稲妻11-Thanks! | ナノ


 浴室から微かに響いてくる無邪気な笑い声をBGMに、源田幸次郎は食器の皿洗いに勤しんでいた。客観的に見れば源田は、銀髪と金髪の美少女を自宅に連れ込む実に羨ましい男だが、花のように可憐な二人は残念ながら女の子ではない。

 ――源田のマンションには今、同級生の佐久間次郎とその友達の亜風炉照美が遊びに来ている。源田の両親が不在であると聞きつけた佐久間が、アフロディを連れて押し掛けたのだ。
 佐久間はともかく、アフロディの扱いに源田は困ってしまった。アフロディも困っていた。確執はとうに霧散していても、なかったことにはならないのが過去である。浅からぬ因縁を持つ二人だったから、お互いにどう接すれば良いのかわからなかったのだ。そこに佐久間が口を挟んだ。
 友達の友達は友達という、どこぞの雷門中キャプテンのような理論を持ち出した佐久間によって、半ば強制的に源田とアフロディは「友達」になった。これには二人とも苦笑するしかなかったが「よろしくね」と差し出された白い手を振り払うほど、源田も底意地は悪くない。「よろしく」と言って握った手のひらは、源田が思っていたよりも温かい人の手のひらだった。 源田に手料理を振る舞われた二人は、夕食の後片付けを源田に任せると、さっさとシャワーを浴びに浴室へ行ってしまった。手伝って欲しいと自然に思わなくなるほど、源田は佐久間の我が儘に慣れてしまっていたし、自分がアフロディの世話をするのも当然のような気がした。
 源田は本人こそ気付いていないが、人を見た目で判断して一定の評価を下す節があった。お姫様たちには尽くすものである、という付き人根性が、当たり前のように染み付いている。アフロディの少女めいた愛らしい見た目は、源田の庇護欲の対象に十分なり得るものだった。
 佐久間の冗談に頷く仕草も、料理を礼儀正しく戴く所作も、さり気ないのに気品が感じられて美しい。世話を焼きたくなる佐久間とはまた違って、あれは何とも守ってやりたいタイプだな…などと、食器を洗いながら源田はぼんやりと考えていた。人の印象とは一概には判断できぬものだ。


 いい匂いをさせて風呂から帰ってきた二人が、早速回したテレビのチャンネルは、真夏恒例の心霊特集の番組だった。番組を観たいと言い出したのは佐久間だが、源田は佐久間が怖い話に弱いことを知っていた。番組冒頭のトーク部分ではアフロディと談笑する余裕を見せた佐久間だが、いざ本編が始まると唇をきゅっと引き締めて、身を固くしてしまった。アフロディにの腕にぺたりと張り付いて、それでも視線をテレビから離そうとしない。
 誰かに縋り付かねば見ていられないほど怖いというなら、最初から見なければ良いのに…と源田は思うし口出しもしたが、佐久間はまるで聞く耳を持たない。怖いけど好きらしい。今夜トイレに立てなくなるぞと危惧しつつ、キッチン周りをすっかり片し終えた源田は、リビングを出て行こうとした。それを佐久間が大声で呼び止める。
「待て源田!何処に行くんだ!」
「俺もシャワー浴びてくる」
「駄目!行くな!此処にいろ…!」
「…その番組、2時間スペシャルなんだろう?待っていられない。俺は行く」
 恐怖により普段よりテンションの高い佐久間はいつものことだ。一人きりだと何をしでかすか知れないが、今回はアフロディも一緒だし大丈夫だろうと源田は踏んだ。あまり表情を変えずに画面を見ていたアフロディは、ああいった内容が佐久間ほど苦手ではないのだろう。
「源田ぁー!源田の薄情者!人でなし!」
 佐久間の悲痛な罵声を背面に浴びながらリビングから出て行く間際、アフロディが何か言いたげな目でこちらを見ていたが、源田は気が付かなかった。


