稲妻11-Thanks! | ナノ


 イギリス宿舎に足を踏み入れたマークは内装を仰いで歓声を上げた。エドガーの部屋に案内される道すがらも、きょろきょろと辺りを見回している。アメリカ宿舎とはだいぶ趣が違うので珍しいのだ。
「すごいな…宿舎とは思えない造りだ」
「監督とスポンサーの趣味でね。バロック建築は嫌いですか?」
「好き嫌いというか、豪華すぎて緊張するな」
「…なに、すぐに考えられなくなりますよ」
 エドガーは自室に招き入れてすぐに、マークを寝台に押し倒した。それは本当にあっという間の出来事で、大した衝撃もないままマークの体はマットに沈み込む。気が付いたときにはもう、エドガーの余裕の笑みが近くにあって、マークは少したじろいだ。覚悟は決めて来たつもりだが、いざエドガーを見上げる段階になると後込みしてしまう。
「お手柔らかに頼む。こういうことは初めてで…不慣れなんだ」
「慣れていたら困ります」
「遊び慣れたお前には、物足りないだろう」
「そんなことはありません。初々しいあなたを抱けて嬉しいですよ」
「…エドガーは女の子もそうやって口説くのか?」
「…これからはあなただけです、マーク」
「本当かな…」 どちらともなく唇が重なって、それ以上の言葉は要らなかった。


 押し倒された際の手管から予想していたが、案の定エドガーは手慣れていて上手だった。まるで生娘のごとく丁寧に扱われるマークには、エドガーが施す愛撫の全てが甘ったるく感じられて仕方ない。あやすようなキスを受けながら優しく服を脱がされた後は、隠すもののない全身に隈無く口付けられた。
「…っん…エドガー…」
「見えるところにはしませんから…」
 時々きつく肌を吸われるのは、エドガーがキスマークを残しているためだ。首筋や鎖骨などの目立つ部位を避けて、脇腹や肩といった服で隠れる場所に、エドガーの跡が増えていく。ちりりとした甘い痛みに全身を包まれてマークは身体を震わせた。
「んっ…そんなところ…」
 平らな胸に実る突起を口に含まれて、マークは戸惑いの声を上げる。ない胸を吸っても面白くないだろう、と思っての抗議だったが、エドガーはまるで意に返さない。
「小さくて可愛らしいですね」
「…っ、ん…馬鹿…ぁ…」
 つんと尖った乳首を舌の上で転がして、おもむろに歯を立てる。男の胸なんてお飾りに過ぎないと思っていたのに、エドガーにそこを舐められると、妙な感覚がせり上がってくるから困る。
「こちらも…硬くなって…」
 胸への愛撫をする一方で、エドガーが触れたのはマークの股間にできた膨らみだった。ボクサータイプの下着の下で、それは顕著な反応を見せていた。
「少し触りましょうか?」
 エドガーの手が布越しの形をなぞるように動き始める。半勃ちの性器をやわやわと揉み込まれる度に、マークの下半身には熱が集まった。まるでエドガーに自慰を肩代わりしてもらっているようだ。他人の手のひらの中で硬度を増す自身を意識して、マークは顔を赤面させた。
 半ば湿った下着を脱がされ、ようやく素手で触れてもらったとき、マークの性器はすっかり立ち上がっていた。先端部から溢れる蜜を幹に塗りたくるように上下に扱かれて、絶頂があっという間に見えてくる。腰をぶるっと震わせたマークは、自身を包みこむ手のひらに向かって、溜め込んだ熱を吐き出した。
「…っあ、はぁっ…あ…」
「沢山出ましたね…」
「…やめろ…、恥ずかしい…」
「恥ずかしくないですよ。わたしに触れられて達してしまったんですね…嬉しいです」
「み、せるな!馬鹿っ」 目の前に翳された白濁に塗れる右手を、マークはぺちんと叩き払った。ジョークにしても酷すぎる。それは紳士が嫌うところのはしたない行為に当たるのではないかと思ったが、問い詰めるのも滑稽だ。
 叱られたエドガーは苦笑しながら、濡れた指をマークの尻の谷間に這わせた。本当なら考えられない場所に他人の手が触れる。男同士の性交に肛門を使うのは知識としては知っていたが、いざ触れられるとやはり身が竦む。マークの緊張にエドガーも気がついていた。
「すぐには入れませんから…リラックスして」
 言葉のとおりエドガーの指は、閉じられた窄まりの上を緩く撫でるに留まった。先ほど吐き出した精を塗るように、軽く入り口を擦られはするものの、その先までは入ってこない。排泄器官に触れられる嫌悪感を和らげるための前戯らしかった。しばらくそうされている内に、蕾と指先の接触から生まれるむずむずとした感覚が、マークの身体を苛み始めた。
「エドガー…それ…なんか、変だ…」
「変というと?」
「…そんなところ、触られたら嫌なはずなのに……おかしい…もっと中まで、触って欲しいんだ…」
 不思議なむず痒さに耐え兼ねて、マークは両脚を落ち着かなく摺り合わせた。マークにそのつもりがないとしても、エドガーを誘っている態度に他ならなかった。戸惑いながらも強請るマークの変化に、エドガーは悦びを隠せない。
 エドガーは予め用意しておいたローションを、自分の手とマークの後孔にそれぞれ垂らすと、マークの望みを叶えるために人差し指を蕾の中へと差し入れた。掠れた声でマークが鳴く。潤滑剤の力を借りた指は、根元まで難なくマークの中に入ってしまった。
「…痛いですか?」
「いや…大丈夫だ…」
「痛かったり、嫌だったりしたら、言ってくださいね」
 異物に迫る肉壁を割り開くつもりで、エドガーは指を動かし始めた。ローションを注ぎ足しながら、未通の隘路を拡げていく。
「ん…あ、は…ぁ…」
 マークはシーツをぎゅっと掴んで、初めて味わう違和感に耐えた。体内に触れられた経験などないのだから無理もない。男同士のセックスで、受け入れる側の負担は計り知れないものだ。エドガーは出来るだけ丁寧に、時間を掛けてマークの後孔を解していった。


