稲妻11 | ナノ


※フィフスセクターに拓人が拉致られて円堂監督が身体を張って交渉に来たよってところから始まる話(R18)
※聖帝の正体がよくわからない頃に書いた




 フィフスセクターの本部に現れた円堂守を眺める役員たちの笑みには、たかが子供ひとりに釣られてよくやって来たものだ、と嘲笑う気持ちが見て取れた。己に無遠慮に注がれる幾多の下卑た視線をものともせず、円堂は聖帝の居る間に続く、暗く長い廊下を歩いていく。
 身一つで敵地に乗り込んで思うことはただ一つ、この卑劣な交渉の道具にされた教え子が、無事に帰されることのみである。その切なる願いのためならば、自分はどうなろうと構わないと――歩みを止めない円堂は、真っ直ぐな双眸に悲壮な決意を宿していた。


 華美に飾られた玉座は遙か遠く、高みから円堂を見下ろしている。
「久しぶりだな、円堂守」
 玉座に腰掛ける聖帝の前に引き出されても、円堂は怖じけづく様子もなく堂々としていた。不遜と取られ兼ねない円堂の態度に気を害した風もなく、聖帝は悠然と構えて円堂を見詰めている。円堂もまた毅然として胸を張り、壇上に座する男を見据えた。
「神童はどこだ」
「…再会の挨拶にしてはつれないな」
「俺はお前に、こんな形では会いたくなかったよ」
 円堂の目に浮かんだ郷愁の悲しみを、聖帝はつまらなそうに一瞥しただけだった。
「…ふん、まぁいい」
 聖帝が掲げた指をパチンと鳴らすと、両脇をフィフスセクターの男らに固められた神童が、円堂の前に連れて来られた。
「円堂監督!」
「神童!怪我はないか?!」
「俺は大丈夫です…っ、でも、監督…っ」
 未だ幼さの残る神童の顔が悲痛の色に染まって歪んだ。神童は己の愚かさを恥じていた。フィフスセクターの連中が、円堂を狙っていることを知っていたのに、付け込る隙を与えてしまった。捕われの己の身が情けない。目を伏せた神童は消え入りそうな声で円堂に問い掛けた。
「どうして、来てしまったんですか…」
 円堂が此処に来れば無事に済むはずがない。フィフスセクターの者たちが神童を攫ったのは、円堂を誘き寄せる餌にするためだ。これは最初から円堂を陥れるための罠だとわかっていたのに。
「お前が俺の大切な生徒だからだ」
 円堂にきっぱりと言い切られて、神童の大きな瞳から涙が零れ落ちた。神童は唇を噛み締めて込み上げる嗚咽を堪える。こんなにも強くて優しいひとを、敵の奸計の餌食にさせてしまうことが、口惜しくてならない。
「泣くな神童…巻き込んじまって悪かったな」
「監督は悪くありません!こいつらがっ…」
 感情の高ぶった神童が声を張り上げようとした瞬間、パァンという乾いた音が、ホールの高い天井に無慈悲に響いた。フィフスセクターの卑劣さを糾弾しようとする神童の頬を、聖帝の手の平がしたたかに叩いたのだった。
「……っ…!」
「神童!」
 力の加減なしに平手打ちされた神童の頬は、赤く染り痛々しく腫れてしまっていた。今までに殴られた経験のない少年は、生まれて初めて加えられた純然たる暴力に、ショックを隠せないでいる。
「師弟ごっこには満足したか?」
 子供の頬を叩いたくらいでは、軽薄な漆黒の瞳は揺らぐこともない。呆然とする神童の代わりに怒りに打ち震える円堂を、聖帝は冷たく見下ろしていた。
 大切な教え子に危害を与えられたとなっては、円堂も黙ってはいられない。円堂は玉座を振り仰ぐと、聖帝に向かって険しい表情で叫んだ。
「俺のことは好きにしていい。だが神童には手を出すな!」
 お決まりの自己犠牲に塗れた台詞は、フィフスセクターの連中の失笑を買った。指示に従わない愚かな監督とキャプテンを、聖帝が許すはずがないと皆考えているのだった。しかし円堂も引き下がるつもりはない。
「…お前たちの目的は、最初から俺一人なんだろう?だったら…」
 暴力も恥辱も俺だけに加えればいいと、円堂は聖帝を睨み付けた。聖帝の口角がくっと上がる。
「いいだろう」
 玉座から発せられた承諾の返事に、発言した本人と円堂以外の全員の口から、どよめきの声が上がった。許可を与えた聖帝は口許に微笑みを湛えたまま、悠然と円堂に話し掛ける。
「お前が我々に従う限り、この子供に危害は加えない…約束してやろう。それでいいか?」
 フィフスセクターの領域であるこの場において、最高権力者の聖帝の言葉は絶対の命令である。その聖帝が神童の身の安全を約束すると宣言したのだから、他の者も手出しをすることは罷りならない。故に円堂も安堵することができる。神童が無事であるならば。
「ああ、それでいい」
 しっかりと頷いた円堂は、己の命運を敵の手中に握られたとは思えないような、透き通った微笑みを浮かべていた。



