稲妻11 | ナノ


 わざと煽り立てたせいかも知れないが、序盤から随分と激しい抱き方をされた。
「…っひ!…っく、あ…はぁ…っ!あぁっ!」
 腰を臀部に打ち込まれる度に、あられもない声が上がった。女性のような甲高い嬌声はとても出せないが、くぐもった吐息交じりに鳴く円堂の喘ぎ声は、十分に艶めかしい響きを有している。既に自制を見失ったバダップは、少年の頃のように円堂の身体に夢中になった。じっとりと汗ばむ首筋に鼻先を埋めて、何度も切なく円堂に呼び掛ける。
「…円堂…円堂っ…」
 ジェルと唾液でよく慣らした円堂の秘部は、入り口の締め付けこそ強くあるものの、中まで入り込めば程よい圧力と湿り気をもって、バダップの雄を包み込む。抜き差しの度に熟れた内壁がいやらしく絡み付いてくる。女のような果てがない肉筒は、バダップを際限なく受け入れて、快楽を与えながら搾り取ろうとする。十年ぶりに抱く愛しいひとの肉体に、バダップは柄にもなく舞い上がり、欲しいままに与奪される悦びに没頭した。
「ああ…、円堂…円堂…っ!」
「…バダップ…っん、あ…ぁ…っ!」
 心許なく揺れている脚を肩に抱え上げて、浮いた腰に更なる律動を刻み込む。円堂の口から快楽の溜め息が漏れる度に、バダップは満ち足りた気持ちになった。本来ならば遠ざけねばならない色に溺れる底無しの感覚を、バダップは久方ぶりに味わっていた。自分の全てを引き出すのは円堂だけで、円堂でなければ駄目なのだと、改めて思い知らされる。
「バダップ…気持ち、いいか?」
 揺さ振られながら問い掛ける、円堂の艶めいた微笑みを見下ろしながら、バダップは無言でこくこくと頷いた。十年前の初体験のときにも、円堂はバダップに同じ質問を投げ掛けていた。その時とまるで同じ答え方に、円堂の胸の奥は懐かしい愛しさに疼く。バダップの持つ男らしさと初心さのギャップに目眩がした。
「俺もだよ…すっげー気持ちいい…」
 恍惚としながら呟いた円堂は、手を伸ばしてバダップの輪郭を指で辿った。滴る汗の一粒まで、本当に美しい男だった。切羽詰まったバダップの表情は、雄を強く匂わせながらも蕩けそうに淫らであり、円堂の興奮を煽り立てる。この男になら何をされても構わないと、本気でそう思ってしまうほどに。

「なぁ…そのまま、こっちも触ってくれ」
「…こう、か?」
「ああ…そのまま扱いて…ん、あぁ…っ」
 円堂はバダップの左手を導いて、腹の間で切なげに揺れていた自身の肉棒を握らせた。言われたままに手淫を始める手の動きは、ぎこちなさに妙にそそるものがあり、擦られた鈴口からは先走りが絶え間無く溢れ出す。加えて体内の前立腺まで猛りに突かれては、気持ち良くて堪らなくなる。
「はあっ、ぁあ…!すげー…いいぜ…うっ、あぁ…」
 前後を同時に刺激された円堂は、身体を捩らせて悩ましく身悶えた。耐え切れずにバダップの肩にしがみついても、遣り過ごせるような生半可な快楽ではない。
「っん、バダップ…も、出る…ん、うっ…はぁ、ああっ!」
 バダップの雄が奥を突いた瞬間、陰茎を包む手の中に円堂は射精した。手の平に絶頂の証を受け止めたバダップも間もなく、痙攣を繰り返す円堂の中に熱を迸らせた。


 湿った熱の篭るベッドに横たわったまま、円堂はバダップの方に向き直った。端正な容貌に浮かぶ行為の余熱が艶めかしい。剥き出しの肩口に残ってしまった、くっきりとした手の跡に思わず苦笑が漏れた。現役を退いてなお、円堂のゴールキーパーとしての握力は健在で、夢中になりすぎて加減が出来なかった結果だった。
「…バダップ…」
 汗で額に張り付いた髪の毛を払ってやりながら、円堂は呟いた。
「この十年間、ずっと思ってた…俺はもう一度、お前に抱かれたかった」
 言葉を弄するのは得意ではないが、告げずにはいられなかった。今も体内に残るバダップの熱が、十年越しの望みが叶ったことを円堂に実感させる。
「…お前はどうだ?バダップ…」
「俺も、円堂を抱きたかった…会いたかった」
 広い胸板にぎゅうと抱き込まれる。
「そうか。嬉しい」
「俺も、嬉しい」
 くすりと円堂が笑えば、同じようにバダップも笑った。この男がこんな風に笑えることを知っているのは、今も昔も自分だけに違いないと、円堂は自負している。美しく可愛らしい、俺の男。
「バダップ…このまま、抱いていてくれ」
「ああ、幾らでも…円堂…」
 安堵した途端に疲労感が押し寄せる。愛しい男の匂いを胸一杯に吸い込みながら、円堂は目を閉じた。この時が永遠に続けばいいと思う程に、幸福だった。