 順を追って増やした指は三本になり、抜き差しも容易にできるようになった。何回かに分けて前立腺を押さえると、苦しさからだけでない声がマークの口から上がる。後ろへ与えられる刺激にマークの身体が慣れてきた証拠だった。
 エドガーは後ろから指を引き抜くと、ひくつく場所に自身の猛りを押し当てた。マークの不安げな視線に罪悪感を覚えたが、エドガーもこれ以上の我慢はできそうにない。マークの両脚を押さえると、エドガーは思い切って腰を進めた。
「う、あっ…ん…ぁあっ…!」
 出来る限り慣らしたとはいえ、初めて男を受け入れる場所はきつかった。何とか先端だけは収めたものの、それ以上奥に進もうとすると悲鳴じみた呻き声が上がる。マークもどうしていいかわからないようで、顔を真っ赤にして呼吸を引きつらせている。シーツを握り締める指は力が入りすぎて白くなり、見ていて可哀想なくらいだ。
「マーク…」
 強張る指を一本一本丁寧に解いて、エドガーはマークの手を握った。
「こうした方が落ち着くでしょう?」
 指と指を絡めて手を繋ぐ。たったそれだけのことなのに、エドガーの言うとおりマークは確かに安心した。
「少しずつしますから…力を抜いて」
「ぅ、ん…あ…っく、ぁ…」
 マークの呼吸にタイミングを合わせて、エドガーは腰を突き入れた。一番太いところを過ぎたら、後は根元まで飲み込むことができた。熱く吸い付く粘膜に肉棒を隈無く包まれることで、エドガーはマークに受け入れられたことを実感する。
「マーク、わかりますか…?ちゃんとひとつになれましたね」
「ふぁ、ん…エドガー…あ、あぁ…」
 雄の形に広がった入り口を指でなぞると、マークの眦から涙が零れ落ちた。生理的なものなのかも知れないが、嬉しくて泣かれたようでエドガーは嬉しくなる。後孔が質量に馴染んだとみると、エドガーは極めてゆっくりとマークの中を動き始めた。

