稲妻11 | ナノ


「――あッ、雨宮…ッ…!!?」
 白竜は裏返った声を出して驚愕した。腰と脚とを太陽に押さえられているので、起き上がることは叶わず、背後を振り返るのが精一杯だ。太陽は引き締まった双丘を両手で割り開き、奥まった場所を舌で慣らしている。後孔に触れる柔らかい感触に、白竜は思わず眩暈がした。白竜は太陽のしている行為が理解できなかった。羞恥と混乱に襲われて頭が錯乱する。
「…な、なにを、しているのだ、お前は…ッ」
「白竜のここ、怪我してるし…なるべく柔らかいものの方が、痛くないでしょ?」
 白竜の後孔を舐めながら、太陽は舌に鉄っぽい味を感じていた。自分の無茶がさせた怪我だと思うと胸が痛む。淵からの出血を拭うように、丹念に舌を這わせた。解す目的で皺を舐め、唾液を塗り込めていく。有り得ない場所への優しい労りの愛撫に、白竜は酷く戸惑った。
「だからって、そんな場所を、舌でなど…ッ、ああ…ッ!」
 場所が場所なだけに、口で慣らされることに罪悪感はあったが、動揺と快楽に流された。下の方からぴちゃぴちゃと卑猥な水音が聞こえる。死ぬほど恥ずかしかったが、どういうわけか嫌ではなかった。後ろの窄まりを濡れた舌先で擽られるのが気持ち良い。白竜はシーツに顔を突っ伏して、荒い吐息を漏らした。
「う…っ、はう……っ、はぁ…あ……ッ」
 次第に綻んできた蕾の中に、太陽は舌先をぐいっと捩じ込んだ。潤滑剤代わりに唾液を注ぎ込んで、指で更に奥の方を慣らす。くちゅっと濡れた音がした。生きた人間の体内を探るのは初めてで、生々しい肉の触感に太陽は言い知れぬ高揚を覚えた。
「…っ…すごい……白竜の中、熱くて狭い…こんな風になってるんだ…」
 白竜のそこは入り口付近こそ締め付けがきついが、内側はふわふわと柔らかく、熱い粘膜の壁に囲まれた隘路が続いている。挿入した指の動きに敏感に反応して、びくびくと蠢く内襞がいやらしかった。先程は先端しか挿れることが出来なかったが、この中に欲望の全てを収めたらどんなに気持ちがいいかと想像して、太陽は期待に湧いた唾を飲み込んだ。しかしここで誘惑に負けたら一度目の二の舞になってしまう。逸る情欲を理性で律しながら、太陽は白竜への献身的な愛撫に努めた。入り口となる場所を広げ、体内を探って慣らしていく。
「…ッ…あめ、みや…っ…もう……」
 堪らないという風に呻いて、後ろを振り返った白竜は、潤んだ真紅の瞳で太陽を見つめた。白竜の言いたいことは目を見たら分かるが、太陽はきちんと口で言わせたかった。
「…もう?もう、何なの…?」
「もう、いいから…っ…――抱いてくれ、雨宮……」
 白竜の口からようやく、太陽が待ち望んでいた言葉が出た。そのお願いが聞きたかった。満足した太陽は白竜を仰向けに寝かせて、先程と同じ正常位の体勢で合体した。太陽の身体の下で、白竜が白い喉を晒して仰け反る。舌と指で慣らした後孔はよく広がり、自身を貫く男根を健気に受け入れている。
「…っふ、う……ッ、あ…はぁ……あぁ…っ!」
「あ、っあ…すごい……さっきより、ずっと楽に挿入る…」
 途中で動けなくなってしまった最初とは異なり、太陽が腰を進めた分だけ、白竜のそこは肉棒を飲み込んでいった。締め付けの強い門の先は本当に柔らかくて、隙間なく勃起を包み込んでくれる。程良い圧力の中に肉棒を収め、挿れただけで太陽はかなり気持ち良いのだが、気になるのは受け入れている白竜の具合である。
「白竜、身体は大丈夫…?今は、痛くない?」
「…ッああ…、だいじょうぶ、だ…ッ…もっと、奥まで…」
 太陽の腰を発達した太腿がしっかりと挟み込む。白竜の情熱的な要求を受けて、太陽は挿入しながら舞い上がった。白竜の身体に負担を掛けないようにゆっくりと、しかし希望には添うように、慎重に残りを押し込んでいく。狭くて長い肉筒を亀頭で割り開いて、時間をかけて太陽の腰が白竜の臀部にぶつかった。
「…ん……白、竜…ほら、最後まで、入ったよ…っ」
「…はぁ……っ、ん……雨宮…ッ、ああ、わかるぞ……」
 ようやく根元まで収め切ったときには、二人とも汗だくになっていた。火照った身体で抱き合って、繋がったまま口づけを交わす。部屋が明るいから互いの表情もよく見える。至近距離で交わる視線が気恥ずかしくて、どちらからともなく幸せな苦笑が漏れた。
「ああ…白竜の中、すごいよ…生きてるって感じがする」
 オレンジ色の鮮やかな髪の毛を乱して、太陽は白竜に訴え掛ける。肩口に擦り寄る太陽の頭を、白竜は犬にしてやるように掻い繰った。これだけはいつも変わらない、豊かで柔らかな髪質の手触りが好きだった。甘えるついでに太陽はもう一つお願いをする。
「ねぇ…もう、動いていいかな…」
「ああ…お前の好きなように、したらいい…雨宮……」
 白竜の許可を得た太陽は、思ったように律動を開始してみた。奥まで挿れた雄を引き抜き、再び押し込むという、抜き差しの運動を繰り返す。締まりの良い括約筋に性器を扱かれる太陽は、白竜の身体で十分な快楽を得ることが出来ている。白竜は最初揺さ振られているだけだったが、太陽が体内のある一点を突き上げた瞬間、今までとは毛色の違う艶やかな声を上げ始めた。
「ん…う、ん……っ、あ……っ、ああッ!」
 それは明らかに感じているときの嬌声だった。
「…白竜、ここ?この辺りが感じるの…?」
「…ッあ、ああっ!はぁ…そう、みたいだ……ッあ、あ……」
 白竜が高く鳴いた辺りを狙って、太陽は腰を動かしてみる。すると同じような嬌声を上げたので、白竜の中の勘所が判明した。自身の雄で白竜が感じてくれるなら、そこを責めない手はない。突き入れた亀頭で内側を突き上げる。
「…っはぁ…あ…そこ…おかしく、なる……ッ」
 整った顔立ちに汗と朱を散らして、白竜は太陽の与える快感に身を悶えさせた。切なく寄せられた眉根や、半開きで息をする唇など、直視に堪えないほど扇情的な表情を晒して、白竜は従順に抱かれている。色に溺れて乱れる美貌を、真正面から見下ろせる太陽は堪ったものではない。顔に貼り付いた髪の毛を手で払って、白皙の輪郭をうっとりと撫で回す。熱に潤んだ真紅の瞳が瞬くと、その奥で光が弾けるようだった。太陽は感嘆の溜め息をついた。
「君…本当に、きれいなんだね…姿形も、心も、全部……」
「――あッ、ああ…っ!」
 先程見つけた場所を狙って責め立てる。慣れない快楽に歪む顔すらも美しい。そして白竜の内側は、処女だったとは思えぬほど貪欲に、太陽の雄を喰らおうと蠢くのだ。自身の下で喘ぐ白竜を見つめながら、太陽は困った顔をした。
「ああ、だめだ……参っちゃうなぁ……」
「…っは、あ……ッ、ン………」
「僕、やっぱり、白竜のことすっごく好きみたいだ…」
 その嘆息に、当然だと頷いた白竜は腕を伸ばして、太陽の背中を掻き抱いた。抱き寄せた耳元に唇を近付けて囁き掛ける。
「…おれも、好き、だぞ……でなければ、身体など…許すものか…」
「――白竜、」
 お前が好きだから抱かれても良いのだと、白竜は太陽に告白する。愛しい男の情けを求めて、雄を受け入れた後孔が収縮した。強い締め付けに持っていかれそうになる。太陽は本能的に腰を振って、目の前に開けた美しく魅力的な身体に溺れた。痙攣する内壁を亀頭で擦り上げ、共に快楽を極めようと動く。
「う、あっ、ん……はくりゅう…ッ、あ、う……ッ」
「…ン、ぁあ……あめみやッ、あぁ…ッ!」
「…くぅ……っは、うあ……ッ!はぁっ、あ……!」
 深々と貫いた白竜の最奥で、太陽は達して射精した。自身を包み込む肉の壁に向かって白濁をぶち撒ける。あの白竜に種付けしているという事実を噛み締めるだけで、いつまでも快感が続くようだった。
「はぁ…ッ、あ、んっ……はぁあ…ぁ…っ!」
 太陽の放った熱い飛沫が、体内にじわりと広がるのを感じながら、白竜もまた二度目の吐精を果たした。


