稲妻11 | ナノ


 マーク・クルーガーという男は泰然自若としているようで、実のところ大層な心配性である。その心配の矛先はただ一人へと向かう。
 これは有名な話であるが、マークはチームメイトの一之瀬一哉に関して、異常とも思えるほどの執着を見せている。一之瀬が入院してから、それはますます酷くなった。

 練習の合間を縫っては一之瀬を見舞い、何時間もベッドサイドを占領する。マークが訪れたときに、一之瀬が寝ていたりすると最悪だ。一之瀬が目覚めるまで、マークはじっと黙って座って待っている。起こそうとすることもなく、ただひたすら待っている。
 しかしマークも、寝ている一之瀬が生きているのか不安になるのか、鼻と口の上に手を翳したりする。はたまたティッシュペーパーを一枚取って、一之瀬の顔に被せてみたりもする。
 呼吸を確かめるのが目的らしいが、それにしても物騒な方法である。仏教に馴染みのある土門としては、びっくりするようなとんでもない光景に思える。

「マーク…気持ちはわかるが、不謹慎だからやめた方がいいぞ」
「不謹慎?オレはカズヤが心配なんだ」
「お前、一之瀬を殺したいのか?」
「そんなわけないだろう!失礼だぞドモン!」
 土門がそれとなく諫めても、本気で心配しているマークは聞く耳を持たない。普段は聞き分けの良い理想のキャプテンだというのに、一之瀬に関することだと途端に視野が狭くなり、頑固になる。
 愛とは人を斯くも変えるものなのか。盲信的なマークの瞳から目を逸らして、土門はこっそりと溜め息をついた。


 だがしかし、この場で一番不謹慎で質が悪いのは、ベッドで眠る一之瀬自身であることを土門は知っている。マークが病室を去ってから、土門は寝顔の一之瀬に話し掛けた。
「一之瀬…お前も起きてるなら教えてやれよ」
「…だって俺を心配するマーク、可愛いんだもん」
 目を閉じたままへらっと笑う一之瀬に、土門は二回目の溜め息をつかされた。





 一之瀬は狸寝入りしてました。

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