稲妻11 | ナノ


化身の使い道について本気出して考えてみた

※奏者マエストロ×神童拓人





 神童拓人は困っていた。放課後の部活時に本気を出して、勢い良く化身を発動したはいいものの、そのまま消せなくなってしまった。同じく化身使いの剣城京介とその化身にも協力してもらい、引っ込めようと頑張ったのだが駄目だった。
 拓人の化身――奏者マエストロも困った顔をしている。

「どうしよう」
 拓人は化身を背負ったまま、膝を抱えて途方に暮れた。もしかしたら少し泣いていたかも知れない。雷門イレブンが集まって頭を捻るが、文殊の知恵は出てこない。
 そんな中でハイと挙手をした松風天馬が、初歩的な質問を拓人に投げ掛けた。
「出しっぱなしだと良くないものなんですか?肩が重たくなったり、体力が削られたりするんですか?」
「そういった感じはないけど…」
 化身自体に重さはなく、技を使わなければGPもTPも減らない。だが如何せん化身は大きくて威圧感があるので、出したままだと背後が気になって仕方がない。
 それにこのままでは家にも帰れない。拓人の両親は息子がサッカーをしていることは知っているが、化身使いであることまでは知らない。こんな仰々しいものを背負って帰ったら、過保護な両親のこと、きっと大袈裟に驚かれてしまう。

「ああ…どうしよう…」
 ますます項垂れる拓人に、声を掛けたのは京介だった。
「それだったら心配ねぇよ」
「どうしてそう言えるんだ?」
「サッカーの気配のあるところでしか、化身は一般人に可視化しない。だから家に帰ったところで、お前の家族に化身は見えないんだぜ」
 京介のもたらした情報で拓人は立ち直った。
「本当か剣城!」
「ああ。試しにちょっと歩き回ってこいよ」
「よし、行ってくる!」
 化身を背負ったまま走り出した拓人は、間もなく帰ってきた。雷門中の敷地を全速力で一周して来たようだ。拓人の顔に浮かぶ笑顔が、京介の言が正しかったことを証明していた。



 ――こうして拓人は不本意ながらも、化身を出したまま日常生活を送ることになった。フィールドの外では見えないといっても、拓人の背後に浮遊する四本腕の異形の姿は、雷門イレブンにはいつも見えていた。
 学校に家庭に部活動、何処へ行くにも二人は一緒だった。音楽の授業のときなどは、校歌を歌う拓人の後ろで、化身が楽しそうに指揮棒を振るっていた。
 その光景を目撃した霧野蘭丸は、流石はマエストロの名を持つだけあるなぁと、妙なところに感心したりもした。
 そしてサッカーのときには勿論、化身本来の仕事をきちんとこなす。

 放っておけばその内消えるだろう、と高を括っての日常生活だったが、一週間が経過してもなお、拓人の化身が消える気配はなかった。


 相変わらず化身を引き連れている拓人に、思わず蘭丸は聞いてしまった。
「影響がないとはいえ、四六時中一緒にいるのは大変じゃないか?」
「思ったより大丈夫だぞ。マエストロは大人しいし」
 トイレや入浴のときまで近くに居られるのは、確かに初めは恥ずかしかったが、男同士だと割り切ればすぐに慣れた。拓人の化身の性格は静かで大人しく、構ってもらいたがることもない。
 それに拓人がピアノを弾いたり、クラシックのCDを聴いたりすると、化身も楽しそうに耳を傾けるのだ。音楽好きのペットのような仕種が可愛らしくて、拓人は己の化身に、すっかり愛着を抱いていた。
 蘭丸が心配するような、化身に関して面倒だと思うことは、拓人には何一つなかった。

 そう――この瞬間までは。


「でも、マエストロの前でアレはできないだろ」
「アレ?」
 拓人の耳元に口を寄せた蘭丸は、化身に聞こえないように声を潜めて尋ねた。しかし拓人には蘭丸の言うことがわからない。
「わからないのか?コレだよ」
「…コレ…?」
 蘭丸が右手の指で筒を作って、上下に小刻みに動かして見せる。しかし拓人には蘭丸のすることがわからない。あまりの天然ぶりに痺れを切らした蘭丸は、何にも配慮のしない大声で拓人を怒鳴りつけた。

「だから、オナニーだよ!」

 拓人の頭は真っ白になった。




 ――その夜はベッドに入っても、なかなか拓人は寝付けなかった。果てもないまま広がる暗闇に視線を彷徨わせると、昼間の出来事がよみがえる。
 確かに蘭丸に言われたように、そういうことは一週間していない。元より好んでする行為でもなかったが、精通を迎えてからは週に一、二回は、夢精の予防のために行っていた。しかし化身が出っぱなしになってからは、それすらご無沙汰だ。
 蘭丸に指摘されるまで忘れていたが、行為の存在を思い出した途端に、肉体が欲するから厄介である。男の生理現象だから仕方なくはあるが、幾ら何でも、化身の前で自慰をするわけにはいかない。拓人の高潔な羞恥心は、欲望のままに行動することを許さなかった。


 気付いてしまった身体の疼きを誤魔化すように、拓人は何度も寝返りを打った。早く寝てしまえれば良いのだが、根本的な解決がなっていないから、気になって目が冴えてしまう。堂々巡りの悪循環だった。
 あまり遅くまで夜更かしをすると、明日の朝練に響くのは明らかだった。どうしたものかと拓人が悩み始めた矢先、落ち着いたテノールの声が、拓人の頭に優しく響いた。

