明かりを消して欲しい、という白竜のベッドでの懇願を、太陽は笑顔で却下した。白竜は困惑して、再三に渡り消灯を求めたが、太陽が折れる様子はない。
「…悪趣味だぞ、雨宮…」
「いくら白竜のお願いでも、こればっかりは譲れないな」
実のところ、蛍光灯の光が皓々と眩しい部屋で押し倒されたときから、電気は消してもらえないような気がしていた。付き合うどころか知り合った当初から、太陽は白竜の肉体に強い執着を露わにしていた。触りたがったり、見たがったり。
「君の姿をよく見たいんだ」
着衣を丁寧に剥いていく太陽の嬉しそうな顔を見ると、白竜もそれ以上強く求められなくなる。明るいところで全裸にされるのは恥ずかしいが、太陽がそれを見たいと言うのだから我慢するしかない。とうとう最後の一枚も脱がされて、一糸纏わぬ姿になった白竜を前に、太陽はうっとりとして感嘆した。
「――ああ、やっぱり、すごくきれいだ」
サッカーのために鍛え抜かれた身体は、無駄の一切を削ぎ落した、ストイックな引き締まり方をしていた。筋肉の付き具合は逞しく男らしいのに、抜けるように色が白くて滑らかだから、厳つさよりも妖しさが先んじる。純白の裸体が放つ神々しさに、太陽は目を眩ませた。吸い寄せられるように手を伸ばす。
「綺麗で、健康な…素敵な身体だね」
裸の胸に頬を擦り寄せて、その下にある生の鼓動に耳を傾ける。力強いリズムで脈打つ心臓の音が愛しくて羨ましい。何ものにも屈しない強靭な肉体は太陽の憧れだった。幼い頃からずっと欲しくて堪らなかったそれに、今この手で触れている。太陽の心の奥から湧き上がってきたのは、喩えようもない興奮だった。全身余すところ無く見つめて触って、隠されたところすら暴いて味わってみたい。白竜という理想の肉体に触れて初めて、太陽は自身の中にある欲求を正確に理解した。
「恥ずかしがらないで、僕に全部見せて、白竜…」
囁きながら太陽は白竜に口づけた。白竜は大人しく接吻を受け入れている。白竜が本気で抵抗すれば、病み上がりの男の身体くらい、容易く跳ね除けることが出来る。だが敢えてそうしないのは、身体を許してもいいという無言の許可なのだと、この場では二人とも暗黙の内に知っていた。唇を開いて口内で舌を突き合わせる。熱っぽく漏れる吐息に興奮が高まった。
「…っ、ん……ッ」
太陽は上の方から白竜を可愛がっていった。眩しいほど白い素肌に口づけながら、皮膚が薄くて敏感そうな場所を手でまさぐる。セックスをするのは初めてなので見よう見真似の前戯だが、受ける白竜は身を控えめに捩って、太陽の愛撫に感じてくれていた。恥じらいと未知の悦びに頬を染めて、大人しく我が身を委ねる白竜の姿は、初々しくて可愛らしい。玉の肌にうっすらと汗が滲んで、明かりに反射して光っていた。発汗した肉体は匂い立つような色気を纏っている。下肢に手を這わせた太陽は、兆しを見せている性器を掴んで、緩やかに上下に扱いてやった。熱を集めて立ち上がったそこを、自分以外の手に刺激されるのは勿論初めてで、自慰とは違う快感に白竜は身体を震わせた。
「あ…めみ、や……っ!」
性器を嬲る太陽の手つきは酷く優しい。赤っぽく充血した勃起に華奢な指が絡み付く様子は倒錯的だった。手淫されている様子を直視できず、白竜は太陽の手の動きから顔を逸らした。
「う、っ……ッ……ふ、っ……ッ」
「声、我慢しないで、出して欲しいな…」
「……ッ、はぁ……あぁ……っ!」
太陽は白竜の雄を愛撫しながら、上体に移動して胸の突起に吸い付いた。白竜が高めの声を上げる。男でも乳首は感じる場所らしい。胸と股間とを同時に刺激し始めて間もなく、太陽の腕を縋るように握り締め、眉根を寄せた白竜は限界を訴えた。
「あ…っも……っ、でる…っ……ッ、ああ……っ!」
白竜の肉体がびくっと痙攣した瞬間、太陽の手の中に熱い体液が溢れ返った。握った性器はどくどくと震えて、精液を体外に送り出している。
「……ふ…っ……は…ぁ……ッ」
「…はく、りゅう……」
白竜の射精の瞬間を間近で目撃した太陽は、何とも言えない気分になった。白竜をイかせたという達成感と、ほんの少しの罪悪感で、怒濤のように胸が埋め尽くされる。情欲に心身を蕩かした白竜は、普段の禁欲的な佇まいからは想像できない姿をしていた。余裕のない表情を朱色に染めて、肩で息をしている白竜の姿が新鮮で、目が離せない。頭の中が沸騰してしまったようにぼんやりした。朦朧としている太陽の意識を引き戻したのは、見惚れている最中の白竜の声だった。
「…す…まない…服を汚してしまっただろうか…」
衣服を身に付けたまま責めていた太陽の着衣の心配をする。
「あ…ううん、俺の服は大丈夫だよ。手で受け止めたから」
「そうか。…それも、早く拭え…」
太陽の両手には吐き出されたばかりの白濁がべっとりと付いている。居た堪れなくなった白竜は、ティッシュを箱から無造作に数枚掴み取り、太陽の手に握らせた。拭われた精液がティッシュに包まれて捨てられてようやく、羞恥から抜け出すことができる。後始末を終えた太陽の姿を見上げて白竜は尋ねた。
