稲妻11 | ナノ


 《伝承の鍵》により、セインの花嫁候補に選ばれたのは、大層美しい金髪赤眼の乙女であった。ヘブンズゲートへ連れて来られた少女をセインは一目で気に入り、この時ばかりは《伝承の鍵》の女の趣味を手放しで褒め称えたい気持ちになった。好みにドンピシャの華やかなブロンド美少女の登場に、セインのテンションは嫌が応にも急上昇した。
 しかし拉致誘拐同然に無理やり連行された花嫁は、当たり前だが激しい抵抗をみせた。いざセインの前に引き合わされたら尚更で、エカデルが本気で羽交い締めにしなければ抑え切れない程だった。花も恥じらうような可憐な見た目に反して、性格の方は中々じゃじゃ馬らしい。花嫁に一目惚れしたセインにはお転婆ぶりも愛らしく思えるが、実際に攻撃を食らって痣を作るエカデルは堪ったものではない。
「せ、セイン…これからどうする?」
 見兼ねたウイネルがセインに尋ねた。セインのために選ばれた花嫁なのだから、その処遇に関わる一切はセインに委ねられている。一刻も早く花嫁と契りを結びたいセインは、職権を乱用して天空の使徒に呼び掛けた。
「今すぐに褥の準備をしろ!」
 なにせセインも一端の男である。こんな上等な据え膳を前にお預けすることはできそうにない。



 純白のドレスに着替えさせた花嫁の両手は、ベッドに縛り付けて拘束してある。これから睦み合うというのに些か手荒い扱いだが、二人の寝所にまでエカデルを召喚するわけにはいかないのでやむを得ない。両手の自由を奪われた花嫁の表情に焦りの色が浮かぶ。抵抗の手段を一つ一つ失っていく憐れな存在を前に、セインの心には慈しみの気持ちが募っていく。
 セインは花嫁の顔を覆うベールを優しく取り払った。瑞々しい桃の表面を思わせる滑らかな玉の肌、ビスクドールのような端正な顔立ちには似合わぬ瞳の強さがある。圧倒的に不利な状況下でも、気丈さを失わない深紅の双眸に睨み付けられると、ぞくぞくと奮えるような心地がした。セインは花嫁の小さな顎を指先で捕らえて上向かせ、秀でた容貌をよく覗き込んだ。
「燃えるような、美しい色の瞳だな」
 目に痛いほどの鮮烈な主張を持つ赤なのに、毒々しさや生々しさは感じられない。激しく燃え盛る炎を集めて硬質な宝石の入れ物に閉じ込めたら、もしかしたらこのような類い稀な輝きを放つのかもしれない。この瞳を通して世界を見渡したら、景色はどれほど苛烈に映るのだろうか。
「君に褒められても嬉しくないよ」
「ふふ…気の強い女だ」
「だから、僕は女では…」
 花嫁が自らの主張を通す前に、その身体にセインは覆い被さった。意外にも温かな手の平が無防備な首筋をゆるゆると撫で上げる。急所を見知らぬ手に支配される感覚に花嫁は背筋を震わせた。
「私の花嫁に選ばれたことを光栄に思うが良い…」
「…っ!そんなの理解、できないな…!」
 反抗的な態度も態度なら、口の方も減らない花嫁が心底愛おしい。セインは一段低くした声で囁き掛けた。
「わからないなら、これからとくと教え込んでやろう」