 風呂から戻りリビングのドアを開けた途端、源田は室内の違和感に顔をしかめた。咄嗟に嫌な予感がした。なにやらリビングに漂っているのはアルコールの匂いである。室内を見渡せば、点けっぱなしのテレビの前で、佐久間がソファに、アフロディがテーブルに突っ伏している。あまりの光景に源田は青ざめた。
「おい佐久間、アフロディ!何があったんだ?」
 二人を揺さぶり起こすと、アフロディの方がとろとろと目を開けた。先ほどの落ち着いた様子とは全く違う状態になっている。真紅の瞳は気怠く潤み、頬は熱を持っていて赤い。力の抜けたか細い声で、辛うじて源田の質問に答える。
「さくまくんが…持ってきて…」
「…なにを持ってきたんだ?」
「ゆうれいがこわくなくなるくすりだって…」
 カーペットに転がった空き缶を拾い上げ、源田は眉間に皺を寄せた。
「薬って…これは酒じゃないか…」
 果実の断面図があしらわれたそれは、いわゆるチューハイの空き缶である。レモンとピーチが転がっていた。一本ずつ二人で空けたものらしい。アルコールの度数はさほど強くないが、この様子を見る限り、二人とも生まれつきアルコールに強くない体質なのだろう。佐久間もアフロディも酔っ払って、ソファにカーペットにと思い思いに伸びている。
 一体いつの間に持ち込んだのだろう。いくら何でも薬とは間違えないだろう。騙されやすすぎやしないか。そんなに幽霊が怖かったのか…。
 言いたいことは山ほどあったが、当事者二人は既に夢の中である。これはもう今夜は駄目だなと源田は判断した。しかし二人をリビングで適当に寝かせるわけにもいかず、ひとまず源田は佐久間の肩を揺さぶった。
「ほら佐久間、起きろ」
 根気よく起床を促がすが一向に佐久間は動こうとしない。いつの間にか持ち込んでいた、ペンギンの形をした抱き枕にしがみついて、煩わしそうに源田を追い払う仕草をする。
「源田うるさい…ここで寝るぅ…」
「…勝手にしろ…」
 佐久間はすっかり寝る体勢に入っていて、源田は起こすのを早々に諦めた。お望みどおり佐久間をソファに横たえさせて、タオルケットを掛けておく。佐久間は寝相は恐ろしくいい奴なので、ソファから転げ落ちたり、掛け布を剥いで寝冷えたりすることはないだろう。
「アフロディはどうする?」
 泥酔している佐久間に比べて意識があるアフロディは、眠そうにしながらも自ら起き上ががる気力を見せる。
「…ベッドで寝たい…」
「じゃあ、こっちに来い」
「うん…」
 覚束ない足取りのアフロディを助けながら、源田はリビングを後にした。自宅に不在とはいえ、流石に両親の部屋には立ち入れない。源田の部屋に連れられたアフロディは、当然のように源田のベッドに潜り込んだ。随分とふらふらしていたので、そのまますぐにでも寝入ってしまうものと思いきや、アフロディは掛け布団から赤い顔をぴょこんと出した。源田を見つめて幼い様子で首を傾げる。
「…源田くんは、どこで寝るの?」
「俺は床に布団を敷いて寝る」
「駄目だよ。源田くんがベッドで寝てよ」
「構わない。お前がベッドを使え」
「家主の君を差し置いて、そうはいかない…僕が床で寝るから、源田くんはベッドで寝て」
 源田が譲ってもアフロディが譲らない。酔うとこうなるのか、実は元々頑固な性格をしているのかは知れないが、アフロディは源田を差し置いて、自分だけベッドで寝るのは有り得ないと思っているようだ。
 普段のように源田がベッドで眠り、アフロディが敷いた布団で眠れば、この問題はすぐに解決する。しかし愛らしい容姿に確かな加護欲を覚えた後では、アフロディを床で寝かせるなんて源田には到底できそうになかった。
「駄目だ…アフロディがベッドを使え」
 源田が折れないと察したアフロディは、おもむろにベッドの片隅に身を寄せた。その上で開いたスペースをぽんぽんと叩き、ベッドサイドに佇む源田を促す。
「…それなら源田くんもベッドで寝て。そうしたら僕もベッドで寝る」
 まさか一緒に寝ろというのか。源田は後込みしたが、提案を迫るアフロディの目に迷いはない。
「…わかった」
 源田をベッドで寝かせたいアフロディと、アフロディを床で寝かせたくない源田。最早これしか折衷案はないと判断した源田は、ベッドでアフロディと同衾することを承諾した。


