女を抱いた経験はあるが抱かれたことは初めてだ。自分に跨る女の白い体を絶望的な気持ちで俺は見上げた。閉め切られた室内に籠もる濡れた音。狭くて温かな体内に自身は全て飲み込まれている。
熱に浮かされた頭に残る理性から警告音が絶え間なく鳴り響く。これはいけないことだ。してはならないことだ。自責の念と共に戒めの言葉が溢れ出る。女を突き飛ばしてでもこの行為は拒むべきなのにそうできない。突き上げたがる腰を抑えておくのが俺にできるせめてもの抵抗だった。
浅くて早い呼吸が薄闇に溶ける。容赦なく腰を使われたら性感は否が応でも高まっていく。柔らかな締め付けに促されるように俺は女の中で幾度目かの吐精をした。子猫みたいな細い声をあげて女の方も達したようだった。澱のごとく溜まった絶望が一層深まるのを感じた。
「いっぱい出たね、お兄ちゃん」
俺を受け入れたままの腹部を撫でて春奈は幸せそうに笑った。そんなことを喜ぶんじゃない。俺は妹を叱るべきなのに渇いた喉からは言葉が出ない。力の抜けた細い身体がぱたりと胸に倒れ込んでくる。汗ばんだ身体同士が重なり合って妙な一体感を覚える。これは決してひとつになってはいけないものだった。
「これで赤ちゃん、できるかなぁ」
耳元に寄せられた囁きがひどく遠くに聞こえる。いまだに繋がりが解かれることはない。
「わたしね、家族が欲しいの。もう一度作りたいの。お兄ちゃんと私の家族…」
これはいけないことだ。してはいけないことだ。あまり似ていないと言われる俺の妹。それよりも何よりも、俺を見つめる瞳が、語り掛ける声が、深いところで交わる熱が、知らない人間のもののように思えた。
この女は誰だろう。貪欲に愛の証を求める美しい生き物。十数年間焦がれ続けた眼差しが今はただ怖かった。俺たちは間違いを犯している。許されないことをしている。
拒まなければいけない。突き放して叱らねばならない。それなのにどうして俺は柔らかな背に腕を回して華奢な身体を抱き締めてしまうのだろう。
腕の中の春奈は驚いたように目を見開いてそれから飛び切りの笑顔になった。他愛ないその無邪気さだけは俺の知っている春奈と同じだった。
「お兄ちゃん、うれしい」
許されないことをしている。間違ったことをしている。これはいけないことだ。してはいけないことだ。戒めれば戒めるほどわからなくなる。腕に閉じ込めた温もりが泣きたいほど恐ろしくていとおしい。あまりにも危うい関係を俺は結ぼうとしているのだろう。何よりも大切な俺の妹。お前が笑うなら俺は、
「好きよ、お兄ちゃん」
(なによりもたいせつなあなたのためならわたしなんだってできるの)