稲妻11 | ナノ


 佐久間を初めて家に連れて来たとき、源田は兄に「幸次郎が女を連れ込んだ」と勘違いされて大騒ぎされた。源田と佐久間が私服で歩いていると、お似合いのカップルに見えるらしい。
 話してみれば決してそう思うことはないのだが、佐久間の容姿は中性的だった。なまじ年若く、端麗な美貌をしているものだから、女性的に捉えられがちである。
 口にしたら怒られるので言わないが、源田は佐久間の顔を、常日頃からかわいいなと思っている。男臭くなってきた同級生の中に置いてみると、一輪の可憐な花が咲いているようである。気の強そうな瞳も、それを縁取る長い睫毛も、色が薄くて形の良い唇も好きだった。
 源田は自分の佐久間への好意が、同性の同級生に向けるには、些か色の付きすぎた感情であることに気づいていた。それが一般的でない想いであることも知っていた。しかし嫌われたくない一心で、ときめきとせつなさの全てを胸に秘めて、日々佐久間に接していた。
 源田は年の割に我慢強い性質である。黙って耐え忍ぶのは得意な方だった。親友という絶対的な距離を保ったまま、上手く隠し通していけるはずだった。
 あんなことにさえ、ならなければ。



 佐久間が見たいと言っていた映画のDVDを手に入れたので、源田は佐久間を放課後に自宅に招いた。源田の家族は両親が共働きで夜までは帰らず、大学生の兄はゼミやアルバイトや飲み会で忙しく、家にいることがあまりない。この日もやはりそうだったので、広い家に二人きりになった。源田は佐久間を自分の部屋で待たせると、キッチンへの飲み物を用意しに行った。
 アイスティーの入ったグラス二つを手に戻ってきた源田は、自室の惨状に我が目を疑った。たかだか二、三分の間に、室内がすっかり荒らされていたのである。散らかった部屋の入り口で源田が見たのは、ベッドの下に頭と腕を突っ込んでいる、佐久間の不審すぎる姿だった。
「佐久間っ!何をしてるんだ!」
「源田のお宝漁ってた」
「えっ!?ああっ!うわあああっ!!」
 佐久間の示した床一面に、肌色の強いパッケージがぶち撒けられている。それは諸事情あって源田が所持しているアダルトDVDの数々だった。ベッドの下のような安易な場所には隠していないのに、何故佐久間に見付かってしまったのだろう。
 動揺のあまり絶叫した源田は、慌ててそれらを回収したが、目の前でさっと攫われた一枚は、佐久間の手の中で弄ばれていた。よりによって、一番お世話になっているお気に入りの作品である。
「お前もこういうの見るんだな。なんか意外だ」
 そう言って佐久間は淡々と、タイトルや主演女優の名前、DVDのキャプションを読み上げる。佐久間の口から発せられる卑猥な単語の数々に、源田は穴があれば入って埋まってしまいたいような気持ちになった。その綺麗な顔で「ぶっかけ」や「ザーメン」などと真顔で言わないで欲しい。聞いているこちらが遣り切れなくなる。
「頼む佐久間…もう返してくれ…っ」
 羞恥のあまり懇願する声が震えた。恥ずかしくて情けなくて堪らない。土下座をしてでも返してもらおうと、床に膝をついた源田の肩を、ぽんと気安く佐久間が叩いた。手にしたDVDをひらひらと翳しながら、佐久間は源田に語り掛ける。
「恥ずかしがるなよ。男なら普通持ってるって」
「…そうなのか?」
「ネットとか色々あるし、これくらい、みんな見てるだろ」
 いやらしいDVDをこそこそと所持する浅ましい奴だと思われたかも知れない…と、源田が想像して絶望したほどには、この状況に佐久間は幻滅していないようだ。むしろ冷静で余裕があり、いつもどおりの態度に見える。慌てふためいた自分が阿呆に思えて、源田は早計を恥じた。それにこの口ぶりからすると、佐久間もこういったものを所持したり、鑑賞したりしているようだが…。
 嫌われていないことに安堵すると同時に、佐久間も人並みに"そういうこと"に関心と理解があるのだと知って、源田は不思議な心持ちになった。決して嫌なわけではないのだが、胸の奥がむずむずするような、こそばゆい感じがする。
 源田が違和感の正体を突き止める前に、佐久間の質問責めが始まった。
「源田はフェラチオが好きなんだ?」
「…た、多分…」
 佐久間に返されたDVDの内容は、美形の女優が自慢のフェラテクを披露するというものだった。
「実際にされたことはあるのか?」
「それは、ない…」
「じゃあ、してもらいたい?」
「…まぁ…そうだな…」
 女子から告白を受けることはあるが、付き合った経験はない。性的なことに興味はそこそこあるが、女性とどうこうなる勇気と責任がないからだ。猥談に慣れていない源田は、開けっ広げな質問の数々にたじろいだ。
 それにしても佐久間は、無意味にこういう問い詰め方をする奴だったろうか。何か目的があるのではないだろうか。源田は単刀直入に話を切り出した。
「…なぁ佐久間、何が言いたいんだ?」
「…交換条件はどうかと思って」
「交換条件?」
 源田が訝しげに問うと、佐久間はニヤリと自信ありげに笑った。
「源田が俺にしてくれたら、俺も源田にしてやるよ」
 何を、とは話の流れで言わずとも分かる。あまりに大胆な提案に、源田は真っ赤になって佐久間を見た。微笑みからするに、冗談ではなさそうだ。



