稲妻11 | ナノ


 蘭丸の裸の上半身には、女性のような柔らかな膨らみは勿論付いていない。しかし透き通るような純白の肌に、紅色の突起が鮮やかに映えて綺麗だった。
 着替えのときにも、今までのセックスのときにも目にしているものなのに、意識した途端にいやらしく思えるから不思議だ。
 一先ず触ってみるべきか。ドキドキと心臓を高鳴らせながら、拓人はおそるおそる、豆粒のような乳首を摘み上げた。
「…ン…ッ…!」
 蘭丸がびくっと震えたので、拓人は慌てて手を離した。あまり強く力を込めた覚えはないのだが、そんな風に呻かれると不安になる。
「ご、ごめん…痛かったか…?」
「…いや、そんなことはないんだけど…大丈夫だから、続けてよ」
「そうか?いやだったら、言ってくれ」
 大丈夫だと蘭丸が言うので、拓人は胸への愛撫を続けることにした。小さな突起を摘んで捏ねてみたり、爪先で軽く弾いてみたりする。綺麗な色の乳首は嬲られる程に、こりこりと心地好い硬さを帯びてくる。触ると芯を得て立ち上がるなんて、まるで勃起のようだなと下品なことを思う。
 肝心の蘭丸はというと、唇をきゅっと噛み締めて、漏れそうになる声を我慢していた。心なしか頬が赤く染まり、翡翠色の瞳も熱っぽく潤んでいるように見える。
「平気か霧野?いやならやめるぞ?」
 あまり見たことのない初な反応に、本当は嫌がっているのではないかと拓人は不安になった。今度こそ引っ込めようとした腕を、蘭丸が咄嗟に引き止める。
「ち、違うんだ神童……それ…気持ちいいから、もっと……」
 これには拓人が驚いた。気持ちいいだなんて台詞は、蘭丸の口から初めて聞いた気がする。恥じらいながらも続きを強請る蘭丸は愛らしく、拓人の心は舞い上がった。
「…う、うん!」
 求められたことが嬉しくて、拓人は蘭丸の乳首への愛撫に一層励んだ。両手で突起を摘んだり、指で潰したり転がしたりする。何かしら刺激を与える度に、蘭丸は小さく喘いで反応してくれるので、やり甲斐がある。

 その内に手で弄るだけでは物足りないような気がしてきた。どうしたら蘭丸はもっと気持ち良くなってくれるだろう。
 考えた拓人はおもむろに、蘭丸の身体に馬乗りになった。そのまま前屈みになって、薄い胸元に唇を寄せる。
「し、神童?ちょ、なにす…っ、あぁっ!」
 つんと立ち上がった乳首を一舐めすると、思ったとおり蘭丸の口から、高い喘ぎ声が上がった。
「や、ぁ!んっ…神童っ!舐めたら駄目だ…」
「どうしてだ?気持ちいいだろう?」
「そう、だけど…っん、はぁ、ああっ…!」
 色づいた突起を口に含んで、強めにちゅっと吸い上げる。口では嫌だと喚いていても、艶めかしくくねる身体は、与えられる快楽に正直だった。
 押し付けているつもりはないのだろうが、拓人の太股に当たる下肢の高ぶりが、蘭丸の性的興奮を如実に現していた。女のように胸を弄られて、蘭丸は男根を硬く反り返らせている。その倒錯的な有様に拓人も興奮していった。
「こっちも、硬くなってきたな…」
 遠慮を忘れて大胆になってきた拓人は、手を伸ばして蘭丸の股間の膨らみを撫でた。着衣の上から輪郭を辿ると、欲望の形がありありと浮かび上がる。蘭丸が自分の愛撫に反応してくれていることが、拓人には嬉しかった。
「…っ、ばか…ぁ…あ、んん…っ」
 減らず口もこれだけ甘ければ嬌声と変わりない。拓人は蘭丸のズボンと下着を一緒に脱がせて、乳首を舐めながら高ぶる性器を手で扱き始めた。蘭丸は先走りの量が多いから、手がぬめって動かしやすい。
「あぁ…っあ、っん…ぁ、はぁ…っ!」
 敏感な二点を同時に攻められた蘭丸は、拓人の為すがままに喘がされている。天馬がアドバイスしたとおり、主導権は拓人の元にあった。