 両手を後ろ手に拘束された円堂は、トレードマークのバンダナで目隠しをされて、フィフスセクターの者たちへ口での奉仕を命じられていた。
 膝立ちの円堂の回りを下半身を露わにした男たちが取り囲み、自慰をしたり勃起を擦り付けたりと好き勝手にしている。円堂の人となりを知る者ならば、とても見ていられないような侮辱の光景を、聖帝は頬杖を付いたまま、高見から無感動に眺めていた。
「思ったよりも上手いじゃねーか」
 大袈裟に感嘆の声を上げたのは、円堂の口にいきり立った男根を突っ込んでいる男だった。貧相とは言い難い肉棒を銜えさせられながらも、円堂は思いの外落ち着いた態度を見せていた。
 含まされた性器に歯を立ててしまうな粗相もなく、絞った唇で幹を締め付けながら、張り詰めた裏筋を器用に舐め上げる。一連の的確な奉仕に拙さは見られない。男を悦ばせるための技巧は一朝一夕で身に付くものではなく、顔を見合わせた男たちは薄笑いを浮かべた。
「アンタ、見た目の割に遊んでんのか?」
「あの円堂守が男狂いの淫乱だったとはなぁ」
「日本国民に謝れよ」
 謂れのない酷い誹謗中傷を、いやらしい嘲笑と共に浴びせ掛けられても、円堂は徹底して無視に努めた。こういう下種な輩に対しては、律儀に言い返すだけ時間の無駄だと知っている。
 それよりも気に掛かるのは、再び奥に連れて行かれた神童のことである。手出しをさせない約束は取り付けたものの、いつ解放してもらえるかの言質はもらっていない。
 中学サッカーとフィフスセクターとの因縁に、雷門イレブンを巻き込んでしまったのは円堂である。神童が拉致されたと知らされたとき、円堂は気が気で無くなりそうになった。とても罪悪感を感じている。だから本当は神童だけでも、一刻も早く雷門に帰してやりたいと思っている。
 とはいえこの場に神童がいないのは、円堂としては有り難かった。どんな仕打ちも甘んじて受けると言ったものの、浅ましい性欲の捌け口にされた自分の姿は、純粋で繊細な神童には見せたくない。連中がフェラチオだけで満足するとは到底思えず、更にえげつない行為を要求することは目に見えていた。汚れるのは自分一人だけでいいと、円堂は儚げに自嘲した。