 源田には他人の性器に触れた経験も、セックスをした経験もない。DVDで見た女優のやり方を思い出して、おそるおそる佐久間の陰茎を銜えてみる。同性の性器を口に含むことに、思っていたほどの嫌悪感はない。佐久間のものは形も色も下品ではなく、髪の毛と同じ色の陰毛が薄く生えているのが、控え目で感じが良かった。清潔にされているので匂いも味も特には気にならない。
 ベッドに腰掛ける佐久間の股座に顔を埋め、見様見真似で口と舌を動かし、まだ柔らかい性器を愛撫する。何よりもまず、きちんと勃ってくれるのか不安だったが、それは間もなく芯を持ち始めた。硬度と角度を強くする肉棒を、源田は口の中でありありと感じた。とくとくと脈打つそれを銜えていると、これも佐久間の身体の一部なのだなと、当たり前のことに感心してしまう。
「おい、手は使うなよ」
 根元を支えようとしたら怒られたので、源田は両手を引っ込めた。手を使わずにバランスを取り、全体を舐めるのは難しいが、命じられたら従うしかない。包皮が剥けて鮮やかな先端が露出した亀頭を口に含んで、雁首の括れを唇で締め付けながら頭を上下させる。幹に唾液を絡めるように動くと、大分抜き差しがしやすくなった。
「ん…確かに、これ…、ひとりでするより、ずっと気持ちいいな…」
 佐久間の陰茎が興奮に脈打つのを、源田は唇と口腔で感じた。銜えたまま見上げると、この行為に陶酔している佐久間の恍惚とした顔があった。褐色の頬が一目で分かるくらい赤く高揚している。拙い口淫にも佐久間が喜んでくれているのが分かって、奉仕している側の源田も嬉しくなる。
「あー…それ、すごくいい…っ」
 全てが口内に収まるように深く銜えると、佐久間は特に気持ち良いようだった。少し苦しいが佐久間のために、源田は懸命に勃起を迎え入れる。頭上から熱い吐息が降ってくるのが嬉しい。佐久間にもっと良くなって欲しくて必死に舐める。
「…源田っ…そろそろ、イきそう…」
 頭上から降る切ない声に源田は戸惑った。当たり前のことだが、達したら精液が出る。普段はティッシュで受け止めているが、今回は手を使ってはいけないと言い付けられている。では何処に受け止めたら良いのだろうか。源田は奉仕を続けたまま、目で佐久間を窺った。
「…もう忘れたのか?口以外使うなって言っただろ」
 おもむろに伸びた佐久間の両手が、源田の頭を鷲掴みにした。頭の位置を固定されて動けない源田の口腔に向かって、佐久間が腰を突き上げる。いきなりの手荒な仕打ちに源田は嘔吐いたが、肉棒に塞がれた口では上手く息が吐き出せない。呼吸ができなくて苦しい。
 AV女優がさせられているのを見たことがあるが、演技とはいえ乱暴にするのは可哀想で、あまり源田は好きではなかった。自分が佐久間にさせられているのは、イラマチオに他ならない。喉奥をガツガツと抉る亀頭は暴力的で、源田の双眸に生理的な涙が滲む。
「あぁ…源田っ…いく、もう出る…っ!ん…あっ、ああっ…!」
 それでも佐久間の興奮は最高潮に達したらしい。今までに聞いたこともないような甘い声で、絶頂が近いことを告白される。一際高く呻かれて、性器がしたたかに震えたかと思うと、熱い液体が口内に広がった。


