稲妻11 | ナノ


 FFIのため母国の韓国に里帰りしていたアフロディだったが、この度縁あってイナズマジャパンに引き抜かれた。
 吹雪や佐久間など雷門時代に一緒だったメンバーも多く、あの頃に戻ったようで懐かしさがこみ上げる。各々に積もる話は沢山あったが、それよりもアフロディには会いたいひとがいた。
「源田くん!」
 イナズマイレブンに所属していたときに親しくなった男である。世界大会が始まってからは、お互い特に何も言わずに別々のチームに行ってしまったが、別れたつもりはない。このイナズマジャパンで再会し、またあの頃のように仲良く付き合っていくことができると思った。
「久しぶりだなアフロディ」
「…源田くん?」
 時には枕を濡らすほど恋い焦がれた愛しい男を前にして、しかしアフロディは立ち止まった。何かが違うと直感が告げていた。アフロディは源田の長身を見上げて首を傾げた。
「髪の毛伸びたね」
「切ってないからな」
「…傷が増えたね」
「特訓したからな」
「僕に何か隠してない?」
「…特になにも?」
 源田は相変わらず男前で格好いいのだが、髪が伸びて顔の傷も増えて、アイラインが濃くなって精悍な顔つきになり、更にワイルドな風貌になっていた。しかしそういった見た目の相違ではなく、もっと源田の内面的なところにアフロディは違和感を覚えた。
「君は、僕の知ってる源田くんとは、何か違う気がするんだけど…」
「気のせいだろ」
「そうかな……わっ!」
 身体がふわりと宙に浮いた。他のメンバーの前だというのに、アフロディは源田に抱き上げられてしまった。とても近くに源田の整った顔がある。獣のような強い瞳に見つめられて、アフロディの心臓が跳ね上がる。
「会いたかったぜ…俺のアフロディ」
 キスをされると思った唇は、額に軽く押し当てられただけだった。変に期待した自分が恥ずかしくて、アフロディは源田の腕の中で赤面する。ふっと口角を持ち上げて笑った源田は嫌味なほど格好良かった。
 胸のどきどきが収まらない。なんというか調子が狂う。雷門時代の源田はこんなに気障なことができる男ではなかった。今までは自由奔放なアフロディが翻弄する側だったのに、この源田は余裕に満ち溢れた態度と言動でアフロディを惑わせる。
 源田は一体どうしてしまったのだろう。アフロディは真剣に心配になった。ライオコット島が暑すぎて頭が変になってしまったのかもしれないし、超次元シュートを頭部に食らって頭が変になってしまったのかもしれない。
「…源田くんっ!」
 アフロディは腕に抱かれたまま、源田の頭をひしと抱き締めた。無造作に伸びた長髪が、獅子のたてがみのようにもさもさしている。何とも暑苦しいヘアスタイルだが構わない。
「源田くんの頭がおかしくなっても、僕は君を愛しているからねっ」
「…お前、物凄く失礼な勘違いをしていないか?」
「会いたかったよ僕の源田くん!」
 新たなチームメイトたちに見守られる中、アフロディは最愛の恋人との再会を果たしたのだった。


