「あん…べたべたする…」
とろりと垂れてくる白濁を拭おうと、アフロディが顔に翳しかけた手は、目的を果たさないままがっちりと拘束されてしまった。自身を見つめる源田の血走った目に、アフロディは思わず身を竦めた。これほど強く食い入るように、源田に凝視されたことはない。
「…やっ、源田く…んっ…!」
反射的に後退りする小さな身体を、源田は絨毯に力づくで押し倒した。短いスカートを捲り上げ、剥ぎ取った下着はリビングの隅へ放り投げる。ニーハイのみになった下半身を抱え上げた源田は、アフロディの脚を左右に大きく開かせた。蛍光灯の明るい光の元に、隠すものを無くした股間が晒け出される。アフロディの桃色の性器は軽い兆しを見せていた。そんな秘部は見られるだけでも恥ずかしいのに、興奮し切っている源田の衝動は収まらない。
「ま、待って…あぁっ!」
足首を掴まれた次の瞬間には、両膝が胸に付くほど深く身体を折り返されていた。露わになった後孔に注がれる熱い視線を感じて、アフロディは顔から火が出そうになった。質の悪い辱めを受けている気分だった。
「やだ、見ないで…恥ずかしいよ…」
源田は下肢を隠したがる手を乱暴に退けて、尻肉を掻き分けた場所に性急にむしゃぶり付いた。
「っん、ひゃあん…っ!」
雰囲気も何もない突然の愛撫に、アフロディが裏返った声を上げる。排泄器官であるそこを舌で直接舐められることは、アフロディにとっては本当に堪らない羞恥である。
「あっ!や、あぁん…そんなとこ、舐めたら駄目ぇ…」
アフロディの切なる拒否を聞く余裕もなく、閉じられた窄まりをこじ開けるように、肉厚の熱い舌が差し出される。たっぷりとした唾液で入り口を濡らされて、尖らせた舌先で皺の一本一本を丁寧になぞられる。普段なら絶対にされない種類の行為なので、この源田は我を忘れているとしか言いようがない。
肛門を舐められることに抵抗を感じて嫌がっていたアフロディも、濡れた舌の温かい柔らかさにまさぐられている内に、次第に変な気持ちになってきた。申し訳なさに混じって生まれるじれったい快楽、それらは次第に甘い吐息となって、アフロディの唇から切なく溢れ出す。
「はぁ…あん…やぁ、げんだ…くん…っ」
深さこそ全然足りないが、柔らかな舌に敏感な内壁を擽られると、下肢が甘く疼いた。
「アフロディ…」
白い太股に指を食い込ませて、源田はアフロディの身体を夢中で貪っていた。眩暈がするような倒錯的な光景だった。あの気高く凛々しい真面目な男が、躾のなっていない駄犬のように、尻の谷間に顔を埋めて浅ましく尻穴を舐めている。奉仕や献身と云えば聞こえは良いが、要するに源田は挿入したくて堪らないのだろう。恥じらいを忘れて肉欲の虜となった源田の姿に、アフロディは精神的な高揚を隠すことができなかった。
「はぁ…あっ…んんっ…あぁ…ん」
獣じみた雄の本能を剥き出しにする源田を、アフロディは可愛らしいと思った。アフロディは源田の豊かな髪の毛を撫でていたのだが、生えたばかりの獣耳を触られると気持ちいいらしく、後孔を弄る舌の動きが連動して激しくなる。そんな源田の反応をわかりやすいと笑う余裕もないほど、責められるアフロディも肉体的に追い詰められていった。
「アフロディ、いれたい…」
熱い吐息が首筋に吹き掛かる。これほど情熱的に源田に求められて、アフロディも我慢の限界だった。ずっしりと伸し掛かる源田の身体を抱き締めて、ぴんと立った獣耳に向かって甘く囁き掛ける。
「うん、いいよ…きて…」
源田に組み敷かれながら、アフロディは首を傾げてしまった。直ぐにでも挿入されるものと予想して半ば期待すらしていたのに、いつまで経っても源田が来ない。腰は動いているようなのだが全く衝撃がない。焦れたアフロディは尋ねてしまった。
「どうしたの?」
「…上手く入れられない…」
そんなまさかとアフロディは思ったが、冗談ではなく源田は本当に挿入できないようなのだ。先端を後孔に押し付けて結合を試みるも、滑ってしまって中に入っていかないらしい。セックスは二人で数え切れないくらいしているのに、こんなことは初めてだ。泣き出しそうな表情で源田が謝罪する。
「うぅ…すまん…」
「うーん、どうしたんだろうね…」
尻肉に押し付けられる肉棒は、いつでも挿れられるくらい硬く反り立っているのに、最後の段階で繋がれない。下手くそというもっともな暴言が脳裏を過ぎったが、流石に口にしたら可哀相だろう。精悍な眉が下がるのに合わせて、大きな獣耳もしゅんと萎れた。本当に犬みたいだ。そう思って閃いたアフロディは源田の下から抜け出して、尻を掲げるように四つん這いの格好になった。
「…これでどう?」
所謂バックの体勢である。源田の見た目が犬らしく変わったのなら、性交も犬らしい体位で行えば上手くいくのではないか、とアフロディは単純に考えたのだった。ハロウィンカラーのスカートから形の良い双丘が覗いている。唾液に塗れた後孔に指を引っ掛けて広げ、熟れた色の内壁を見せ付ける。あまりに露骨で卑猥なアフロディの誘惑に、源田の理性の糸は唾を飲む間もなく吹っ切れた。アフロディの細腰を両手でがっしりと掴むと、淫らに男を誘う穴へと滾る肉棒を一息に押し入れた。