 一人用なので広さはないが、アフロディは見た目がむさ苦しくないので、並んで寝ても源田は気にならなかった。むしろお世辞にも小さいとは言えない自分と、一つのベッドで寝ることになったアフロディに対して申し訳なさが募る。源田は邪魔にならないように小さくなり、アフロディに背を向けて眠ろうとした。その時だ。

「…アフロディ?」
 背中から抱かれるような形で、アフロディの腕が源田の身体に回された。あまりに自然に触れられたものだから、源田は一瞬何が起きたのかわからなかったくらいだ。抱き締められている状態をはっきり自覚すると混乱した。アフロディの手は源田の二の腕や腹部を、確かめるように撫で回している。アフロディの真意がわからないことに戸惑った。酔っ払いの仕出かすことに然したる意味はないのだが、こうも遠慮なしに触れられると、つい妙な勘繰りをしてしまう。
 そんな源田の葛藤を微塵も介しないアフロディは、緊張と警戒に強張る背中に頬を寄せて、ああと感嘆の溜め息を漏らした。源田の腹筋をまさぐりながら、うっとりとした様子で語り掛ける。
「すごい筋肉…鍛えてるんだね…」
「ああ、まぁな…」
 アフロディが背中で身じろぐ度に、石鹸とアルコールが混ざった匂いが甘く立ち上る。触覚と嗅覚が同時に刺激され、密着するアフロディの存在を源田は強く感じ取った。筋肉の話がしたくて抱き締めているのだろうか。それにしても引っ付きすぎだと焦ったが、纏わり付く華奢な身体を無碍に振り払うこともできない。
「僕は幾らトレーニングしても、筋肉が付いてくれなくて…ほら、触ってごらんよ…」
 アフロディの言葉には有無を言わせぬ強さがあった。きちんと触るまで許してくれなさそうである。寝返りを打ってアフロディと向き合った源田は、躊躇いながらもアフロディが差し出す腕に触れた。
 ガリガリというわけではないが、筋肉が付きにくい体質というのは本当のようで、その腕は源田のものに比べると一目瞭然に細い。人よりも大きい源田の手で握ったら、すっかり掴めてしまうくらいだ。
「ねっ、細いだろう?」
 しかし源田はアフロディの気にする肉付きよりも、すべすべの肌の方に気を取られて仕方なかった。きめ細やかで滑らかな手触りはとても気持ちの良いものだった。不本意に芽生えたやましい思いを悟られないように、無表情を繕って源田は答える。
「本当だ…細いな」
「君が羨ましいよ…僕も、君みたいにたくましくなりたのに…」
「筋骨隆々としたお前は、あまり想像が付かないが…」
「そうかい?」
「…アフロディは可愛いからな」
 ぽろりと言ってしまってから、今のは失言だったと源田は気付いた。うっかり口が滑って本音を口にしてしまったが、これではまるで女子を口説くときのようではないか。普段あまり口が回る性質ではないのに、今夜はアフロディの酔いに当てられたのかも知れない。
 後悔先に立たず。いくら綺麗で愛らしくてもアフロディは歴とした男である。同性から可愛いなどと言われても、見た目を揶揄われているようで不愉快なだけだろう。
「すまない…忘れてくれ…」
 しかしアフロディは不快な素振りを見せなかった。それどころか表情を明るく綻ばせて、源田に更なる肯定を迫り始めた。
「本当?本当に僕を可愛いと思う?」
「ああ、思ってるぞ」
 源田にはっきりと頷いてもらったアフロディは、今度こそ満面の笑みを浮かべた。
「そう…うれしいな…君に、可愛いと思われているのは…」
 予想だにしなかった反応だったが、可愛いと言われてアフロディは気分を悪くしないどころか、源田の言葉を大変喜んだ。酔っているからかも知れない、と源田は思ったが、何にせよアフロディが笑うなら源田も嬉しくなる。
「もう一回言って欲しいな」
「可愛い」
「…もう一回…」
「可愛いぞ、アフロディ」
 戯れのような数回のやり取りの後、アフロディは源田の胸に擦り寄った。胸元に頭を預けてぽつりと告げる。
「僕ね、ずっと源田くんが好きだったんだ」
 全く不意打ちの告白に、源田は返す言葉を無くした。アフロディは源田の手を取って自分の頬に触れさせて、その手のひらに頬摺りした。桃の表面のようなすべらかな頬の感触に源田はときめいた。
「君に可愛いと言ってもらって、こうして触ってもらえたらって…ずっと考えてたんだよ?」
 アフロディはおもむろに源田の人差し指を口に含んだ。ちゅぱちゅぱと音を立てて吸い、舌を絡めて根元まで舐める。柔らかな粘膜の感触に不覚にも催してしまう。アフロディの大胆な行動は、別の行為を源田に連想させた。これではまるで。
「…お前、誘ってるのか?」
 柔らかな頬を撫で返す。可愛いと思っている人に、こんなことをされて流せるほど、源田の精神は大人ではなかった。他にどう見えるのかと言わんばかりに、源田の指をくわえたまま、アフロディはにこりと微笑んだ。


