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act2.告白と検証(一之瀬×マーク)



「カズヤが好き」
 練習の後、夕暮れ時のクラブハウスでマークに告白されたとき、マークの思いを一之瀬は素直に受け止めることができなかった。
 マークは格好いい。性格も優しくて礼儀正しくて、スポーツが得意で格好もオシャレだ。可愛らしい女の子に呼び出されるマークの姿を、一之瀬は何度も目にしている。
 しかし誰かにマークが靡いたという噂は一度も聞いたことがなかった。何故彼女を作らないのか、その理由が自分だとしたら…と思った一之瀬は、何やら急に恐ろしくなった。マークの真っ直ぐで真っ当な人生を、気の迷いで歪めてしまってはいけないと思った。
「…俺が好きって言うけど、マークは俺とどうしたいの?」
「わからない…けどカズヤとずっと一緒にいられたらいいなと…思って…」
 だから告白した、ともじもじしながらマークが言う。一之瀬は今度こそ本当に呆れた。愛だとか恋だとかの感情は、マークの綺麗な瞳を借りて見たなら、さぞかし美しい色に映ることだろう。きらきらした眩い思いに恋い焦がれることもできるかも知れない。
 そんなものは幻想だと一之瀬は断じてやりたかった。誰かに執着する人の心が美しいはずがない。だが恋に盲目になっているマークには、陳腐な言葉では理解できまい。
「マーク」
 一之瀬はマークを乱暴に抱き寄せると、無防備に開いた唇へ口付けた。突然のキスに驚いたマークは身を捩ったが、後頭部を抑えつける手に引き戻される。マークはキスの仕方も満足に知らないのか、身体を強張らせて目を白黒させている。
 一之瀬はマークの唇を強引に割って、口内に舌を差し入れた。怯える舌を捉えて吸い上げる。あまりに初心なマークの様子に、今更ながらこれは、マークのファーストキスだったかも知れないと思った。しかし手加減してやる気にはなれなかった。唾液が口の端から溢れるほど深く深く口付ける。
 ようやく一之瀬に解放されたとき、マークは肩で息をしていて、全身が火照って力が抜けてしまっていた。
「俺に好きって言うことはつまり、こういうことをされるってことだよ」
 唾液に塗れた唇を、一之瀬は親指の腹で拭ってやる。マークははっとして慌てて顔を上げた。一之瀬に突き放されたと思ったのだろう。必死で言葉を言い繕う。
「カズヤになら嬉しい…何をされても構わない」
 マークはまだわからないようだ。一之瀬は冷めた瞳でマークを見つめた。男という生き物が、そして一之瀬一哉という男が、どれだけ利己的で凶暴なのか、マークは知らない。
 一之瀬はおもむろに、マークのハーフパンツの中に手を突っ込んだ。トランクス越しに股間を掴まれたマークが、驚いた声を上げる。
「やっ!カズヤ…!?」
「俺が好きなんでしょ?」
 一之瀬に見つめられると、マークは抵抗する気を無くしてしまうようだった。好きと答える代わりにはっきりと頷く。
「だったら俺に逆らわないでね」

 それからは一之瀬の成すがままだった。マークは下半身を裸にされて、一之瀬に直接性器を弄られていた。
「…あぁ…ん、はぁ…ァ…」
 声は我慢するなと一之瀬に命じられている。自分のものとは思えない情けない声に、マークの羞恥心が大いに煽られた。輪の形にした指で反り立つ幹を扱きながら、一之瀬は無感動にマークに尋ねる。
「自慰はしたことある?」
「…う…ん、何回か…っ」
「人にされるとまた違うでしょ?」
「んっ…ぁあ…っ、カズヤぁ…」
 親指と人差し指で亀頭を揉むように刺激すると、マークの身体がびくびく震えた。経験が少ない割に随分と感度がいい。とめどなく溢れる先走りが一之瀬の指を濡らしていく。
 いくら好きな相手だからといって、これは強姦だ。性的な辱めを無理やり受けて、よくも気持ち良くなれるものだと一之瀬は感心した。マークは少し強めに弄られるのが好きらしかった。肉棒をぎゅっと握ってやると、大きな瞳に涙すら浮かべて切なげに喘ぐ。
「あっ…はぁっ…あ…っ」
 一之瀬の腕の中マークが震える。熱に潤んだエメラルドグリーンの双眸が、縋るように一之瀬を見つめた。濡れた睫毛に口付けて、一之瀬は諭すように言い聞かせる。
「イくときは言いなよ」
「ぅん…ひっ…あ、いく…カズヤぁ…」
 ああ、と艶めいた掠れた叫び声と共に、マークは一之瀬の手の中で性感を極めた。

「マークが汚したんだから綺麗にしてよ」
 口元に差し出される一之瀬の汚れた指に、マークはしゃぶり付いた。自身の精液を口にする行為に内心は嫌悪感でいっぱいだったが、一之瀬の指についた白濁をマークは必死で舐め取った。
「必死だなぁ…そんなに俺が好きなんだ」
「ん…ふぅっ…う…っ」
「マークが好きになったのはとんでもない男だよ。意地悪だし平気で嘘は付くし、酷くて最低な…優しいマークには勿体ないよ」
 一之瀬はマークの顎を捉えて、整った顔立ちを覗き込んだ。初恋を散々に蹂躙されたマークは泣いていた。泣いてはいたが、瞳から悲壮な決意は消えておらず、一之瀬を真っ直ぐに見つめ返している。それで良い、と一之瀬は思う。この程度で音を上げられてしまったら、どの道一之瀬一哉という男と付き合っていけるはずがない。
 本音を言うと、一之瀬だってマークが好きだった。おとぎ話の中の王子様みたいな凛々しい顔も、厳しくて優しい清らかな性格も好きだった。恋人にしたいと思ったこともある。しかし自身の酷さを心得ている一之瀬は、その想いを素直にマークに伝えることができなかった。いつか必ずマークを泣かせるとわかっていた。
「ねぇ、マーク」
 それなのにマークから告げてきた。だから一之瀬は軽蔑されるのを覚悟でマークを試した。

「こんな俺でも愛してくれる?」

 失うか得るか二者択一の問いを、一之瀬は今、マークに問い掛けた。




 おわり

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