『たっくん』

 父でも、お手伝いの声でもない。拓人の知らない男の声が呼び掛けている。
「…誰だ…?」
『たっくん、わたしだよ、たっくんの化身だよ』
 四本の腕を持った上半身だけの男の姿が、暗闇にぼうと浮かび上がる。奏者マエストロだった。長い前髪に隠された表情はわかりにくいが、精悍な印象の口元が微かに笑っている。
 拓人は驚いた。化身が話すだなんて聞いたことがない。
「マエストロ…お前、話せたのか?」
『うん。たっくんにしか聞こえない声だけど』
 本当は話し掛けたらいけないんだけどね、と頬を掻いて照れる化身は、やけに人間じみていた。見た目の印象と違う話し方に違和感はあったが、拓人の脳に直接届くこの声は、化身のもので間違いない。

「でも、たっくんって呼ぶのは、やめろ」
 そのあだ名は子供扱いされているようで不快だ。
『えっ、駄目なの…?じゃあ、ご主人様?』
「…やっぱりたっくんでいい」
 威厳ある奏者の実態に、拓人は些かげんなりした。


 化身が幽霊のようで怖いので、一先ず部屋の明かりを点けた。ベッドに正座した拓人の背後に化身がいる。振り返った拓人は化身を睨み付けた。
「マエストロ…」
『ご、ごめんねたっくん…でもわたしはたっくんの後ろにいる決まりだから…』
 どうやら化身というものは、化身使いの背中が空いているときは、背後に居なければならないものらしい。化身の世界にも面倒臭いルールが沢山あるようだ。その辺は人間社会と変わらないのだなと拓人は思った。
 ずっと後ろを向き続けるのは疲れるので、拓人は前を見たまま化身に語り掛けた。
「どうして俺に話し掛けたんだ?よくわからないけど、いけないことなんだろう?」
『うん。そうなんだけど…たっくん、溜まってるんじゃないかと思って、わたし心配で』
「はぁ!?」
『言いにくいことだけど、たっくんのアソコ、大変なことになってるよ?』
 アソコ、と言って化身が指差したのは拓人の股間だった。正座した両脚の中心に見事なテントが張っていた。化身が喋ったという衝撃で頭からは抜け落ちていたが、身体は欲求を忘れていなかった。
「うわあああああっ!!?」
 拓人は咄嗟に前屈みになった。恥ずかしくて堪らない。
『ごめんねたっくん…わたしが消えないから、たっくんにいっぱい我慢させちゃったね』
「みっ、見るな!あっち向け!」
『お詫びといっては何だけど、手伝ってあげるから、すっきりしてね』
「ひとの話を聞け!!!っむぐ」
『…いくら防音処理がしてあっても、あんまり騒ぐとひとが来ちゃうよ』
 拓人の口を手際よく塞いだ化身は、残り三本の腕で抵抗を抑えながら、拓人のパジャマを脱がしていった。ズボンを下着ごと取り去ると、濃いピンク色に充血した成長途上の性器が、ぷるんと飛び出す。如何にも若々しいそれに化身は目を輝かせた。
『わぁ、たっくんのかわいいおちんちん』
「…ンッ、ん〜!ンンッ〜!」
『この大きさ、化身の手にぴったりだよ』
 白い大腿の真ん中にぴょんと立ち上がっているそれを、拓人の背後に貼り付きながら、化身は優しく握り込んだ。普段は青色に輝く指揮棒を握っている右上腕は、絶妙な手捌きで拓人の勃起を扱き上げる。化身の巧みな手淫は、一週間の禁欲生活の後の肉棒には強すぎる刺激だった。止め処なく溢れる先走りが、化身の手袋にはしたない染みを広げていく。
『たっくんのいやらしいお汁で、手袋の中までびしょ濡れだよ』
「っふ、ン、ふぅんッ、ンンっ…!」
『そろそろイきそう?溜まってるから早いよね。いつでも出していいからね?』
 化身はそう言うと、手袋をした手で幹を扱きながら、包皮の剥けた亀頭を別の素手で可愛がり始めた。先走りに湿ったシルクの布地で張り詰めた裏筋を擦りながら、生身の親指で濡れた鈴口をくちゅくちゅと捏ね回す。許容量を超えた快感に、拓人の華奢な身体は為す術もなく震えた。
「ンン、ふぅ、ンッ、ンン〜ッ!」
 何をされても身体がびくびくと痙攣し、化身の手に抑え付けられた嬌声も、悲鳴じみたものに変わってくる。自らの手で快楽に溺れさせられる拓人を見て、化身はぞくぞくとした悦びを感じていた。
『ああ、たっくん…可愛いたっくん…』
「っふ…ん、ンッ…う、ン…」
 化身の四本の腕のうち、一本は拓人の口を塞ぎ、もう二本は性器を嬲っている。残るもう一本の腕で、化身は拓人の上半身をまさぐり始めた。びんびんに勃起した乳首を探し当てて、突起を指で強く摘み上げる。
「ンっ!っう、ふ、ンン〜ッ!」
 拓人が目を見開いて、息を呑んだ次の瞬間、化身の両手に精液がどっと溢れた。一週間分ともなると、色も濃くて粘度も高い。独特の雄の匂いが辺りに立ち上った。


『たっくんの濃いミルク、いっぱい出たよ!』
 黒い手袋に飛び散った白濁を掲げて、無邪気に喜ぶ己の化身の姿に、拓人は心の底からげんなりした。




この後2Rに続きます。
また、きりんさんもマエ拓を書き下ろしして下さっています。

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