稲妻11 | ナノ


 初夏のある日曜日。帝国学園サッカー部の屋内グラウンドでは、帝国学園と世宇子中の練習試合が行われていた。
 鬼道という司令塔を欠きながらもチームプレーに磨きを掛ける帝国サッカー部と、神のアクアの呪縛を断ち切り新たなチームとして歩み出したばかりの世宇子中サッカー部。
 フットボールフロンティア全国大会においては、不本意な対戦をしてしまった因縁のある両チームであるが、影山というしがらみから解き放たれた今は、拮抗する実力を持つ好敵手として、良好なライバル関係を築いている。

 この日の試合は接戦になったが、帝国学園が1-0で勝利を収めた。前半に1点を先取された世宇子中が、後半に怒濤の攻めを見せる展開になったのだが、帝国の守護神こと源田幸次郎のセービングが冴え渡り、得点を許さなかったのである。

「今日の源田はひと味違ったな。源田らしくないっていうか、スッゲー荒々しくて大胆だった」とは、得意の必殺技の皇帝ペンギン2号で決勝点を挙げた佐久間次郎の言である。



「あれ?源田はどこ行ったんだ?」
「源田先輩なら、向こうのキャプテンに話があるって言って行っちゃったっスよ」
「あの野郎!用事があるなら、一言俺に断ってから行けよな」
「佐久間先輩、源田先輩の古女房みたいっスね」
「そんなんじゃねぇし!今日の鍵当番は俺だから、遅くなられると困るんだよ!」
「なーるほどぉ」


「ん?アフロディはどこに行ったんだ?」
「アフロディ先輩なら…帝国のゴールキーパーに呼ばれて、行っちゃいましたけど…」
「またアイツは…!ホイホイ人に着いて行くなって言ってあるのに!」
「…同い年の方ですし…心配はいらないのでは…?」
「そういう問題じゃなくて!団体行動の問題!わかる?」
「は、はい…ヘラ先輩…」



 何も言わずに出てきたのは流石に良くなかったかも知れない。神経質なヘラがキーキー言い散らして、アルテミス辺りを困らせていそうな気がする。とはいえチームメイトに一言断りたいと思っても、果たして今の彼が猶予をくれたかどうか。
 世宇子の控え室から僕を連れ出した源田くんは、道中一言も口を聞いてくれないまま、僕を何処かへ連れて行こうとしている。
 もっともそれが僕の狙いだったのだから文句を言う気はない。彼に掴まれて引っ張られている手首が痛いのと、長身の彼と歩幅が合わなくて足が縺れそうになるのくらいは、我慢しよう。

 引き摺られるように連れて来られたのは、随分辺鄙な場所にある、人気のないトイレだった。他校ゆえ土地勘が働かないが、グラウンドからはかなり離れているようだ。今日が日曜日ということを踏まえると、誰かに立ち寄られる心配はまずないだろう。
 源田くんは僕を奥の個室に押し込んで、それから自分も入って来て、ドアへ鍵を掛けた。二人っきりの密室の中で、便座の蓋に僕を座らせた源田くんは、貯水タンクに両手を付いて余裕のない表情で僕を見下ろしている。
 着替えの途中に連れ出された僕もそうだが、源田くんもユニフォーム姿のままだった。彼の額から流れた汗が頬を伝って、トレードマークのフェイスペイントを滲ませる。
 ゴールキーパーは長袖だから暑そうだな、なんて。切羽詰まった様子の彼に対して、僕は随分と呑気だった。お互いに試合の興奮はとっくに冷めている。だから源田くんの体を襲う熱には、もっと別の原因があるのだ。
 僕を睨み付ける双眸の獰猛さが、全てが僕の思惑どおりに事が運んでいることを物語っている。
「アフロディ…俺に何を、飲ませた…ッ」
「何をって…身をもって実感しているだろう?」
 僕はスパイクを脱ぎ捨てた右足で、源田くんの下腹部を柔らかく踏みつけた。そこは既にズボン越しでもわかるほど、ハッキリと雄の形を見せている。
 膨らみに足指を這わせて刺激を加えると、彼の凛々しい眉が苦しげに歪んだ。硬度と質量を一際増した熱が、足の裏でもありのままに感じ取れて、僕は嗜虐的な笑みを隠すことができない。思惑どおりと思ったけれど、想像していた以上の効果が現れていることに満足する。
「こういうのを使うのは初めてだったけど…すごいね、本当に効果があるんだね」