「んっ!あぁっ!ふ、ぁあっ…!」
今度は狙いを外すこともなく、源田の勃起がアフロディに突き刺さる。普段は身体が質量に馴染むまで律動を待ってくれる源田なのに、今日は最初から遠慮もなく激しく動き始めた。あらかじめ舌で充分過ぎるほど解された蕾は、大した痛みもなく源田の剛直を受け入れて締め付ける。
「あぁっ、いい…はぁっ…あぁん…」
ぎゅっと穴を絞る度に、尻にくわえた太い肉の感触をありありと感じて、アフロディは性交の快感に身悶えた。四つん這いの体勢を支える手足ががくがくと震えて、腰が馬鹿になりそうなほどの気持ち良さが押し寄せる。
「ひっ、あんっ…ぁあっ!ぁん…」
「アフロディ…」
「や、あっ…噛んだらいやぁ…っ」
源田は癖まで犬らしくなっていて、やたらとアフロディに噛み付くのだった。最初は耳だった。柔らかな耳たぶを食まれて穴に舌を差し込まれる。そのうち物足りなくなってきたのか、剥き出しの背中や肩が標的になった。真っさらな肌をべろりと舐められた上で、尖った犬歯を立てられる。割と強く噛まれて痛みすらあるのに、常にない源田の荒っぽい仕打ちに、アフロディの身体は確かに悦びを覚えていた。歯型が付くほど噛まれながら奥を突かれると、どうにかなってしまうほど感じた。
「っあ…!んっ、激し…んぁあっ!」
耐え切れなくて上体が崩れても、源田は容赦してくれない。砕けた腰を抱えられてひたすらがつがつと犯される。皮膚に食い込む牙の痛みと繋がったところから生まれる快楽で、アフロディの目の前が真っ白に塗り替えられる。
「あぁ!いっちゃう…ぁあっ!んぁっ!」
源田の肉棒に深く貫かれながら、毛足の長い絨毯に向かってアフロディは吐精した。絶頂に伴ってぐっと締まった穴の中に、源田も自身の精液をぶち撒ける。
「っあ、はぁっ…あん…はっ…」
二度目にも関わらず、源田の射精は長かった。量もそれなりにあったのだろう。身体の奥深くを濡らされる感覚に、アフロディは被虐的な背徳の悦びを覚えた。合意の上の行為であるのに、中出しをされると犯されたという気分になるから不思議だ。もっとも自分はそれが嫌ではないのだから、マゾヒズムの性癖があるというか、源田を愛しているのだろう。
「アフロディ…」
汗ばんだ肌と肌を密着させて、息の整い切らないアフロディに源田が強請る。切羽詰まった感じが声に滲んでいた。
「まだ足りない…もっとしたい…いいか?」
驚いたことに入ったままの源田は、既に勢いを取り戻していた。アフロディの背中を抱きながら軽い揺さ振りをかける源田は、まだまだ飢えて仕方がないらしい。この調子だと本当に抱き潰され兼ねないな…とアフロディは空恐ろしく思いながら、愛しい恋人の底無しの欲求にとことん付き合う覚悟を決めたのだった。
後背位のまま抜かず三発をやってのけた後、リビングから寝室に場所を移して、源田の種が切れるまで夜通し散々にまぐわってしまった。体力諸々に自信のあるアフロディも、酷使した腰と尻に違和感を覚えざるを得ない。
アフロディが着ていた魔女服は一夜の間にビリビリに破けてしまい、カラフルな布が辛うじて腕や腰に纏わり付いている状態になっていった。アフロディの身体中に付けられた立派な噛み痕も、昨夜の行為の激しさを物語っている。全ての原因たる源田はこの世の終わりのような様子で、深刻な面持ちで頭を下げた。
「すまん…」
「気にしないでよ。ドンキホーテで買ってきた服だし」
乾いた精液でかぴかぴになったニーハイを脱ぎ捨てながら、アフロディがからっと言い放つ。源田の性的な求めに応じることは、アフロディにとってもやぶさかではない。それに元はといえば自分が不用意に与えたチョコレートが原因である。そうしてしまった責任を取って然るべきといえる。
「…耳と尻尾、元に戻っちゃったね」
普段どおりのボリュームに戻った髪の中に、あの立派な獣耳を探しても見つからない。本当にハロウィンの夜限定の魔法だったらしい。過ぎてしまえば夢のようでもある。思った以上に残念そうに言ってしまったのか、疑わしげに源田が詰った。
「まるで戻って欲しくなかったような言い草だな…」
「そういうわけではないけど…僕も結構気持ち良かったし、それに…」
アフロディは源田に擦り寄ってその身体に抱き着いた。アフロディを見つめる濃灰の眼差しに、昨夜のような肉食じみた獰猛さは見受けられない。そのことを少しばかり惜しく思うのは失礼なことだろうか。最愛の恋人の隠された一面を知ることができて、アフロディは嬉しかったのである。
「野獣な源田くんも可愛かったよ?」
だから時々は乱暴にしてもいいからね、とアフロディが微笑むと、源田は恥ずかしそうに目を逸らした。
Happy Helloween!!!