稲妻11 | ナノ


 左右で二つに括られた特徴的な髪の毛は、いつもの赤い髪ゴムではなく、大振りの黒いリボンで結ばれていた。動作の度にふわふわと揺れるそれを目で追っていたら、顔を上げたミストレと丁度目が合ってしまって、小馬鹿にしたように鼻で笑われた。エスカバを壁際に追いやって迫る、悪意に満ちた天使の微笑み。
「この格好、そんなに気になる?」
 笑みの形に弓なりに引かれた唇は、口紅など塗らなくとも十分に美しい色と形を持っていて、天から授かった艶やかさでエスカバの理性を誘惑する。
 このミストレという少年はいっそ腹立たしいほどに、自身の優れた容貌の利用価値と利用方法を理解していた。どう微笑んでどう動けばいいのか、自分が相手からどう映るのか、そして相手がどんな気持ちになるのか。ミストレは本能と経験から全て知っていた。
 エスカバはミストレの魔性に惑わされた、数多の犠牲者の内の一人である。
「なんだその…フリフリした服装は」
 指摘が図星であったことに対する動揺を、出来るだけ顕わにしたくないエスカバは、ミストレの顔から目を逸らして着衣の方へと話題を変えた。
 部屋に押し掛けてエスカバに迫るミストレは、白と黒を基調とした見慣れない形の服を纏っていた。スカートなので女装に間違いないが、少女めいた顔立ちのミストレが着ると違和感がない。たっぷりとした布を使ったその格好は、地味なドレスのようにも派手なエプロンのようにも見える。
 ブラウスの襟元を飾る大きなリボンを指で弄びながら、ミストレは得意げに答えた。
「八十年前に流行った格好なんだって。メイド服っていうらしいよ」
「ゴチャゴチャしてて、うるせぇ服だな」
「嘘だね。君の顔、真っ赤だもの」
 砂糖菓子のような白い手がエスカバの頬をするりと撫でた。対照的に冷たく感じる指先の華奢な感触に、また一層血が上って顔が火照った気がする。今自分がミストレの前でどんなに酷い顔色を晒しているのか考えたくもない。
「本当はこういうの、好きなんだろう?」
 挑発的に微笑んだミストレは、エスカバに見せ付けるように豊かなスカートの裾を捲り上げた。黒いニーハイソックスとフリルの付いたガーターベルト、黒との対比で更に眩しく映る、染み一つない真っ白な太股に魅せられた。ミストレの脚は細いのに柔らかそうな肉感に溢れていて、本当に女の生足のようだった。男の脚だと理性では認識していても、生唾を飲まずにはいられないほど性的な肢体だ。
「気になるなら触ってもいいんだよ?」
 情欲に揺らぐエスカバの心を見透かしたように、ミストレが小悪魔的に誘う。エスカバは慌てて釈明をしたが、耳まで真っ赤な顔色では何を言っても説得力がない。
「っ、馬鹿野郎!誰が触るか!」
 それでも言葉の抵抗を続けるエスカバを、ミストレは目を細めてじっと見た。頃合いを計るようにエスカバを凝視する。
「へぇ…それじゃこの手は使わないね」
「はぁ?…おい、ミストレっ!」
「代わりにオレが触ってあげるよ」
 すかさず手が伸びてきて、エスカバは目にも留まらぬ早さで両手を拘束されてしまった。発言の揚げ足をとるようなミストレの暴挙にエスカバは瞠目した。
「ばっ…テメェ、何を…ッ!」
「いいから黙れよ、この童貞」
 気にしている事実を言い切られたエスカバが声を無くした隙に、ミストレは鮮やかな手際でベルトを外しジッパーを下ろし、エスカバのズボンの前を暴いてしまった。そのまま下着の中に手を突っ込みエスカバの一物を鷲掴みにする。遠慮も何もないミストレの行為に、エスカバの喉から悲鳴になり損ねた声が出た。
「…ひっ…!」
「エスカバのペニス、かわいい」
 半勃ちのそれの先端が未だに包皮で覆われていることを指して、ミストレは可愛いと形容した。男としてのプライドまで嘲笑われた気がして、エスカバは唇を噛み締めて赤面した。そんなエスカバの屈辱の表情と皮被りの性器とを交互に見て、ミストレは楽しくて堪らないといった風に尋ねる。
「これ仮性?勃起したら剥けるよね?」
「や、やめ…ッ、う…っ…!」
 包皮の先端を突いたミストレは、エスカバの性器を無造作に掴んでごしごしと扱き始めた。勃たせるための的確な刺激に抗える筈もなく、エスカバの身体は反応してしまう。
 上下させる手の中で見る間に硬くなる陰茎を、ミストレは侮蔑の目で見下した。浅ましい男の欲望を前にすると、安直で愉快だと感じる一方で、どうしても心が冷めていくのだった。
「っ、く…ぅ…ッん……」
 すっかり立ち上がったエスカバの性器は、亀頭を覆っていた皮もつるりと剥けて、猛々しい雄の様相を呈していた。鈴口からとろとろと溢れる先走りを雁首に塗り込めながら、ミストレは感心したように口を開いた。
「へぇ、包茎にしては綺麗にしてるじゃないか」
「余計なお世話だっ!」
「オレは褒めてるんだ。これなら舐めてやってもいいかもって」
「…ッ…!」
「ねぇエスカバ、フェラして欲しい?オレは今機嫌がいい。君が一言頼めば口でしてあげるよ?」
 エスカバに向けてミストレは口を開けて見せた。小振りな唇も舌も血色が良くて柔らかそうだ。白くて小さな歯が順序良く並び、真っ赤な口内との対比が鮮やかだった。この口腔で肉棒を扱かれたら、さぞかし気持ち良いだろうと思う。くわえてもらったその先にある悦楽は容易に想像できたが、ミストレの偉そうな態度がエスカバは気に食わない。
「誰が、テメェなんかに頼むか」
 エスカバのぶっきらぼうな言い方は、ミストレの癇に触った。
「君も強情だなぁ…苛々してきた」
 心底忌ま忌ましそうに呟いて、ミストレは靴を乱雑に脱ぎ捨てた。次は何を始めるのかと警戒を露わにするエスカバに向かって、ミストレは冷然と言い放つ。
「手で抜くのも勿体ないよ。君には足で十分だ」
 次の瞬間にはミストレの右足が、エスカバの股間をぐりぐりと踏み付けていた。容赦ない激痛にエスカバが潰れたような呻き声を上げる。
「…っぐ!っア、ぁ、ァアっ…!」
「痛いくらいが好きなんだろう?ほら、ここを、こうしてあげるよ!」
 ミストレはそのまま両足を使ってエスカバの責め始めた。足の指を絡ませて巧みに肉茎を扱き上げる。こんな玄人の技巧を何処で覚えてきたものか、足とは思えない絶妙な力加減で施される愛撫に、エスカバはすっかり参ってしまった。
 その上ミストレがスカートを捲り上げて、脚の付け根の際どいところまで見せ付けてくるものだから、否が応でも興奮が高められる。いくら美少女顔のミストレでも、明白な女物の下着を穿いてくるのは反則だろう。火花が散るように目の前がちかちかと明滅して、熱が下肢の一点に押し寄せる。
「…ッ、く、っはァ!あぁっ!」
 勢い良く発射された精がミストレの足を白く汚した。不甲斐なくも足で達かされてしまった。俯いて屈辱に戦慄くエスカバを、ミストレは無邪気に笑い者にする。
「あははっ!いくら何でも早すぎだよ!オレの足コキは、そんなに気持ちが良かったかい?」
「…っ…」
「射精したのにまだ硬いし、エスカバって本当に変態だね…このみっともない姿を、君の舎弟たちに見せてあげたいよ」
 ミストレはそう言って足の親指の先で濡れた鈴口を捏ねくり回した。エスカバの身体を弄ぶのが面白くて仕方がないという顔をしていた。
「…っ、畜生…ッ…」
「ほら、オレをおかずに好きなだけ出していいんだよ。素人童貞のエスカバくん?」
「くそっ、黙れ!」
「その減らず口も、いつまで叩けるかな」
 エスカバが鋭く睨み付けても、ミストレの余裕と狂喜は変わらない。一方的な恥辱の行為はまだ始まったばかりなのである。