 ――今日の練習試合が始まる前に、僕は差し入れと称して、源田くんにスポーツドリンクを飲んでもらった。その中に所謂「媚薬」と呼ばれるものを入れておいたのは、試合を有利に進めるためではなく、ただ興味があったからというとても単純な理由に尽きる。
 遅効性だという薬の効果は、後半になる頃に顕著に現れた。源田くんは努めて平静を装ってゴールに立っていたけれど、無理矢理に点火された性感の炎は燃え上がる一方で、本当は熱くて苦しくて仕方なかったに違いない。
 しかし彼の異常を知っているのは一服盛った僕だけで、僕は彼の恨めしそうな視線に気づきながら、何食わぬ顔で試合を続けた。
 あれほどストイックな源田くんが、性欲に苛まれながらゴールを守り続けている…という倒錯的な状況に僕のテンションはすっかり上がって、普段以上に張り切ったプレイをしてしまったくらいだ。
 媚薬がもたらす暴力的なまでの性感に耐えながら、僕の本気のゴッドノウズを三度も止めた源田くんは、本当にゴールキーパーの鏡だと思う。僕は彼に心底惚れ直した。強いひとは好きだ。そして僕は欲求に忠実なひとも大好きだ。だから彼が試合後に僕を呼びに来たときは、背筋が震えるほど嬉しかった。


「ああすごい…もうガチガチになってる…ねぇ、ココ、つらい?」
「ぐっ…ぅ、あぁ…っ!」
 つま先を膨らみに押し付けてぐりぐりと強く踏みつけると、源田くんは眉間に皺を寄せて苦しげに呻いた。はぁはぁと熱い息を吐き出しながら、追い詰められた表情で僕に覆い被さってくる。顔や肩に降りかかる彼の豊かな髪の毛は動物のたてがみみたいで、まるで野生の肉食獣に襲われているような気分になった。楽しくて仕方がない。
「この…他人事だと思って…」
「思ってないさ。君は僕の恋人だもの」
 しっとりと汗に濡れた頬を手のひらで包んで、吸い付くようにキスをする。唇を開いて彼を待つと、乱暴な舌遣いで応えてくれた。口内を貪られるような激しいキスに、僕の息も上がっていく。僕の唇が花だとしたら、彼にとっくに散らされてしまっている。
「ふっ、くう、はぁ、あん…はげしい…ってばぁ…」
 僕の方から仕掛けたキスなのに、唇が離れる頃にはすっかり彼にペースを奪われていた。散々吸われた舌の根がじんじんと甘く痺れている。源田くんはまだ足りないとばかりに僕の口回りを舐めている。その仕草も実に獣めいて見える。
 僕はそっと手を伸ばして彼の股間を掴んでみた。そこはもう僕の手のひらには余るほど、パンパンに膨らんで突き出している。耽溺に浸るような深いキスも良いけれど、これ以上彼の猛りを放置するのは可哀想だ。僕は源田くんの目を覗き込んだ。
「ね、脱いで?口でしてあげる」
 狭い空間に閉じ込められて苦しそうなそこを、手のひらで緩く擦りながら強請る。彼は困ったように笑ったが、欲求に忠実に頷いてくれた。


 便座に座った僕の顔の位置と、その前に立つ源田くんの腰の高さは丁度良いくらいだった。ズボンとスパッツを引き下げた途端に飛び出した男根の雄々しさに、内心歓声を上げずにはいられない。こんなになるまで我慢していたのかと感心しながら、僕は口内に溜まった唾を飲み込んだ。
 この猛り切った欲望を僕の手で楽にしてあげたい。僕は引き締まった腰を腕に抱えて、そそり立つ雄をゆっくりと口内に収めていった。
「んっ…ふ…ふぅ、ん…んむ…」
 源田くんの性器は年齢の割りに大きく逞しいので、全てをくわえ込むのは結構大変だ。嘔吐いたりしないように気を付けながら、喉の奥まで屹立を迎え入れる。僕の口の中はあっという間に、熱い肉のかたまりでいっぱいになる。
 陰毛の繁みが鼻先を擽るくらいまで深く呑み込んだら、舌と喉とを使って強めに吸い上げる。頭全体を前後させながら刺激を与えて、くちゅくちゅとわざと卑猥な水音を立てて煽っていく。
 人の口の中でしか味わえないこの刺激は堪らないものだと思う。僕は情感たっぷりに舌を絡めて、彼の剛直を可愛がった。唇で締め付けながらしごいたり緩急を付けて慰撫する内に、源田くんのそれはびくびくと震え始める。鈴口から溢れるカウパー液が吸っても吸っても止まらない。肉棒の素直な反応を見れば、彼の絶頂が近いことが手に取るようにわかった。
「ふあっ、はぁ、んう…んっ…ん…」
 性器を一旦口から出した僕は、顔と勃起の両方がが彼によく見えるように上を向いて、ほぼ限界まで膨張したそれをぺろぺろと舐めた。
 根元までくわえ込んで吸い付く場合に比べたら、与えられる快感は少ないかもしれないが、代わりに視覚的な興奮を与えることができる。源田くんは僕の顔も大好きだから、唾液と先走りまみれになりながら男の勃起を舐める僕の痴態に、えも言われぬ高ぶりを覚えることだろう。
 筋の浮いた竿を指で扱きながら先端の窪みに舌を捩じ込んで、陰嚢も丁寧に愛撫しながら一気に射精へ導く。源田くんの苦しそうな、それでいて快楽を含んだ甘い呻き声が、頭上から色っぽく降ってくる。
「アフロディ、そろそろ、出る…っ」
 僕は口を大きく開けて、彼の欲望が弾けるのを待つ…つもりだった。