「おい、神童…っ、やめろって…ぇ…」
 おもむろに下肢に蹲った拓人を、引き剥がそうと蘭丸が藻掻く。しかし拓人は蘭丸の腰を抱えたまま、頑として動かない。
「やめない。…霧野はいつもしてくれるから」
「お前と俺は、ちが…っ、ふぅ、ん…っ!」
 蘭丸の反論を中断させるが如く、拓人は目の前の勃起を銜えてしまった。ぴんと反り返った裏筋を舌先で辿り、膨らんだ二つの袋も丁寧に舐め回す。
「あっ…あっ、だめ…そんなの、舐めるなよぉ…」
 身体に体毛が殆どない蘭丸は、下の毛も薄くて量が少ない。周りにすら毛の生えていない陰嚢は、実があるのに柔らかくて、可愛らしいとすら思える。
 二つの膨らみをやわやわと揉みながら、屹立する肉棒を丹念に愛撫する。拓人はフェラチオに自信があるわけではないが、蘭丸にされるときのやり方を思い出して、口腔深く銜えたり唇を締めて扱いたりした。括れのところを舐め回すと特に気持ちが良いらしく、蘭丸の吐息が荒くて速いものに変わってくる。
「…っは、ん…ぁあ…っ!あぁん…!」
「こっちの具合はどうだ…?」
 白い双丘の奥にある桃色の入り口は、前から垂れてきた先走りと唾液に濡れて、まるで息をしているかのようにひくひくと動いていた。
 物欲しげに呼吸する後孔の中に、拓人は人差し指を慎重に埋めていく。締まろうとする穴を緩々と拡げながら顔を寄せ、垣間見える媚肉を伸ばした舌で愛撫する。
「ふ、ぁあっ…!や、あぁっ…!」
 指と共に捩込まれた舌先が、熟れ切って敏感な口回りを舐め回す。後孔の浅いところを舌に穿られる間も指は奥へと進み、中の様子を探るように積極的に動いていた。
 男には中にも感じるところがあって、拓人はその威力を身をもって知っている。快楽の源から直接得る強い性感を、拓人は蘭丸にも味わせようとしているのだ。蘭丸は嫌々と首を振った。
「しんどぉ…それっ、やめ…っあぁあ!」
 拓人の指先が腹側の一点を捉えた途端、蘭丸の腰が大きく跳ね上がった。見付けた小さな膨らみを指が掠める度に、身体の奥深いところから果てしない快感が込み上げる。
 そこは触れるだけで気持ちいい場所なのに、押されたり引っ掻かれたりされて、蘭丸は頭も身体もおかしくなりそうだった。
「っあ…あん!ひっ…ぁ、んあっ!」
「ここが気持ちいいんだな?」
「は、ぁん!や、やだ…ぁ、ぁあっ…!」
 前立腺を指で執拗に攻められて、体内から射精を促される内に、蘭丸の身体はすっかり馬鹿になってしまった。
 弛緩した四肢はまるで言うことを聞いてくれないのに、乳首や首筋に触れられると反射的に身体が痙攣する。勃ちっぱなしの肉棒は透明な先走りを流し続けて、びしょ濡れの股間は粗相をしたような有様である。
 このまま前立腺を指で嬲られ続けたら、射精をしないままドライで達してしまう。一人で気持ち良くなってしまうのは嫌だったが、蘭丸の身体はこれ以上の責め苦に耐えられそうにない。蘭丸は掠れた声で拓人を呼んだ。
「しんどう…こっち、きて…」
 顔を上げた拓人を抱き寄せて、蘭丸はその身体をまさぐった。火照った身体の中心は既に硬く勃起しており、拓人があくまで愛撫に徹しながらも、蘭丸のあられもない痴態に興奮していたことが窺えた。
 どちらからともなく仕掛けた貪るような口づけの後で、蘭丸は両脚を大きく開いて拓人を誘った。交わりたい気持ちはお互いに同じであると、激しいキスで確信したからだ。
「我慢できない…もう、いれて…」
 執拗な前戯でふやけた後孔の淵に指を引っ掛けて、此処にお前の男根が欲しいのだと、蘭丸は仕種と視線で拓人に訴える。淫らに濡れた蘭丸の入り口は、拓人の熱を待ち望んでいた。


 存分に慣らされた蘭丸の身体は、拓人のいきり立つ肉棒を、根元まで難無く受け入れた。しつこいくらいの前戯を施したお陰で、挿入した側から激しく動いても痛みがなく、満ち足りた快感しか生まれない。
「ふあ、あっ…!しんどぉ…っ!んっ、すご…っ、ああっ!」
「っく…霧野…ッ、ふ、はぁ…っ…」
 散々に焦らされた後の蘭丸の中は凄かった。いつにも増して熟れた内壁は熱を持ち、拓人の肉棒をねっとりと包み込む。入り口の締め付けのきつさの加減も堪らない。
「…いつもより、もっと気持ちいい…ッ、あぁ…っ」
 食らい付くような刺激に耐え切れなくなった拓人は、幾度か抜き差ししただけで、蘭丸の中で早々に達してしまった。腹の奥に広がる精の温度を蘭丸も感じて、その熱さと量に身体を震わせる。
「…っ、ん…っ、…しんどぉ…」
「…きりの……かわいい…」
「ばか…っ、ふ、ぁ!ああ…っ…!」
 しっかりと射精したにも関わらず、拓人のそれは萎える気配がない。これならすぐにでもやり直せると、蘭丸の脚を抱え直した拓人は、再び律動を再開した。