「む、随分と胸が小さいのだな…」
 見た感じの体つきからして華奢だったので、巨乳の可能性は早々に諦めていたのだが、脱がしてみたら本当に真っ平らな身体なので驚いた。ぺたぺたと物珍しげに胸を触られて、流石に腹を立てた花嫁が声を荒げる。
「胸なんて…あるわけないだろう!」
「そう怒るな…貧乳でも私は気にしない」
 ギュエールやアイエルを基準にしたらいけないと、セインはエルフェルから口を酸っぱく言われていた。女性の乳房は大きければ勿論素晴らしいが、ないならないで愛らしく尊いものであると。成る程確かに、成長が遅いのを気にして恥じらう姿の方が、豊かな巨乳より余程魅力的である。
「真っ平らだが、綺麗な胸だな…」
 曝けた花嫁の胸をまじまじと眺めれば、透けるように白い胸板に桜色の乳首が慎ましく乗っていて、それは何とも官能的に見えた。セインは平らな胸を揉みしだきながら、小さな突起を親指と人差し指の腹で挟んでこね回した。ぷっくりと膨らんだ肉芽をくりくりと摘むように刺激してやると、花嫁の鼻から甘ったるい吐息が漏れ出す。
「ふぅ、ン…っ!」
「私の指先に感じているのか?初い奴よ」
 楽しげに揶揄うセインを花嫁はきっと睨み付けた。
「違う…!だって僕は男だよ…」
「…お前もしつこいな…こんなに愛らしいのに…」
 こんなに可愛い花嫁が男であるはずがないだろうと、花嫁の主張をセインは鼻で笑い飛ばした。しかし花嫁は屈しない。むしろまるで本気にしようとしないセインを、呆れた眼差しで眺め始めた。
「笑い事じゃないんだよ…そうだ、僕のパンツ脱がせてみなよ。そうしたら君にもわかるから」
「ぱ…パン…!?…お前…思ったよりも大胆なのだな…いや、私としては積極的で嬉しいが…」
「いいから早く脱がせてよ」
 歯に衣着せぬ花嫁の物言いにセインは激しく照れながらも、ボリュームのあるスカートを嬉々としてたくし上げ、花嫁が身に着けている下着を丁寧に取り払った。


「こ、これは…!」
「だから言っただろう?」
 それはまさにセインにとっては、青天の霹靂ともいうべき光景だった。セインも持っている見慣れた物が、花嫁の股間にも付いているではないか。衝撃的なものを凝視したまま目を点にするセインに、花嫁は勝ち誇った表情を向けた。両手の拘束という不利もあり始終やられっぱなしであったが、花嫁は実は男、という最大級のドッキリをもってセインの鼻を明かすことができた。
「それに花嫁と呼ぶのもやめてくれないか。僕にはアフロディという名前があるんだ」
 《伝承の鍵》とやらも見る目がない。男である自分を花嫁候補に選ぶことからして、この話は間違っていたのだ。根本的な勘違いに気が付いたセインは、花嫁云々は諦めて大人しく自分を解放してくれるだろう…アフロディはそう思っていた、のだが。


「おとこ…か」
 顔を上げたセインの何処かうっとりとした、それでいて品定めをするような眼差しに、アフロディは嫌な予感しかしなかった。そして遂にセインは開き直った。
「男でも私は気にしない!」
「わああぁっ!」
 アフロディは反射的に後退りしたが、セインに熱烈に抱き締められて敵わなかった。意外に力強いセインの腕の中で、アフロディの全身は総毛立つ。
「そこは気にしようよ!お願いだから!」
「ふふ…照れているのか?我の花嫁…」
「ひ、人の話を聞きたまえっ!」
 見た目がいくら少女めいているといっても、下半身に鎮座する一物を見せて厳しい現実を突き付ければ、常人ならばアフロディのことを諦める。しかし今回ばかりは甘かった。このセインという自称天使は頭のおかしい変態だった。変態に人の常識は通用しないものだ。
「離してくれ…あぁっ!」
 最後の反抗にと蹴り上げた脚も抱え込まれて、文字通り手も足も出ない状況にアフロディは追い込まれた。
「あっ…!」
 今やアフロディは完全にセインに抑え込まれてしまった。脚を左右に開かされ剥き出しの下半身を握られると、身体が竦み上がって抵抗ができなくなる。アフロディが大人しくなったのをいいことに、セインは性器を優しく扱き始めた。
「や、あ…そんなとこ…ぁあっ…」
 潔癖そうな見た目とは裏腹に、セインは意外なほど愛撫が上手かった。セインに触れられたところから、じんわりとした快楽が全身に広がっていく。下肢から蕩かされていく、初めての感覚だった。
「や、ぁあ…なに、これ…はぁ、あ…」
「気持ちいいだろう?もっと鳴いて良いのだぞ?」
「そん、な…ん、ぁあ…はぁっ、あっ!」
 セインの熱を孕んだ眼差しに見詰められながら、身も世もなく感じて喘ぐのだけは、アフロディのプライドが許さない。そのアフロディの我慢をセインは不満足と受け取った。
「手だけでは足りないか?それなら…」
 セインの身体が下半身へ移動する。更なる行為の予感にアフロディは慄いた。
「ちょ、君…やめないか…っ、あぁ!んぁあっ…!」
 あろうことかセインが口淫に及んだのだ。温かな粘膜に性器を包まれると、挿入したときのような気持ち良さがある。セインにくちゅくちゅと何度か吸われて、アフロディの雄はあっという間に形を変えた。
「ふむ、顔に似合わず…中々に立派なのだな」
 陰毛が少なくて色素も薄いため、アフロディの陰部に汚らしさは感じない。しかし肝心の一物はというと、きちんと男らしく勃ち上がって、セインの施す愛撫に悦んでいる。
 反り返った肉棒の裏筋を、セインは根本から先端まで舌で舐め上げた。張り詰めた皮膚が更にひくひくと引き攣るのがわかった。雁首も控え目に張り出して、すっかり男の身体になっている。
 少女めいた容貌をしていながら、身体にはこれが付いているのかと思うと、セインは居ても立ってもいられない気持ちになる。なんて美しくて浅ましい生き物なのだろう。しっかりと男性器で感じるアフロディに、セインは倒錯的な劣情を募らせた。


