稲妻11 | ナノ


 ハーフパンツを脱ぎ捨てた雅野が、先程のベンチにちょこんと座っている。この場にいる三人の中で、自分だけズボンを穿いていないことが恥ずかしいのか、もじもじとしていて落ち着かない。雅野は上着を引っ張って下腹部を隠したが、正面に陣取った龍崎はそれを許さなかった。
「それだと見えないだろ。もっと脚を開けよ」
「…うう…ちくしょー…」
 生意気な目付きをして悪態を吐きながらも、雅野は細い両脚をベンチに乗せて、思い切り良くM字開脚の体勢になった。色白の顔を羞恥に染め上げた雅野は、龍崎に向かって投げ遣りに叫んだ。
「これでっ、いいかよっ…!」
「ああ、十分だ。…よく見えるぞ」
 そのやり取りを龍崎の後ろから見ていた御門は、あまりの赤裸々さに思わず息を呑み込んだ。見えるも何も龍崎と御門の位置からは、雅野の下腹部が丸見えになっている。
 龍崎に命じられて開かれた身体は、御門からすれば、目を逸らしたくなるほど初々しかった。小柄で子供みたいな見た目の奴だと前々から思ってはいたが、裸に剥いた雅野の身体は、本当に同い年かと疑ってしまうくらい幼い作りをしている。
 平たく言ってしまえば、生えていない。


 一目瞭然の初な有様を、龍崎は敢えて言葉にして、雅野に聞かせた。
「本当に生えてないんだな。つるつるで可愛いぜ」
「可愛いとか言うな!」
 真っ赤になって雅野は怒るが、如何せん事実である。陰部を覆う毛がまるで無いから、幼い性器や小振りな陰嚢の付け根までよく見える。毛穴すら見当たらない真っ白な肌が目に眩しい。
 そそるなと御門が密かに唾を飲み込んだ側から、龍崎が雅野の無毛の丘を撫で上げた。セクハラ紛いの展開に雅野も御門も驚く。
「うわっ!ちょ、触んな龍崎っ!」
「触らないと、大丈夫かどうか分からないだろ」
 龍崎は嫌がる雅野を制して、邪魔なもののない股間を撫で回した。人為的に剃毛した肌ではないから、毛が生えかけるときのざらざらとした感触もない。肌理の細かな柔肌の手触りは絶品で、触れる龍崎を楽しませる。慌てふためく雅野の様子が面白くて、龍崎の行為はますますエスカレートしていった。
「こっちの育ち具合はどうだ?」
 悪戯な龍崎の手が、雅野の陰茎を摘み上げた。ふにゃりと柔らかいそれは、先端まで包皮に覆われていて薄い色をしている。龍崎は楽しそうにしているが、御門は流石にやり過ぎだと呆れてしまった。当然ながら雅野は龍崎に激しく抵抗した。
「ほんと、もうやめろ…っ!龍崎の馬鹿!阿呆!死ね!」
 手足をばたつかせた雅野に肩を蹴飛ばされて、身体のバランスを崩した龍崎は、後ろに尻餅をついてしまった。その瞬間、目の色が変わった龍崎を見て、御門は本能的にやばいと思った。異変を察した雅野も顔を青褪めさせる。
「…おい御門、こいつ押さえるの手伝ってくれ」
 立ち上がると同時に一段階低くなった龍崎の声は、雅野を怯えさせるのに十分な迫力を持っていた。
「流石にそれはまずくないか」
 最後までする気かと疑った御門は、控えめに龍崎を嗜める。チームメイトがチームメイトを学校内で犯す場面は見たくない。
「…少し悪戯するだけだ、最後まではしないさ」
「……本当だろうな」
 龍崎がそう言うのなら、最後まではしないんだろう。しかしここでやめるつもりも毛頭ないらしい。そこはかとなく暗く、それでいて楽しそうに笑う龍崎を、御門は結局止められなかった。



 龍崎の「悪戯」の片棒を担ぐ羽目になった御門は、ベンチに腰掛けた自身の膝の上に雅野を乗せて、その小さな身体を後ろから抑え込んだ。御門の膝に座る雅野は正面に跪いた龍崎に向かって、両脚を大きく開く格好にさせられている。
 脚の間にある雅野の陰茎は、今は龍崎の手の中にあった。最初は力無く垂れていたそれも、触れて嬲ることで芯を持ち始める。若い男の身体は単純だ。幼い性器は先端まで皮を被りながらも、しっかりと硬くなり勃ち上がっていた。
「…っく、ぅ…あっ…はぁ…っ!」
 両手を御門に、両脚を龍崎に、それぞれ拘束されて、雅野は抵抗の手段を失っている。最初はそれなりに抗って暴れていたが、龍崎の手によって勃起させられてからは大人しくなり、今ではこの有様である。これだけ腰砕けに蕩かされていたら、手足を押さえる意味もない。