「…と…く…、…円堂監督…」
「…ん、あぁ…?」
 保健室のパイプベッドに横たわる円堂の様子を、栗色の髪の可愛らしい少年が、大きな瞳を潤ませながら覗き込んでいた。雷門イレブンの新入部員である、松風天馬である。
「ああ良かった!起きてくれて…このまま監督の目が覚めなかったら、どうしようって…俺…っ!」
「…あーわかった、わかったから落ち着け松風」
 わあわあと騒ぎながら枕元に突っ伏す松風を、円堂は宥めて起き上がらせる。松風の後ろから現れた、キャプテンマークを腕に付けた少年の方が、ずっと冷静で話が通じそうだった。
「具合は大丈夫ですか、監督?」
「ああ、神童か…俺は平気だぜ。心配かけちまったみたいで悪いな」
「いえ、監督は何も悪くありません。このノーコンが悪いんです」
「ほんとに、ほんとにすみませんでした!」
 じろりと神童に睨まれた松風が、謝罪と一緒に深々と頭を下げる。円堂の頭に直撃したたボールを蹴ったのは、どうやら松風だったらしい。しかしこれは練習中のミスによる事故であり、松風に悪気がないのは必死に謝る姿からも明らかなので、円堂としては叱るつもりはない。
「いいって松風、気にすんな!」
「か、監督…っ」
「…監督は優しいから許して下さったが、以後よく気を付けるんだぞ」
「はい、キャプテン!」
 先輩と後輩のやり取りは微笑ましいもので、円堂を和やかな気分にさせてくれる。二人は半袖のユニフォーム姿のままだったので、まだ部活中なのだと知れた。グラウンドに監督不在では良くないだろうと、ベッドから起き上がろうとする円堂に気付いて、神童が慌てて押し止める。
「いけません。ぶつけたのは頭なんですよ?監督は大事を取って、部活が終わる時間までは寝ていて下さい」
 如何にも優等生らしい正論を説かれては、円堂としても無茶を押し切ることができない。
「…キャプテンに言われたら、聞かない訳にはいかねーなぁ…」
 松風のお守りだけでも大変なのに、これ以上神童に余計な負担は掛けられない。そう思った円堂は、本意ではないがベッドに寝転がり直した。これでいいんだろ?と笑って見せれば、安心した顔付きになった神童が、乱れた布団をかけ直してくれる。少し心配性すぎる嫌いもあるが、面倒見の良い優しい子だと思った。

 ――それにしても、松風と神童がいるのが当たり前すぎて、先程までの記憶は何だったのだろうと、次第に不思議に思えてくる。
「……やっぱり、夢だったのか…」
「…?…監督?何かおっしゃいましたか?」
「ん?いや…気にするな。独り言だ」
「そうですか。それでは、俺達はグラウンドに戻ります」
「ゆっくり休んで下さいね、監督!」
「おう、頑張ってこいよ二人とも」
「はい!」


 二人分の足音が遠ざかると、辺りは大分静かになった。明るくて清潔な保健室の景色、窓の外から聞こえる子供たちの声。呆れるくらい平和な初夏の昼下がり。――あの世界と今この時、どちらが円堂にとっての現実かというのは明らかだ。
 たまたま頭部を打ったことで見た、都合の良い夢だったのだ。円堂はそう決め付けて割り切ろうとした。しかしごろりと寝返りを打った円堂は、腰の辺りにある違和感に気付いて息を飲んだ。
「…ああ、ちゃんと痛いな…」
 いよいよどうしようかと困ってしまう。双瞼の奥に込み上げる熱いものがあった。単なる夢として片付けるには、出来過ぎた想い出の名残だった。




 終


 (I'd like to stay with you.)



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