「私のものも舐めてくれ…っ」
「ん、んぅっ!」
 独特の着衣を自ら脱ぎ捨てたセインは、辛抱堪らないとばかりに、アフロディの身体に覆い被さった。互いの身体が上下反対になるように重なって、所謂シックスナインと呼ばれる体勢を取る。
 四つん這いになったセインは性器にしゃぶり付きながら、下に敷いたアフロディの顔面に下半身を押し付けた。濡れた亀頭を唇に擦り付けて、アフロディにフェラチオを迫る。ここまで無理強いされてしまっては、くわえるまで許してくれそうにない。アフロディも遂に観念して、目の前にあるセインの性器を口に含んだ。
「…うっ…くぅ、んん……」
「あぁ…いいぞ、もっと奥まで…っ」
 折り重なって互いの勃起を刺激し合う。上からも下からも聞こえる濡れた音に煽られてか、セインの施す愛撫は激しさを増していった。一方手が使えないアフロディは思い通りに奉仕できず、それでも口内を掻き回す質量に、時には息を詰まらせて咳込んだりもした。
「…けほっ…も、やだ…くるしい…」
 泣き言を零すアフロディの苦しげな表情に、却ってセインは興奮した。自ら腰を上下に動かして、アフロディの喉奥を無遠慮に突きながら、セインは下肢を震わせた。
「んっ…いくぞ、受け止めてくれ…」
「ぅ、む…んんっ…!」
 アフロディに性器をくわえさせたまま、セインは熱を勢いよく弾けさせた。とろりとした体液が口の中に溢れ返る。アフロディは恨めしそうにセインを睨んだが、期待を孕んだ眼差しで見つめ返されてしまっては言葉もない。
 口に溜めた精をシーツに吐き出すことも考えたが、人前で戻すのは嘔吐のようで抵抗があった。アフロディは悩んだが仕方なく、とろとろの精液を一思いに飲み込んだ。喉に絡み付く感覚が何とも言えない。良くできましたと言わんばかりの、満面の笑みを浮かべたセインに口づけられたが、嬉しくも何ともない。

「…うぅ…最悪だよ…」
 両手は相変わらず拘束されたままなので、汚れた口回りを拭うこともできない。アフロディは情けなくて泣きたいような気持ちになった。ライオコット島には大会を見物に来ただけの自分が何故、妙な集団に拉致された挙げ句に、こんな散々な目に遭わなければならないのだろうか。逃れられない段階にまで至りながら、我が身に起きた不条理を嘆いても詮無いことだ。





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