稲妻11 | ナノ


 シードの選手に次いで、総帥の鬼道が帝国を後にした。先の試合で帝国を破った雷門へ、コーチとして派遣されるらしい。向こうでの使命が終われば戻ってくると、留守を任されたコーチの佐久間は言うが、雅野は取り残されたような寂寥を感じていた。


 イタリアから急遽帰国した鬼道が、帝国の総帥の座に就くと知らされたとき、雅野は嬉しくて泣いてしまった。帝国学園で鬼道有人の名前を知らない生徒はいない。サッカー部の伝説のOBで現役のプロサッカー選手である鬼道が、自分の代で指導者になってくれるなんて、雅野にとっては思いも寄らない僥倖だったから。

 敬愛する総帥の期待に応えようと努力した。地獄のように厳しい練習も、強くなるためだと思えば乗り越えられた。どんな試合にも勝ち続けて帝国の誇りを守って、鬼道に認めてもらう。憧れの存在を前にして、雅野の目標は定まった。

 しかし、ホーリーロードの地区予選準決勝、雷門との試合に帝国は負けた。フィフスセクターから派遣されたシードの連中が見つかって、彼らは帝国を去っていった。その中にはキャプテンの御門さえも含まれていた。ずっとチームメイトだったのに、別れは呆気ないものだ。さよならの挨拶すら言えなかった。

 本当のサッカーを取り戻すには仕方のないことと、納得させて割り切ったものの、それから幾許もしない内に鬼道も帝国からいなくなるという。行き先はあの雷門サッカー部。あの試合で負けなければ、鬼道はまだ帝国の総帥でいてくれたのか。考えても詮無い話である。

 鬼道は恐らく帝国には帰らない。戻ってくるとしてもそれは、何年も先の話になると思う。まだ若い鬼道は、世界の舞台の第一線で活躍できる、素晴らしい才能を持っている。今回の件の全てが終われば、また自分のサッカーをしに、何処かへ行ってしまうような気がした。鬼道には天才特有の、そういう自由なところがあった。


 超然と構える鬼道の横顔を、雅野は敬虔な気持ちで思い出す。分厚いレンズに隠された目が見ているものを知りたかった。幼い雅野には見えるはずがなかった。鬼道は総帥として帝国のグラウンドに立ちながら、目の前で行われている試合を超えた、遥か高みの世界を見ていたのだから。

 今も帝国に残る佐久間は知っているのだろうか。知っていたから、雅野のように泣かずに立っていられるのだろうか。十年という月日の重さをひしひしと感じた。
 総帥はもういない。寂しくて悲しい。それでも雅野は前を向かねばならない。これからの帝国を担う一人として、毅然と歩んで行かねばならない。

「鬼道総帥」

 ほんの束の間、夢を見せてくれたひと。忘れはしない、自分たちの総帥だったひと。
 例えるならそれは、頬を掠めて吹き抜ける、一陣の風のような存在だった。




 おわり

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