「ちっ…本当にフェラの上手い口だな」
 円堂の口に突き刺さる男の性器は、充血して硬く反り返っていた。銜えるには大きすぎる質量が口内を不調法に掻き回す。ぎっちりと詰め込まれているために、苦しくても嘔吐けない。
 上手く飲み込めなかった先走りと唾液が、開いた唇の端から垂れて円堂のジャージに染みを作る。十分過ぎるほどに潤った口腔で抜き差しをすると、粘液が泡立ってぐちゅぐちゅと卑猥な音を発する。それは性交のときの交接音によく似ていた。
 視覚と聴覚の双方から煽られた男たちは、男根への奉仕に徹する円堂を、じっとりとした眼差しで見詰めた。何処からどう見てもごく普通の成人男性なのに、醜悪な肉棒に舌を這わせる姿は、何とも色っぽく健気に映る。着衣越しにもはっきりと分かる引き締まった若い肉体が、妙な色気を発していた。
「ああクソ…俺も扱いて欲しくなるな…」
「コレ…外してくれたら、あと二人は同時に相手できるぞ?」
 そう言って円堂は縛られた手を後ろでもぞもぞと動かした。別段美しいわけではないが、大きくて温かそうな手の平である。その手に陰茎を握られて扱かれる妄想をした男たちが、顔を見合わせてニヤニヤと笑い始める。一人の手が縄に伸びようとしたところで、黙って見ていた聖帝が口を開いた。
「やめておけ。コイツのポジションを忘れたのか?握り潰されても知らないぞ」
 現役時代の円堂のポジションは余りに有名すぎて、知らない者が居るはずもない。神の手とまで謳われた名ゴールキーパーの握力が、どれ程のものかは想像に難くなかった。教え子という弱みがこちらの手中にあるとはいえ、円堂の両手を解放するのはやはり危険すぎる。
 両手はやはり使えないと悟った男たちは残念そうにしながらも、自分の手以外の刺激を求めて円堂の髪や顔に勃起を押し付け始めた。
「…っ…!」
 目隠しをされていても、自分が今何をされているのかが、円堂には手に取るように分かった。肌が出ているところや髪の毛に、硬い亀頭がぐいぐいと押し付けられている。先走りや汗で湿った無数の男根が、蛇のように体中を這い回る悍ましい感覚に、流石の円堂も嫌悪感を隠し切れなかった。気持ち悪くなって肉棒を銜えたまま嘔吐いてしまう。
「…っう、ぐ、うぅ…っ!」
 しかし円堂の口内を雄で犯す男には、吐き出そうとする喉の動きが締め付けとなり、気持ち良かったらしい。先程の快楽を得ようと、円堂の頭部を鷲掴んで固定して、喉奥をぐいぐいと乱暴に突き出した。口腔の突き当たりを肉棒に抉られて、必然に嘔吐感が込み上げる。
「うっ…ぐぅ!うぅ…おお、ぅえっ…!」
 呼吸を塞き止められたことに対する、生理的な涙が目隠しのバンダナに滲んだ。技巧も何もないままに、ただの穴として口内を使われる。好き勝手に揺さ振られながら、円堂はイラマチオの屈辱に震えた。
「…っく、ぅ…んん…っ!」
「っ、そろそろ、イくぜ…!」
 円堂の頭を自分の股間に押し付け、その口奥に性器を深々と突き刺して、男のものは勢いよく精を放った。熱い迸りが喉に向かって大量に発射される。達してなお男が肉棒を抜いてくれないものだから、円堂は生臭くて粘つく精液を、吐きそうになりながらも嚥下しなくてはならなかった。