 硬い熱の塊に体内をずるずると擦られている。最初は圧迫されて苦しいだけだったのに、何度も往復される内に、腹の奥にじんわりとした快感が溜まってくる。これがセックスかとマークは思い、自身に覆い被さるエドガーをふと見上げた。
「…く…っ、マーク…」
「…っ、エドガー…?」
 行為の最中に垣間見てしまったエドガーの表情がいけなかった。この男はなんていう表情をして自分を抱いているのだと、マークは頭を叩かれたような衝撃を受けた。
 元から美しい男だと思っていたが、貫かれながら見上げたエドガーの姿はあまりに扇情的すぎた。切なげに寄った柳眉が腰が動く度に震えて、形の良い唇は熱い吐息を噛み締める。乱れた前髪が汗で額に張り付いているのも官能を匂わせて色っぽい。実に感極まった様子でいるものだから、エドガーに抱かれているのが自分だという事実を、マークは一瞬忘れてしまった。
 エドガーが今まさに自身の身体に溺れているのだと思うと、マークは堪らない気持ちになった。好きな相手を自分の手でよがらせたいと思うのは男の本能だろう。マークはおそるおそるではあるが、律動の波に合わせて自らも腰を動かしてみた。思わぬ刺激を受けたエドガーが、意外そうな顔をしてマークを見る。
「マーク…?」
 されるがままだったマークの積極的な行動に、エドガーは驚きを隠せない。マークは少しばつが悪そうにしながらも、エドガーをしっかり見据えて尋ねた。
「…こんなオレははしたないか?」
 マークの瞳にも情欲の炎が揺らめいていた。愛でられて散らされるだけの少女とは違う、エドガーを貪欲に求める男の目をしていた。
「い、え…大変魅力的ですよ、マーク」
「なら、もっとしてくれ…もっと…お前の好きなようにしていいから…」
 今度はエドガーが衝撃を受ける番だった。殺し文句を突き付けられたエドガーはマークの膝裏を抱え上げて、先刻までとは比べ物にならないほど激しく腰を打ち付けた。体温で良い具合に溶けたローションが結合部から溢れ出し、ぐちゃぐちゃと濡れた音を立てる。
「いっ、あ…ん…、あぁ…っ!」
「こういうときは、はしたないではなく…いやらしいと言うんですよ」
「っひ、ん…エドガー…ぁあっ…」
「いやらしくて、愛らしい…わたしのマーク」
 慣れない嬌声を上げる口にエドガーは唇を押し当てた。整った歯並びを丁寧に舐めて、緩んだ口内に舌を差し入れる。マークは戸惑いながらもエドガーの口づけに応えた。下肢で深く繋がりながら舌も絡め合う。隙間など生まれない程に、お互いの熱を求め合った。
「んっ、エドガー…はあ、ぁ…っ」
 反り返った性器が密着した腹部で擦れると、マークは堪らないようだった。頃合いと見たエドガーは、マークの身体を揺さぶりながら、濡れた勃起を手のひらに包んだ。
「あっ!や…ぁ、はぁ…ああっ!」
 限界まで張り詰めていたそれは、数度扱いてやっただけで呆気なく熱を解放した。きつく肉を食い締める内壁に名残惜しさを覚えながら、エドガーは猛る性器を後孔から引き抜いた。マークの精に塗れた手で、どくどくと脈打つ肉棒を扱く。そして絶頂の余韻に震えるマークの腹筋の上に、エドガーも白濁を吐き出した。



 エドガーが背中から抱き締めているのは、たった今腕の中で散らしたばかりの美しい花である。身体中のそこかしこに、花びらのような鬱血の跡を付けた愛しい恋人。思いを告げて身体を繋げ、エドガーのものになった。しっとりと濡れたブロンドを指で梳きながら、エドガーは懐中のマークに問い掛けた。
「どうしてわたしのものになってくれる気になったんです?」
「…百本の薔薇が…」
「聡明なあなたのことですから、本当に花束に絆されたわけではないでしょう」
「……」
 身じろいだマークが身体ごとエドガーを振り返り、胸と胸が向き合う形になる。熱の余韻に潤むエメラルドの瞳が、エドガーを見上げた。


「…百の薔薇の花束よりも、そんな馬鹿なことをしてくれるお前が欲しくなった…それだけだ」

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