「お前は脱がないのか?」
白竜は全裸だが、太陽は未だに服を着込んだままである。ベッドの上で自分だけ裸というのも恥ずかしい。白竜の気持ちは分かっているが、太陽は躊躇う素振りを見せた。
「…君も知ってるでしょ?僕の体、すごいから…怖がらせるかも知れないし」
太陽は自身の身体に残る、胸の手術の痕のことを気にしていた。治りはしたが薄れてはいない傷口は醜くて悍しい。白竜を不快にするような気がして、太陽は服を脱げないでいる。太陽の見せる憂惧を、白竜は一笑に付した。
「まさか。俺がお前を怖がるものか」
馬鹿にするなと、白竜が言い切る。安堵の笑みを浮かべた太陽は、着ていたシャツを白竜の目の前で脱ぎ捨てた。初めて目にする太陽の裸体には、色の白い肌に似つかわしくない赤黒く変色した傷跡が、胸元に幾つも集中して走っている。繰り返し受けたという手術が、齢十二に過ぎない少年の身にとって如何に過酷なものであったか、太陽の身体に残る痕が何よりも雄弁に物語っていた。白竜はその一つ一つを真剣な眼差しで凝視した。太陽が我が身を切り刻んでまで、サッカーをしようと足掻いた痕だ。痛ましく、そして尊ぶべき傷だと思った。
「…白竜……っ?」
起き上がった白竜は太陽に身を寄せて、その裸体に残る古傷に口づけた。不格好な皮膚の隆起に恭しく舌を這わせる。痕自体は塞がっているので触れられても痛みはない。しかし神経が過敏になっている部分を、恋人に丁寧に愛撫されることは堪らなかった。白竜に押し倒されたようになりながら、太陽は慌てた声を上げた。
「あ…っ、や、やめて……それ、だめ……っ」
「駄目という割には、感じているようだが…?」
「でも、なんだか、変な気持ちになるから、やめてよ…」
左胸に真っ直ぐに走った傷跡を、白竜はべろりと舐め上げる。擽ったさと怖さが混じって生まれる不思議な刺激に、太陽は背筋をぶるっと震わせた。白銀の柔らかい髪の毛が素肌を滑ってこそばゆい。長い睫毛を伏せた白竜は身を屈めて、太陽の身体への愛撫に励んでいる。時折向けられる流し目が男殺しで、太陽は辛抱堪らなくなってしまった。
「…――白竜…ッ!!!」
カッとなった太陽は白竜を引き倒して、自身の身体の下に組み敷いた。馬乗りになった太陽は唇を噛み締め、何かに耐えるような表情で白竜を見下ろす。呼吸も荒くて目の色にも余裕がない。白竜の両手を抑える力は怖いくらい強かった。この時の太陽は病気がちで儚げな少年ではなく、獣性を露わにした一人の男の顔をしていた。
「白竜が煽るからいけないんだからね…ッ」
頭に血が上った太陽は、白竜の長い脚を抱え上げると、閉じた場所にいきり立つ怒張を押し当てた。いきなりの行為に白竜は青褪めたが、興奮した太陽はもう止められない。
「――ッあ、あああ……っ!!!」
ぐっと無理矢理腰を押し進めて、太陽の熱が白竜の中に押し入る。強引な挿入のせいで受け口が切れて、結合部から少しばかり血が流れた。殆ど慣らされないまま貫かれた白竜の後孔は、不躾な侵入者を痛いくらいに締め上げる。元より入れるようには出来ていない器官である。どうにか先端は収まったが、とてもその先には進めない。何よりお互いに痛くて苦しいばかりでどうにもならなかった。
「…っ、キツ……ッ」
「う、う…ッ…あ、めみ、やッ……う、あ……ッ」
歯を食い縛って白竜が呻いた。端整な顔を苦痛に歪めて、蒼白になった額に脂汗を滲ませている。
「これでは、はいらな…ッい…から…いったん抜け…ッ」
白竜の苦しげな様子で我に返って、太陽は慌てて身を離した。白竜に掴まれた腕には、指の跡が鬱血して赤く残っている。そしてシーツに滴った鮮血が、己の仕出かした無茶な仕打ちを、事実として太陽に突き付けた。熱に浮かされていた太陽の頭から血の気が引く。体液と汗に滲んだ赤い色は、白竜の白い大腿も汚し、引き抜いた太陽の雄にも絡み付いていた。
「ご、ごめん…ッ、僕、なんて酷いこと…ッ」
情動に駆られて無茶な交接を試みて、白竜を傷付けてしまった。太陽は目の前が真っ暗になった。後悔から意識を引き戻したのは白竜だった。呆れたように苦笑して、落ち込む太陽を宥める。
「煽った俺にも責任があるが、もっと落ち着かないか…」
「本当に、ごめん…痛かったよね…」
「わかったならいい」
しおらしく反省する太陽の頭を、白竜は優しく撫でた。「…今日はもう、やめておこうか?」
「別に、このくらい、どうってことない」
だが続きは慣らしてからだ、と白竜が言うので、太陽も当然だと思って頷いた。白竜をうつ伏せに寝かせて、軽く腰を掲げさせる。白竜が訝しみ始める前に、太陽は白い尻の谷間に顔を埋めた。そして躊躇うことなく硬い蕾に舌を伸ばした。
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