 なんて悍ましい光景だろう。男性が男性を性的に凌辱する方法があるのだと、このとき神童は初めて知った。ガラス越しに神童が見させられたのは、敬愛する監督の信じられない姿だった。
 ホールの床に全裸で四つん這いにさせられた円堂は、後背位でがつがつと後孔を犯されながら、別の男の陰茎をもしゃぶらされていた。成人男性の勃起した性器すら初めて見る神童は、その醜悪な浅ましさに吐き気を催した。大人の剥き出しの欲望が汚くて恐ろしかった。ましてやそれらが円堂に向けられているのだと思うと、心臓が鷲掴みにされるような苦しさが込み上げる。
『…っ、く……う…っ!』
 もう目隠しはされていないのに、円堂が神童の視線に気づかないのは、目の前のガラスがマジックミラーになっているからなのだと、神童は監視役らしい傍らの男に教えられた。それからこの部屋は防音の設備がしっかりしているから、神童がどんなに必死に呼び掛けようと、向こうにいる円堂には聞こえないこと。それから円堂たちがいるホールの音は、マイクを通じてこちらに聞こえるということ、を言われた。
『…ん、ぅあっ…あぁ…うっ…』
『ちゃんと銜えろよ』
『…っぐ、ぁあ……く、うっ、んっ…』
 ガラスの向こうには苦悶に満ちた表情で、代わる代わる男たちに犯される円堂がいる。場合によっては神童に向かうものだったかもしれないそれを、一身に引き受けることを進言したのは円堂だった。円堂は自分の身を犠牲にして神童を守ったのだ。その優しさを思うと涙が止まらなかった。神童は泣きながら傍らの男に縋り付いた。
「お願いします、やめさせて下さい!俺はどうなってもいいです!今すぐ円堂監督を解放して下さい!」
 皆の心の支えである円堂が、見知らぬ男たちの慰み物とされている様子は、とても見ていられるものではなかった。大きな瞳いっぱいに涙を溜めて懇願する少年は憐れだったが、頼られた男は縋り付く身体を振り払った。いたいけな神童の姿に良心は痛むが、フィフスセクターに所属する者である限り、聖帝の下した命令には逆らえない。
「お前には手を出すなという命令なんだ。もうどうすることもできないんだよ」
「…そんな…っ」
 絶望した神童は覚束ない足取りでガラスの方まで行き、その前に力無くへたり込んだ。ガラス一枚を隔てた向こうでは、円堂が無惨にも男たちに犯され続けている。
 途方もなく近くて遠いところで行われている凌辱を、神童はガラス越しに見ることしか出来ない。嬲られて汚される円堂を救うことはできない。円堂と自分を隔てる透明な壁を拳で叩き、神童は泣き崩れた。こんな不条理があって良いはずがない。
「…い、嫌だ…監督…っ、円堂監督ぅ…」
『…うっ、あ…ぁあ…んん…っ』
 マイクが拾う嬌声が神童のいる部屋に甲高く響く。神童の知らない円堂の声。苦しくて辛そうで、それでいて艶めいた淫らな喘ぎ声。聞くだけで頭がおかしくなりそうなのに、円堂からは離れたくない。ガラスの壁を背に丸くなって座った神童は、両手で耳を塞いで堅く目を瞑った。
「っく、うぅ…円堂監督…ごめんなさい、ごめんなさい…っ」
 神童は震えながら、届かない謝罪を繰り返した。



 円堂の中でまた一人、男が果てて出ていった。代わる代わる何人もの相手をして、何回精を放たれたのか分からない。熱り立つ肉棒に新たに押し入られても、酷使された後孔の感覚は既になく、内側も外側も精液塗れになった不快感を、じっとりと感じるばかりである。
 聖帝の目的は円堂の心身を壊すことではない。連中の気が済むまで凌辱を我慢していれば、そのうち五体満足のまま解放されるだろう。連中はフィフスセクターに従わない生意気な監督を懲らしめたいだけなのだ。暫くは傷や痣が残るかも知れないが、円堂の壮健な肉体は暴力に耐え得る強さを持っている。犯された心の痛みなど、教え子の無事に比べたら歯牙に掛けるものでもない。

 ――神童は無事だろうか。また、泣いてはいないだろうか。この凌辱の場には自分と聖帝と男たちしかいないのに、円堂は少年の謝罪の声を聞いたような気がした。




 終

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