったようで、エクスカリバーの性能は格段に飛躍したのだが、事の発端が発端なだけに、フィリップは素直に賛美できないでいる。エドガーは罪深い男だと思う。
 ――ああ神よ、どうか今日の試合でも、エドガーのノーパンがばれませんように。
 そう神に祈りながらフィリップは、エドガーと共に緑のフィールドを駆け抜けていくのだった。


「フィリップ」
「今行く」
 エドガーは試合後に必ずフィリップを呼びつける。フォワード同士の反省会だとチームメイトには思われているが、そんなに綺麗でも真面目なものでもない。フィリップが連れて行かれるのは決まって人気のない場所で、二人きりになった途端にエドガーは騎士の仮面を脱ぎ棄てる。
「フィリップ…」
 袋小路にフィリップを連れ込んで振り向いたエドガーの白皙は、これからの期待と興奮に沸いて、仄かに色づいている。そこにいるのはナイツオブクィーンのキャプテンでも英国紳士でも騎士でもなく、性的な熱に浮かされた一人の淫乱な少年に過ぎない。
 腕を回して抱き付いてくるエドガーを、フィリップは軽くあしらった。抱き締めて可愛がってやりたいのは山々だがあまり時間がない。壁を背の支えにしてエドガーを立たせたフィリップは、その足元に跪いた。
「ああ、フィリップ、早く…」
 エドガーの下腹部はユニフォームを押し上げただけでは収まらず、ズボンの赤い生地に濃い色の染みを作り上げていた。パンツを穿いていないから、性器からの分泌物は全てズボンに顕著に染み出してしまう。
 お漏らししたようで恥ずかしいのだろう。柳眉を悩ましげに寄せたエドガーは、長い両足をもじもじと摺り合わせている。そうすると余計に染みが広がることに気付いていない。大人びた身体はこんなにも淫乱ではしたないのに、子供のように安直で素直な思考をしているエドガーのギャップが愛おしい。
 フィリップはエドガーのズボンを一息にずり降ろすと、ぽろりと飛び出た性器を握って扱いてやった。ああ、と掠れたようないい声でエドガーが鳴く。
 ――下着を付けずにサッカーをすると、剥き出しの性器とユニフォームの粗い生地が擦れ合って気持ちがいいのだという。そんな背徳的な快感に浸りたいがためにエドガーはサッカーでノーパンを貫いているらしい。そして試合で高まった性欲の発散を、気の置けないフィリップに頼む。
 なんとも自己中心的で呆れた思考だが、エドガーは元来の気質からして女王様なので仕方がない。それにこんなに美しい女王に奉仕できるのだから役得だとフィリップは思っている。欲望に忠実に乱れるエドガーを自分以外には見せたくない。
 フィリップは限界まで張り詰めたエドガーの性器を口に収めた。充血した亀頭をこれでもかと執拗に舐め倒す。肉棒が口の中でびくびくと震えた。
「う、はあ、んあああっ!」
 口内に放たれた白濁をフィリップは難なく飲み干した。

 行きとは異なり、今度はフィリップがエドガーの手を引いて帰る。この時のエドガーは普段の高飛車が嘘のように従順で大人しい。今なら言うことを聞いてくれるのではないかと、フリップに思わせるほど大人しい。もっともそれは幻想で、エドガーがフィリップの訴えを聞いた試しがないのは、未だにノーパンであることから明らかである。それでもフィリップは毎回同じような小言を言ってしまう。好きな相手が公衆の場でノーパンでいて平気な男などいないのだ。
「なあエドガー、頼むからパンツを穿いてくれないか」
「下着は好きではない」
「ノーパンがばれてサッカー界から永久追放されたらどうするんだ。好きなサッカーもできなくなるんだぞ」
「そうしたらモデルにでもなればいい」
 本気の心配を冗談として受け取り、呑気に笑う横顔が気に食わなかったので、フィリップはエドガーの華奢な顎を捉えて口づけた。口内に自身の精の味が残っていたのだろう。変な顔をするエドガーをフィリップはちょっと小突いた。
 ノーパンだし変態だし淫乱だし、高飛車で気障でフェミニストだし、遠慮も気遣いもない大変厄介な幼馴染だが、フィリップにとってはやはりエドガーは愛しい恋人なのだ。蒼い瞳を見詰めて囁いてやる。
「モデルなんてもったいない、オレの嫁になれよ」
 フィリップの本気に、エドガーの頬が赤くなった。




 おわり

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