稲妻11 | ナノ


※蘭拓蘭のリバな話
※前編は蘭拓でエロ




 蘭丸の施す前戯は過剰すぎるほどに丁寧だ。必ず指と舌で丹念に解してから挿れるので、蘭丸のものに貫かれた瞬間から、拓人は忽ち恍惚の中に蕩けてしまう。
「神童、気持ちいい?」
 それに加えて可愛らしく微笑んだ蘭丸が、具合を尋ねながら腰を揺すったりするものだから、受け身の拓人は一溜まりもない。
「うん…すごく、きもちいい…っあ、はあ…」
「…神童が気持ちいいと、俺も嬉しい」
 少女めいた綺麗な顔立ちからは想像できないが、蘭丸はセックスが上手かった。右脚を抱え上げて打ち込む雄の先は、拓人の内側の良いところを的確に突き上げる。
「…ん、ぁ…ッ、すご…い…、はぁあっ…」
 すっかり開発の進んだ拓人の身体は、元々こちらの素質があったらしく、後孔だけで十分な快楽を得られるようになっていた。
 触れていないのに勃起した性器からは、先走りが止め処なく溢れ、拓人自身の腹部をしとどに濡らしている。切なく疼く身体の奥を熱のかたまりに擦られると、あまりの気持ち良さに涙が出てしまう程だった。
「ふ、あ…ッ、ああ…、んぁっ…!」
「ふふっ、神童かわいい…」
 拓人の睫毛を濡らす涙の粒を、蘭丸が舐めて拭ってくれる。しかし身体全体が性感帯になってしまっている今は、目許に触れる舌先の濡れた感触さえも、情欲を暴力的に煽り立てる。
「…はぁ…ぁん、ン…きりの…っ」
 全身を飲み込むような快楽の直中、蘭丸の亀頭に前立腺を強く突き上げられた拓人は、下腹部から込み上げる射精感に身体を震わせた。
「ッあ!ン…き、きりの…も、イく…っ!」
「うん、イっていいよ…しんどう…」
 蘭丸は抱え上げた拓人の右脚を引き寄せると、傷だらけの肌に恭しく口づけた。引き締まった脚に舌を這わせ、少しだけ柔らかいふくらはぎに歯を立てる。挿入しながらの利き足への愛撫が、拓人の快感にとどめを刺した。
「っふ、ン、ぅあっ!ぁあっ…!」
 拓人は身体を仰け反らせながら、一際高い嬌声を上げて絶頂した。


 くったりと脱力した身体から、まだ硬いままの蘭丸自身が抜け出ていく。達したばかりで動けないでいる拓人の髪の毛を、優しく撫でながら蘭丸が囁く。
「…今日もちょっとだけ触らせてくれ」
 拓人の身体に覆い被さった蘭丸は、汗ばむ肌をぴったりとくっつけて、拓人の首筋に顔を埋めた。緩くウェーブがかった、柔らかな髪が含んだ汗の匂いを嗅ぎながら、熱を持て余す自身を手で慰める。気の利いた言葉の一つも言えれば良いのだが、そういう技巧を持たない拓人は、せめて蘭丸の好きなようにさせていた。
「…っん、はぁ…あっ…しんどぉ…っ!」
 腰に響くような甘い声で名前を呼びながら、拓人の残滓に被せるように蘭丸も吐精した。

 ――これが拓人が蘭丸に抱かれるときの、流れの一つになっていた。



 事後に微睡むベッドの中で、拓人はいつも申し訳ない気持ちに苛まれる。この行為に最後まで付き合うことの出来ない、堪え性のない自分の身体が恨めしい。
「すまない霧野…また、俺だけ先にイってしまって、お前を満足させられなかった…」
「何言ってるんだ。俺は満足してるよ。それに俺は、神童とこうしていられるだけで幸せなんだ…」
 蘭丸は優しく言ってくれるものの、拓人の罪悪感は晴れない。




 幼なじみの友情がいつしか恋心に変わり、そのまま二人は恋人の関係になった。拓人と蘭丸の結び付きは心身共に堅く、互いの身体で処女童貞を失った仲である。親しみが愛しさに変わり、情を交わしてから絆はより深いものになった。
 喜怒哀楽の感情が激しい拓人を、いつのときも支え続けたのは蘭丸だった。悲しいときも辛いときも、拓人の側には蘭丸がいて助けてくれた。思い通りにサッカーが出来なかったとき、チームが分裂して纏まらなかったとき、それがどれだけ心強いことだったか。
 無二の親友として歴戦のチームメイトとして、また最愛の恋人として、蘭丸は拓人にとって、なくてはならない大切な存在になっていた。
 ――霧野のために俺は何が出来るだろう。
 男同士の恋愛だからこそ、与えられてばかりなのは嫌だった。愛された分と同じだけ、いやそれ以上に蘭丸を愛したい。しかしどうすればいいのかわからない。
 サッカーとピアノに掛かり切りで、流行りのドラマや漫画などを見ない拓人は、恋愛事に頗る疎い少年だった。蘭丸しか知らない一途さも仇となり、拓人はすっかり煩悶の袋小路に入ってしまった。