「…っ…あ、ぁっ…ん、くぅ…っ…」
 鼻に掛かったような甘ったるい声が恥ずかしくて、我慢しようと口を閉ざしても、龍崎に触れられると喘いでしまう。体温の上昇と共に理性が溶け出していくようだと雅野は思った。こんな感覚は初めてだった。
「あっ…ん、あぁ…りゅうざき…ぃ」
「なんだ?」
「…おれのからだ、やっぱりおかしいかも…」
 はぁはぁと、浅い呼吸を余裕なく繰り返す雅野は、戸惑いがちに告白する。龍崎に強制されていないのに脚を開き、知らず知らずの内に御門の腕に縋っていることにも気づかない。
「どうして?」
 雅野の股間を揉みしだきながら、龍崎が尋ねる。
「…そこ…さわられるの、きもちいい…っ」
 龍崎が手を動かす度に、くちゅくちゅといやらしい音が聞こえるのは、雅野が先端から先走りを溢れさせている証拠だった。龍崎の巧みな手淫によって、雅野は確かな快感を得ている。龍崎は雅野の正直な反応を、好ましいものとして鼻で笑った。
「気持ちいいならいいじゃないか」
「やっ…よくない…!だめ…だめだって…」
 男の排泄器官でもある場所を、他人の手で弄られることに、雅野はまだ抵抗を感じていた。気持ち良いけれど恥ずかしいから精一杯嫌がる素振りをする。身体を熱く火照らせて、赤く染まった顔で駄目だと繰り返す。残念ながら説得力はまるで無かった。
「駄目だと言ってるのは口だけだな」
「う、るさ…ぁあ、や、だめ…ぇ…あぁっ!はぁっ!あ…っ!」
 素直にならない口への仕置きとして、龍崎の指が先走りに潤む先端をぐりぐりと刺激した。前を虐めれば虐めただけ、龍崎の手が大量の愛液に濡れそぼつ。雅野は先走りの多い体質らしく、手の平から滴り落ちたそれは、床にも透明な染みを作り出していた。


「…ひっ、ぅあ…あ、あぁっ…!」
「ははっ、また溢れ出てきたぞ」
「あぅ…りゅうざきぃ…あ、ん…あぁっ…」
 龍崎と雅野はこの非道徳的な行為にのめり込んでいき、まるでそこに御門など居ないかのような雰囲気を作り出しつつあった。徐々に濃密になっていく二人の空気に当てられた御門は、このまま自分はこの場に居て大丈夫なのかと、些か居た堪れない気持ちを味わっていた。
 雅野はもう抗う気力もないだろう。後始末は全て龍崎に任せて、さっさと着替えてこの場から退散したいとも御門は思うのだが、この体勢からどうにも動く気にならない。
「あっ…ん、はぁっ…っあ…あ…っ」
 龍崎に攻められて切なく喘ぐ雅野の姿に、御門の視線は釘付けになっていた。膝に乗せていると思えない小柄な軽い身体は、抱き締めれば間違いなく御門の腕に収まってしまう大きさである。
 快楽に喘ぐ雅野の手の平が、よすがを求めて御門に縋り付く。後ろから雅野を抱き締める御門の心臓は、早鐘のようにどくどくと脈打っていた。龍崎に虐められて震える雅野が、可愛く思えて仕方ない。得体の知れない感情が、御門の胸中に沸き上がった。