「あー…すっげー良かった…」
 達した佐久間は口内から出ていきながら、噎せる源田にティッシュボックスを差し出した。源田はティッシュを二、三枚取って、そこに佐久間の残滓を吐き出す。唾液と混じった精液は量が多くて、一回出したくらいでは拭い切れない。咳き込みながら口許を清める源田を、無遠慮に佐久間は覗き込む。
「うまい?」
「…うまくない」
「まぁ、そうだよな。現実とAVは違うよな」
「……まずい…」
 思っていたほど甘くも苦くもないが、独特の生臭さが舌に残っている。佐久間のものとはいえ、あまり味わっていたくなかったから、唾と一緒に全て出してしまった。
「そう言う割には、こっちはギンギンじゃないか」
「あっ…!」
 下品な揶揄いと共に、佐久間の手が源田の股間を揉みしだいた。そこは既に明らかな興奮を見せていて、しっかりと勃起した肉棒が、ジーンズの布地を押し上げているところだった。佐久間に握られたことで更に膨らんだ性器と前のきつさを、源田自身も感じている。
「ズボンもパンツも脱いで寝ろよ。約束だ。俺も源田にフェラしてやる」
 佐久間は高慢に宣言しながら、誘うように唇を舐めた。濡れた赤い色彩に釘付けになる源田に、この先の行為を断る理由はない。


 言われたとおり下半身裸になって、源田はベッドに寝転がった。既に天を向いている陰茎の立派さに、佐久間が面白くなさそうに唇を尖らせる。
「源田のデカすぎ…ちょっと縮め」
「そんなこと言われても、無理だ…」
 源田の性器は中学生にしては発育が良く、成人男性並みのサイズと形状をしている。完全に勃起して手に余るほど大きくなったそれに、佐久間は驚いたようだった。
 ぶつぶつと文句を言いながらも、佐久間は反り返る肉棒を舐め上げた。勃起の表面を辿る柔らかい舌の感触に源田は震えた。他人に性器を弄られるとこんな感覚がするのか。自分で触るとき以上の興奮が、一気に源田に押し寄せる。
「…っ、ん……さくま…ぁ…」
 佐久間の綺麗な顔のすぐ側に、充血した己の男根がある。その光景だけで眩暈がするほど倒錯的なのに、その上性器を佐久間に舐められたり、手で扱かれたりしている。佐久間の愛撫は巧みだった。先端を銜えながら、邪魔な髪の毛を耳に掛ける仕種が色っぽい。夢を見ているようだった。

「なぁ源田、どんな感じ?」
 塗りたくった唾液でぬめる肉棒を、右手で扱きながら佐久間が尋ねる。佐久間は口淫だけでなく手淫も上手かった。輪にした指で根元から雁首までを絞って扱き、先走りに濡れた先端を捏ねくり回す。
「…っ、気持ちいい…っあ…ぅ…」
「手と口、どっちが好き?」
 張り詰めた裏筋を指先でなぞりながら、佐久間はひくつく鈴口を舌先で突いた。そうやって焦らされる源田の身体は、どんどん快楽に素直になる。
「…っ、くち…」
「お前、本当にフェラが好きなんだな」
「うっ…すまない…」
「別に謝らなくてもいいけど…ほら、舐めてやるから脚開け」
「…っ、ああ…はっ…」
 佐久間に言われるがままに、源田は両脚を大きく開いた。部屋の電気は点いたままであるし、秘部が丸見えになる格好は恥ずかしかったが、それがまた身を焦がす淫らな熱になる。
「んっ、あっ…く、ぁ、ああっ…!」
 これ以上ないほど膨張した源田の男根を、佐久間は一息に口内に迎え入れた。物理的に絶対に苦しいはずなのに、上手く銜えるコツがあるのか、佐久間が体裁悪く嘔吐くことはない。全体を温かな口腔に包まれながら、絞った唇にきつめに扱かれて、蕩けるような快楽が押し寄せる。このまま直ぐに達してしまいそうだと思ったとき、源田はある違和に気が付いた。
「えっ…?さ、佐久間…?」
 源田が戸惑いの声を上げたのは、佐久間の濡れた指が肛門の周りを撫でていたからだ。それだけでも酷い違和感があったのに、その指が身体の中まで侵入して来たので、源田は本当に驚いた。黙ってはいられなかった。
「や、やめ…っ!さくま、何してっ…?」
「よく濡れてるから痛くないだろ?」
 そういう問題じゃないと源田は言いたかったが、身体を内側から掻き回される衝撃に声を失ってしまう。佐久間の言うとおり痛みはない。痛みはないが戸惑いがある。
「っく、んぁ…さくまぁ…あっ、あ…」
 ただひたすら、未知の刺激に思考が追い付いていかないのだ。