「霧野先輩がどうかしましたか?」
「うわぁっ!」
 背後から突然声を掛けられた拓人は、跳ね上がるほど驚きながら振り返った。そこにいたのは純粋で、善良であるが故に怖いもの知らずの後輩、松風天馬である。
 何にでも首を突っ込みたがる、天馬の性格はどうにかならないものか。とはいえこれは部活中に、サッカーとは全く関係のないことを考えていた拓人の方が悪い。
「ててて天馬…!どうして此処に…いや、なんで霧野ってわかった?!」
「全部声に出てましたよ。ただでさえキャプテンは、表情に出やすいひとなのに」
 天馬に真顔で指摘された拓人は、自分の顔に慌てて触れた。そんなにあからさまに表に出ていただろうか。天馬がうんうんと頷くのを見て、拓人は今度こそ恥ずかしい思いをした。フィールドでは並ぶ者のない天才ゲームメイカーも、普段は繊細で不器用な十四歳でしかない。

「霧野先輩と上手くいってないんですか?」
「…っ、それは…」
 天馬の遠慮のない直球の質問が、拓人の心にぐさりと突き刺さる。事実の核心を突いているからこそ、答えに詰まるのだ。表向きは上手くいっている。だけど本当は…。
「…喧嘩とかをしたわけじゃないんだ。霧野に不満があるわけでもない。ただ単に、俺がひとりで…」
 この場にいない蘭丸は何も悪くない。甲斐性のない自分がいけないのだと、拓人は自分自身を責めていた。それ故の悩みである。今にも膝を抱えて泣き出しそうな拓人の肩を、天馬は優しく叩いて促した。
「ひとりで溜め込むからもやもやするんです!誰かに話しちゃえばすっきりしますよ?例えば、俺とか!」
 俺の部分を強調しながら、にこっと愛想良く天馬が笑い掛けた。通常ならば無責任だと腹を立てるところだが、壮絶にポジティブな天馬の明るい笑顔には、何らかの洗脳作用があるようだった。一人で悩むことに限界が来ていたせいもあり、気がつけば拓人はぽつぽつと、溜め込んだ本音を漏らし始めた。


「霧野先輩を満足させてあげられない?」
「ああそうだ…霧野は色々と俺の世話を焼いてくれるのに、俺は霧野に何もしてやれてない…」
 蘭丸は優しいから不平や不満があっても口にしない。その優しさに甘え続けている自分が情けない。膝を抱え直した拓人の隣で、天馬が突然立ち上がった。
「諦めなければ、絶対何とかなりますよ!
 天馬の十八番の決め台詞だった。
「何とかって…何とかできないから悩んでるんじゃないか」
 良い案がないものかと拓人が溜め息をつく。余程自信があるのか、またしても天馬がしゃしゃり出た。
「何とかしましょう、キャプテン!俺の考えた作戦、聞いてくれますか?」
 必ず上手くいきますよ?と提案する天馬の笑みは、いつもの天真爛漫な笑顔とは少々異なり、そこはかとなく策士めいて見えた。




 いつものように蘭丸が拓人の家に遊びに来た。得意のピアノを披露して蘭丸をもてなした後、そういう雰囲気になったので、キスをしながら二人でベッドに縺れ込んむ。互いの着衣を戯れるように脱がし合いながら、拓人は意を決して蘭丸に申し出た。
「今日は、その…俺が、攻めたい」
 その台詞には、蘭丸を抱きたいというのと、拓人が主導権を握りたいという、二つの思いが込められていた。ここで嫌がられたら一巻の終わりだと緊張したが、拓人のワイシャツの釦を外す手を止めないまま、蘭丸はあっさり頷いた。
「いいよ。そういうことを神童から言うのは珍しいね」
 拓人は内心ぎくりとしつつ、蘭丸に尋ねる。
「…おかしいかな?」
「いや、ちょっと嬉しいかも。最近俺が抱いてばっかりだったし…」
 蘭丸が艶めいた視線を拓人に送る。色っぽい目付きで全身を眺められた拓人は赤くなった。ベッドで散々に喘がされた記憶がよみがえり、身体の奥がじんと疼いた。拓人の身体は蘭丸に抱かれることの気持ち良さを忘れていない。
「わざわざ攻めたいって頼むくらいなんだから、楽しませてくれるんだろう?」
 しかし今日は、今日こそは、自分が蘭丸を喘がせるのだと。拓人は密かな決意を胸に秘めていた。
「…ああ、勿論だ」
 故に大見得を切ったものの、拓人はまだ半信半疑だった。


 行為の方針に拓人から言及することは、蘭丸が言うように珍しいに決まっていた。何故なら此度の筋書きを用意したのは、拓人ではなく天馬なのだから。

 ――拓人に知恵を授けた天馬曰く、蘭丸は絶対に乳首が弱いとのこと。蘭丸は着替えのときに服が胸に掠れると、とても色っぽい顔をするらしい。そこを最初から重点的に攻めれば、拓人が行為の主導権を握ることができるだろう。と、天馬は自信ありげに宣ったのだ。
「俺の霧野の何処を見ている!」と拓人は天馬を叱責したが、「霧野先輩だけじゃありません。サッカー部の皆さん全員見てます。勿論、キャプテンのことも」と真顔で返されたので、怖くなってそれ以上追求することをやめた。

 天馬の「胸を触れ」というアドバイスは、拓人が思いもよらないものだったが、着眼点としては悪くないような気がする。確かに胸は、あまり気にしたことのない場所だった。
 それというのも、拓人は胸で感じない。行為のときに蘭丸に弄られた経験はあるが、その度に擽ったくて笑ってしまったので、呆れられたのか以来触られなくなった。
 柔らかな乳房があるわけでもないし、男なら誰でもそんなものだろうと思って、拓人も特に触れて来なかったが…。
 果たして蘭丸はどうだろうか。




 つづく(後編は拓蘭)

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