 ベッドの上に胡座をかいた源田の股ぐらに、アフロディがうずくまって奉仕している。立ち上がった砲身を舐めるだけの単調な刺激だが、一生懸命に愛撫する様子が健気で愛らしくて、源田の興奮はひとりでに高まった。
 フェラチオの最中に労るように頭を撫でると目を細めて嬉しそうにする。アフロディは女子供のように甘やかされるのが好きらしい。
「んっ…ふとい…君は、こっちもすごいんだね…」
 がちがちに充血して反り立つ肉棒に、アフロディは恍惚とした表情で口付けた。張り詰めた剛直を両手で優しく包み込み、愛しいものを眺めるように見詰めて笑いかける。
 その無垢な微笑みと醜悪な性器との対比に、源田は頭を殴られたような衝撃を受けた。こんなに眩いほど美しくて、かついやらしい生き物が存在するなんて信じられなかった。
 アフロディを独占する優越感と蹂躙する罪悪感が、二律背反の感情となって源田の中でせめぎ合う。そしてどちらの思いも今は、後ろめたい興奮を煽る格好の材料にしかならなかった。
「アフロディ、先の方をくわえられるか?」
「んっ…、こうかい…?」
「そのまま先を舐めてくれないか」
 艶やかな紅唇に剥き出しの亀頭が飲み込まれる。アフロディは源田の指示に従って、肉棒の先をペロペロと熱心に舐め始めた。ざらざらとした舌の感触を敏感な先端に集中的に受ける。技巧はないが素朴な刺激で気持ちがいい。
 ひくつく鈴口を舌先でほじられた瞬間、源田の射精の欲求は一気に高まった。アフロディの口の中で、性器が一層太く脈打つ。溜め込んだ熱はアフロディの舌を目掛けて弾けたのだった。
「…っ、…くっ…」
 アフロディの口から性器を引き抜くと、先端と唇に白い糸がかかった。唾液と精液に濡れた唇がぬらぬらと光ってなんとも艶めかしい。源田はアフロディの華奢な顎を指先で持ち上げた。フェラチオの余韻に火照る顔をじっくりと覗き込む。
「口、開けてみせてくれ」
 アフロディの口の中では、吐き出されたばかりの精が行き場を無くしているはずだった。しかし源田の予想に反して、口内には舌の上に僅かな残滓が残るばかりだった。
「…お前…飲んだのか?」
 思いがけず驚く源田に、アフロディは頷いて答えた。精液なんて不味くて飲めたものではないのに、アフロディの思い切りの良さに脱帽してしまう。
「無理しなくても良かったのに」
 アフロディの汚れた唇を指で拭いながら、源田は苦労をいたわった。申し訳ないという気持ちはあるが、嫌な顔一つせずに飲んでもらえて悪い気はしない。
「だって…源田くんのだから…」
 余すところなく欲しいのだと無邪気にアフロディは笑った。その指は息をつく間もなく、萎えた源田の肉棒を扱き始めている。一度達した性器に再び熱が集まり始めた。健気なのに貪欲なこのギャップに眩暈がしそうだ。アフロディは上目遣いで源田を見詰めて実に熱っぽく懇願した。
「ねぇ源田くん、これ欲しい…口じゃなくて…僕の中に…」
 ここまで淫らに強請られて源田に断る理由はない。