「…く、う…っ!」
「うんっ、ああっ…あれ…?」
 …僕としたことが失敗してしまった。口の中に射精してもらおうと思ったのにタイミングが外れて、放たれた精を顔面で受け止めてしまった。
 口内射精は何度も経験してるけれど、顔射をされたのは初めてかも知れない。生暖かくてぬるぬるしていてちょっと変な感じがする。鼻筋や頬に引っかかった体液は、顎をとろとろと伝い落ちてトイレの床に落ち、ユニフォームにも染みを作った。
 僕は備え付けのトイレットペーパーを切り取って、精に塗れた顔を拭おうとしたが、それは叶わなかった。顔射された僕の顔を恥ずかしいくらい凝視していた源田くんが、予期せぬ行動に出たからだ。
「アフロディ…ッ!」
「えっ、やあ、源田くん…っ?」
 僕の手を捕らえた源田くんは顔を清めることを許さず、その代わり彼自身が僕の頬に唇を寄せて、飛び散った白濁に舌を這わせ始めたのだ。
「やっ…源田くん…ぁん…」
 僕の顔を汚すのは彼自身が放ったものなのに、彼はそれを躊躇いもせず全て舐め取ってしまった。源田くんの厚い舌に残る白色が生々しい。誇り高い彼が行うとは思えない、淫らで下品ではしたない行為に、僕の方が煽られた。源田くんはなんていやらしいんだろう。
「やだぁ…そんなところに、付いてないってば…」
 顔に掛かった精液を全て舐められた後は、耳たぶや首筋を甘噛みされた。くすぐったくて気持ちよくて、薄い皮膚に歯を立てられると少し怖くて、ぞくぞくするような快感が背筋を駆け抜ける。
 源田くんは僕を食べたくて仕方ないようで、耳や鎖骨を食んで空腹を紛らわしながら、僕の許しを待っているみたいだった。
 僕はこっそり自分の下腹部を触ってみた。先走りがスパッツに染みてズボンまでしっとりと湿っている。
 興奮しているのは何も源田くんだけではない。逞しい雄に奉仕をしたり、彼の淫らな恥態を見せられた僕も、性的欲求が高まっている。

「足りない、アフロディ…これくらいじゃ全然足りない…!」
 切羽詰まった告白と共に、再び勃起した彼のものが僕の太股に押し付けられた。硬い先端が柔らかい肉に食い込んだ。僕が欲しくて欲しくて堪らないといった表情の源田くんが、耐え難い飢餓感を全身で必死に訴えている。欲望に取り憑かれた灰色の瞳が僕を見詰めていた。
「なぁアフロディ、お前が仕掛けたんだ…責任は取ってくれるよな?」
 もしもここで僕が首を横に振ったなら、源田くんはどうするだろう。優しい彼は諦めるだろうか。それとも無理矢理犯そうとするだろうか。どちらの源田くんも見てみたい気がしたが、僕も大概彼に甘い。
 欲望の全てを僕にぶつけたがる彼の素直さに、自然と笑みが零れていた。伸し掛かる逞しい背中に腕を回して、僕は耳元で囁いた。
「勿論、責任は取らせてもらうよ源田くん」
 そのまま身体に喰らいつく彼に、僕は喜んで脚を開いた。

 ――僕は最初からこうやって、獰猛な野獣の瞳をした彼に犯されたかったのかも知れない。



 さぁ、お好きなだけ召し上がれ?




 おわり

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