 一度も抜いていないから、蘭丸の中には拓人の残滓が残っている。たっぷり中出ししたばかりのそれを、蘭丸の直腸に擦り込むように拓人は腰を動かした。肉棒に掻き回されて泡立った精液が、結合部からはしたなく溢れ出す。ぐちゅぐちゅと下品な音がしているのが、堪らなく恥ずかしいのに興奮した。
「やぁ、しんどぉ…あん、だめっ…あっ!あぁっ!」
 拓人の陰茎の先が最奥を突いたとき、蘭丸の身体が小さく痙攣した。銜え込んだ肉棒への締め付けも強くなる。見れば蘭丸が肉棒から精をとろとろと吐き出しているところだった。
「…っふ、やぁん…あ…っ、とまらない…」
 ゆるやかな射精と共に、長い絶頂が続いているらしかった。涎のように白濁を垂らし続ける勃起に、快楽に浸る蘭丸は戸惑いを隠せない。
「や…ぁ、どうしよう…っ、あぁ…っ」
「でも、気持ちいいんだろう?」
「う、ん…ずっときもちいい…っ、ふぁっ、ああっ…」
「それならそのままでいいじゃないか」
「おま、ひとごとだとおもって…っあ、おぼえとけ、よっ…!」
 その後は言葉にならなかった。蘭丸が精を吐き出し切るのを待たずに、拓人が腰の律動を再開したからだ。
「っひ、あっ!はぁ…っ!ふぁあっ…」
 張り出した亀頭が内壁を抉る度に、身も世もなく蘭丸は喘いだ。しこった乳首を強く摘まれながら前立腺を突かれると、髪を振り乱して悦んだ。耳触りの良いハスキーボイスが奏でる嬌声は、蘭丸の美しい容姿と相俟って腰にくる。
 仰け反る白い首筋に、赤く熟れた乳首。快感に酔い痴れる美しい顔、拓人を銜え込んで離さない後孔。蘭丸の見せる痴態の全てが、拓人の情欲を煽って仕方がない。
「きりの、すごくかわいい…止まらなくなる…」
「あぁん!やっ、はげし…っ!んあぁ…っ!」
「きりのっ、ッあ、はぁっ…アッ…」
「しんどぉ…ぁあっ…あん、あ〜っ…」
 深く繋がったまま、拓人と蘭丸は堅く抱き合った。




 飽きるまで繰り返し交わった二人は、並々ならぬ疲労感に包まれながら、皺だらけの湿ったベッドに寝転がっていた。
 くったりと脱力した蘭丸が、拓の腕の中に大切そうに抱かれている。散々に喘いで乱れたせいで、疲れ切った表情は少し痛ましく、それでいて艶めかしい。
 対して拓人は非常に機嫌が良かった。二つに括っていたゴムが解けて、緩やかに波打つ蘭丸の髪の毛を梳きながら、気怠い事後の時間を満喫していた。拓人の穏やかな表情には、男としての自信すら表れているようだった。
 今までの行為ではされてばかりの拓人だったが、今回は蘭丸を気持ち良くさせることが出来た。蘭丸の良いところも沢山知ったので、培った知識と経験は、今後の性生活に役立つことだろう。切っ掛けをくれた天馬に感謝しないといけない。

 上機嫌の拓人が一人でにこにこしていると、寝返りを打った蘭丸と目が合った。拓人は優しく微笑み掛けたが、蘭丸から返ってきたのは、鋭く睨み付ける眼光だった。
「あのさ…こんなこと何処で覚えてきたの。神童の知識じゃないよな?誰かに教えてもらったのか…?」
 蘭丸の疑わしげな視線が拓人に突き刺さる。浮気を疑われていると気付いた拓人は、慌てて蘭丸に弁解した。物心付いたときから蘭丸一筋なのに、そんなことは天地がひっくり返ったって有り得ない。
 とはいえ天馬がくれた助言の件は、蘭丸には隠しておきたかった。折角上手くいったのだから、種は秘密にしておきたい。どうにか誤魔化したい拓人は、訝る蘭丸にぎこちなく笑い掛けた。
「霧野を気持ち良くしたくて、調べたんだよ」





 おわり

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