 自ら寝間着を脱ぎ捨てて一糸纏わぬ姿になったアフロディは、そのまま源田の身体に跨った。天を仰ぐ剛直を片手で支えて騎乗位での挿入を試みる。源田の上に腰を落とそうと苦心するが、狙いは外れてばかりでなかなか上手くいかない。何度試しても擦れ違うやり切れなさに、アフロディは切なげな声を上げた。
「やぁ…どうして…?うまくはいらないよぉ…」
 終いには源田の肉棒で尻の谷間を擦り始め、もどかしい快楽に涙する始末である。目も当てられなくなるほど不器用なので、まさかと思って源田はアフロディに尋ねた。
「もしかして…初めてなのか?」
 アフロディの頬に朱が散った。源田から目を逸らし、もじもじと恥ずかしそうにしながら、アフロディは小さく頷いた。これには源田も衝撃を受けた。誘う段階から積極的だったので、これまで考えもしなかったが、なんとアフロディは処女だという。確かに大胆ではあったが、手管は初心者と言って相応しいくらい拙かった。乗り気になった源田を失望させまいと、背伸びをして頑張っていたに違いない。
「…無茶をする」
 源田は苦笑して俯くアフロディの頭を撫でた。経験がないのにも関わらず、一人で挿入までしようとするなんて無謀にも程がある。だがそれ程までに自分を思ってくれるアフロディの一途さには、源田も心を揺さぶられずにはいられなかった。今度は源田が主導して事を進めるだった。

「…アフロディ、脚を開けるか?」
「ぅ、ん…」
 仰向けになったアフロディの白い大腿がおずおずと開かれて、勃起して先走りを垂らす性器と、慎ましく閉じられた桃色の蕾が露わになった。源田は自分の指をよく舐めて濡らし、アフロディの後孔の上辺を撫でてみた。入り口に少しだけ指をめり込ませてみたが、唾液程度の滑りだけではとてもそれ以上は入らない。入ったとしてもアフロディを傷付けてしまうことが目に見えていた。源田は部屋を見渡してローションの代わりになりそうなものを探した。
「源田くん…それ、なに?」
「乳液だ…ローションはないから、これで我慢してくれ」
 源田は乳液を手のひらにたっぷりと垂らすと、濡れた右手でアフロディの勃起を包み込んだ。
「…っあ、あっ!…はぁ、あぁん…!」
 ぬるぬるの手のひらで肉棒を扱かれると、堪らない快感が押し寄せる。絶妙な緩急を付けて巧みに下肢を刺激されて、されるがままのアフロディは本気で喘いでしまった。奉仕している時から興奮していた性器は、源田の容赦ない手のひらの責めに呆気なく昇り詰める。
「っひ、あ…いくっ…ぁん、あぁっ!」
 下半身をびくびくと震わせて、源田の手の中にアフロディは熱を放った。絶頂の瞬間の表情が実に官能的で、源田も思わず息を飲んだ。
 精液と乳液が混ざったものを、アフロディの尻の谷間に塗りたくる。入り口を撫でるだけに留めた指を、今度は内部まで突き進める。
「…ん、はぁ…あ……」
「…痛いか?」
「…っ…大丈夫…」
 ゆっくりと時間をかけて指を進め、先ずは人差し指を根元まで含ませた。その指で体内の性感帯に悪戯を仕掛けると、アフロディは未知の感覚に戸惑いながらも喘ぎ始めた。
「あっ…なに…?そこ…っあん…」
 源田が指で狙ったのは前立腺だった。膨らみを断続的に押さえ付けると、堪らないと言った風に白い喉を仰け反らせる。アフロディには後ろで感じる才能があるようだ。
「ん、あっ…!や、あぁん…!」
 前立腺への刺激に合わせて、蕾の入り口が絶妙な力で指を締め付ける。アフロディは感度がとても良い身体を持っているらしい。自分が気持ち良くなれば良くなっただけ、相手にも快楽を与える素晴らしい身体だ。入れる指を増やして後孔を丁寧に広げながら、源田の挿入の欲求は高まった。