 黒いニーハイソックスを履いたミストレの脚は、エスカバの吐き出した精液に塗れ切っていた。若くて健康な性器は達してもすぐに力を取り戻す。汚い言葉で罵られながらも愛らしい嬌態に煽られたエスカバは、ミストレの足に扱かれて何度も何度も射精した。もう何も出ないというところまで、徹底的に搾り尽くされた。
「あーあ、ぐちゃぐちゃで汚い。これはもう履けないな」
 湿った靴下を脱ぎながら、ミストレが心底呆れたと言わんばかりに吐き捨てた。精も根も尽き果てて茫然と座り込むエスカバの顔面に、丸めた靴下をぐりぐりと押し付ける。生乾きの精液が顔を汚すが、疲弊したエスカバには抵抗する気力もない。
「全部君が出したザーメンだよ?何か言うことはないのかい?」
「………」
「エスカバ、君は早漏すぎるよ。持久力はあるけど、それじゃ女の子は抱けないね」
 ミストレが色々と言っているが、エスカバの耳には殆ど入っていなかった。射精にはそれなりに体力を使う。回数を重ねれば尚更だ。出すものを出し尽くした身体は、肉体的にも精神的にも休養を欲していた。エスカバは重たい瞼に抗えず眠ろうとしたが、ミストレの平手打ちで無理矢理に目覚めさせられる。
「一人で良くなって勝手に寝ないでよ。オレはまだ、一回も出してないんだけど」
 力の入らない身体を俯せに転がされたエスカバは、腰だけを掲げた四つん這いのような格好を取らされた。下着ごとズボンを剥ぎ取られて、ミストレの前に臀部が晒される。背後でスカートを捲り上げる衣擦れの音がした。
 尻の谷間に宛がわれた熱の硬さを感じて、エスカバは観念して目を閉じた。綺麗でも可愛くもない自分を相手にするなんて、ミストレもつくづく悪趣味である。この不毛な戯れはミストレが満足するまで続くのだろうと、エスカバは絶望的な気持ちになった。



おわり

見栄春さんハッピーバースデー!

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