 佐久間は後孔に挿した指を抜き差ししながら、元気なままの肉棒への愛撫も再開した。前への刺激に呼応して後孔がきゅっと締まることに、源田はまだ気づいていない。いやだいやだと口では喚いていても、尻に異物を突っ込まれたにも関わらず本気で抵抗しない辺り、源田はこちらの素質があるのだ。開発したら物凄いことになるだろうなと、熱くうねる内壁を探って佐久間は思う。源田のように誰にでも優しくて真面目なタイプは、本質的に淫乱なのだ。
「…っ!?っん…ああっ…!」
 佐久間の指が体内のある一点を掠めたとき、今までに体験したことのない刺激が源田の身体に走った。男根で得るのとは異なる性感に、源田は底無しの奈落を見た。佐久間の指先がそこを捉える度に、目の前が真っ白になるようだった。このまま弄られ続けたら、頭がどうにかなってしまう。源田は身体をくねらせた。
「やっ…これ、いやだっ、俺、おかしい…」
「おかしくねーよ。中にも感じるところがあるんだ」
 佐久間も既に源田の勘どころを把握していた。敏感な所を狙って突かれると、神経に直接触れられるような、激しい快感が背筋を突き抜ける。尻の穴を弄られて気持ち良くなってしまうなんて信じられなかったが、事実源田の陰茎は腹に付きそうなほど反り返り、お漏らしと言われても仕方がないほどの先走りを垂れ流していた。
「はぁ、あっ…だめ、だ…っあ!っあぁ!」

 源田の先端をすっぽりと銜えて、佐久間は舌で舐め回した。後孔に挿入した指の抜き差しも、ラストスパートとばかりに激しくする。前立腺と尿道を同時に刺激された源田は、全身を大きく痙攣させた。かつてない絶頂感が身体の奥から込み上げる。
「っあ、だめだ、さくまっ…!あっ、いく…ぅああっ…!」
 源田は容赦なく攻め立てられた末に、濃い精液を佐久間の口内に放った。



 壁側を向いて拗ねている源田の背中を見て、少し虐め過ぎたかも知れないと佐久間は思った。もっとも罪悪感は特にない。セックスをしたわけでもないし、マスの掻き合いくらいで傷付かれても困る。
 佐久間は源田の肩を引いて振り向かせた。女子生徒に黄色い声で騒がれる男前も、泣き腫らしたのが丸わかりでは台無しだ。だがしかし佐久間としては悪い感じはしなかった。衝動的に口づけた源田の唇、放たれた残滓を唾液ごと流し込む。自らの精液を飲まされた源田は幾らか噎せて、お人好しの源田にしては珍しく露骨に嫌な顔をした。楽しくなった佐久間は源田に尋ねる。
「うまいだろ」
「…まずい」
「俺はわりとうまかった」
「舌がおかしいんじゃないか」
 源田はのろのろと身を起こすと、ティッシュを探して口を拭いた。その背中に佐久間は伸し掛かり、まだ熱を残している耳元に囁く。
「源田って意外とかわいいな」
 そう言って笑った佐久間は、意地悪な男の顔をしていた。




 おわり

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