 いよいよ本格的にまずいのではないだろうかと、御門が思い悩み始めた矢先、喘いでいるだけだった雅野が再び暴れ始めた。力が入っていないので痛くも痒くもないが、何やら様子が必死である。陰茎を扱く手を止めないままに龍崎は雅野に尋ねた。
「どうした?」
「は、はなせっ…も、でそう…だから、はなして…っ」
 龍崎は吐精させる目的で触っているのだから、離すつもりもないし駄目だと言われる筋合いもない。雅野が過剰に嫌がる理由が二人にはわからなかった。
「別にいいぜ、いつでも出せよ」
「だめ、だってば…ぁ、もらしちゃうから…っ!」
 呟いた側から雅野は大きく身震いをした。射精間近であることは、切羽詰まった表情と熱り立つ勃起の様子からして間違いない。それにしても雅野が頑ななので、二人はようやく食い違う会話のおかしさに気が付いた。出してしまえば楽になるのに、雅野はひたすら我慢をしている。まさかとは思うがと前置きして、御門は雅野に聞いてしまった。
「お前…射精したことがあるか?」
「んっ…しゃせい…?しらな…ぁ、あっ…」
「…マジかよ…」
 幼い身体だと思っていたが、中身まで極端に幼かったという衝撃の事実に、御門は眩暈を覚えた。射精の仕方も知らない同級生を相手に、二人がかりで何をしているのかと、気付いた御門の心に罪悪感が込み上げる。身も心も純粋無垢な雅野が、ただひたすらに眩しかった。
「…なぁ、龍崎…」
 この辺りでやめないか?と提案しようとした御門は、雅野を見詰める龍崎の表情を見て言葉を詰まらせた。
「…へぇ、精通もまだだったのか」
 龍崎は笑っていた。嗜虐心を隠そうともしない笑みは傲慢なのに、容姿端麗な龍崎がやると妙に様になった。肉食の獣のような獰猛な美しさに、咎めることも忘れて御門は息を呑んだ。やめさせることはできないと悟ってしまった。
「それなら、尚更いかせないとな」
 とどめの仕上げとばかりに、龍崎の手淫が激しさを増す。肉芯を包皮越しに扱き上げる手指の動きは、雅野を射精させるという明確な意思の下に迷いがない。弱いところばかりを強弱を付けて攻められた雅野は一たまりもなかった。
「ほら、我慢しないで出せよ」
「っあ、ぁあっ…!や、んっ、あぁ…っ!
 一際高い嬌声と共に、雅野は龍崎の手の中に精を吐き出した。初めてだというのに意外と量が多い。手から滴り落ちた惨死によって、床にいやらしい染みが出来てしまうほどだ。場に不釣り合いな青臭い匂いが、密室の更衣室に立ち込めた。



 嫌がる雅野を無理矢理達かせてしまった。御門は殆ど見ているだけだったが、一部始終に確かな興奮を覚えているので、他人事には出来なかった。一方で実行犯の龍崎は涼しい顔をして、手の平を濡らした白濁を満足そうに眺めている。
 そして生まれて始めての絶頂を経験した雅野は、御門の腕の中でぐったりしていた。
「おい、雅野っ!大丈夫か?」
 異変に気付いて焦った御門は、雅野の頬を軽く叩いてみた。目覚めないが呼吸はしっかり出来ているので、気絶しただけだとわかりホッとする。初めての射精にしては刺激が強すぎたのだろう。
 流石にやり過ぎたかと御門は申し訳ない気持ちになったのに、龍崎ときたら反省する素振りもない。
「ふん、気を失ってしまったか」
 雅野を気遣いもしない龍崎の尊大な物言いに、御門は一言物申さずにはいられなかった。
「…悪ふざけが過ぎるんじゃないか、龍崎」
 言葉に込めた威圧に気付いて、龍崎が御門を一瞥する。その目には侮蔑と自嘲の色が浮かんでいた。
「いい子ぶるなよ御門。さっきまで、こいつから目が離せなかったくせに」
 龍崎は雅野を目線で示した。
「…っ、うるせぇ…」
 意識を手放している雅野の顔は本当にあどけなくて、御門はとても直視できなかった。龍崎の指摘は正しい。一言悪態を吐いたきり俯いてしまった御門に、龍崎は興味を失くして踵を返した。
「…手を洗ってくる。その間に着替えさせておけよ。どうせ暫く起きないんだ。寮まで連れて帰ろうぜ」
「…ああ…」
 言い争うことは不毛なだけだと、共犯者の二人は気付いていた。



 よく眠っている雅野を御門が背負って、龍崎と三人で帝国の寮への道を歩いて帰る。すっかり暗くなった帰り道での会話は無かったが、帰寮しようという入り口の前で、龍崎が不意に足を止めた。
 寮から漏れる蛍光灯の明かりに照らされて、端正な容貌が暗闇に浮かび上がる。龍崎は雅野が寝ていることを確認した上で、御門の目を真っ直ぐに見据えて口を開いた。
「抜け駆け禁止だからな」
 龍崎の口から出た意外な言葉に、御門は軽い衝撃を受けた。それはつまり龍崎もまた、雅野に気があるということではないか。龍崎がサッカー以外の何かに執着するところを、長い付き合いの御門も初めて見た。
 更衣室での態度を見る限り、暇潰し程度のいい加減な扱いかと思いきや、龍崎は雅野に随分と入れ込んでいるようだ。雅野に意地悪をしてしまうのは好意の裏返しなのかも知れない。クールに振る舞っている龍崎にも、恋敵に釘を刺して牽制するような若い青さがある。
 背中に負った雅野の温もりを意識しながら、御門は龍崎を見据え返した。
「そうだな、お互いにな」
 心の中では如何に相手を出し抜いてやろうかと、計算を始めている二人である。雅野だけが何も知らずに、すやすやと無邪気に眠っていた。




 おわり

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