   * * *

 二人で包まったベッドの中で、白竜は太陽の胸の手術痕ばかり触っていた。見慣れなくて珍しいからかと太陽は思ったが、新古様々な創痕に触れる指先は、好奇心というよりも慈愛を滲ませている。
「僕の胸の傷跡、そんなに気になる?」
 白竜を抱き締めて、太陽は何気なく質問した。
「そうだな…確かに、気にはなるな。お前が今日まで闘ってきた勇気の証だと思うと、愛おしいだろう」
「…――っ…」
 白竜の答えは予想外なもので、太陽は胸を衝かれた。自身の身体に残る痕を見ると、苦しかった闘病生活が思い出されて、太陽は堪らない気持ちになる。またいつか病が再発するのではないかと、そんな不安に駆られることもあった。太陽は傷跡に対して良い思いを抱いていない。しかしそれを白竜は勇気の証拠だとして、愛しいとまで言ってくれている。込み上げる感慨で胸がいっぱいになった。
「お前のしてきた沢山の苦労は、俺には解らないが…今、生きていてくれて良かったと、心の底からそう思う」
「そう、だね…もし死んでたら、こうして白竜と抱き合うことも出来なかったものね」
 それを聞いた白竜は険しい顔になって、太陽の髪の毛を引っ張った。整った白皙に微かな怒気の色が窺える。
「…冗談でも、そんな仮定は口にするな」
 死という表現を太陽が使ったのが、白竜は気に食わなかったらしい。軽々しく口にして良い言葉ではないと叱り付ける。太陽は白竜の気持ちを考えなかったことを、反省して苦笑した。ごめんと謝罪して、白竜を抱き締め直す。熱いと感じるくらい体温の高い身体だ。それがいつもより腕に馴染むのは、素肌同士で抱き合っているからか、それとも太陽の体温も上がっているからか。柔らかな白銀の髪の毛に顔を埋めて、太陽は白竜に語り掛ける。
「…でも、僕は生きてるからね。今、君と一緒にいられて、すごく嬉しいよ」
 互いの温もりに包まれて眠りに就く。肌を合わせて聞く優しい鼓動に、この上ない喜びを感じながら。




 おわり



*120603阪プ7無配本でした

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