 その晩、与えられたばかりのアフロディの部屋を源田が訪ねてきた。ぎらついた野獣の目が、戸口で出迎えるアフロディを見下ろしていた。恋人にこんな夜中に訪れる用事など尋ねる方が無粋だ。
 それに久しぶりに源田と夜を過ごすことは、アフロディにとってもやぶさかではない。入浴は先ほど済ませたばかりだし、隣室は空き部屋と聞いているし、室内も散らかっていない。断る理由は見つからなかった。
「いらっしゃい」
 部屋に通された源田は扉が閉じられた瞬間に、目の前のご馳走に飛びかかった。アフロディの華奢な体を背中から抱き締めて、寝間着の下の素肌を大きな手でまさぐる。源田は興奮を持て余している様子で、耳にかかる熱い吐息にアフロディもぞくぞくした。
「アフロディ…」
「やぁっ…もう…がっつきすぎだよ…」
 宥めながらも満更ではない。胸の小さな尖りを源田が摘むと、アフロディの口から可愛らしい声が上がった。
「んぅ…あ…っ!」
 くにくにと突起を揉まれて時には引っ張られて弄られる。源田に遊ばれた乳頭はあっという間に芯を持って立ってしまった。なおも嬲り続けようとする源田の手首を掴んで、アフロディは首を振った。
「…やっ…乳首いや…っ」
「嫌じゃなくてもっと、だろう?」
「あん……いじわる…っ」
 腕に縋るものを求めてアフロディは扉に手を付いた。感じやすい身体は立っているのも精一杯なのに、源田はいやらしい悪戯をやめてくれない。
 しかし源田に揶揄われたとおり、本当はもっとして欲しい。大きな手で乳首を弄ばれるだけでも気持ち良くてたまらない。快楽に従順な身体はすぐにそこだけでは足りなくなってしまう。
 アフロディは無意識に脚を摺り合わせた。もどかしい熱が脚の間に集まり始めていた。
「源田くん…下も…」
「…下?わからないな」
「……僕のおちんちん…触ってよ…」
 焦らす源田の好みに合うように、卑俗な言葉を使って強請ったら鼻で笑われた。
「はしたないな…」
「君が言わせたくせに…っあ!」
 小馬鹿にされたようでアフロディは悔しかったが、同時に来た性器を掴まれる快感に言葉を失くした。触れていないのに勃起していた一物を、源田は手のひらで包んでしこしこと扱いた。ああ、と熱っぽい溜め息がアフロディの口から漏れる。
「…ん…ぁ……きもちいい…」
 源田の手は大きくて指も長い。そしてゴールキーパーの練習でできたタコやマメの痕が硬質化して、ざらついた手のひらをしている。大きな手に性器をすっぽりと包まれて、硬い皮膚で上下に擦られると、自分の手で手淫をするときよりも強い刺激が生まれる。
 源田が意図的に乱暴な手付きにしているせいもある。微痛と性感を同時に生む行為にアフロディの下肢が震えた。
「やっ…もっとやさしく……あぁん…っ!」
 アフロディに注意された側から、源田は濡れた鈴口を指で押し潰した。敏感な窪みをぐりぐりと容赦なく責め立てて、低い声で詰るように囁いた。
「痛いくらいが好きなくせに」
「ぁんっ…や…いたい…あぁ…!」
「ほら、痛くされてイけばいい」
「っあ!源田く…ん、ひっ、あぁっ…!」
 与えられる痛みに生理的な涙を滲ませながら、アフロディは源田の手の中で呆気なく欲望を弾けさせた。