「アフロディ、挿れるぞ」
「…ん…源田くん…きて…っ…」
 不安と期待にひくつく濡れた孔に、源田は猛り切った熱の切っ先を宛がった。雄に貫かれるのはやはり恐ろしいらしく、挿入を待つアフロディの体は震えている。なるべく無理はさせないように、源田はアフロディの呼吸に合わせて、ゆっくりと挿入を開始した。
「ん…っあ、は、ああっ…!」
 亀頭を飲み込むまでが大変だったが、一番太いところが入ってしまえば、あとは根元まで一気に収めることができた。初めて男を受け入れる肉筒は本当に狭く、侵入者を痛いくらいの力で締め付ける。それもまたアフロディの処女を奪った証だと思うと、痛みすらも源田には嬉しかった。
「アフロディ…」
「っん…はぁ…あっ、ん…」
 後孔に源田の男根をすっかりくわえたアフロディは、源田の口付けに答える余裕もなくて、苦しそうに息をしている。結合部が切れていないことに源田は一先ずほっとした。雄の形に広がって皺の伸び切った縁を指で撫でる。アフロディの下半身がぶるりと震えた。固く閉じられていた瞳がうっすらと開いて源田を見た。
「あ…んっ…ぜんぶ、入ったぁ…?」
「ああ…触ってみるか?」
 アフロディの手を取って源田は結合部に誘導する。最初は怯えて手を引こうとしたアフロディも、好奇心には勝てず繋がったところを探り始めた。不自然なほど広がった後孔に、どくどくと脈打つ熱い塊が突き刺さっている。身体の深いところで交わる実感に、アフロディはほぅと溜め息をついた。
「僕たち、一つになってるんだね…」
 繋がれた喜びを心の底から噛み締めるように、恍惚とした表情でアフロディが呟くものだから、源田は面食らってしまった。アフロディにそのつもりはなくても、その無防備な笑顔は男の情欲を煽って仕方がないものだ。源田は滅茶苦茶に抱き潰したい衝動を堪えて、緩やかな抜き差しを開始した。未開の身体を傷付けないように、じっくりと快楽を与えて開拓していく。
「…っん、あ…はん…あぁ…!」
 蠢く肉壁に絞られながら性器を引き抜き、隘路を掻き分けるように中に再び差し入れる。アフロディの体内は酩酊と興奮のせいで焼けるように熱かった。よく熟れた内壁はアフロディ本人の初心さとは裏腹に、源田の雄を情熱的に締め付けて離さない。こんなにいやらしい身体をしているのに、アフロディを初めて抱いたのは自分なのだ。処女性に殊更こだわるつもりはないが、アフロディの初めての男になれるのは嬉しかった。
「ひ、あっ!あぁっ…はぁ…あっ!」
 与える刺激に従順で、高い声でよがり鳴くのも好みだった。そして何より離さないでとも言うように、腕を首に巻き付け抱き付いてくるのが良い。求められている感じがして無条件に愛しく思える。
「アフロディ…可愛い…」
 乱れた前髪を掻き上げて汗ばんだ額にキスをすると、アフロディは大きな瞳から涙を零して喜んだ。
「…源田くん、好き…好きだよぉ…」
 源田の熱に揺さぶられ、訳がわからなくりながら、アフロディは舌っ足らずな口調で「好き」と源田に呟き続ける。数え切れないくらいの告白を受けて、源田も頭がいっぱいになる。鼓膜を侵す甘い囁きが脳内で反響していた。性交は初めてではないのに、どんなときよりも激しく興奮した。目の前の肉体に夢中になって、アフロディしか見えなくなる。底無しの愉悦に溺れていくような感覚を、このとき源田は味わった。
「…くっ…いくぞ…」
「ふぁ、んっ…はぁっ…あぁっ!」
 震える身体を抱き締めて、より深く体内を穿つ。先端を出来る限り奥に押し込んで、源田はそこで絶頂を迎えた。源田の精に体内を濡らしたアフロディも、後を追うように精液を吐き出す。
「アフロディ、好きだ…」
 アフロディの身体から性器を引き抜くのが惜しかった。行為の後でこんなにも、孕めばいいのにと思ったのは初めてだった。



 後になって聞いた話だが、あの日アフロディは佐久間にお願いして、源田の家に付いてきたらしい。酒は予定外の事故だったが、結果的に上手く事が進んだから良かった…と語るアフロディは、今では源田の最愛の恋人になっている。
 大好きな友達を取られた佐久間は臓腑がよじ切れるほど後悔していたが、源田としては幾ら感謝しても足りないくらいだ。

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