稲妻11-Thanks! | ナノ


 寝苦しさに魘されて佐久間は目を覚ました。びしょりと汗をかいていた。いつの間にか扇風機が止まっている。道理で暑苦しいわけだ。寝返りを打った佐久間の目の前の畳に、金色の長い髪の毛が散らばっていた。アフロディもいる。
 そうだった、思い出した。アフロディを自宅に呼んで二人で遊んでいる最中だったのに、揃って寝転けてしまったのだ。こんな蒸し暑い中で寝た自分たちは相当鈍感なのではないかと、佐久間は思ったりした。

 佐久間の家系は祖先を武家とする由緒正しき一族である。自宅は文化財の指定が来るような純日本家屋であり、それは立派に手入れされた庭がくっついていたりもする。そんな生家で自然に生まれ育った佐久間は、成長するにつれて冷房に極端に弱い体質になってしまった。エアコンは一応部屋に備え付けてはあるのだが、体調面を考えるとなかなか使用に踏み切れない。だから佐久間は部屋に来る人には扇風機で我慢してもらっていた。アフロディは意外と丈夫なので、涼しくないからと言って文句を言ったりしない良い奴だ。
 我が家を褒めるのもどうかと思うが、新調したての畳に横たわるのは気持ちがいい。いかにも青臭い井草の匂いが、佐久間は嫌いではない。それに畳に肌をくっつけると普通にしているよりも涼しい気がする。本当かい?と疑うアフロディと共に、佐久間は畳に寝そべった。扇風機の人工的な送風をの涼みとして、天井の板目などを眺めていた。そのうちに二人して寝入ってしまったものらしい。

 見たところアフロディはまだ寝ているようだ。華奢な背中が静かに上下している。本当なら人の睡眠の邪魔はしたくない。しかしこの熱気である。アフロディに脱水症状を起こされては堪らない。心配になった佐久間は身を起こした。アフロディの肩に手をかけて小さく揺さぶる。
「アフロディ…起きろよ…」
 長い前髪を払って覗き込んだアフロディの寝顔に佐久間はどきりとした。体を揺さぶる手が止まる。起こせなくなってしまった。眠るアフロディの表情は子供のようにあどけなく、それでいて壮絶に美しく見えた。

 ――佐久間は美しいものが好きだ。表向きはただ完璧で美しくて、その裏では必死にもがいているのに、そんな努力はおくびにも出さない。白鳥のような存在が好きだ。そのように在りたいと願っている。
 アフロディはこの美貌を保つために陰ながら手入れをしたり、あの技を完成させるために血の滲むような特訓をしたりしたのだろうか。もしそうならばアフロディは真に美しい。佐久間の審美眼に叶う数少ない存在になるだろう。

 佐久間はアフロディの額に口づけた。汗を浮かべるそこは少しだけ塩辛い。額を濡らす汗をペロペロと舐め取った佐久間は他のところにも口づける。薄い目蓋に、小さく尖った鼻の頭に、ほんのり色付いた頬にもキスをする。アフロディはよく寝ていて目覚める気配もない。
 佐久間は唇にも口づけた。滑らかな皮膚を舌で辿り、ちゅっと吸いつく。眠り姫ならば王子様のキスで目覚めるが、このアフロディはやはり起きない。しかしこちらの方が佐久間には都合が良かった。もう少しアフロディの唇を堪能したい。荒れたところのない柔らかな感触が心地よく、いつまでも口づけていられる気がした。アフロディが可愛い。綺麗な顔にキスをすると佐久間はどきどきした。
 その胸のときめきは良くない方向へと現象として現れた。佐久間はもどかしさから両脚を摺り合わせた。性器が少し勃起している。アフロディにキスをしている内に隠し切れないくらい興奮してしまった。佐久間は右手をズボンの中に入れ、下着の上から自身の股間を揉んだ。控えめな刺激にも反応して性器はますます硬くなる。
「ん…あ…アフロディ…」
 アフロディを見つめながら自慰に浸ると気持ち良かった。アフロディをおかずにしていると思うと申し訳ない気もしたが、もう手が止まらない。アフロディの傍らに座り、佐久間は性器を扱き続けた。アフロディの無防備な寝顔と自身の充血した勃起が同時に視界に入って、あまりに倒錯的な組み合わせに眩暈がした。

 ――こんなにも綺麗なものの側で俺はなんて下劣な行為に浸っているのだろう。
 自身に対する戒めすら今の佐久間には興奮の材料にしかならない。ぴゅっと溢れた先走りが偶然アフロディの頬に飛んだ。目の前が真っ白になった。気がつくと佐久間は性器の先端をアフロディの顔に擦り付けていた。先走りを伸ばすように亀頭を頬に押し付ける。硬い陰茎で柔らかな頬を抉るのは背徳感があって興奮する。アフロディが目覚めないのをいいことに、佐久間の行為はエスカレートしていった。
 佐久間は今度は先程散々口づけた唇へと性器を押し付けた。頬と違い凹凸があるので、角度によっては尿道が刺激できて気持ちがいい。薔薇色の唇が自身の体液で濡れていく。この口にくわえてもらって、フェラチオしてもらえたら。佐久間がそう妄想した矢先だった。
 多分アフロディは寝ぼけているのだろう。アフロディの舌がペロペロと佐久間の亀頭を舐め始めた。意識あっての行動ではないとわかったが、佐久間は大いに煽られた。育ち切った性器が手の中でびくびくと跳ねる。
「ア…フロディ…!」
 極まった佐久間はアフロディの寝顔に向かって射精した。白濁にまみれたアフロディを見て、佐久間は罪悪感と充実感を同時に味わうことになる。


 後始末が全て終わった後にアフロディはようやく目覚めた。喉が渇いたというので麦茶を飲ませてやる。コップに口づけるアフロディの唇から佐久間は目を離せなかった。自身の肉棒で蹂躙した場所。アフロディは大切な友達だが、しばらくはそういう目でしか見られない気がした。先程は衝動的に色々致してしまったが、冷静になってみると恐ろしい。
「そういえばさっき夢を見たよ」
「ふーん…」
「苦いアイスキャンディーを舐める夢だった。変な夢だよね」
 同意を求めるアフロディに対して、佐久間が苦い顔つきになったのは言うまでもない。

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