 達したばかりのアフロディがぼんやりと見守る中、手のひらにべっとりと張り付いた白濁を、源田は全て舐め取った。肉厚の舌に絡む精の色の卑猥さに、アフロディがかっと頬を染める。
「やだ…そういうことしないでよ…」
「恥ずかしがるお前が見たい」
「…今日の源田くん、本当にへん…」
 訝しむアフロディを源田は昼間のように抱き上げた。無抵抗の身体をベッドに放り投げて、その上にすかさず覆い被さる。
「ふふ…くすぐったいよ…」
 素肌を辿る源田の頭をアフロディは抱きかかえた。豊かな毛先が肌を擦りながら動くので、こそばゆくて笑ってしまう。愛撫中に笑われるのが本意ではない源田は、目の前にあった鎖骨に抗議の代わりに噛みついた。
 柔らかな白い皮膚に犬歯が食い込むと甘くて、もっと強く歯を立てたくなる。歯形でもキスマークでも何でも残して自分のものである印にしたい。アフロディと一緒にいることで、源田は捕食者としての己を強く意識するようになった。
「アフロディ…」
 既に乱れていたアフロディの着衣を、源田は性急に剥ぎ取った。神秘的なほど白い裸体に被さって丹念に愛撫を加えていく。程よく筋肉の発達した太腿を撫で回したり、散々虐めた乳首を口に含み舌で優しく転がしたりする。
 源田の加えるどんな刺激にもアフロディは愛らしく反応した。覆い被さる源田の背中に腕を回して、与えられる愛撫を拒まない。久しぶりに全身で求められるのは嬉しかった。
「君に抱かれるのはいつも野外だったから…変な感じだよ…」
 間近に見える源田の表情を覗きながらアフロディは呟いた。ふかふかとまではいかないまでも、程よく沈み込むマットレスの柔らかい感触が、立ちながらの行為に慣れた身体には新鮮だった。
「青姦の方が良かったか?」
「そういうわけじゃないけど…」
 イナズマキャラバンで旅をしていた頃は、時間も場所もなかったから、部屋でゆっくりというセックスはできなかった。人気のない場所を選んで、立ったまま源田を受け入れていた。
 だからこんなふうにじっくり見つめ合ってするのは始めてだ。源田の眼差しを一身に浴びる優越が、アフロディを満たしていく。
「君がいるなら、どこでもいいかな…」
 アフロディはうっとりと呟いた。こうして肌を重ねていると、自分が源田のものであるように、源田も自分のものなのだと実感できる。
「外だろうがベッドだろうが、同じように可愛がってやるさ…」
「んっ…あ、ひぁ…!」
 大きな熱の塊が身体をずぶずぶと割り開いていく。突然訪れた衝撃にアフロディの背中が仰け反った。そのままだと上擦って逃げていく身体を、源田はしっかりと抱き締めて離さず、アフロディの中に全てを収め切った。
「あん…全部はいっちゃった…ぁん…いい…っ」
 体内を満たす圧倒的な質量に、アフロディは歓喜の嬌声を上げた。花のかんばせに朱が散って、何とも言えない扇情的な表情を作り出している。狭い内襞が源田を情熱的に締め付ける。その淫らさに眩んだ源田はアフロディの脚を担ぎ上げ、思うがままに揺さぶった。
「あっ…あぁん…!やっ…すごぉ…いっ!ふぁっ、あん!」
「…オレがいない間、誰かに入れさせたりしたのか?」
「…そんなこと…してない…っ!」
「だろうな。ここ、狭くって、物欲しげに絡み付いてくるぞ…」
 アフロディのそこは相変わらず名器である。入れるときは柔らかく源田を受け入れるのに、抜こうとすると後孔が閉まって逃がそうとしない。源田の抜き差しに合わせた実に巧みな動きをする。
「はぁっ…はあぅ…ん…っ」
 アフロディは源田の腰に回した足を交差させて、自身の側へ押し付けた。まるで全てを絞り取るまで放さないとでも言うように。あまりに淫らな強請り方に源田は思わず息を飲んだ。
「…っ…アフロディ…!」
「あ…あぁ…もっと…動いて…っ」
 今日は体内を滅茶苦茶に弄られるのがお望みらしい。源田は滾り切った肉棒を根元まで深く突き入れて、熟れてひくつく内壁を亀頭でぐりぐりと擦ってやった。引きつったような嬌声がアフロディの喉から出る。
「ひぃっ、ぁ、奥まできてるっ、熱いよぉ…!」
 源田の激しい動きに合わせてアフロディも腰を揺らす。体内を抉る肉の硬さに恍惚となって喘いだ。
「やっ、あ、源田くぅん…あっ、はげしっ…」
「好きだろ、これが」
 存在を知らしめるように肉棒を大きく一回抜き差しされて、アフロディは夢中で頷いた。
「あぁっ…好きっ!源田くんの熱くて太くて大好きぃっ…!」
「男狂いの淫乱みたいだな…」
「…ちがうっ…きみだけ…源田くんだけだよっ…」
 アフロディの告白に源田は精悍な眉を少しだけ顰めた。
「源田、くん…?」
 不本意な表情をアフロディに見られたと知れると、源田は少しばつが悪そうな顔になった。
「なんでもない…もうイけよ」
「はぁ…あ、いく、んっ…いっちゃう…はっ、あぁ…っ!」
 大きく脚を開かされて、熱の塊に身体の奥を突かれる。猛る剛直が内壁の弱いところを擦った瞬間、アフロディは白い精を放って絶頂した。源田もアフロディの中に熱を吐き出す。
「…んっ…源田くん…これからまた、よろしくね…」
「ああ…そうだな、アフロディ」
 汗ばんだ額にキスをする。繋がったまま肌を重ねて余韻に浸るのは、喩えようもなく幸せな時間だった。




 それからしばらくの間は文字どおり、邪魔する者のない二人の蜜月だった。
 ――もう一人の『源田幸次郎』が現れるまでは。




→続く?

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